切れば良いのだ、何事も!   作:葛城

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第14話: 人間、現実感が無さ過ぎると冷静になるよね

 

 

 さすがに、食欲だけで地下5階へと突入は危険すぎるので、入念な準備が必要……という僕の意見を、『当然、準備はしっかりしましょう』とレイダは首を縦に振った。

 

 

 そう、準備は大切である。

 

 ダンジョンという場所は、言うまでもないが、人が築いた安全な場所ではない。

 

 何時、自分たちの命を奪う化け物が襲いかかってくるか分からない、危険な場所である。

 

 なんでそんな場所に未成年である僕らが居るのかって、そこは考えてはいけない。

 

 とにかく、準備は大切である。

 

 万が一を考えて止血用のスプレーとか持って行った方が良いし、ダンジョン内でも真水が湧き出る泉とか意味不明な代物もあるけど、それでも飲み水を持って行くべきである。

 

 あと、携帯食料。まあ、これは以前に比べて少量になっている傾向にはあるらしい。

 

 なんでかって、ダンジョンで食糧が手に入るようになったから。

 

 深い階層になると、日帰りなんて不可能になってしまう。以前は全て持ち込みだったけど、ある程度は現地調達が可能になったおかげで、荷物の軽量化になったのだとか。

 

 武器の予備だって、念のため小さめのナイフぐらいは別に借りておいた方が良いし、少しでもコンディションが悪ければ日を改めるとかも、大事である。

 

 というか、そのために荷物持ちを雇うチームも居るとか。

 

 まあ、そういったチームは最前線というか、かなり高位のチームなので、メンバーが100人を超えているとかいうのも、珍しくはないらしいけど。

 

 間違っても、どこぞのバカみたいに1人で、やる気と勢いに任せて連日突入し、ベッドの上でオムツと点滴生活を送るような愚行を犯してはならない。

 

 

 僕は知らないけど、なんかそんな馬鹿なことをしたやつがいるみたいだ。

 

 

 みんなも、気を付けた方が良いよ。下手したら肉離れとか起こして、もっと酷い有様になっていた可能性高かったらしいし。

 

 幸運にも、僕の場合は五体満足で戻れたが……運が悪ければ、ダンジョン内で負傷してそのまま動けなくなってBADENDである。

 

 ダンジョン内での死因第一位は『モンスターからの襲撃』だが、死に至るまでの間接的な要因第一位は『準備不足』と言われているのは、けして誇張ではないのだ。

 

 だからこそ、ダンジョンに潜る人たちは基本的にチームを組む。それは単純な戦力ばかりではなく、リスクを少しでも軽減するため。

 

 数の力は、偉大なのだ。

 

 特に、マンパワーを機械に置き換えられないダンジョン内においては……最終的に頼りになるのは、最低限の質が確保されているうえでの、数の力である。

 

 僕は詳しく知らない(というか、秘匿されているっぽい)けど、ダンジョンの中って下の階層に行けば行くほど、広大になっているらしいんだよね。

 

 だから、深い階層に潜るチームほど人員は大規模になる。

 

 僕が知る限り、地下10階より下のところを潜っている人たちは、元軍属とか格闘技経験者とか、あるいは専門の勉強を受けた者が多い。

 

 少なくとも、脱サラしてどうとか、そんな人たちじゃない。誇張とかじゃなく、それで飯食っている専門家って感じになってくる。

 

 何度か見掛けたことあるけど、アレはね、もう玄人ってやつ? 

 

 猟師歴20年とか30年とか、立ち振る舞いが違うんだよね。なんかこう、これがプロか……って納得させちゃう、そんな気配があったよ。

 

 まあ、そりゃあ、そうでしょうね。

 

 運が悪くなくとも命を落とすような危険な場所で、20年、30年と働いていたら、顔つきとかそういうのも変わるってもんよ。

 

 ……そろそろ話が逸れるし長くなりすぎるので、戻そう。

 

 

「……???」

 

 

 とにかく、僕たちも例外ではなく、色々と準備をしようかなと思ったわけだけど……いやあ、朝になって(時計で確認)、絶句したね。

 

 だって──『部屋』で寝ていたはずなのに、外に、いや、言い方が違うな。

 

 これまで『鍵』と『部屋』は直通だったけど、そうではなくなっていた。

 

 見たままを語るなら、『部屋』は『家』になっていて、『家』の外は広大な景色が広がっていた。

 

 そう、『外』が生まれていたのだ。僕たちは外の、『家』の前で目を覚ました。 

 

 これまで、『部屋』の外は一切確認出来なかったのに、外があって、空があって、景色があって、家の周りには敷居を隔てる柵が建てられていて、その先には大地が広がっていたのだ。

 

 これにはもう、僕もそうだけど、レイダも目をまん丸に見開いて呆然としちゃった。

 

 だって、あまりにも外が長閑だったんだもの。

 

 雑草のほんのりとした臭いがして、空に浮かぶ太陽の日差しが温かく、そよ風が心地良く……柵の向こうに広がっている木々の枝葉が、さわさわと揺れているのが見えた。

 

 ちなみに、だ。

 

『部屋』への直通になっていた扉は、『家』の外にポツンとあった。

 

 なんとなく、分かるのだ。アレが、この空間の外、つまり、僕たちが生きてきた世界へと通じる扉だってことが。

 

 パッと見た外見だと、なにかに固定されているわけでもなく、空間に設置したかのようなその扉は……ちょっと不気味だけど、それはまあ、今さらか。

 

 

「なんか、長閑だね」

「うん」

 

 

 とりあえず、レイダと一緒に、しばらくぼんやりと景色を眺めた後で。

 

 

「……おお、【ひみつ】の項目の『鍵&部屋』が、『鍵&家』になっている……変わるんだ、そこ」

「じゃあ、やっぱり部屋が家になったんだ……」

 

 

 遅れて、『部屋』から『家』へと変化した、その建物を見上げた。

 

 見たままを語るなら、家である。具体的には、一軒家ってやつなのかな。

 

 それを豪邸と呼ぶ方が正しいのか、平均的な一軒家と呼ぶのが正しいのか、正直、基準が物置小屋と『部屋』ぐらいしかない僕には分からなかった。

 

 寝起きで頭が働いていなかったとはいえ、少々寝ぼけすぎでは……ちょっと反省しないとと思いつつ、僕はレイダと共に『家』の中へ。

 

 中は、明らかに『部屋』の時とは雲泥の広さであった。

 

 まず、リビングがあった。

 

 台所(つまり、キッチンスペース)があって、トイレがあって、お風呂場があって、洗面所があった。

 

 和室と洋室が1階と2階に二つずつあり、リビングを入れたら部屋が5つもあって、しかも、この家……なんと、サウナルームまで付いていた。

 

 

「サウナ? 名前ぐらいは知っているけど……」

「健康に良いって、なんかテレビで見たよ。後で一緒に入ろうね」

「え?」

「嫌なの?」

「だって、サウナって……裸で入るんでしょ?」

「服を着て入るの? ハチくんが好きなら、私もそれに倣うけど」

「いや、そうじゃなくて、男女別に時間帯を分けたら──」

 

 

 そこで、僕は言葉を止めた。

 

 チラリと、視線を上げれば……こちらをジッと、なんか熱がこもっているように思える、妙な視線に、思わず背筋を震わせた。

 

 

 この話は、藪蛇にも程があった。

 

 僕だって、バカじゃない。

 

 

 レイダは僕を、男女の目で見ている。それは、分かっている。だって、明らかに態度がおかしいからだ。

 

 お風呂あがりとか、暑くて短パン一枚で涼んでいると、それはもうジロジロ見てくる。ねっとりとしていて、その時は瞬きの回数だって少ない。

 

 

 でもなあ……僕は、どうにもレイダのその感情を受け入れられなかった。

 

 

 何故ならば、レイダは僕以外の男友達がいないからだ。

 

 言うなれば、激安スーパーの1個199円弁当しか食べた事ないから、250円の弁当を見て、『まあ、なんて素敵なの!』って目が眩んでいるみたいなものだ。

 

 それは、レイダの心に余裕がなかったから。現在のレイダの心の財布には、札束が入っているのだ。

 

 そう、これまでは、レイダの財布は199円の弁当すら買えないぐらいの素寒貧だった。だから、それでも御馳走であった。

 

 ぶっちゃけてしまえば、身近な男が、よりにもよって僕しかいないから僕を意識しているだけである。

 

 でも今は、そんな199円の男をわざわざ選ばなくても、何万円もの価値がある男たちが、自分たちからアピールしてくる……今のレイダは、そういう女性になった。

 

 だから、僕としては、『ああ、なんて気の毒な……』という認識が強いのだ。

 

 仮に、そう、仮に、だ。

 

 もしも、レイダと恋人同士になったとしても……いずれ後悔するのが分かっている以上、無駄に思わせぶりな態度を取るのは可哀……ん? 

 

 

 ──じゃあ、真正面から他の男を探せって言えば良いのでは、って? 

 

 

 それはもう言いました。

 

 でも、そうしたら、なんて言い返されたと思います? 

 

 

 ──アタシの事を信じられないから距離を取りたいのか。

 

 ──アタシの事が好きになれないから距離を取りたいのか。

 

 

『誤魔化すつもりなら、覚悟して』

 

 

 って、真顔で、肩を掴まれて、鼻先が触れそうなぐらい顔を寄せられて、低い声色で問い掛けられてみなさいよ。

 

 

 ──し、信じられないから、です。

 

 

 そりゃあ、素直に答えますよ。

 

 さすがの僕でも、そんな恐ろしい目を向けられて真正面から嘘は付けませんってば。

 

 でも、そのせいなのかは分からないけど……その時から、レイダの距離感が以前に比べて妙に近いんだよね。

 

 こう、ペタペタと手を触れてくる感じっていうか、スキンシップが激しいって感じなのかな。

 

 その、ね。

 

 嫌ではないんだよ、嫌ではね。

 

 僕だって男だからさ、ガリガリに痩せ細っていて服を着ていたら男なのか女なのか分からない頃だったならともかく、だよ。

 

 今のレイダって……こう、女の子って感じに柔らかいんだよね。

 

 横に座られてもたれかかって来られたら、そりゃあもう、ちょっとドキッとする。

 

 どーんと、背中から抱き着かれたら、この当たっている感触は……ってな気持ちにもなる。ただ柔らかいだけのそれに、ドキドキしてしまう。

 

 でも、同時に……考えてしまうんだよね。

 

 ああ、この人って可愛そうだな、見る目が無いんだなあ……って。

 

 だから──話を戻すけど、今みたいにサウナの事だけじゃなく、なんか意味深な視線を向けられたとき……僕は、どうしていいのか分からなかった。

 

 

「……あ、通帳見なきゃ」

「通帳?」

「こういう変化が起こったとき、僕の通帳の中身と引き換えになる可能性が極めて高いから」

「……??? そう、なんだ???」

 

 

 だから、僕はいつも適当な理由を出しては誤魔化して……まあ、今回は本当に確認しないといけなかったら良かったけど。

 

 あんまり、良くないよね、こういうの。

 

 どうしても、そういう罪悪感を覚えずにはいられなかったけど、でも、そうしないと場が持たないから、僕は毎回そうするしかなかった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………で、まあ、そんな流れで、通帳の数字を確認したわけだけど……僕は、何度も何度も首を傾げてしまった。

 

 何故ならば……通帳に記された数字が、元の数字でもなければ、0というわけでもなく。

 

 

「……ねえ、レイダには、これがどう見える」

「……見たままを言わせて貰えるなら、マイナス……マイナス、1億7000万円……かな?」

「……引き落とし先、どこになっている?」

「……アタシの見間違いでなければ、『ワタシデス、サシオサエシマシタ』とかいう文字が……」

 

 

 はっきり言えば、どういう原理かは不明だけど、存在しない貯金分まで使われているという印字がなされていて。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………拝啓、皆様方、いかがお過ごしでしょうか。

 

 花の男子高校生16歳、小山内ハチ。

 

 なんと、この歳にして……1億7000万円の借金を抱えている可能性が浮上している、おそらく日本一借金を抱えた高校生かもしれません。

 

 

 

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