切れば良いのだ、何事も!   作:葛城

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※ ある意味、説明回みたいな話
 そのとき、何が起こっていたのかってやつです


第23話: 実録! 石油ダンジョンの裏話!

 

 

 

『石油ダンジョン』とすぐに名付けられたそのダンジョンに対して、政府が取った行動はそう多くはない。

 

 まず、発信地や発信場所不明の、謎の女性……それが女性と断定してよいのかすら不明な存在からの通告を見聞きした政府は、直後に管理センターに連絡を取り、専門のチームが調査に動いた。

 

 これは一見政府の息が掛かっているので『ダンジョンの呪い』に引っ掛かりそう……なのだが、そうならないよう長年掛けて導き出した基準を元にして結成されているチームである。

 

 

 たとえば、人数は一チームで多くて3人。

 

 

 調査中だからといって探索規制は掛けない、同様にダンジョンに関する報道規制や印象操作もせず、また、この情報を元にして各組織や国家間への駆け引きなどは一切行わない……といった感じだ。

 

 長年掛けて少しずつ導き出したセーフライン。

 

 静観するだけなら簡単だが、ただビクビクしているわけにもいかないという、国なりのせめてもの抵抗でもあった。

 

 

 ……で、だ。

 

 

 いきなり出来て『はい、分かりました』と突撃できる者は少なく、最初のうちは誰も彼もが恐る恐るといった感じで外から様子見する感じであった。

 

 いくら石油が手に入るらしいとはいえ、ダンジョンの怖さは誰もが知っている。

 

 政府が規制どうこうせずとも、まずは様子見しようと考えるのが大半であり、よほど頭がぶっ飛んでいなければ、最初のうちは誰も入らないのであった。

 

 いわゆる、不幸中の幸いというやつか……そうして分かったこともまた、そう多くはない。

 

 まず、事前の話のとおり、内部には大量の虫型モンスターが居て、そいつらが死亡すると例外なく石油に変質するのが確認出来た。

 

 ただし、石油と一言で表せても、その中身は単純な話ではない。結論から言えば、石油全般である。

 

 原油も、ガスも、ガソリンも、灯油も、軽油も、重油も、なんなら液状化した状態のアスファルトすら確認できた。

 

 どういう原理なのかは不明だが、それらの状態に一貫性はない。

 

 あるモノはドラム缶に入った状態で出現すれば、あるモノは剥き出しの液体で出現したり、あるモノは個体の状態で出現した。

 

 当然ながら、それらは、安全性という観点から見たら、いつ作動してもおかしくない不発弾も同然である。

 

 なにせ、それらに近寄ると、わずかだが異臭を嗅ぎ取れるからだ。

 

 わずかでも異臭を嗅ぎ取れるということは、微量ながらも気化しているということ。臭いとはすなわち、それを嗅ぎ取れるぐらいにはガス状にあるということ。

 

 そう、可燃性の物質が気化した状態にある。

 

 その恐ろしさと危険性は、少しでもそういった方面の知識や情報を得ている者からしたら、だ。

 

 気付いた直後に『緊急退避ぃ!!!』と叫んで周り右をするぐらいと言えば、いくらかは想像しやすいと思う。

 

 実際、ドラム缶に入っているのはまだマシである。

 

 本来であればマイナス○○℃以下でなければ固体化しない物質が、どうしてか常温の環境下だというのに、ほとんど気化していない。

 

 あまりにも意味不明な話だが、ダンジョンの中での出来事だから、誰もがありのままに受け入れた……で、問題はそこからだった。

 

 

 ……え、こんな危険なモノを素人が外に運び出す!? (絶句)

 

 

 という、話なのだ。

 

 どうして絶句するのかと言うと、そういった可燃性のモノは、ちょっとした不注意で火事や爆発事故を引き起こすからだ。

 

 伊達に、日本において危険物取扱に関する資格があるわけではない。

 

 そう、本来、石油というモノを取り扱う時は、最低限の知識を仕入れたうえで行うのが望ましいのである。

 

 セルフスタンドなどでも実際はカメラなどを使って、客が危険行為を行っていないかを確認した後、資格を持つ店員が機械操作を行って給油できるようにしているのである。

 

 

 ……だからこそ、調査チームもそうだけど、政府も喜ぶよりも前に、恐怖に青ざめ言葉を失くした。

 

 

 だが、止める手段は無い。何故ならば、事がダンジョンだから。

 

 また、危険だと周知するにも限度があるし、それで行かないようにという印象を与えてしまえば、呪いが発動する危険性がある。

 

 それゆえに、政府は考え……客観的に見たら気でも狂ったのか……みたいな対策を取った。

 

 

 具体的には、看板を立てた。

 

 

 看板には、『推奨』の文字の下に箇条書きで、守った方が安全だよといった注意書きがいくつか羅列されていた。

 

 一つ、石油ダンジョン内では、裸で入るのが望ましい。

 

 また、乾燥肌の者や帯電しやすい体質の人は、保湿剤などを身体に塗っておいた方が良く、入る前に放電処置を行った方がほぞましい。

 

 二つ、金属製の道具を使用する際は、極力金属同士を衝突させたりしない方が良い。

 

 また、ガソリンなどを入れる際にポリタンクを使用すると、容器が変形したり溶けたりする場合があるので推奨はしない、当然ながら爆発炎上の危険性がある。

 

 三つ、人と人との接触は極力避けた方が良い。

 

 特に、服を着ている者同士の接触は引火の恐れがあるため、中に入る際には細心の注意を払った方が無難である。

 

 

 この、三つである。

 

 

 本当はもっと書きたかったのだが、三つ目の部分でもかなりギリギリなのではという判断から、この三つが厳選された。

 

 

 ……で、だ。

 

 

 調査を始めたその日に看板を立てた……つまり、初日はまだ良かった。

 

 石油がそこかしこから手に入る(しかも、一部剥き出しで)場所で、衣服を着たまま入る事がいかに危険なのかが分かっている者、あるいは察せられる者が多かったからだ。

 

 

 しかし、早くも2日目から不穏な気配が生まれる。

 

 初日は本当に素っ裸で入る者だけだったが、翌日にはパンツやシャツを身に着けた者が現れ始めたのだ。

 

 理由は裸で居ることへの羞恥心とは別に、『石油ダンジョン』と名付けられたそのダンジョンは、とても気温が低かったのだ。

 

 おおよそ、マイナス10℃前後。

 

 しっかり着込んでいても寒さを覚えるような中で、裸のまま入ってどれだけ耐えられるかと言えば、そう長くはなく。

 

 知識も無いし、自分だけは大丈夫だろうという根拠のないバイアスを自覚出来ていない者の中に、これぐらい良いだろうと開き直る者が現れるのは、必然のことであった。

 

 もちろん、たかが下着一枚、シャツ一枚。

 

 神経質と言われたらそれまでだが、一瞬の火花でダンジョン内に居る者たち全員が死ぬ。

 

 それに気付いた者たちは、顔を青ざめて……下着を着ている者を見た途端、ダンジョンを出て行った。

 

 すると、どうなるか……より、手付かずの世界が、今では紙幣が地面を転がっているに等しいそれらが、無造作に放置されているという状況になる。

 

 

 そんな光景を前に、だ。

 

 

 これぐらい良いだろうと甘く考えている者たちが興奮しないわけがなかったし、欲望のタガが外れないわけがなかった。

 

 灯油の18Lポリタンク一つ分を持ち出すだけで、万札と交換ぐらいの値段になっているのだ。

 

 しかも、タンクに満杯の状態で出現する場合もある。

 

 モンスターも素人の素手でどうにかなるレベルだし、うまくやれば、一往復で3万円越え。

 

 運良くガソリン入りのドラム缶を持ち帰れば、それだけで最低価格が2,30万円越えにもなるぐらい、高騰してしまっている。

 

 そんなの、理性で抑えられる話ではなかった。

 

 

 そして、3日目。

 

 下着どころか、普通に服を着て入る者が現れる。

 

 最初は少数だが、数が増えれば、『ああ、心配し過ぎか』と都合よく根拠もない空想上の安心を盲信し、1人また1人と服を着る者が現れ。

 

 四日目にもなると、もはや半数以上が普通に服を着ていて、逆に裸で居る者をジロジロ見ては『心配し過ぎ』と、嘲笑する者すら現れた。

 

 酷い時には、逆にそういった者たちを変態扱いし、公然と……さすがに追い出すことは出来ないが、これ見よがしに中傷の言葉をぶつける者が現れ。

 

 

 そして、ああ、そして、5日目。

 

 ついには、安物のセーターとダウンジャケットを着て、電動ポンプとポリタンクを片手に入ってくる者がゾロゾロと……結果は、言うまでもないだろう。

 

 

 ──爆発。それはまさしく、爆発であった。

 

 

 始まりは、静電気が起こした小さな火花……いや、違う。

 

 後日、政府はそのような見解を立てたが、真実は違う。何故ならば、ダンジョン内では火花などは発生しないように設定されていたからだ。

 

 もちろん、政府に限らす人類には知る由もないことだが、この『石油ダンジョン』に深く関わっている謎のお姉さんは、ちゃんと2手先3手先を読んで対策を立てていた。

 

 たとえば、ダンジョン内にてガスが充満しても人体に影響が出ないようにしたり、ダンジョン内では火花などが発生しても引火しないようにしたり……とか。

 

 そうなのだ、謎のお姉さんは、ちゃんと分かっていた。

 

 馬鹿な人間は何処にでもいるから、『せいでんき? 食い物?』みたいな人たちが混じる危険性を。

 

 だから、ダンジョン内では火花が発生しないようにした。

 

 もちろん、金属製の武器防具がかち合っても、『石油ダンジョン』内に火花が散らないようにもしていた。

 

 

 ……だが、しかし。

 

 

 聡明な謎のお姉さんは、一つだけ……いや、二つばかり、ミスを犯していた。

 

 

 一つ、ダンジョンを出てすぐの場所に、『無料のお酒スポット』を設けたこと。

 

 なんでこいつそんなものを設置したのかと、仮に第三者がこの話を聞いたら困惑のあまり言葉を失くすだろうが、待ってほしい。

 

 馬鹿な人よりは聡明だと自認している謎のお姉さんは、『石油ダンジョン』を作る時……うっかり、ソレも入れてしまったのだ。

 

 エチルアルコール……すなわち、酒精と呼ばれる成分を。

 

 うっかりソレを混ぜてしまったわけだが、それだけを新たに失くすだなんて細かい作業が苦手で止めることも面倒だった彼女は、考えた。

 

 

 ──ヨシッ! 成分は酒に入っているアルコールと同じわけだし、飲んでもらいましょう! っと。

 

 

 それは彼女の視点からすれば、起死回生の一手でありながら、普段頑張っている者たちへのご褒美……そんな感じであった。

 

 言っておくが、成分は同じでも石油から精製したアルコールを飲料水に使用できないという決まりが日本にはある……のだけど、謎のお姉さんは深く考えていなかった。

 

 

 ──とりあえず、人体への安全性を上げて味も上げて飲みやすくしたらOKだろ、これでヨシッ!! 

 

 

 という感じで、考えているようで実は大して考えていないのかもしれない雑な判断によって、その『無料お酒スポット』は用意されていた。

 

 

 ……3日目から。

 

 

 そう、謎のお姉さんが作ったこの『無料お酒スポット』……よりにもよって政府のチームの調査を終えた後に設置されたのだ。

 

 そのうえ、石油危機によって嗜好品……その中でも酒類の高騰は爆発的な勢いで、業務用の激安ウイスキーを共同購入出来ないという人も大勢いた。

 

 

 そんな中で、無料で酒を飲めるスポットが出来たらどうなるか? 

 

 答えは、爆発炎上した石油ダンジョン、である。

 

 

 まあ、具体的に言うなら、毎日のように金が入る状況で、久方ぶりの酒に酔った者の中に、火が付いたまま咥えタバコでフラフラと石油ダンジョンへと近寄り……そして、二つ目のミス。

 

 ソレは、火花などの対策が行われていたのは、あくまでもダンジョン内に限定していたということ。

 

 そう、ダンジョン外から火を投げ入れたら、普通に引火して大炎上&大爆発確定なのである。

 

 これには、さすがの謎のお姉さんも気付いていなかった。

 

 自認ではまあまあ気が利くと思っている謎のお姉さんの、まさしく悲劇的な不幸が重なったミスであった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………まあ、そんなわけで、だ。

 

 

 たった五日間とはいえ、人の出入りが爆発的に増大し、僅かばかりとはいえ気化し続けているガスが掻き混ぜられ続け。

 

 絶えず湧き起こるガスの総量は、人々の手で抜き取られる量よりはるかに少なく、それでいて、誰も中毒症状は出ず。

 

 さりとて、増え続けるガスが減るわけでもなく。

 

 そのうえ、ダンジョン外では……危険物であるガソリンや灯油やらを雑に扱う者が一定数いることにより、地面やら何やらにそれらが少量ずつ、中にはタンクを倒してこぼした者も居て。

 

 むしろ、全ての事情を知る者からしたら、五日間も事故が起きなかっただけマシでは……という感じの有様になっていたのであった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………ちなみに、だ。

 

 

 謎のお姉さんが新たに手掛けたこの『石油ダンジョン』だが、実は日本以外に108ヶ所設置されたのだが。

 

 日本の石油ダンジョンが爆発した、その時点で。

 

 日本を除いた107ヶ所のうち、59ヶ所で同様な流れで大炎上&大爆発を起こし。

 

 59ヶ所のうち、比較的都市部に近い場所にあった石油ダンジョンでは。

 

 出入り口から放たれた熱波と衝撃波……さしずめ、超強力&超巨大な空砲となってソレが、出入り口から直線状にあった全ての物体をなぎ倒し、粉砕し。

 

 とある国では直接的な死傷者が5000人を超え、余波で崩れ落ちたビルなどの下敷きになって死んだ者が10000人を超えたところもあったけど。

 

 

(……はて? そういえば、何個でしたっけ?)

 

 

 己がいくつ設置したのかを正確に数えていなかった謎のお姉さんは、すっかりそれらに関して記憶の外に追いやっていたのであった。

 

 

 

 




謎のお姉さんに悪気はありません
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