切れば良いのだ、何事も!   作:葛城

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第21話: 分かり合える、その意味

 

 

 

 ──結論から言うと、隠野さんの『超特殊体質』は二つあった。

 

 

 そう、本当に珍しいことなのだが……いや、もしかしたら、今まで気付いていないだけで、二つも三つも特殊体質が備わっている人が居るのかもしれないが、とにかく、だ。

 

 少なくとも、世間一般的には『一つあるだけでも超珍しい』という代物なのだから、それを二つも持っている時点で、どれほど珍しいかが窺い知れるというものだろう。

 

 

 で、話を戻して、というか、説明をまとめると。

 

 

 隠野さんの超特殊体質のことだが、一つは言うまでもなく、『もちふわプルプル柔らかむっちりボディ体質(衝撃・斬撃耐性大)』である。

 

 これはその名のとおり、隠野さんのボディがとにかくもちふわプルプル~になっているということ。

 

 

 具体的にどういうことなのかと言うと、まず、全身がとにかく柔らかい。

 

 

 若いから肌が柔らかいとかではなく、本当に柔らかく、ゴムの感触とはまた少し違うし、伸びるわけでもない。

 

 筋肉も血管も骨も内蔵すらも生物のそれとは思えないぐらいに柔らかく、かといって脆いわけでもなく、骨はちゃんと硬さを感じ取れるし、肋骨もそう。

 

 常識では考えられないような柔軟性があるというもので、腰を捻って上半身だけを真後ろに向けても、痛くも痒くもない。

 

 そんな身体だからとにかく打撃などにはめっぽう強く、子供の頃にマンションの非常階段から落ちた事があったらしいけど、擦り傷一つ負わなかったぐらいだとのこと。

 

 

 そして、もう一つは……意外なことに、『かくれんぼの達人(極)』がそうだった。

 

 

 これはどういうモノかと端的に言いますれば、アレだ……なんか漫画とかにあるような、認識阻害ってやつ? 

 

 なんでも、隠野さん自身が『見つかりませんように』って意識したり、意識して周りに存在をアピールしないでいたりすると、効果が出てくるらしい。

 

 具体的には、先ほどレイダが体験したように、目の前に居るのにその存在を認識出来なくなる、というやつだ。

 

 いわゆる景色とかに擬態しているわけじゃないから、一度認識出来ない状態になると、自力で見付けるのは非常に困難らしい。

 

 

 それは、レイダの反応でよく分かった。

 

 だって、レイダって僕よりもはるかに感覚が鋭いから。

 

 

 地下5階層の森の中でも、姿はおろか近付いてくる音すらしていないのに、『40m先ぐらいから、こっちを見ている』って気付くぐらいなのだ。

 

 そのレイダですら隠野さんを見失っていたのだから、これはもう超常現象を引き起こすも同然の超特殊体質で間違いないだろう。

 

 

「でもそれって、滅茶苦茶強くない?」

 

 

 だからこそ、それなら一人で突入した方がはるかにその体質を活かせることができるのでは……と、思ったのだけれども。

 

 

「気付かれないだけで、すり抜けるわけじゃないから……何かの拍子に怪我とかしても、誰にも気付いてもらえないの……」

「あ、そっか」

「それに、私自身はそこまで力も無いし、ゴーレムは普通に気付かれちゃうし、そのゴーレムだって長時間稼働させられないし……」

 

「なるほど、そう考えるとけっこう使い勝手が悪いのか」

 

 

 そして、隠野さんの言い分を聞けば聞くほど、隠野さん自身の能力が『ダンジョン』に対してそこまで向いていないということが分かる。

 

 誰にも気付かれないよう接近出来たとしても、隠野さん自身は背丈が低く筋力も乏しいので、致命傷を与えにくい。

 

 打撃・斬撃に耐性があるとはいえ、体力的には運動部の子に劣る程度だから、結局のところ常人より怪我をしにくいだけ。

 

 痛みも何も感じないゴーレムは何度でも再生できるのだが、ゴーレム自身は自動的に動いているわけではないので、どうしても注意力が散漫になる。

 

 また、車などとは違い、ゴーレムを出している間は『魔力』と隠野さんが名付けているエネルギーが体内より失われるらしく、それは基本的に休息を取らない限り回復しない。

 

 なので、主な活動階層は地下2階の半ばまで。

 

 ゴーレム無しだと、非力なので下手に攻撃する方が危険。魔力切れを起こすと、強い倦怠感を覚え、休息を取らない限り回復しない。

 

 モンスターを運べなくなった時点でそういう状態に陥るので、安全を考えたら隠野さんは地下2階が限度だという判断をしたのだろう。

 

 つまり、ぶっちゃけてしまいますと。

 

 『土魔法』とかいう力と、隠野さんが持つ二つの超特殊体質は、噛み合っているように見えて、まるで噛み合っていないという有様なのであった。

 

 

「……あれ、じゃあ土魔法は超特殊体質じゃないの?」

「それは、分からないんです。昔からお花とかが好きなので土いじりはしていたので、そのせいかも……」

「えぇ……」

 

 

 なお、まだ説明していない『土魔法』に関しては。

 

 

「ただ、最初はそんな表記がなかったんです。ただ、ダンジョンの土を持ち帰ってお花を育てたら綺麗な花が咲くのかなって、試し始めた頃に、土魔法が表記されて……」

「は? え? ダンジョン内の土を? 持ち帰った???」

「え、はい、使い終わった腐葉土と混ぜて使いまして……あの、駄目だったりします? バレたら面倒臭そうだなって今までこっそりやっていたんですけど」

「い、いや、そういう話は聞かないけど、スゴイ事を考えるなあ……て思っただけだよ」

 

 

 そこは体質ではなく、後天的に得た能力であることも教えてもらった。

 

 ただ、習得出来た条件は本人も分かっておらず、それどころか、ダンジョンの土を持ち帰るとかいうとんでもねえ事をしでかしている事に、思わず僕は慄いたのだけれども。

 

 いや、別に、ダンジョンの土を持ち帰ったからといって、『ダンジョンの呪い』が発動するわけではない。

 

 中にダンプカーを突っ込んで持ち帰ろうとした……とかなら分からないけど、少なくとも、僕が知る限り、そのような事が原因で起こったという話は知らない。

 

 けれども、何が原因となるのかが分からないのが、『ダンジョンの呪い』である。

 

 別にそれを使えば豊作になるとかいう話はなく、むしろ、普通に市販されている腐葉土とかを使う方が良いという話らしく。

 

 わざわざリスクしかない『ダンジョンの土』を持ち帰って使おうとする者なんぞ皆無だからこそ、それを、あっさり実行している隠野さんに、僕はごくりと喉を鳴らしたのであった。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………で、だ。

 

 とりあえず、良いところも悪いところもまとめて全ての説明を終えた隠野さんは、改めて、僕たちにアピールを行った。

 

 

「私のゴーレムの最大の武器は、その巨体を活かした一撃にあります。ここでは天井と触媒にしている土の量から大して大きいゴーレムは作れませんけど、ダンジョン内ならもっと巨大なゴーレムが作れます」

「あ~……なるほど」

 

 

 言われて、納得する。

 

 確かに、先ほどの動きはけして素早くは無かったが、ずっしりとした巨体は力強さが感じ取れて、コイツに殴られたらヤバイな……って思わせるモノがあった。

 

 実際、動きの素早いモンスターならともかく、とにかく固いモンスター相手には、これ以上ないぐらいに友好的だろう。

 

 また、魔力が続く限り何度でもゴーレムを作ることができるらしいので、盾として使用したり、囮として誘導させたりも可能かもしれない。

 

 

 ……まあ、だとしても、だ。

 

 

 正直、だからなんですか……という感覚しか、僕にはなかった。

 

 僕にとって重要なのは、戦力的にどうだとか、能力的にどうだとか、そんな事じゃない。

 

 信用できるかどうか、秘密を守れるかどうか、嘘を付かないか、それが全てである。それができない相手と行動を共にするだなんて、札束を積まれたって嫌である。

 

 レイダは……成り行きみたいな流れだけど、あそこまで身体を張られてしまったら……あと、率先して突っ込むので、そういうのが積み重なった信頼がある。

 

 

 対して、隠野さんに対しての信用は、0である。

 

 

 だって、今日までまともに会話した覚えないし、というか、世界が今みたいな状況にならなかったら、絶対にこうして会話をしなかった相手である。

 

 つまり、僕からしたら、『必要になったから接近してきた相手』でしかないわけで、どれだけアピールされても、僕の心は欠片の波紋も生み出さなかった。

 

 

「……う~ん、やっぱりセックスフレンド程度じゃ駄目ですか。よし、それじゃあ小山内くん、私はこれから色々とぶっちゃけます」

 

 

 そんな僕に対して、いや、僕の視線からナニカを察したのか、いきなり聞き捨てならない言葉を呟いたかと思えば。

 

 

「正直なところ、私はいま、心の底から焦っています。何故なら、今がギリギリ私自身を女として高く売り出せる最後のタイミングだからです」

 

 

 もっとすごい事を言い出した……え、なに言ってんの、こいつ? 

 

 

「みなまで仰らないで、小山内くんが言いたいことはよ~く分かっています。それでも、私は言わねばなりません……私は今が、おそらく一番可愛い時期だということに」

「はあ……???」

「いいですか、小山内くん」

「はい」

「私みたいに同性とはまるで馴染めず友達なんて出来たことがないボッチ女が、曲がりなりにも小山内くんに相手にしてもらっているのは、ひとえに私が女で可愛いからであります」

「え、自分でそれを言うの?」

「ここですっ呆けるのは性格悪いですから。気付いていないフリをする女にもなりたくないですし、それに、もしも私が男だったら、小山内くんはここまで私の話を聞いてくれましたか?」

「……正直、断言はできない」

「それが普通なんですよ。それで、話を戻しますけど、私は自分で言うのもなんですけど、可愛いのです」

「はい?」

 

 

 思わず聞き返せば、隠野さんはサッと前髪を捲った──おぉ、いわゆるカワイイ系の顔立ち──ん? 

 

 なんか不穏な気配を感じた僕が振り向けば、そこには真顔のまま、目だけが大きく見開かれたレイダの姿が……そっとしておこう。

 

 

「ご覧のとおり、私ってばけっこう可愛いでしょ?」

「うん、可愛いと思うよ」

 

 

 お世辞じゃなく、本当に可愛い。

 

 垂れ下がった前髪とブカブカの衣服のせいで印象がガラリと変わっているけど、顔立ち自体はとても可愛らしい系だ。

 

 さっきのおっぱいの件も含めると、ちゃんとした格好をしたら、それはもう男子が放ってはおかない……そう思えるぐらいだ。

 

 

「でも、この可愛さを活かせるのは、もう長くないと私は考えています」

「え、なんで?」

 

 

 そんな女子から、そんな言葉が出たら、さすがに僕も目を瞬かせる。

 

 

「これから先、ますます社会情勢は悪化します。そのうち、私のような未成年がバンバン身体を売るようになりますし、その頃になると私も今より痩せ細っているでしょうから」

「えぇ……そこまでになると思う?」

「なります、確実に。無い袖は振れないのです、国も人も。今はまだ、溜め込んでいた貯金を切り崩してなんとか生活しているって状況なのです」

 

 

 その言葉と共に、隠野さんは……スススッと僕の隣へ来ると、ギュッと僕の腕を抱き抱えてもたれかかってきた。

 

 抱き締められている腕が、柔らかい。

 

 何時の間にかジャンパーの前を外しており、分厚い制服越しとはいえ、男にはない柔らかさが……あと、うっすらとだが、激しい心臓の鼓動が伝わってくるような気がした。

 

 

「ですので、私はけっこう滅茶苦茶焦っています。今はまだ、誰も彼もが心の何処かでそのうち諸々が回復していくだろう……なんて甘い考えでいますけど、おそらく私たちが2年生になる頃には変わります」

「……変わるって、どんな感じに?」

 

 

 尋ねたら、隠野さんは、にっこり笑った。

 

 

「学校中退者続出、記録的な企業倒産件数の増大、必然的にダンジョンへ向かう人が増えて……それに合わせて、囲い込みやら何やらもそうですけど、反社とかも入り込もうとするでしょう」

「そこまで考えるの?」

「そこまで考えないとダメなんです。私は死にたくもないし辛い思いもしたくないので、使える物はなんでも使えって主義なので……でも、誰かを騙したり裏切ったりして、平気な顔でいられるほど、私は図太くありません」

 

 

 その言葉と共に、さらに……抱き締められている腕への締め付けが強まった。

 

 

「私は、誰かを騙したり、裏切ったり、そういう事をせず、胸を張って生きたいのです、この恵まれた身体を使って」

「身体を使うの?」

「使いどころが来たなら、ですけど」

「でも、僕と一緒に行くってことは、ズルとかにはならないの?」

 

 

 思った事を尋ねたら、隠野さんは不思議そうに首を傾げた。

 

 

「身長の高さをズルだと言われて不利益を被ったなんて話が今までありましたか? むしろ、低いからという理由で被った不利益を、それは差別だからと補てんされた事はありますか?」

「え、いや、それは……」

「生まれが裕福で幼い頃から野球に触れる機会に恵まれたので、貴方が参加すると相手チームにプラス3点。家が貧乏で野球道具を買って貰えなかったから貴方が参加したらプラス10点とか、そんな話を聞いたことありますか?」

「それは、無いけど……」

「その程度の話なので、無視したら良いのです。結局、自分が得をしない事はなんでもズルなのです。それに、そういうキレイ事を呟いていたら誰かがご飯をくれるんですか?」

「くれたりするんじゃないの?」

「自分で言うのもなんですけど、くれますね、他の誰かの財布から頂戴したお金を回すだけですけど。なんか釈然と……いえ、話を戻しましょう」

 

 

 パッと腕を放した隠野さんは、ペコリと僕に向かって頭を下げた。

 

 

「私は死にたくないし飢えたくないし、温かいご飯を食べて温かいベッドで寝たい。あと、家族とか手助けできる範囲は手助けしたいので、チームに入れてください」

「う~ん、ここまで清々しく明け透けだと、色々と通り越して気持ちの良いやつだなって思っちゃう……」

「で、どうでしょうか?」

「まあ、僕としては一緒にやってもいいとは思うよ」

 

 

 ──その瞬間、隣の席に座っているレイダの方から、ギリってナニカを噛み締めたかのような……まあ、置いといて。

 

 

「でも、僕は隠野さんを信用出来ていない」

「当然ですね」

「だから、手っ取り早く隠野さんはチームから離れても秘密を守り続ける……そう、僕が信じられるナニカを見せてくれないかな?」

 

 

 僕の言葉に、隠野さんは深く頷き……しばし、考え込むかのように唸った後で……ポツポツと呟いた。

 

 

「正直に言いますと、信用って積み重ねるモノだと私は思うのです」

「まあ、そうだね」

「なので、ぶっちゃけ不可能だと思います。それでも、小山内くんから信用を得ようと思ったら……生半可な事では駄目だとも思います」

「そりゃあ、そう──」

「ですので、私は考えました!」

 

 

 食い気味に僕の言葉を遮った隠野さんは、片手を上げて宣言した。

 

 

「言葉ではなく、行動で示すのが一番だと!」

「はあ、それで──」

「私は、ダンジョンに潜ります!」

 

 

 再び、食い気味に遮られた僕の視線を他所に、隠野さんはキッパリ言い切った。

 

 

「そして、地下5階の糞デカダンゴ虫を仕留め、背負って帰還しましょう!」

「うん? それがいったい──」

「ハチくん、隠野さんは信用できると思う」

 

 

 三度目の食い気味な遮りは、レイダの方からだった。

 

 見やれば、レイダの視線は先ほどとは違い……畏怖、あるいは気高きナニカを目撃したかのような……そんな目を向けていた。

 

 それを見て、僕が素直に思ったことは。

 

 

(……あのデカダンゴ虫、そんなに嫌なの?)

 

 

 気持ち悪いけど、そこまでかな……という、素朴な疑問であった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………なお、その後、隠野さんはキッチリ完遂した。

 

 

 さすがに剥き出しのままだと周りが迷惑なので袋には入れたが、その時の隠野さんの目は瞳孔が開いているというか、震えているというか、とにかく普通ではなかった。

 

 まあ、感触が気持ち悪いんだろうなあ、とは思った。

 

 だって、その時の隠野さん、季節と場所を間違えたのかなってぐらい薄着だったし。

 

 なんでも、服を薄くすると、心もち認識阻害の影響が強まるのだとか……正直、検証なんてできないので、ただの思い込みなのだと思うけど。

 

 まあ、そういう気持ちって、時には大事だと思う。

 

 近寄れば、全身に鳥肌が立っており、四肢がぶるぶるとケイレンし、思い出したように袋の中のダンゴ虫がビクッと震えるたび、ひぅぅぅ、と変な声を上げていたけど。

 

 それでも、僕とレイダの手を借りる事なく、最後までやりきったのであった。

 

 その際、隠野さんの姿をレイダは認識出来なかったけども、時々思い出したように隠野さんが背負っているデカダンゴ虫は認識できるらしく。

 

 

「隠野さん……ううん、愛さん、あんた、(おとこ)だよ……!!」

「へへ、レイダさん……わ、わたし、やりましたよ……!!」

 

 

 最後までやり終えた後、なんか妙に打ち解けている二人を見て。

 

 

(そんなに、デカダンゴ虫って嫌がられるのかな……???)

 

 

 僕は、1人置いてけぼりの気持ちになりながら、仲間が増えるなあと思うのであった。

 

 

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