切れば良いのだ、何事も!   作:葛城

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第20話: それは、あまりにも豊満であった

 

 

 ──とりあえず、場所を移す事にする。

 

 

 さすがにいきなり『家』に通すわけにはいかないので、チェーン店のバーガー屋(ポテト、美味しい)へと向かう。

 

 秘密の話し事をするならば、『家』以上に秘密が保たれた空間はないだろう。

 

 でも、今のところ、僕はレイダ意外に誰かを入れる予定はない。少なくとも、信用に足る相手でなければ、存在すら臭わせるつもりはない。

 

 

 で、だ。

 

 

 そのバーガー屋(追いチーズバーガー、う~ん)は三階建てであり、最上階が喫煙席、二階が禁煙席、一階は少数の禁煙席と受付となっている。

 

 僕たちは、そのうちの2階の禁煙席へと向かう。

 

 幸いにも時間帯とタイミングが良かったのか、禁煙席には3名いるだけで、ほとんどが空席になっていた。

 

 正直、混んでいたら当たり障りのない話だけでこの場を終えて、後日改めて……とも思っていただけに、都合が良かった。

 

 これまた運良く、店の中では階段から一番離れた店の奥側の席が空いていたこともあり、僕たちはそこへと腰を下ろした。

 

 とりあえず、食事をしながら……と、思ったけど、お腹がぐ~って鳴っているのに水しか頼まない隠野さんに対して、僕は……そっと、バーガーセットを注文した。

 

 もちろん、僕が全部奢るよって明言したうえでのこと。

 

 なにやら隠野さんは非常に恐縮しているというか、受け取れないみたいな態度だったけど、食べないなら話は終わりだよって言ったら、頭を下げてから……けっこうガッツリ食べ始めた。

 

 

 やはり、お腹が空いていたようだ。それは、とてもよろしくないことだ。

 

 

 他の人達がどう思うかは知らないけど、僕の前でお腹が空いているような顔や態度や雰囲気を見せた以上は、四の五の言わずにお腹を満たすのが正しい行いなのである。

 

 というか、お腹が空いている時に難しい話をしたって、良い結果に終わるわけがないじゃんって思うのは、僕だけかな。

 

 さすがに満腹の時に重大な話をするのも……とは思うけど、空腹の時にやるよりはマシでしょってのが、僕の持論なのである。

 

 

「…………」

「ん? なに?」

「ううん、別に……」

 

 

 ただ、そうして嬉しそうに食べている隠野さんを見ている際、なにやらレイダから妙な視線を向けられていたけど。

 

 ポテト欲しいのって差し出したら、なんとも表現し難い表情でパクッと食べて……う~ん、どうにも機嫌が悪いようだ。

 

 で、まあ、僕としても、初めて食べるハンバーガーの味に感動しながらも話を切り出すと、隠野さんは……ポツポツと話し始めた。

 

 

 その内容を簡単にまとめると、特に珍しくもない話であった。

 

 

 要は、昨今の石油代高騰によって生活費がかつてない勢いで圧迫され、飲食店を営んでいる隠野家はその煽りを受けて、廃業を余儀なくされる事態に陥ろうとしている、とのこと。

 

 銀行から融資を得様にも、どこの銀行もパンク状態であり行くだけ時間の無駄……残念なことだが、このままだと一家離散しかねない状況にある、とのことだ。

 

 なんで一家離散するのかというと、どうやら2年前に店内の大規模改修工事を行った分の返済がまだ終わってないから、らしい。

 

 元々腕が良く評判も良かったので順調に返済を進めていたのだが、昨日の石油騒動によって、状況は一変。

 

 今すぐ店をたたんで売却なり何なりしたとしても完済には至らず、そのうえ、再就職先など無いから……という、悪循環に陥っているらしい。

 

 たった2ヶ月ちょっとぐらいの出来事なのに、そこまで急激に話が進むのか……って僕は思ったけど、そこらへんを隠野さんは丁寧に補足を入れてくれた。

 

 

 ──要は、傷が浅いうちに対策を取らないと、というやつだ。

 

 

 あくまでも、現時点では『~としている』とか『~かねない』とか、可能性の段階の話でしかない。

 

 ただし、限りなくそうなる可能性が極めて高い、ほとんど確定していると言っても過言ではないぐらいの話でもある。

 

 実際、隠野さんから説明されて、僕たちはけっこう納得した。

 

 この石油騒動は、今のところ、収束の目途はまったく立っていない。それどころか、加速度的に事態は悪化していると、僕は思っている。

 

 事実、ダンジョンよりデカダンゴ虫を持ち帰った量が毎日ニュースになるぐらいで、それでいて、誰も彼もが厳しい顔のままである。

 

 分かっている、絶対的に量が足りないのだ。

 

 なにせ、このバーガー屋も営業時間は朝から昼間だけで、メニューも2種類だけ、照明も落とされていて、トイレの使用は禁止になっている。

 

 飲み物だって、プラスチックカップを洗浄して使い回しているようで、ストローも無ければ蓋だって無く、氷は無いし量だって増やされているわけじゃない。

 

 当然ながら、暖房だって電源が落とされている。実は店内なのに、息を吐くとちょっと白い湯気が出るぐらい、寒いんだよね。

 

 だから、美味しそうに食べている隠野さんのバーガーとポテトも、僕たちが食べているバーガーとポテトも、すっかり冷えて冷たいんだよね。

 

 言っておくけど、冷めたんじゃないよ。

 

 始めからある程度作り置きをして、その都度出しているって感じ。以前のようにその都度揚げてとかは、今はやっていないらしい。

 

 だから、客が少ないのかもしれない。まあ、こういう冷たいご飯は慣れているけど。

 

 厚着しているし2階だからまだ熱気が昇ってくるだけマシだが……いかに、日常生活に影響が出ているかが察せられるだろう。

 

 全国的にチェーン店を出している大手企業ですら、ここまでしないと(それでも苦しい)駄目なぐらいに、あまりにも急激に進んでいるのだ。

 

 体力がある大手ですらそうなのだから、規模が小さい個人飲食店ならば、たった二ヶ月ちょいで廃業が脳裏を過るのも、不思議ではないと僕は思った。

 

 

「それで、話は分かったけど、それならなんで僕にそんな相談を持ちかけたの? お世辞にも、僕ってそんな強そうな見た目をしていないのだけど」

 

 

 そうして、一通りの話を聞いた僕が率直に理由を尋ねたら……理由は、僕たちの血色だと言われた。

 

 血色ってどういうことって尋ねたら、隠野さん曰く、だ。

 

 

「今は、私に限らず食費を抑えている人が大勢います。そんな中で、小山内くんはとても血色が良くて、ああこの人は探索者として余裕がある暮らしをしているんだなって、思いまして……」

「はあ、なるほど、おこぼれに預かろうと?」

 

 

 素直に聞けば、隠野さんは慌てた様子で首を横に振った。

 

 

「いえ、とんでもないです。あ、いや、もちろんお金は欲しいんですけど、ただ、私なら……私の『超特殊体質』ならと思って」

「隠野さんの? え、ていうか、体質持ちなの?」

「はい……えっと、とりあえず、私の『ステータス』を見てください」

「え、いいの? こんなところで?」

 

 

 思わず目を瞬かせる僕とレイダに、「うん、見せないと、だから」隠野さんは頷いた。

 

 

「これを見せないで信用してくれってのは、駄目だと思うから。でも、口外しないでね……じゃあ、『ステータス』!」

 

 

 

【あなた】: 隠野愛・16歳

【生 命】: 68

【 力 】: 35

【 防 】: 34

【 速 】: 25

【 魔 】: 2987

【おまけ】:魔力の泉、かくれんぼの達人(極)、もちふわプルプル柔らかむっちりボディ体質(衝撃・斬撃耐性大)、土属性魔法習得済み

【ひみつ】:処女、耳年増、恥ずかしがり屋、魔乳、図太い

【私からの一言】:服の下がとんでもねえ、オークに頭から殴られても全ての衝撃を受け流してしまう全身スライム人間ですね、ぷるぷるぷる……

 

 

 

 隠野さんが宣言すると同時に、僕たちにも見える位置にステータスが表示された。

 

 その中身は僕にとっても驚くに足る内容だった。

 

 色々と気になる点が多いけど、その中でも特に気になるのは密……『かくれんぼの達人』のところと、『もちふわ~』のところと、『土魔法~』のところ。

 

『かくれんぼの達人』

 

 普通に気になる。わざわざ【おまけ】の項目に記載されるぐらいだから、ただかくれんぼが上手なだけではないだろう。

 

 そして、『もちふわ……体質』。

 

 おそらく、これが隠野さんの言う『超特殊体質』なのだろう。

 

 名称からして、あと【私からの一言】からして、その可能性が……ていうかなんだソレ、とんでもねえモノ? 

 

 最後に、『土魔法』のところ。ある意味、コレが目立つ。

 

 世界中の人達が『ステータス』によって右往左往していた当初、まだ誰もがソレに慣れていなくてステータスを開示したままになっていた。

 

 その時、僕はけっこうな人数のステータスを確認したわけだけど……その中に、はっきりと『魔法』の言葉が入っている人は1人もいなかった。

 

 だから、目立つ。あと、見て見たい気持ちになる。

 

 とりあえず、視線で促してみれば……隠野さんは察してくれたようで、ゴソゴソとポケットから……小さなプラスチックのボトルを取り出した。

 

 

「土魔法は、触媒となる土が無いと使えないので……」

 

 

 そう説明を続けながら、隠野さんは蓋を外して──途端、中から土が勝手に飛び出してきたかと思ったら、それは瞬く間に量を増して……あっという間に、土の巨人がそこに立っていた。

 

 おお~……思わず、僕とレイダは手を叩く。

 

 これ、アレだ、ゴーレムってやつだ。

 

 そのゴーレムは、まるで僕たちの拍手に応えるかのように両手をあげ、ゴリラのようにドシンドシンと胸を叩いた。

 

 すごい迫力だ。

 

 全身が土だから、重量感というか、威圧感がけっこうある。まあ、ゴーレムが天井すれすれのサイズだから、そう感じるだけかも──っと、その時であった。

 

 

「──っ、あの子がいない」

 

 

 唐突に、レイダがそう言って立ち上がった。

 

 見やれば、レイダは驚いた様子で周囲を見回し、隠野さんを探しているようだった。

 

 既に2階には僕たちしかおらず、邪魔になるモノは何もない。だから、それでも見つからないのが信じられない……そんな様子であった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………????? 

 

 

 レイダの行動の意味が分からず、僕は首を傾げながら……抜き足差し足忍び足って感じで席から離れ、そ~っと僕たちから距離を取り……静かに、テーブルに隠れるようにしている隠野さんの姿を、目で追う。

 

 本当に、意味が分からなかった。

 

 あの子がいないって、そりゃあ、いないよ。だって、移動したんだもの。

 

 隠野さんは普通にゆっくり席を立って、ゆっくりゆっくり静かに移動して、ゆっくりゆっくりゆっくり……テーブルの陰に隠れた、ただそれだけ。

 

 こんなの、幼稚園児ですら見失わないよ。そう思ってしまうぐらいの動きだった。

 

 とりあえず、キョロキョロと探し回っているレイダを他所に、僕はジ~ッと隠野さんを見つめ……隠野さんも、ようやく見つめられていることに気付いたのか、スッと立ち上がった。

 

 

「えっ!? いつのまにそこに?」

 

 

 途端、心底驚いた様子のレイダ……そんなレイダを見て、隠野さんは、なにやら自信タップリなご様子で笑みを浮かべながら頷いた。

 

 

「これが、私の超特殊体質です」

「え? どういうこと?」

 

 

 当然、意味が分からなかった僕は、素直に尋ねた。

 

 

「……え?」

「え?」

 

 

 すると、どういうわけか、隠野さんはめちゃくちゃ驚いた様子で目を瞬かせ……と、思ったら、また移動を始める。

 

 

「──また、居なくなっちゃった」

 

 

 そうしたら、これまた、レイダは辺りを見回し……目の前にいる隠野さんを無視して、明後日の方向へと離れてゆく。

 

 そんな中で、僕はというと……すぐ傍まで近寄ってきている隠野さんを見上げる。

 

 隠野さんは、なんだろうか……傍目に分かるぐらい、全身で『私、迷っています!』みたいな感じでモジモジしているかと思ったら……ポツリと、僕に話し掛けてきた。

 

 

「あの、小山内くん……もしかして、見えていますか?」

「…………」

 

 

 どうしよう、普通に見えていますよって応えて良いのだろうか。

 

 僕としては、どちらでも良い。

 

 ただ、先ほど、アレだけ自信満々だった姿を見ているから、素直に見えていますよって応えるの、ちょっと気まずいというか……と、思っていると。

 

 

「あの、小山内く~ん」

「…………」

「もしも~し、聞こえていますか~」

「…………」

「聞こえているなら返事をしてくださ~い」

「…………」

 

 

 あまり大きくない声で、何度も僕に確認してくる。何を思ったのか、ふ~っと耳に息を吹きかけてくる。

 

 あいにく、その程度で狼狽えているようでは、夏の虫がわんさか公園で寝泊まりとかできないんだよね。

 

 ていうか、そこまでするなら普通に肩でも叩いてくれた方が……もしかして、それだとダメだとか──ん? 

 

 どうしたものかと思っていると、隠野さんはゴソゴソと着ているジャンパーのチャックを下ろし、制服の裾を掴むと……そのまま、ガバッとめくり上げた。

 

 

 ──言葉にするなら、ボロン、である。

 

 

 それは、デカかった。とにかく、デカかった。

 

 ブラジャー越しでも分かる、とんでもねえサイズである。レイダも大きい方なのだろうけど、隠野さんの前では明確な格下であった。

 

【一言】に、とんでもねえなんて表記が付けられるだけの理由がある……そう思わせる双子山が、大げさじゃなくて、マジでゆさゆさしていた。

 

 

「……やっぱり、見えているじゃん!」

 

 

 そして、そんな僕の反応で確信を得たのか……隠野さんはそう言って、僕の頭にチョップをしたのであった。

 

 あの、理不尽じゃないっすかね、この流れ……。

 

 

 

 

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