切れば良いのだ、何事も!   作:葛城

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第1話: どこかで見聞きしたチュートリアル的なアレ

 

 

 

 ──御機嫌よう、諸君。

 

 

 さて、改めて語るのもなんだが、前回の続き、『ダンジョン』について、サラッと説明しよう。

 

『ダンジョン』とは、確認出来るだけでも、壁画に残される前から存在していたとされている、『謎の地下空間』である。

 

 謎の地下空間とはナニカって、それは、謎の地下空間である。それが、日本のみならず、世界中にいくつもある。

 

 どうして謎の地下空間と言われるのか、それは、その地下空間では地上においての、いや、この宇宙において不変の法則とは異なる、別の法則が動いているからだ。

 

 たとえば、地上にて、そこらの地面を掘り返したとしよう。

 

 そこに生まれた穴は、原則として永久的にそのままである。誰かが埋めたり、あるいは自然現象によって塵などが積もったりしない限りは、永久的に穴は開いたままである。

 

 

 しかし、ダンジョンと呼ばれる地下空間では、そうならない。

 

 

 掘り起こした地面は翌日には元に戻っていたり。

 

 先日までは一本道だった通路が今日はY字路になっていたり。

 

 昨日まで湖があったのに枯れていたり、あるいは地下なのに大量の植物が生えていたり。

 

 あるいは、生物学では説明が付かない、ダンジョン内でしか生息していない謎の生命体(通称・モンスター)も……とにかく、説明の付かない現象がザラに起こる。

 

 また、現象はそれだけではない。

 

 ある地点では何故か1G以上の重力が掛かり、ある地点では何故か温度が非常に高くなっていたり、ある地点では……とまあ、うん。

 

 物理法則が、質量保存の法則が、エネルギー保存の法則が、明らかに地上と異なっているのだ。

 

 当然ながら、人類はそれを調べた。おおよそ、長きに渡って。

 

 そして、分かった事は前述した事の他には、モンスターはどういうわけか重火器では全身をバラバラにするぐらいしなければ殺せない、とか。

 

 なのに、剣や金づちといった、原始的な武器ならばあっさり殺せたり。

 

 なのに、国が主導して集団で入ったりする(要は、軍隊)と、国家崩壊クラスの大災害(ペナルティ)が連続して発生したりするときた。

 

 実際、それで滅んだ国もあれば、危険だからとダンジョンに入らせないようにしたり、独占したり間接的に管理しようとしたりすると、それはそれで大災害が連続したり。

 

 あるいは、管理しようとした関係者(親族含む)が例外なく原因不明の奇病に罹って全滅したとかいう過去があって……何もかもが意味不明である。

 

 

 もうね、うん。

 

 その果てに、人類は考えた。

 

 

 謎はもう、謎のままで良い。だが、この謎の空間を、ダンジョンを、有効活用できないか、と。

 

 なにせ、ダンジョン内はあまりにも広大であった。

 

 古来より様々な国や者たちが、様々な手法を用いて調査に乗り出したが、一度として最奥に到達出来た者はおらず。

 

 まあ、中には、『最奥に行った』という伝説だけを残した歴史上の著名人もいるけど……とにかく、なにか使える物はないかと考え、探した。

 

 

 そうして、人類が見つけ出したのは……『魔石』と『アイテム』である。

 

 

 魔石とは、簡単に言うと燃料であり、電池である。

 

 特殊な機械を用いて刺激を与えると、石油に似た燃料や小さな発電機に変わる。しかも、非常にクリーンなエネルギーだ。

 

 これによって、どの国でもある程度は自力で燃料資源を確保できるようになったわけだ。

 

 まあ、現代社会の大量エネルギー消費量を賄うのは不可能なので、あくまでも、一部分を担っているだけだが。

 

 

 それでも、だ。

 

 

 たった1%賄えただけでも、金銭に変換すれば何百億、何千億という規模になる。1%賄うだけで、それだけだ。

 

 他国への支払い分が、そのまま自国に回る。

 

 その経済的なメリットは計り知れるものではなく、また、大災害を防ぐという名目で、どの国も最低限の基準は設けつつ、ダンジョンへの突入は個人の自由に任されていた。

 

 ──とまあ、そんな感じで、長々となんか何処かで聞いた覚えがあるような説明を終えるわけ……ん? 

 

 

 『アイテム』とは、なにかって? 

 

 

 簡単に言うと、『ダンジョン内でのみ手に入るお宝』、である。

 

 地上で作れるモノもあれば、物理法則を無視したよく分からんモノもある。

 

 たとえば、包丁とか。

 

 頑丈だけど、作ろうと思えば普通に作れる包丁が出てくることもあれば、鋼鉄を豆腐のようにスパスパ切れるうえに刃こぼれしない包丁が出てくることもある。

 

 つまり、お宝、なのだ。

 

 このお宝は、モノによっては相当な金銭で取引され……それを目的にダンジョンに向かうのも居るわけである。

 

 ──とまあ、とまあ、とまあ、そんなわけで、だ。

 

 ようやく一通りを説明を終えた僕、こと、小山内ハチ16歳高校1年生、失恋してから約1時間弱。

 

 

「ダンジョン潜ります、予定は2時間です」

「かしこまりました……確認し終えましたので、どうぞ中へ。レンタルをご利用なさいますか?」

「はい、使用料は登録カードから引き落としてください」

「かしこまりました……それでは、御武運を」

 

 

 憂さ晴らしにダンジョン管理センターへとやって来た僕は、手慣れた職員より手続きを終え、ダンジョンへと入るわけだ。

 

 

 ……管理したら駄目なのではないかって? 

 

 

 よくぞ気付いた。

 

 僕も始めてここに来た時同じ事を思ったのだけど、けっこうダンジョンもいいかげんなようで、ダンジョンに潜る人の出入りを確認したり、援助したりするっていう形なら、大災害は起きないらしい。

 

 らしい、ってところに、先人たちの手探り感を覚えるのは、僕だけかな。

 

 なので、ダンジョン周辺は、管理センターという形で建物が併設され、武器防具のレンタルや、治療のための病院が併設されるのが一般的である。

 

 アメリカとかは、そりゃあもう広大な敷地をたっぷり使っているらしく、一周するだけで数十kmは掛かるのだとか。

 

 

 で、話を戻すけど、今は夏休み中である。

 

 

 つまり、大人を除いて、僕以外にも学生の姿はそれなりにあるわけだ。僕のように1人で来る者もいれば、グループで来ている人たちもいる。

 

 さすがに男女ペアは少数だけど、ちらほら女性の姿も確認出来る。なんか鎧とか着ている、たぶん、オーダーメイドのお高いやつだ。

 

 自分の命は自分で守る、これ、鉄則。

 

 最終的には自己責任の世界、誰かに責任転嫁しても意味はないので、自分に合った装備をレンタルするのが大切である。

 

 

「ヨシ、君に決めたぞ、今日のエクスカリバー君……!!」

 

 

 なので、僕が選ぶのはバットだ。

 

 管理センターでレンタルできるバットは特注であり、普通の野球バットよりも頑丈なのだ。

 

 これはとにかく殴ってよし、殴ってよし、殴ってよしな、僕にとっては最高の武器である。

 

 

 ……剣とか、刀? 

 

 あんなのは玄人向けなんすよ。

 

 

 近所に剣道場とか剣術道場とか、そんなのあるような家の生まれじゃないと、まともに扱うなんて無理なんすよ。

 

 その点、バットは楽である。

 

 とにかく振り被って当てたら良いだけなのだから。

 

 おまけに、純粋に分厚いから壊れにくいうえに、岩石とか叩いて砕いて魔石探しも出来るのだから、一石二鳥の武器である。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………さて、と。

 

 

 更衣室でジャージに着替え(これもレンタル)、非常用道具一式(これもレンタル)が入ったリュック(これも以下略)を背負い、バットを片手に(これ略)、いよいよダンジョンへ。

 

 ダンジョン入口は、いわゆる洞窟みたいな感じで、地上より階段を降りたら、その先はもうダンジョンである。

 

 言うなれば、地下1階からスタートだ。

 

 迷路のように入り組んでいたりもする最奥に、さらに下へと続く階段があって、その先の最奥には、さらに下へと続く階段が……という感じで、エンドレスでダンジョンが続いている。

 

 いちおう、公式記録は地下17階まで……なんで知っているのかって? 

 

 そんなの、管理センター内の壁に、それはもうデカデカとその時潜ったメンバーたちの写真が飾られているからである。

 

 

「やはり、バット……これ以上の武器はないだろ……!!」

 

 

 さて、無駄話はここまでにしておいて、予定通り、僕は憂さ晴らしを開始する。

 

 やる事は単純明快。

 

 落ちている手頃な岩石を思いっきりバットで叩いたり、遭遇したモンスターをバットでぶん殴ったりする、それだけだ。

 

 岩石を叩いて砕くと、時々ポンと魔石が飛び出してくる。モンスターも、倒すと時々ポンと魔石が飛び出す。

 

 いったい、どういう仕組みになっているのだろうか、今でも時々疑問に思う時がある。

 

 なお、死体はそのまま一定時間放置するとポンと煙を立ち昇らせて消えてしまう。衛生的にも、ダンジョン様はたいへん気を利かせてくれている、というわけだ。

 

 

「ふんしょ!」

「よいしょ!」

「おらしょ!」

 

 

 さて、いよいよ説明もあらかた終わったので、僕は掛け声と共に、ぶっ叩いてゆく。

 

 コツは、一切の手加減をしない事と、躊躇しない事と、余計な力を抜く事。あまりにも力を入れっぱなしだと、手がしびれてきちゃうから。

 

 地下2階とか地下3階に出てくるモンスターならともかく、地下1階のモンスターは弱い。正直、中学生でも武器さえあれば勝てる。

 

 出てくるモンスターは、いわゆるスライムとか呼ばれているやつが基本で、たまにゴブリンとか呼ばれているやつも出る。

 

 ただ、ゴブリンは今にも餓死しそうなぐらいに痩せ細っていて、落ち着いてやればまず無傷で倒せるぐらいに弱いので、楽勝である。

 

 

 ……で、だ。

 

 

 そんな弱いやつしか出ないのに、儲けが出るのか……答えはまあ、出ない。

 

 ちょっとしたバイト代わりにするには良いのだろうけど、これで食っていこうと思ったら、地下2階より下を活動拠点にしないとかなり生活は厳しいわけだ。

 

 なんでも、地下の奥へと向かえば向かう程、より高品質な魔石やアイテムが手に入るのだとか。

 

 実際、今の僕のような普段は学生(あるいは、別の仕事)をしていますって感じの人達は、ほぼ地下1階に固まっている。

 

 まあ、当たり前だ。誰だって、命は惜しい。

 

 僕も、そのうち家を出るためにお金を貯めてはいるけど、そのために命を落とすのは本末転倒もいいところ。

 

 多少のリスクを取るべきなのかもしれないけど、今はまだその段階じゃないかな……と思う、僕なのであった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………ちなみに、だ。

 

 

 タイミング的にたまたまなのだろうけど、僕がダンジョンに入っている時に高確率で遭遇するお姉さんがいる。

 

 どういうわけか、僕以外には見えないようで、SNSとか見てもお姉さんに関する情報は、今のところは見つかっていない。

 

 正直、アレをお姉さんと呼んでいい存在なのか判断に迷うタイプのお姉さんだけど……なんで、迷うのかって? 

 

 それは、お姉さんの見た目が明らかに人間ではないからだ。

 

 全体的なフォルムは人間の女性だけど、なんか半裸だし、腕が6本生えているし、背中に翼が生えているし……とにかく、そういうお姉さんがいる。

 

 

「少年、また会いましたね」

 

 

 どうやら、今日も遭遇したようだ。

 

 お姉さんはいつものセクシーな恰好で、それなのに、誰にも気付かれず、ボケーッと広間の端っこにて突っ立っていた。

 

 

「お姉さん、相変わらずおっぱい丸出しだけど、恥ずかしくないの?」

 

 

 とりあえず、無視するのもなんなので声を掛ける。幸いにも周りに人はいないので、変なやつだという目は向けられなかった。

 

 

「長生きしていると、そういう感覚は無くなるので」

 

 

 でも、お姉さん自身は変なやつなんだよなあ。

 

 

「ところで、今日はどうしましたか? なにやら、幼馴染を寝取られたっぽい顔をしていますけど?」

「惜しい。そもそも寝ていないので、それ以前の問題です。ぶっちゃけ、彼氏彼女とか僕の思い込みだった可能性すら浮上しています」

「まあ、それは気の毒に……哀れな貴方に、これを授けましょう」

「え、ありがとう……なにこれ、斧?」

「ロマン溢れる武器です、使い勝手が良いですよ」

 

 

 それから、少しばかり世間話をして別れたのだけど……これもまあ、ダンジョンの謎の一つかな、と思う僕なのであった。

 

 

 

 

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