切れば良いのだ、何事も!   作:葛城

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第15話: 謎のお姉さん「私のセンス、古かったですか?」

 

 

 場所は、戻って『家』へ。

 

 

「おお、なんか変なところですごいぞ、これ」

 

 

 思わず呟いてしまった僕だが、それも致し方ないと思う。

 

 あの後、管理センターへと出向いて、施設内にある公共パソコンにてちょっと調べてみたら、自動支払いなどによって通帳の表記がマイナスになることがあることが分かった。

 

 ただ、その場合は定期預金などを担保にしたうえで行われるらしく、一般的な使い方では早々起こらない事なのだとか。

 

 まあ、そりゃあ、そうだろう。

 

 僕みたいに気付いたら1億越えの借金を背負わされるよな場合と違って、大半の人は預金残高とか手持ちのお金を元に考えながら使うわけだし。

 

 で、まあ、それはそれとして、このマイナス表記の残高通帳だが……なんで『変なところですごいぞ』と呟いてしまったのかと言うと、だ。

 

 それは、機械に通さなくても勝手に数値が変動するから、である。

 

 原理は不明だが、たとえば100円返済すると、機械に通したわけでもないのに通帳の表記が100円分プラスされているのだ。

 

 つまり、リアルタイムで表記が変動しているわけでね。

 

 起こっている事はあまりにも地味過ぎだが、起こっていること事態はあきらかに人知を超えた超常現象なんだよね。

 

 僕が変なところって言った気持ち、なんとなく分かるでしょ? 

 

 だってさ、それってあくまでも紙の通帳だからそうなわけで、これが電子通帳とかだったら、それってすごいことか……って、ちょっと思わなくない? 

 

 そういうのって、もうちょっと派手にしないと分からないと思うんだよね。

 

 少なくとも、僕が通帳を確認していなかったら、気付くのに数日後とかになってい……ん? 

 

 

 ──返済って、どうやってするのかって? 

 

 

 それは、アレだよ。

 

 どこでもいいから、謎のお姉さんにお金を返済しますよって言ったら、どこからともなく出現したお姉さんにお金を渡すだけ。

 

 そう、この借金、手渡しでの返済なんだよね。

 

 これがまあ、やっていることはこれまた超常現象なのに、そういう部分はアナログってのが……ん? 

 

 

 ──借金を勝手に抱えさせたことに文句を言わないのかって? 

 

 

 いや、言ってどうなるのよ。でもまあ、言ったけど。

 

 

『……デザインが気に入りませんでしたか?』

『……おや、このデザインでこの値段はお買い得ですよ』

『……はて? アイテムのレベルアップを行うとお伝えしましたが?』

『……あ、それと、斧をパワーアップさせましたので、期待してくださいね、自信作ですから』

 

 

 そしたら、返答がコレだよ? 

 

 前から思っていたけど、お姉さんって本当に人の話を聞かないよね。

 

 アレで悪意があったらぶちギレだけど、アレで悪意が無いどころか善意で動いているから始末に負えないと思わない? 

 

 まあ、そういうのを抜きにして考えても、だよ。

 

 そもそも、この『鍵&家』って、性能としては破格なんだよね。

 

 あと、『戻ってお~の』ってのも、値段が付けられないぐらいにスゴイんだよ。

 

 家の方はわざわざ説明するまでもないけど、僕が普段から使っている斧(分類としては、手斧なのかな?)ってさ……実は、これまで一度として刃こぼれした事がないんだよね。

 

 おまけにさ、いくら投げても、どれだけ力いっぱいぶん投げても、持ち手とか壊れないし、手元に戻した時点でピカピカの新品みたいに艶々になっているわけ。

 

 実質、弾数無制限の飛び道具ってなもんで。

 

 これってさ、実際にダンジョンに潜っている人ほど実感するんだけど……弾数無制限の飛び道具って、ダンジョン内ではとんでもないアドバンテージなわけ。

 

 これは地上でも一緒なんだけど、飛び道具系全てにおいての最大最悪の弱点は、攻撃回数=弾数ってこと。

 

 近接武器も破損してしまえばそれまでだけど、でも、こちらから一方的に攻撃できるってのは、それこそプライスレスってなもんで。

 

 おかげで、武器のレンタル代だけでなく、武器の破損を気にしなくていいってのは、マジでお金では買えないってやつだからさ。

 

 だから……こいつって思わなくはないけど、でもまあ、このお姉さんのやることだしなあ……って思った僕の負けである。

 

 

 で、話を戻して、だ。

 

 

 この差し押さえってのはまあ、もう、諦めるしかないとして……とりあえず、差し当たって考えなければならないのは……借金返済をどうするか、である。

 

 これが100万とか200万なら、頑張ればなんとか返せるけど……さすがに、1億7000万円とか、ちょっと想像がうまくできない。

 

 ていうか、1億とかってどう稼げば良いんだろうか? 

 

 これまで通り魔石(あと、運に任せてアイテム?)集めで返済しようと思ったら、何年掛かるのだろうか? 

 

 これから先、レイダにちゃんとした彼氏なり何なりが出来たら、それから先は僕1人でやるわけだし……魔石以外の返済方法というか、別に収入を得る必要があるわけで。

 

 

「──というわけなんだけど、なんか良い方法とかアイデアある?」

 

 

 とりあえず、1人でウンウン唸ったところで良い考えなんて思い浮かばなかったから、レイダに相談してみた。

 

 そしたら──けっこう力いっぱい頬に平手をくらった。

 

 一瞬ね、目の前に火花が散った。ぐらんぐらんと、視界が揺れた。冗談抜きで、一瞬ばかり意識が飛んだ。

 

 あまりに突然過ぎて、僕はもう何が起きたのか分からなかった。

 

 でも、そんな僕に対して、レイダは……何をしたと思う? 

 

 ボケッとするしかない僕の両肩を掴むとね、そのまま押されて仰向けにされて……圧し掛かれられて、まったく身動き出来ない僕にね。 

 

 

『……次、ふざけた事を言ったら、押し倒すからね』

 

 

 なんだろう、目が据わっているってやつ? 

 

 痛みも忘れて、思わず何度も何度も頷いた僕は、悪くないよね。なんとか謝り倒して許してもらったけど……で、だ。

 

 

 とりあえず、レイダも借金返済に協力してくれることになった。

 

 

 あくまでも、この借金は僕が背負ったものだけど、レイダにとっては違うみたい。

 

 思うところはあるけど、視線が僕の……辺りに固定されていたから、マジで次はそうなってしまうので口に出すつもりはないけど。

 

 

 ……で、まあ、どうしたものかと考えた僕たちは、一つの案を出した。

 

 

 それは、『管理センター』にて新たに受付が設置され、仕事として発注されるようになった、『モンスター食材の採取依頼』である。

 

 どういうことかって、それはまあ、その名のとおり、ダンジョンにて食用可能になったモンスターの肉を売ってほしい、という事だ。

 

 なんでそんなのが新設されたのかって、それはまあ、国民から滅茶苦茶後押しされまくったからなのと、ダンジョン関係だからである。

 

 これはまあ残酷な話だが、消費者にとって、美味な肉を安く買えるなら、国産だろうが外国産だろうが大した問題ではない。

 

 最初の頃はダンジョン探索者たちの間でのみ広がっていた(つまり、自分たちだけで消費していた)のだけど、その味の評価が広まるにつれて……売って欲しい、と申し出る者が現れ始めた。

 

 もちろん、最初は衛生的な問題もあって、既存の法律によって売買は禁止されていたが……事がダンジョンの話だから、そうも言っていられなくなった。

 

 なにせ、たかが食用肉とはいえ、下手にダンジョン関係に規制をかける形になってしまったら、どのような方向から『ダンジョンの呪い』が降りかかって来るかわかったものではない。

 

 当然ながら既存の畜産関係に従事している生産者たちから大々的な批判が出たが……それでも、どうにもならないのがダンジョンである。

 

 せめて、規制を掛けなかったことで呪いが発動し、規制を掛けるだけの理由が生まれていたなら話は違っていたが……現実は、どこまでも順当だった。

 

 

 ……少し前のことだが、自国の畜産を守るために規制を掛けた某国にて、世界観測史上トップクラスの竜巻が発生したらしいのだ。

 

 

 ソレに関して予兆の類は何もなかったし、そこは気象データから見て、台風など発生したことがない国だった。

 

 それなのに、突然、都市のど真ん中に竜巻が発生した。

 

 竜巻はきっかり3時間で消えたらしいが、被害は甚大の一言。

 

 その竜巻で死者を含めた重傷&負傷者は5万人を超え、被害総額は8000億を超える……ってニュースが流れたのは、記憶に新しい。

 

 しかも、それっきりじゃない。なんと、1日ごとに竜巻が発生したのだ、また別の都市で。

 

 これを受けて、その国は慌てて規制を解除したらしいけど……最終的な負傷者は10万人にも達し、被害総額は3兆円に達するかどうかってことになって。

 

 結局、全土に渡ってインフラが破壊されてしまい、国としてはほぼ壊滅状態になり、事実上再建は不可能じゃないかって……話が逸れたので、戻そう。

 

 とにかく、そんな某国の命を賭した答えによって、世界各国の生産者たちの批判は黙殺され……事実上、どこの国もダンジョン産の食材の売買は規制無しという形で終わった。

 

 ……で、そうなると、やっぱり気になるのが……安全性とか味である……のだが、この問題も、実際にはすぐに解決した。

 

 というのも、安全性に関しては、ダンジョンが生み出したと思われている『総合センター』のロボットより。

 

 

『ダンジョンの肉、アンゼン! トテモ、安全、オイシイ、サイコー!』

 

『ブッダもニッコリ、ホトケのほっぺたも三度マデ、有名なハナシデスよ!!』

 

『でも、ブランド肉に勝ちたいなら、5階層より下がネライメ、ガンバッテ―!!』

 

 

 という感じでアナウンスされたので。

 

 これまで、良くも悪くもダンジョンがそういった嘘を付いたことは一度として無かった事もあり、誰もが素直に受け入れた。

 

 そして、そうなってからの行動は……これまた日本らしいというか、節操が無いというか、動きが非常に速かった。

 

 なにせ、規制無しと正式に政府よりアナウンスされた当日から、『総合センター』のロボットに、モンスター肉の成分や効能を詳しく教えてほしいと動いた者が相当数居て。

 

 結果的に、一般的な食用肉としての成分(たんぱく質など)と変わらない事が分かり、同時に、一部のモンスター肉には『特別な効果をもたらす』というのが分かり。

 

 その流れで、『ダンジョン産の食材のみを使った料理を出します』というキャッチコピーを打ち出した飲食店が現れたかと思ったら、次々に後続が現れ。

 

 気付けば、それまで『総合センター』にて問屋などが待ち構えているだけでなく、『管理センター』にも正式に依頼を出して食材待ち……というのが、当たり前な感じになっていた。

 

 

「──そんなに高く売れるんですか?」

 

 

 その事を、僕たちは……考えても仕方がないので、再び『管理センター』に出向いて、新設された受付にて尋ねてみたら。

 

 

「そうですね、総合センターにて『詳細タグ付き』が前提ですが、基本的には地下4階以上の食材は高値になる傾向にあります」

「それって、果物とかも?」

「残念ながら、日本の果物の場合は、地下5階より下でなければ……旬の時期を外したモノであれば、地下4階のモノでも需要はあります」

「へえ、そうなんだ」

「日本の果物はとくに甘みが強く、好みの傾向がありますので、そのようになっております」

 

 

 そんな返答をされた。

 

『詳細タグ付き』とはなんぞや……名前のとおり、その食材の詳細を記したタグのこと。

 

 どのモンスターの肉なのか、どういった食べ物なのか、どの階層で獲れたモノなのか、総合センターでのランク判定、特別な効果の有無、そういった詳細が書かれているタグだ。

 

 これがある時点で、ちゃんと『総合センター』のお墨付きというのが分かる。

 

 言い換えたら、このタグが無い時点で信頼されないので、必ず『総合センター』にてタグを付けてもらってから売却するように……とのことだった。

 

 ちなみに、どうして地下4階以上なのかというと、地下3階までの食材の大半は、市販の食品とそこまで違いが無いから、らしい。

 

 これはまあ、日本の食品が美味すぎるかららしく、外国なら地下2階の食品でも普通に売れるのだとか。

 

 必然的に、大量生産品に合わせた値段設定でしか買い取られないので、需要があるのは主に地下4階より下の食材なのだとか。

 

 

「それじゃあ、地下4階のオーク肉っていくらで買い取ってくれるの?」

「その都度状況が変わりますので断言はできかねますが、1kgあたり、平均しておおよそ1万5000円前後となっております」

 

 

 で、試しに普段食べているオーク肉の値段を聞いてみたら、その値段に僕たちは思わず動きを止めた。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………い、1万、ご、5000円……!?!?!? 

 

 あいつら、1体持ち帰るとだいたい100kgぐらい手に入るのだけど……え、あれ1体で、150万円とな? 

 

 

 え、僕たち、そんな高い肉を食っていたの!? 

 

 

 ──だから、やたら美味しかったのか……。

 ──うん、マジで美味しかったよね……。

 ──鍋にしても美味いし、焼いても美味いよな……。

 ──正直、ご飯が進むものね、アレ……。

 

 

 受付の人を他所に、僕とレイダは無言のアイコンタクトを交わす。何気なく食べていたモノの価値に、思わず言葉を失くすってものだ。

 

 

「なお、同じオーク肉でも、ランクによって値段が変わります。この150万円はあくまでも最低ランクDの価格になっておりまして、ランクが一つ上がることに取引価格が約2割ずつ上がるのが相場となっております」

 

 

 そんな僕たちを尻目に、受付の人は説明を続ける。

 

 先ほどもチラッと話してくれたけど、『ランク』とは、その食材のランクのことで、『トリプルA~D』の6段階で評価されているらしい。

 

 つまり、同じオーク肉でもDランクなら150万円、Cランクうなら180万円、Bランクなら210万円……といった感じになるらしい。

 

 もちろん、同じランク肉でも肉質が異なる場合が多いし、特別な効果が付いている場合は、モノによって値段が跳ね上がることもある。

 

 なので、一概にそう決まっているわけではないらしいが、あくまでも、そういうのがない肉だけの相場の値段がそうなっているのだとか。

 

 

 ……と、とりあえずは、だ。

 

 

 受付の人にお礼を言ってから、今度はとなりの『総合センター』へ。

 

 誰かに売るとかそんなことあまり考えていなかったけど、受付ロボットに話をして、改めてタグ付けをしてもらう。

 

 幸いにも解体処理の時点で『鑑定』とやらを自動的に行っているらしく、タグ付けも無料なので、言ってくれたら用意してくれるとのことで。

 

 そうして、用意してもらったタグを見やった僕たちは。

 

 

「……ランクA?」

「……『備考:美肌効果』?」

『コミコミで、ナント100kg500万円、コレハ、スゴイ!!』

 

 

 自分たちが食べていた肉の価値が、想定していた以上に高値が付くモノだと分かると同時に。

 

 

「……あの、預けている肉って、あとどれくらいですか?」

『オマチ、マチナサレ……小山内ハチ、様。残りのお預かり、約7kgナリ!!』

 

 

 既に、ガッツリ食べちゃっていることに、思わず僕たちはその場で膝をついたのであった。

 

 

 

 

 




※ 店頭価格だと、もっと値段が上がります



※ なお、ハチたちは勘違いをしておりますが、ダンジョン探索者たちはわざわざ自分からモンスターを殺しに探し回る人はかなりの少数派です。
殺すとしても、オークなんてクソヤバいやつではなく、もっと小型のやつを狙います
なお、海外でもそこまで変わりません。日本みたいに品質のレベルが高くないので、むしろ、3階層でもって時点で、世界基準ではクレイジー扱いです

誰だって、命がけの殺し合いなんてしたくないですからね。相手は体重200kg越えの人型の怪物ですからね、鍛えた軍人でも殴られたらそのまま死ぬ危険性があります。最初から効率だけを考えて自分から殺しまわるハチくんたちがだいたい異常です


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