切れば良いのだ、何事も!   作:葛城

24 / 57
第19話: レイダ「…………< ● >< ● >ダレソノヒト?」

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………ところで、皆様方。

 

 

 おそらく、この一連の流れを聞いて、不思議に思った事が一つあると思う。

 

 それは、値段が跳ね上がると分かっているなら、僕たちが使う分を別に取って置かないのか……ということ。

 

 当然な疑問だろう、僕たちだって寒い時は寒いし、暑い時は暑いのだから。そして、これから季節は冬に入り、ますます寒気は厳しさを増してゆくときだ。

 

 わざわざ他の人に売った者を再び買うだなんてムダ金では……そう思うことは、皆まで言う必要はない。

 

 僕たちが全て売ると決めた理由は……単純に、僕たちが寝泊まりしている『家』では、使い道がまったく無いからで──あ、いや。

 

 いちおう、無理やり使おうと思ったら、使い道は用意できるんだよ。

 

 ただ、今の僕たちにとって、わざわざそういった燃料を使用して動かす家電とか道具を、必要としていないってわけ。

 

 

 なんでかって言うと、だよ。

 

 

 今さら語るような話でもないけど、『鍵&家』による空間って、ある程度は外の天候に左右されるんだよね。

 

 さすがに雨とか降らないっぽい(今のところ、雨は一度も降っていない)けど、外が氷点下ならあの空間も氷点下になるし、外が真夏日ならあの空間も真夏日になる。

 

 あの空間、ちゃんと太陽が空に浮かんでいるし、雲もあるんだよね。雨も降らないのにね。

 

 それで、外が昼間ならあの空間も昼間だし、外が夜ならあの空間も夜で、夕暮れ時なら、赤い夕陽がペカーッと眩しいわけ。

 

 以前の『部屋』の時とは違い、そういう変化が起こるようになった……ので、実は、以前とは違って暖房や冷房が必要になっているわけ。

 

 なので、そこだけを見ると必要になるんじゃないか……って思うところだろうけど、ところがどっこい、そうじゃない。

 

 実はさ……『部屋』から『家』になった時に、室内の設備を調べたんだけど……そこで、とある事実が発覚したんだ。

 

 

 それはなにかって……『家』の暖房、なんと暖炉なんだよね。

 

 そう、暖炉。

 

 炎がメラメラしている、あの暖炉。

 

 

 僕はあまり知らないけど、なんか掃除不要で自動的に灰を除去してくれるうえに、温度調整までしてくれるんだってさ。

 

 でさ、その暖炉は薪を使用するんだけど。

 

 その薪ってさ……暖炉の隣にセットで設置されているBOXがあってね。

 

 そこにお金を投入すると、その分だけ薪がガシャコンって出るわけ。そう、自動販売機の、ジュースみたいに。

 

 だから現状、ガソリンとか灯油とか手に入っても使えないんだよね。

 

 当たり前だけど、運転免許はおろか車も原付も持っていないから、ガソリンの使い道なんて無いし。

 

 灯油だって、わざわざ石油ストーブを買ってまで部屋を暖める必要は……ていうか、暖炉で十分すぎるほど温かいしね。

 

 ……ちなみに、冷房もあるよ。

 

 こっちはエアコンとかじゃなくて、なんか『冷房』ってボタンが各部屋に付いていてね、押すとどういう原理か室内がひんやり冷え始める仕様だけど。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………で、まあ、そんな感じで。

 

 

 季節は冬、大晦日。世間では仕事収めとなり、何処も彼処も静まり返っている。

 

 学校も冬休みに入っているので、僕たちもお休みである。

 

 ダンジョンに限って言えば年末年始のお休みなんてモノはないが、探索する僕たちの気持ちが嫌だったので、今年はお休みすることにした。

 

 思い返せば、ダンジョンに入れるようになってから……いや、入られなかった前から、僕にとって年末年始なんてのは給食が食えなくなるという危機的状況だったので、あまり良い思い出はない。

 

 なにせ、お金を稼がないとその日のご飯が買えなかったのである。いや、それどころか、温かい寝床も僕にはなかった。

 

 なにせ、管理センターで宿泊できなければ、待っているのは物置小屋である。

 

 当然ながら、人が住めるようには設計されていない物置小屋だ。

 

 ダンボールを重ねて重ねて、細切れになったタオルやら何やらを寝袋に詰めて詰めて、それでなんとか暖を取って耐えきっていた。

 

 時期が時期だから、雨風が凌げるだけでも非常にありがたい。

 

 夏場でもヤバいけど、冬場で風を防げない場所とか、下手しなくても死んじゃう寒さだ。

 

 それに、寒さに耐えかねて外に出たところで……こう、色々とクルものがあるんだよね、世間の光景を見てしまうとさ。

 

 こっちは冷えたアンパンとか、コンビニで買ったカップ麺を啜って暖を取っている横で、おせちがどうとか餅がどうとか、さ。

 

 だから、体力的に辛くなければ、基本的に年末年始だろうと関係なくダンジョンに向かっていた。

 

 この時ばかりは極力物置小屋には戻りたくなかったから、連泊できるようお金を用意していたし……まあ、それで、だ。

 

 そんな僕が、こうして年末年始を温かい場所で、ゆっくり休んでも金銭的な不安が無く、心に余裕が持てるようになったってことがね。

 

 それがまあ、嬉しくて嬉しくて、ね。

 

 レイダと一緒に晩御飯の用意をしていたけど、どうにも涙が滲んじゃってね……埃が目に入ったって誤魔化していたけど、僕には止められなかった。

 

 まあ、そんな僕と同じく、レイダも似たような思いで居たのかもしれない。

 

 だって、レイダも用意している最中、何度も袖で目元を拭っていたし、玉ねぎを切っているわけでもないのに、何度も鼻をすすっていたし。

 

 レイダもレイダで、非常に肩身の狭い日常を送っていたらしいし、年末年始なんて針のムシロみたいな感覚だったのかもしれない。

 

 だから、不思議と、さ。

 

 僕たち2人は、向かい合うように炬燵に足を入れてさ。

 

 手を合わせていただきますをして……ちょっと、晩御飯のお鍋を突いたところで、さ。

 

 

「……ハチくん、目にゴミでも入ったの?」

「実は、そう。そういうレイダも、ちょっと涙目だね」

「うん、私も目にゴミがね」

「お互い、目にゴミが入って大変だね」

 

 

 僕たちは互いに申し合わせていたかのように、ちょっとばかりしんみりとした気持ちで……何度も濡れた目尻を拭ったわけだった。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………そんな流れで、改めて晩御飯を再開して、しばらく。

 

 

「なんか最近、灯油代とかガス代が滅茶苦茶値上がりしているってテレビでやっているね」

 

 

 前に購入したテレビを見ていた僕は、流れているニュースを眺めながら……煮立つ鍋より肉を掬い取る。

 

 

「そうだね、毎日値上がりしているってニュースでやっているね」

 

 

 同様に、レイダも肉を掬い取る。

 

 2人だけど、使用している鍋は販売店で買った一番大きなサイズだ。

 

 そうしないとレイダはかなりペースを我慢する必要があるし、食べる量に対して小さ過ぎるから、そうなっている。

 

 実際、僕は人並みだと思うけど、レイダって食べる量が多い分、食べる速度も速いんだよね。

 

 だから、2人用とかの小さい鍋だと、すぐに空になっちゃうから……ってことで、一番ビッグサイズが採用となった。

 

 まあ、そうじゃなくても……一度だけでもいいから、こういう大きな鍋を使ってみたかったんだよね。

 

 それに関してはレイダも同意見なのか、涙が止まった後はず~っと笑顔で、本当にニコニコと楽しそう鍋をつつき、モシャモシャと平らげていた。

 

 

『──ですから、早急にダンジョン探索者を増やし、石油確保のために政府は動くべきなんですよ。既に、市場のガソリン価格はリッターあたり400円を超えているんですよ!?』

『──では、どうするのですか? 政府主導による大規模な動員を行った結果、呪いが起こってしまったら、事は石油なんて話では済まなくなるのですよ!!』

『──とはいえ、今年の寒気は厳しい。東北では既に夜は氷点下をかるく下回り、暖房設備を使えず、先日には凍死者が出たという報告が出ております』

『──そうです。これからが本番なのです。東北地方の家々は比較的寒さに強い家づくりをなさっている家は多いですが、限度があります』

『──そうなんですよ、うちの実家が青森になるのですが、けっこう劣化が進んでいる家が普通にあります。そういった者たちにとって、この石油高騰は……』

『──石油に限らず、電気代も高騰しています。国として、どのように対策をなさるおつもりなのでしょうか?』

 

 

 そんな中で、討論バラエティ番組に出演している人たちの激しい意見のぶつかり合いが、室内に響く。

 

 世界的な石油危機が勃発してから今に至るまで、テレビなどでこの問題が触れなかった事は一度として、無い。

 

 

 そりゃあ、そうだろう。

 

 

 この『家』では電気代も水道代も実質ほとんど掛からないので他人事でいられる僕たちとは違い、他の人達は日常生活へダイレクトに直結している。

 

 電車代一つとっても、なんと一駅ごとに20円~50ずつ値上げされ、定期代も特例として追加徴収されるといった事態にまで発展しているらしい。

 

 バスも乗車率の低い路線は即日運休、本数も減らして、それでいて値段を上げて……それで、ギリギリ赤字にならないって状態らしく。

 

 なんか、都内では自転車の売り切れが続出しているらしい。

 

 そのうえ、自転車の盗難件数がこの1ヶ月で去年の4倍になっているらしく……話が逸れてきたね、戻しましょう。

 

 

 ──とにかく、なんだけど。

 

 

 世間がそんな感じだからなのだろうけど、この年末年始のお休みに入る前から、管理センターからのお願いというか、要望がすごかったんだよね。

 

 具体的には、地下5階層のデカダンゴ虫……うん、あの石油燃料が取れるデカダンゴ虫をとにかく獲ってきてほしい、というもの。

 

 そりゃあ、分かるよ。世間知らずの僕だって、今がとんでもなく大変な事になっているってのは。

 

 だから、いちおうリスクを天秤に掛けて、やれる範囲でやったわけよ。無理をしなければならない時はするけど、する必要が無い時は、しない。

 

 それで、十分でしょ。

 

 僕からしたら、もう義理は果たしているじゃんって感覚なんだよね。レイダなんて、なんでそこまでって感じで、途中からけっこう不満そうにしていたぐらいだし。

 

 まあ、レイダの場合は、単純に虫嫌いだからなのだろうけど……それでも、だよ? 

 

 だってさ、客観的に考えたら、僕たちってそんだけ危険な場所に何度も足を運んで、もうけっこうな量を持ち帰っているわけよ。

 

 日本全国で考えたら大した量にはならないんだろうけど、個人で考えたら相当なモノだよ? 

 

 それなのに、全然足りないからどうのこうのって言われても……そんな事を言えるほど、僕に対してナニカしてくれましたかって話なのよね。

 

 それ言い出したら、税金貰って生活している人たち、1人の例外もなくダンジョンに突撃せえよって思う話じゃん? 

 

 レイダもそうだけど、僕だって、今までどれだけ苦しんでいた時でも世間は知らぬ存ぜぬって態度だったわけだし……今さら、助け合いがどうとか言われても……ねえ? 

 

 それで僕が疲弊して寝込む事になっても、君たちは代わりにダンジョンに行くわけじゃないんだし……ってなもんで。

 

 

「……実は、おせちを予約してあります」

「おせち……!!」

「明日は年越しそばだから、明後日の朝に食べようね」

「うん!」

 

 

 世間の騒動を他所に、僕たちは……穏やかな年末年始にゴロゴロするのであった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………そうして、年が明けて始業式の日。

 

 

 ずっと引きこもっているのは暇だから外出はしていたけど、ソレとは別に、始業式って長期の休み開けだから、妙に長く感じるんだよね。

 

 でもまあ、午前中で終わる話だし。

 

 ってな感じで、僕は1人教室で欠伸をこぼしながら、はよ担任来てくれ終わりのHRしてくれさっさと帰らせてくれって考えていた……わけなのだけど。

 

 

(……??? 気のせいかな、なんか見られている?)

 

 

 冬休み明けだからなのか、なんか視線を向けられる気がしてならなかった僕は、内心にて首を傾げていた。

 

 視線を向けられること事態は、別に慣れている。

 

 ジロジロと見られ、見返したらフフッと鼻で笑われたり、なんなら逆に因縁を付けられた事があるからこそ、分かる。

 

 

 ……なんか、雰囲気が違うぞ、と。

 

 

 基本的にクラスメイトたちの僕に対する態度は無視か空気扱いか、元幼馴染のアイツの不相応な彼氏(?)みたいな感じだったけど、これは違う。

 

 男子も女子もチラチラ見てくるけど、こちらか見返したらサッと視線を逸らしてしまう。

 

 それは、元恋人(疑問形)だった島田彩音ですらも例外ではなく、なんかチラチラこちらに視線を向けてくる。

 

 

 ……いや、島田さんの場合は、ちょっと違うか。

 

 

 僕との騒動ですっかり孤立してしまっているのか、以前は傍に居た女友達が居なくなったかわりに、なんかやたらと僕の方へと視線を向けて来る頻度が増えている。

 

 僕としては、もう勝手にやってなさいって感じだし、今さら仲を戻したいとは思わないのだけど……まあ、島田さんの事は置いといて。

 

 とにかく、視線というか雰囲気が変だ。特に、男子からの視線がおかしい。

 

 なんかこう、僕がなにかをしたわけでもないのに、なんかおかしい。目が合うと、なんかちょっと挙動不審な感じになる。

 

 最初はまた変な事を始めたのかと思っていたけど、どうも、そういうのとは違うような……ん~……??? 

 

 

(朝は別に普通だった……いや、思い返してみると、なんか体育館で並んでいた時も……なんか、周りの人たちの反応おかしかった……ん~……???)

 

 

 しばし考えてみたけど、結局それらしい答えは見つからず……担任の先生が来て、それっきりに──。

 

 

「……ところで小山内。おまえ、もしかして化粧とかしているのか?」

「へ? 僕が? していませんけど?」

「本当に? 色つきのリップとか、塗っているわけじゃないよな?」

「えぇ……先生、僕は男っすよ? そんなの塗るわけないじゃないっすか」

「……う~ん、ちょっと顔を見せなさい」

「えぇ? 先生も疑り深い人っすね」

「…………」

「…………」

「…………」

「……あの、先生? 何時まで見るんすか?」

「え? あ、いや、うん……問題、無いようだな」

「だから、なにも付けていないって……」

「それと、香水の類は?」

「はぁ? あの、僕をからかってたりします? そんなの付けていないですって……ダンジョン行っているんすよ、僕は」

「ん、んん、まあ、それもそうだな……そうだよな……」

「?????」

 

 

 ──なったけど、なんか余計に変な空気になってしまい……僕はもう、新手の苛めかナニカにしか思えなかった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………で、まあ、そんなこんなで、何とも言えないHRを終えて、いざ帰宅(というか、待ち合わせ)と鞄を持って、廊下に出てすぐだった。

 

 

「小山内、くん……」

 

 

 なんか、クラスメイトの女子が話し掛けてきた。声が小さく、僕みたいに注意力が無ければ聞き逃しているぐらいだった。

 

 見覚えは……正直、分からない。

 

 クラスメイトなのは分かる。ただ、仲の良いクラスメイトなんていなかったし、ましてや、女子ともなれば……とはいえ、だ。

 

 

(あれ、なんで僕ってば、何も分からないのにクラスメイトだって……???)

 

 

 その女子の見た目は、一言でいえば異様であった。

 

 身長は、僕よりも少し低い。猫背なのか、少し前屈みになっている……それでいて、制服のサイズがあっていないのか、袖口から指先がわずかしか出ていない。

 

 なんとなく、レイダと逆だなあ、と思った。

 

 ちなみに、顔は長く垂れ下がった前髪のせいで確認出来ない。もはやそういう髪型なのかと思うぐらい、顔に黒髪のカーテンが掛かっていた。

 

 

「私、隠野愛《かくれの・まな》って言います」

「どうも、それで、何か用?」

「単刀直入に、お願いがあります」

 

 

 率直に尋ねてみれば、隠野さんは……垂れ下がった前髪の隙間から、チラリと僕の顔を見ると。

 

 

「小山内くんは探索者だとお聞きしました。どうか、私を貴方のチームに入れてください」

 

 

 そして、あまりにも予想外な提案を持ちかけてきたのであった。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。