切れば良いのだ、何事も!   作:葛城

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第13話: なんか時々、フーッフーッって鼻息荒い時がある

 

 

 ──ダンジョン管理センターの隣に出来た謎の施設。通称、『総合センター』

 

 

 どう考えても超常的現象によって一夜にして建てられたその建物は、アナウンスにあったとおり、『総合』という言葉を体現したかのような施設であった。

 

 まず、ダンジョンから持ち帰った食材を加工してくれる。

 

 ダンジョンから持ち帰られる食材は、穀物や果物の他には、傾向的に海産物系は少なく、動物系が比較的おお……ん? 

 

 

 地下であるダンジョンに、海産物とな? 

 

 

 それがねえ、居るんだよねえ、これがねえ。

 

 結論から言うと、ダンジョン内の地形が変わったの。

 

 これまでは土とか岩石とかしかなかった(少しは雑草もあったけど)けど、なんと、湖が形成されているんだよね。

 

 しかも、その湖……海水魚と淡水魚が混在して生きているとかいう摩訶不思議な湖で、原理は一切が不明なんだってさ。

 

 とはいえ、全体として見たら湖は面積が小さくて。

 

 また、入れ食いってわけじゃなくて、普通の川釣りや漁船で釣るのと同じく、テクニックとか道具とかが無いと、そう簡単には釣れず……ん? 

 

 

 ……網を投げ入れて捕まえれば良いんじゃないかって? 

 

 

 それやると、どこからともなくモンスターが出現して、それをやったやつ(後ろで命令したやつも)がいきなりぶち殺されたらしいから、すぐに誰もしなくなった。

 

 いやあ、ビビったよ。

 

 釣りなんてしたことなかったけど、せっかくだしやってみようかってレイダと並んで釣竿を垂らしていた時に、それが起こってさ。

 

 逃げるとか、アレは無理だわ、強過ぎる。

 

 4倍速みたいな速さでさ、もう何もかも速すぎて、ソレを行っていたやつを皆殺しにしちゃったのよ。

 

 しかも、滅茶苦茶手際が良い。

 

 アレかな、暗殺ってやつ? 

 

 なんか針みたいなのでプスって脳天貫いて終わり。

 

 そのまま死体を担いで、あっという間に何処かへ行っちゃって……あまりの早業に、僕たちだけでなく、周りの人達も何が起こったのか……話が逸れて来ているので戻そう。

 

 

 とにかく、ダンジョンでは魚も獲れる……で、だ。

 

 そのまま殻とか皮を剥くだけで食える果物とか木の実とかならともかく、基本的に肉も魚も、適切に処理しないと食べられないじゃん? 

 

 ただ切り落とすだけなら僕でもできるけど、解体しろって言われて、いやいやどうやって……てなわけじゃん? 

 

 僕も詳しくは知らないけど、海外では人力で肉の解体が行われている地域は多く、そういう専門職がちゃんと確立しているらしいのだけど。

 

 日本って、そこらへん大部分を機械化されちゃっているらしいんだよね。

 

 だから、ニワトリぐらいなら自力で解体出来る人はいるんだけど、鹿とかのサイズになると出来る人が少なくなるから、とてもじゃないけど人手が足りなさ過ぎるんだってさ。

 

 

 ……なら、機械を使えば良いんじゃないかって? 

 

 

 衛生管理がちゃんと行われている家畜ならともかく、いくらダンジョン産とはいえ、どんな菌が付着しているか分からない動物は解体処理できないらしい。

 

 それはまあ、仕方ないんだけどね。血って、雑菌の宝庫だって言うし、洗い落すのって本当に大変だから。

 

 

 ……で、だ。

 

 

 そういった問題を一挙に解決してくれるのが、『総合センター』内にある、解体処理受付である。

 

 ここには誰が作ったのか(たぶん、謎のお姉さん作)、何体ものロボットが常駐しており、獲物を渡すと自動的に解体処理をしてくれる。

 

 しかも、どのように処理をしてくれるのか指示を事前に出しておけば、それも自動的にやってくれる。

 

 もちろん、処理の方法によっては追加の材料(あるいは、金銭)を要求されるが、その出来栄えは、とてもではないが人が真似できるものではない。

 

 ハムにして欲しいと言えば小一時間で真空パックにされたハムが用意され、ソーセージにしてと言えば、袋詰めされたソーセージが渡される。

 

 後で食べるから一部熟成させて、それ以外は保管してと言えば、その通りに肉が渡され、保管分は『保管カード』に登録されて渡される。

 

 このカードは、言うなれば総合センターに預けた食材などの持ち主を示すカード。

 

 どういう原理かこれまた不明だけど、総合センターに預けた食材は腐らず最適な状態で保管され続けているらしい。

 

 なんか、感覚を開けて成分とか状態を調べた人がいるらしく、『最適な状態で時間が止まっている状態で保管されている』とでしか説明できないんだとか。

 

 

 まあ、とにかく、要点をまとめると、だ。

 

 

 ダンジョンの食肉可能なモンスター(食えるけど、あまりにも不味いモノは除く)を総合センターに持って行けば、ロボットたちが手早く解体処理してくれて。

 

 預けている限りは現状賞味期限(∞)で、保管カードにて引き出さない限りは腐ることはない……ということだ。

 

 

 なんともまあ、とんでもねえ施設である。

 

 

 この総合センターのおかげで、食費を抑えることが出来た者はそれなりに居て、それは僕とレイダも例外ではなかった。

 

 そして話を戻すが、『総合センター』には、管理センターと同じく様々な設備があり、それは管理センターに引けを取らないが……解体処理以外にも、総合センターにしかない設備が一つある。

 

 

 それは、『鑑定受付』である。

 

 

 これは、ダンジョンて手に入った『アイテム』を鑑定してくれる、画期的なサービスである。

 

 というのも、『アイテム』の大半は、だいたい見た目だけである程度使い方が分かるようになっているのだが、分からないモノがある。

 

 それらのほとんどは、結局使い道が分からずコレクター品として取り扱われているのだが……不明とされていたそれらの詳細が、分かるようになったのだ。

 

 これのおかげで、これまでコレクター品として取り扱われているモノも多かった『アイテム』の鑑定を行ってもらおうと、わざわざ遠方から来る人も現れ始めていた。

 

 また、この『鑑定受付』では、ダンジョンに出現する食用モンスターの詳細を確認することもできる。

 

『図鑑』を貸してくれたり、あるいは口頭で教えてくれたり……あと、ダンジョン内でしか手に入らない特殊な食材に関しても、教えてくれる。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………さて、そんな感じで、だ。

 

 

 なんだかんだ色々ありつつも世間の混乱はひとまず表面上は治まり、僕たちもある種のペース配分を掴み始めていた……そんな頃であった。

 

 季節は、秋を通り越して冬が近づきつつある……そんな最中、僕とレイダは放課後、学校の図書室にて勉強がてら、次のダンジョン探索について話し合いを行っていた。

 

 なんで図書室に居るのかって、そりゃあ期末テストが近付いてきているからだ。

 

 さすがに赤点を取るような事はしていないが、夏頃から色々と勉強関係を後回しにしていたから、復習しておいた方が良いかも……と、思ったわけである。

 

 みんな他所で勉強しているのか、図書室には僕たち以外の人影はいない。

 

 いつもなら図書委員が居たりするのだけど、今日は所用で居ないらしく、出入りは自由だけど、本を借りたりは出来ないようだった。

 

 

 ……静かだ、とっても。

 

 

 チラリと、僕はレイダを見やる。

 

 今のレイダは、出会った時の痩せ細った姿をまったく想像ができないぐらい、健康的な姿になっていた。

 

 まず、僕よりも一回り以上背丈が伸びた。

 

 全体の肉付きは以前よりも良くなっていて、変化の過程を見ていた僕ですらも、『……???』って、いまだに首を傾げるぐらいだから、何も知らない人は余計に分からないと思う。

 

 だって、めっちゃ美人になったもの。

 

 痩せ細った時は雰囲気からして陰気な気配を漂わせていたけど、しっかり栄養を取った今は、もはや陰気など欠片もない。

 

 なんてったって、デカい。

 

 身長だけじゃなくて、色々と。

 

 向かい合うと、僕の顔が……余裕で挟めるぐらいに大きなレイダの胸の辺りになるんだよね。

 

 髪だっていつみても艶やかで、傍に居ると……なんだろう、香水とか振っているのかな、なんか良い匂いがするんだよね。

 

 こりゃあおまえ、そのうち離れてどっか行くよな……って思っている僕は、けして悪くないと思う。

 

 

 というか、なんで何時までもレイダは僕と居るんだろうか? 

 

 

 昔のレイダならともかく、今のレイダって、誇張抜きで周りの人(特に、男だね)が放っておかないと思うんだよね。

 

 だって、僕の手では掴みきれないぐらいに大きいんだぜ? 

 

 どこが、だって? 

 

 そんなの、想像に任せるよ。

 

 さすがに、これだけ色々と変わったレイダと同じ『部屋』とか、そろそろ僕の忍耐力にも限度があるし、ね。

 

 朝とか、けっこうドキドキものだよ。

 

 さすがにもう手狭だから布団を分けたけど、レイダってけっこう寝相が悪くてさ……僕が先に起きた時、ほぼ布団がはだけているんだよね。

 

 そしたらさ、レイダって基本薄着で寝るっぽくて、色々と……その、目に毒なアレで、やりどころに困るというか。

 

 さすがに、シャツが捲れておっぱいが見えていた時は、心臓が止まるかと思ったよ。

 

 

 ……改めて思うのだけど、なんで何時まで経っても『部屋』から出ないんだろう。

 

 

 時々だけど、レイダって僕の視線に気付いている気配を見せるんだよね。なんか、ジーッと無言のままに見下ろされる時あるし。

 

 気まずいけど、レイダから何も話してこないから、僕からも何も言えない。

 

 かといって、警戒されてそれとなく距離を置かれるって感じでもない。

 

 むしろ、逆だ。

 

 うまく説明できないけど、なんか妙に距離感が近い時がある。

 

 以前ならまだ平常心を保てていたけど、今のレイダってこう……色々な部分がムチムチだから、下手に近付かれると色々な意味で柔らかくて困る。

 

 いわゆる、スキンシップが好きなタイプなのかもしれない。

 

 とはいえ、ただ横に座られるならともかく、ふざけて背中から抱きつかれたりすると、もう本当に色々と困るんだけど……う~ん、でも、うかつに口には出せない。

 

 

 ……今のレイダなら普通にセンターで部屋を借りられる蓄えがある。

 

 

 正直なところ、視野が以前より広がってきているわけだから、そろそろ距離を置かれ始めるんじゃないかと思っていたのだが……不思議なモノだ。

 

 

(う~ん、僕も早く身体をデカくしたいものだ……何時まで経っても手足とか腰とか細いし、コンプレックスになりそう……)

 

 

 まあ、それはそれとして、これが超特殊体質……なにが影響しているのか知らないけど、大したものだ

 

 で、話をちょっとだけ戻して、そのレイダなんだけど、僕と違ってテストとかは楽勝らしい。

 

 なんでも、『授業を聞いていたら、分かるよ?』との事らしく、ケアレスミスなどを入れても、基本的に90点未満はほとんど取った事がないのだとか。

 

 いやあ……正直、羨ましいを通り越して、もっと羨ましいなあ……っと。

 

 

「──で、ハチくんはどう思う?」

 

 

 尋ねられた僕は、意識を切り替えて、率直に答えた。

 

 

「僕としては、地下5階に行ってみたい気持ちはある。収入が格段に増えるのもそうだけど、なにより……地下5階で手に入る食材の味が気になる」

「あ~、やっぱりハチくんも? アタシも、気になっているんだよね」

「ロボットたち曰く、『ウマイ、ホトケも唸る!!』って話らしいけど……実際、食べて見ないと分からないのは困るよね」

「そうそう。でも、地下4階のオークの肉でも相当美味しかったのに、地下5階となるとどうなるんだろう……って、思わない?」

 

 

 僕の意見に、レイダも力強く頷いた。

 

 そう、僕とレイダは、ダンジョン地下5階を目指すかどうかを検討していた。

 

 メリットは、とにかく収入が一気に増えるのと……地下5階で獲れる食材だ。

 

 なんでも、ブランドになっている食材なみに美味しいらしい。高級スーパーの食材に引けを取らないレベルなのだとか。

 

 ただ、それに関して僕は、実際はもっと美味いのでは……と、思っている。

 

 だって、地下4階で仕留めて、2人掛かりでえっちらおっちら運んだ、『オーク』と名が付いているブタ型モンスターの肉を食べたのだが……これがまあ、本当に美味かった。

 

 高い肉なんて食べた事なかったけど、こんなに美味い肉があるのかって本気で感動したよ。

 

 ステーキにして食べたけど、僕でも3枚も食べて(もちろん、ご飯も食べた)も、また明日も食べたいって思ったぐらいなのだ。

 

 レイダに至っては、20枚も食べた。グラム数にしたら、およそ2.5kg、ご飯も2kg、梅干し1パックに味噌汁も飲みほしてもなお。

 

 

『また明日も食べよう』

 

 

 と、満面の笑みで話したぐらいなのだから……いや、でも、マジで美味かったんだよね。

 

 もちろん、地下4階の食材が全部美味かと聞かれたら、そりゃあ、中には微妙なモノもあるよ。

 

 なんか、『ショウユ!!』とか『ゴマダレ!!』とか『レモンタレ!!』とか『デミグラスソース!!』とか。

 

 ふざけているとしか思えないような変な鳴き声を出す、背中に調味料が入ったカプセルを背負ったネズミとか居るけど。

 

 それらとは別に、これならスーパーで買った方が美味しいかも……みたいなやつもいるよ。

 

 でも、美味なやつはマジで美味なんだよ。

 

 

 特に、『オーク』。

 

 全長約3m近く、顔はほぼブタ、手足には蹄が付いていて、人の形をしている、全身が肉の凶器。

 

 拳で殴られると、人は容易く死ぬ。

 

 でも、当たらなければどうってことはない。人間、死ぬ気で避ければなんとかなるものだ。

 

 ちなみに、レイダはオークに殴られてもケロッとしている。太いこん棒で頭から殴られても、パチパチと瞬きをするだけ。

 

 見ているこっちの方が不安だ。

 

 怖くないのかって聞いたら、『え、アレって怖いものなの?』って逆に聞き返された……やっぱ、レイダってちょっとネジが飛んでいるよね。

 

 なのに、僕がちょっと額から血を出しただけで顔色が真っ青になってオロオロし始めるのだから、なんとも……実は、けっこう怖がりなのかもしれない。

 

 とはいえ、マジで超特殊体質が羨ましい……逆にオークを殴り殺すのだから、本当に羨ましい。

 

 で、話を戻すのだけど、このオークの肉が実に美味なのだ。

 

 総合センターに持っていけば、様々な部位の合計約100kg近い肉が手に入るのだけど、誇張とかじゃなく、全部の部位が美味しい。

 

 そりゃあ、4階以降の肉が市場に出てこないどころか、『大注目! ダンジョン産の食材!!』って感じでグルメバラエティ番組が作られるぐらいだ。

 

 今では、ダンジョン産のオーク肉は『ダンジョンブランド』として、独自に取引を行って販売を始めている店もあるぐらいで。

 

 これに送れてたまるかと、総合センターにて待ち構えている人が毎日二ケタは居るというのだから、その人気は右肩上がりである。

 

 

「……気になるよね、地下5階の食材」

「……正直、とっても食べたい」

 

 

 だからこそ、二つの意味でも、僕たちの心を引き付ける理由が地下5階にはあり。

 

 

「……一度で良いから、食べてみたいよね」

「うん、食べてみたい」

 

 

 果たして、地下5階の美味はどれほどなのか……そのうち、食欲に負けそうな気配を意識し始めている、僕たちなのであった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………そうして、だ。

 

 

 とりあえず、こんなふわふわとした気持ちで地下深くへ行くのは危ないということで、安全に地下2階までの活動に留めて、帰宅し。

 

 せっかくだからと、けして煙たくならない『部屋』の特性を利用し、卓上七輪にてオーク肉を炭火焼にして、そりゃあもう夢中で晩御飯を終えた後。

 

 これまた何故か、スーパー銭湯とかにはあまり行かず、『部屋』の風呂ばかり入るレイダに続いて、僕もゆっくり湯船に浸かって、大きくため息を吐いた……その時であった。

 

 

「……?」

 

 

 今の今まで気付かなかったが、壁だった場所に窓が出来ていた。

 

 その窓はすりガラスのようで、外は見えない。真っ白な光が、うっすら見える。

 

 部屋の外がどのようになっているのかは知らないが、あまりに突然なことに、僕はしばしの間、目を瞬かせた──その瞬間。

 

 

「やあ、少年、話はすべて聞かせてもらいました」

 

 

 そんなタイミングを見計らったかのように、最近あまり顔を見なくなっていた謎のお姉さんが、ガラリと窓を開けて顔を覗かせてきた。

 

 

「お手隙になりましたので、アイテムのレベルアップやら何やらを致しましょう、口頭で仰って下さい」

「え、いや、そんないきなり言われても、今はお風呂の真っ最中なんですけど?」

「なるほど、それは大変ですね、では口頭で仰って下さい」

「えぇ……」

「特に思いつかないのであれば、私の方で勝手に行いますので」

「え、いや、待って、前みたいにいきなり預金を全部使われちゃうと──」

「では、勝手にやっておきますので、また次回。身体を温かくして湯冷めするのではありませんよ」

「いや、人の話を──ま、窓が開かない、だと!?」

 

 

 これには、僕とてドン引き。

 

 だって、今の一方的な流れで、預金全部使われそうな前回の流れを思い出したから。

 

 あまりに予想外過ぎて、素っ裸の自分の身体を隠す気すらなくなり、ただただ唖然とするしかなかった。

 

 

 

 

 

 

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