この話は、いわゆる台本書きという形になり、各自の口語のみとなります。一切の場面描写を省いておりますので、苦手な方は注意してください
同じ人のセリフが続く場合は、誰が喋っているかは省略しております。また、誰が喋っているかの名前は略称で書かれます。
実験的な話になります
「……はい、皆様いかがお過ごしでしょうか」
「時刻は15:00、番組内容を急きょ変更致しまして、『緊急特番!! 世界のダンジョンの今!!』を生放送致します」
司会者「視界はわたくし――がお送り致します」
「さっそくですが、今日は与党である明々党の方々、ダンジョン専門家、経済評論家、人気動画配信者を始めとして様々なゲストをお招きしております、よろしくお願います」
「いつもであればこの時間は『おひるのスクープ!』が放送予定となっておりましたが、ご容赦願います」
「さて、本題に入りましょう」
「今日のお題は、コレ、これだけです!」
「わたくしの背後にデカデカと掲げられている、この番組のタイトル! 今日はこの件について徹底討論していただこうという番組でして……では、さっそく始めましょう」
「まず、この特番の放送が決まった原因は、なんといっても先日の……ええっと、これですね、番組をご覧の皆様もVTRを見ていただいていると思いますが、先日、突如上空にて姿を見せた謎の巨人のことです」
「この巨人の現在の所在は一切が不明。いわゆる、テレパシーのような現象を引き起こし、まる一日が経過した後に忽然と姿を消し……それっきりとなっております」
「政府の見解では、『政府は一切関係していない、対応を検討しており、国民は安心して日常を送ってほしい』とのことですが……」
「SNSや街の声を聞きますと、やはり多いのが『ダンジョンと関係しているのではないか?』という話ですね」
「特にご年配の方からは『なにか、ダンジョンの呪いが起こるのでは?』という声が非常に多く、政府に対してすぐにでも対応してほしいと訴える方がとにかく多いようです」
「ここに集まってくださった皆様方も、先日の巨人の姿を見た者がいると思うのですが……まずは、ダンジョン専門家の方の御意見をお伺いしたいのですが、よろしでしょうか?」
ダ専「はい、ご指名いただきましたので、私の見解というか、結論から述べさせていただきますと……『なんとも判断できない』、ですね」
司「それは、どういう……?」
ダ専「ええっとですね、これはネットとかでもよく誤解されがちというか、当然の思い込みなんですけど……まず、あの巨人と、ダンジョンとを、結びつける明確な証拠が無いんですよ」
「もちろん、SNSとか一般の方々の気持ちは分かります。私も、どう考えてもダンジョンが関係しているナニカとしか思えません」
「ですが、あくまでも、その可能性があるというだけで、実は明確に結びつける証拠が無いんですよ」
「これはその、先日の巨人の件に限った話ではなく、ちょっと人類とダンジョンとの関係性というか、歴史の話にもなるのですが、致し方ない話ではあるんですよね」
司「と、言いますと?」
ダ専「皆さまも学校の授業などで習ったと思いますが、日本は古来より様々な事柄を、ダンジョンが原因であると考えてきました」
「災害が起こればダンジョンの呪い、伝染病が広がればダンジョンの呪い、不作が続けばダンジョンの呪い、不可解な事が起こればダンジョンの呪い」
「たとえば、鎌倉の大仏が制作された理由は、ダンジョンの呪いを封じるためという説が有力視されているのも」
「たとえば過去、帝を始めとして公家が京に都があったのはダンジョンがあったからとも言われ」
「日本神話などに関連する様々な伝承も、ダンジョンを直接表わす言葉を使うと呪いが降りかかると畏れられ、様々な言い回しが新たに作られたり」
「日本人なら誰もが知っている童話の『桃太郎』でも、ダンジョンより出てきた鬼が悪さを働いて……という話があるとおり、それぐらい、なにかと責任を背負わされてきました」
司「言われてみたら、確かに異常気象とか地震などが起きると、SNSなどでダンジョンの呪いかって騒ぐ人が居ますね」
ダ専「そうなんですよ。でも、人類は知識を積み重ね、超常現象を現実的に起こり得る現象として、一つ一つ改めて行きました」
「100年ぐらい前は、地震が起これば神社に行って『ダンジョンよ、静まってください』という事が普通に起こっていたくらいですから」
「ですので、私は否定したいわけではないのです。ただ、根拠もなく思いこむのは間違いという話でしてね」
「どれだけの超常現象だとしても、ひとまず、ダンジョンとは無関係の可能性を頭の片隅で思い浮かべてもらえたらなあ……と」
人気動画配信者「いや、でも、今回のコレは、これまでとは次元が違うと思いませんか?」
司「――と、言いますと?」
動「その、専門家のお話はごもっともだと思います。実際、過去には幾度となくダンジョンの呪いとされていたことが、実際はそうではなかった……という事例はいっぱいあります。インフルエンザとか、結核とか、コレラとか……でも、アレは違うじゃないですか」
ダ専「いえ、ですから、まず思い込むのは違うので、冷静になりましょうって話でしてね――」
動「でもそれって、今よりもずっと科学も医療も発展していなかった頃の話じゃないですか。『500年前は未知だった現象』と、『今でも仮説しか立てられない未知』を一緒にするのは違うと思うんですよ」
気象予報士「確かに、僕もそれには同意見です」
「200年前300年前、台風は神様の怒りだとか言われ、悪霊や妖怪の仕業とされ、祈祷によって防ぐことができるとか、そういう事が少なからず信じられているところもありました」
「でもそれは知識が無かったからで、積み重ねた記録が無かったからで、詳細を調べる術が無かったからです」
「つい50年ほど前、私たちは明日の天気も正確には当てられませんでした。今でいうゲリラ豪雨のような発生予測が難しい天気ではなく、気象が安定していても、けっこう外れる事が多かったんです」
「それが今では、明日どころか一週間先、一ヶ月先、三ヶ月先まである程度の予報が出来るようになり、しかも、その精度は50年前とは比べ物になりません」
「彼の言う通り、天気一つとっても、『50年前の分からない』と、『今の分からない』とでは根本的に違うと思います」
司「え~っと、その、わたくしは天気の事はもうテレビとかの予報ぐらいしか知らないのですが、一つ聞いてよろしいでしょうか?」
予「はい、なんでしょうか?」
司「その、荒唐無稽な話に思われるかもしれませんが、気象的な偶然が重なったことでの錯覚というか、そういう類の可能性とか、あったりするのですか?」
予「いえ、それは絶対にありえません」
司「それは、どうしてですか?」
予「たとえば、『虹』がそうです。虹は太陽と観測者と雨粒の位置が重要となります。言い換えれば、これらの条件が重ならない限り、虹を見る事はできません」
司「え、そうなんですか?」
予「はい、同様に、雲などをスクリーンに見立てて映像を映し出すプロジェクションマッピングという手法があるのですが、条件が非常に厳しいという話があります。気象予報士の観点からしても、アレを人為的に起こすというのは難しいと思います」
映像専門家「それは、私も同意します」
「今しがた出てきたプロジェクションマッピングですが、これを先日のあのレベルで行うというのは、現在の技術では不可能であると断言してもよいと思います」
司「無理なんですか? パレードとか、何度か見た事あるのですが……」
映「無理です。まずですね、プロジェクションマッピングを行うのは、夜が鉄則なんですよ。理由は、映像を映し出すライトの光よりも、太陽光の方が明るいからです」
司「あ、なるほど、太陽が……」
映「そうです。あまり意識されていない方が多いと思いますが、一般の方が思うよりもずっと、太陽光の明るさって強いんですよ」
「ですので、仮に……そう、仮にですよ」
「先日のアレぐらいに、どこから見ても鮮明にその姿を投影できるほどのライトを使ったとなると……おそらく、地上は溶接用の遮光マスク無しでは目を開ける事すら難しい眩しさが広がっていたと思います」
「当然、それほどの光を放っていたら、監視衛星で一発でバレます。それでなくとも、今はSNSですぐに拡散されますので……それが無い以上、これはもうダンジョン関係だと思うのが自然だと思いますね」
司「なるほど……では、少し話を変えまして、あの巨人がダンジョン関係のソレと仮定したうえで、仮定のうえですよ、それで、ダンジョンに変化が起こりましたけど、今後どのような事が我々の社会に起こりえると思われますか? 明々党の皆様方は、どのような対策を取るご予定なのでしょうか?」
明々党「……う~ん、現状としては、党内部でも判断が分かれている……としか言えませんね」
司「そうなのですか? その、政府として調査を行うとか、そいうのはなさらない予定なのですか?」
党「国民の不安は重々承知しております。ですが、事がダンジョン関連となりますと、国が迂闊に動いてしまえば、それこそ『ダンジョンの呪い』が発生してしまう可能性がありますので……」
司「それでは、このまま静観を続けるというのが政府の対応である、と?」
党「いえ、何もしないわけではないのです」
司「しかし、管理センターの隣には謎の建物が一夜にして建造され、利用するようにと巨人からのお達しがありました。既に、相当数の利用者がいるという話ですが……」
党「ですから、何もしないわけではないのです」
「交通を整備してアクセスしやすくしたり、医療施設を増やしたり、補助金を適材適所に回したり、そういうアシストはこれまで通り、場合によっては変更も視野に入れております」
「ですが、それ以上の事はリスクが高いのです」
「現在の体制も、これまで幾度となく失敗を重ね、トライ&エラーの果てにようやく落ち着いた……というのが現状でして」
「ダンジョンへの干渉は、それこそ一進一退。少しずつセーフラインを見極めながら、ちょっとずつ出来る範囲を増やしていくしかないんですよ」
「もちろん、先ほどもお話した通り、国民が抱えている様々な不満などは我々も重々承知しております」
「現在では中学生になってからダンジョンに入って良いということになっておりますが、これを高校生のラインに上げるべきではという意見があります」
「学校の授業にダンジョンに関する授業を増やし、運動の時間を増やすべきではという意見もありますし、もっと厳密にダンジョンへの規制をするべきではという意見だって少なからずあります」
「ですが、それらはそう簡単には変更できません」
「授業数を増やして、また詰め込み教育を行いますか? リスクを承知のうえで、規制を厳しくしますか?」
「それに対応する教職員の負担や、授業中の怪我などはどのように対策するのですか? その際の責任は誰が取るのですか?」
「教師にそこまでの責任は負えませんよ。なら、各家庭が行うのですか? そうなると、経済格差によって、今以上に格差が生じていきます」
「ですので、国民の皆様方はとても歯がゆい思いをしていると思いますが、それは我々も同じなのです」
「ダンジョンに関しては、これまでどおりに少しずつ、少しずつ、時間を掛けて慎重に調べて行くしかないのです」
経済評論家「それでは遅いとしか言い様がありません。政府の懸念はごもっともですけど、この件に関してはリスクを承知のうえで早急に動かないと、加速度的に問題が悪化していくよ」
司「と、申されますと?」
評「皆様方もあの巨人からのアナウンスだけでなく、既にSNSなどでご存じかと思われますが、今回のダンジョンの変化は、日本のみならず世界情勢を動かしかねない大きな変化だという話です」
司「ダンジョンの変化、ですか?」
評「そうです。これまで、大なり小なりダンジョンに変化が起こった事はありました。ですが、その変化をなんとか許容出来ていたのは……ひとえに、ダンジョンから取れるのが魔石や、全体としては極少量のアイテムだったからです」
「いいですか?」
「今回の変化で、ダンジョンからは……食糧が手に入るようになったのです。それはもう分かっていると思ったと思いますが、まずは話を最後まで聞いてください」
「おそらく政府も既に分かっていると思われますが、ダンジョンから食糧が手に入るというのは、経済的に見ると短期的にはプラスに働きますが、長期的にはマイナスに働きます」
「何故か? それは、世界各国の食糧マネーに多大な影響をもたらすからです」
「一般の方はあまり実感されないと思われますが、経済において食糧……穀物にしろ、食用肉にしろ、それは膨大なマネーへの取引材料になります」
「想像してみてください」
「農家が米などを作る時、自分たちだけの分は作りません。何百人、何千人、何万人分を作って、それをお金に変えています」
「これは、世界中で行われています。様々な食料を生産し、それをお金や物に変え、巡りめぐって私たちの下にきたり、あるいは、別の形になって別のところへ回ったりします」
「それがある日……そうですね、たとえば毎年大国が買ってくれていた穀物を、今年限りでストップされたとしましょう」
「そしたら、市場には膨大な量の穀物が余ります。当然です、何十万、何百万人分の胃袋、その需要がいきなり消えたのですから」
「しかも、ただ余るだけではありません。その穀物と引き換えに得ていたマネーがそのまま無くなるのです。その影響は、計り知れないでしょう」
「ならば、政府が買い取って……残念ながら、それも不可能です」
「何故なら、その買い取るマネーもまた、その穀物を売ったお金などで得るわけで……無い袖は振れず、間違いなく生産者たちは困窮します」
「これは、日本に限った話ではありません」
「アメリカも、中国も、ロシアも、どの国も例外なく、非常に大きなリスクを内包した問題です。それほどに、食料の取引は経済的な影響が大きいのです」
「とはいえ、単純に生産量を減らして需要と供給のバランスを……なんてことはできません」
「何故なら、人間の手で行う限り、食料は全て育てて増やさねばなりません。来月必要になったから増やしてと言われても、どんな農家でも不可能です」
「そして、短期的にプラスに働くといった理由が、ここです」
「ミクロの視点で見たら、単純に食費が安くなるだけ。しかし、マクロの視点で……それでいて、長期的に見たら、下手したら暴動を引き越しかねない問題にまで発展します」
「しかも、最悪は、いきなりダンジョンで食糧が手に入らなくなったという事態が起こった場合です」
「今はまだ、そこまで問題視するほどではないでしょう。しかし、これが5年10年と続けば、その影響は局所的な話ではなくなっていく可能性は高いと思います」
「断言します、もしもこのままダンジョンで食糧が手に入る……そう、食糧マネーへの打撃が5年10年と続けば、確実にどこかで暴走……いえ、暴動が起こるでしょう」
「なにせ、事は『ダンジョン』です」
「どの国も規制なんて掛けられません。どこの国も、『ダンジョンの呪い』は恐れていますから」
「しかし、静観なんてしている余裕はないんですよ」
「今ならまだ、影響はミクロの範囲に納められます。しかし、このまま時間が過ぎて行けば、どちらに転んでも、小さくない経済ダメージが発生するのは確実です」
「その最悪を想定したうえで、政府は迅速に動いてほしいのです」
「既に、世界各国ではこの問題について速やかに議論が始まっています。この問題は、文字通り遅くなればなるほど致命的になりかねない……これまでの日和見な動きでは、冗談ではなく日本という国が根幹から崩れかねない……とにかく、迅速な対応を検討してほしいというのが、私の結論です」
司「――はい、ありがとうございます。えっと、だいぶ議論が白熱してきておりますが、ここで一旦CMです」
…………。
……。
……。