とんでもねえ大爆発が起こったとかで、連日『石油ダンジョン』のニュースが流れている。
なんでも、ダンジョン内で引火したらしい。
初めてそのニュースを見た時、あんな場所で火を使ったやつがおったんかって僕はドン引きしたね。
爆発の勢いは相当なモノだったらしく、また、爆発のエネルギーは、まるで口をすぼめたホースのように出入り口から噴き出したらしい。
当然ながら、ダンジョン内に居た人たちは即死。出入り口の周辺に居た人たちも大勢が火達磨になったり、爆発に巻き込まれて即死とか、大惨事だったのだとか。
詳しくは分からないけど、なんか専門家がテレビで話していた。
被害が円状に広がりはしなかったけど、出入り口から直線上にある建物とかがヤバいことになったのだとかで……映像では、もはや瓦礫の道だった。
そう、瓦礫。それが、かなり遠くまで続いている。
出入り口から遠ざかるにつれて外へと拡散しているような感じになっていて……アレだね、航空写真にメガホンを置いた……そんな感じの被害の広がり方かな。
出入り口に近いところは、下手したら瓦礫すらない微妙にえぐれた大地だけ。
瓦礫があるのは、ある程度離れた場所。
たぶん、爆発の威力によって粉みじんにならず、叩きつけられただけでまだ原形が残っている……その境界線から先に、瓦礫がたくさん残るのだろう。
おかげで、出入り口付近に居た人たち、住んでいた人たち、建物の中に居た人たちなどは、遺体すら一人も見つかっていないらしい。
これまた専門家曰く、『おそらく、瓦礫の中に押し潰されたままか、肉片になって飛び散ったのだろう』とのこと。
まあ、そうなるのも無理はないって惨状だった。
だって、マジで何も残っていないんだもの。それまで高いビルやら何やらで見えなかった彼方が見えているのだ。
遺体の一部だけでも確認が取れるだけ、まだ幸運な方だと誰かが呟いていたけど、それは本当だと思う。
だって、被害の範囲が大き過ぎるのだ。
直線上からは外れていても、高く飛んだ瓦礫の破片で怪我をした人は相当数いるらしいし、なんなら頭に当たって死亡してしまった人もいるらしいし。
怪我は負わなくても、破片や衝撃波で窓ガラスが割れたとか、瓦が割れて雨漏りしているとか、仕事先が物理的に無くなったとか……日が経つに連れて、尋常ではない被害が鮮明になっていった。
……ちなみに、だけど。
火元(?)である『石油ダンジョン』ではもう既に、火は完全に消えているらしい。
どうやら爆発こそとんでもない規模だったけど、それによってダンジョン内の酸素が一時的に燃焼され尽くしたことで完全鎮火したから、とのこと。
現在では酸素濃度も元の水準に戻ったらしく、人が出入りしても問題ない状態になっている……らしいのだけど。
当然というか、なんというか。
最初の賑わいが幻覚だったかのように、現在の『石油ダンジョン』は……閑散としているらしく、閉鎖されてもないのに、誰も近付かない状況になっているのだとか。
まあ、そりゃあ、そうだろう。
なにせ、何十年、何百年前の出来事ならばともかく、まだ瓦礫の撤去はおろか、死体の正確な数すら調べている途中の段階だ。
そのうえ、ダンジョン内には……既にダンジョン内に取り込まれて消滅している可能性が極めて高いけど、つい先日、大勢死んだばかり。
縁起が悪いとか、そんなレベルじゃない。
いくら図太い人だからって、つい先日大勢(誇張抜きで)が死んだ場所で働けと言われて平気な顔でいられるわけがない。
だがしかし、明日食うモノが無いと困る人は大勢居る。
なにせ、ただでさえ世界規模の石油ショックによって、失業者が右肩上がりになっていたところに、今回の大規模災害だ。
大怪我を負って働けない人だけでなく、職場そのものが消失してしまって失業してしまった人や、直接的な被害を受けてはいなくとも、間接的に失業するしかなくなった……なんて人は、大勢いる。
分かる人が見れば、以前に比べて明らかに……表にはあまり出せない仕事を始めている人が増えているとは、レイダと愛からも聞いている。
……あ、自分だけ名前呼びはなんか仲間外れみたいで嫌って言われて……話を戻そう。
その2人から、特定の場所には行かないように厳命(けっこう強めに)されているので、僕も詳しくは知らないけど……やはりというか、増えているらしい。
なにがって、違法売春とか、違法労働とか、そういう人たちが。
僕はとにかく行くなって強く言われているから行かないけど、年明けから一気に増えたらしくて、ズラーッと客待ちしている人たちの列が出来ているんだとか。
警察も、見て見ぬふりをしているんだって。
なんでかって、捕まえたところで刑務所がパンパンだから。もう、新たに刑務所を作らなければ誰も入れないぐらいらしい。
石油ショック以前の、『ステータス騒動』によって暴行事件(一部、殺傷事件)などが多発して、刑務所へ服役する人が爆増したから、なんだとか。
そんなわけだから、裁判所もとっくの昔にパンクしているらしく、もはやいちいち個々人の売春買春に手を伸ばす余力なんて無いようで。
警察も、日々世相が悪くなっている中で、そんなのに構っていられる状況ではない……てな感じで、実質的に無法地帯になっているとの……ん?
……なんで、2人がそんなに詳しいのかって?
それは、最悪自分がそこに立つかもしれないと覚悟していた愛からの情報が大部分。あとは、今はどうなっているのかと、レイダと愛が2人で様子を見に行った分……らしい。
なんとも、世も末と言えば良いのか。
国もさ……動いてはくれているらしいんだけど、規模があまりにもというか、世界規模だから、後手後手に回らざるを得ないって話らしくてさ。
実際、役所の方とかすごいよ。
さすがに野次馬みたいな事はしていないけど、テレビとかだとさ……もうね、長蛇の列。
右に左に列をぎっしり詰めて、それでも役所の前どころか、そのまま敷地に沿うようにして列が伸びていて、車道を挟んだ先まで続いているんだよね。
目的は……失業保険とか、急激な業績悪化に対する支援申請とか、その他諸々……とにかく、生活を支援してくれって感じ。
なんでも、ある程度の段階で受付打ち切り、定員○○名までの整理券を配って解散、はい翌日……てな流れらしくて、朝から晩まで並ぶしかないんだそうな。
持ち回りで交代しながら自分たちの番が来るのを待っていたり、人によってはオムツとか……ペットボトルに小便をして耐え凌ぎ、なんとか並んでいるらしい。
……身体の弱い老人や、女性を優先?
残念だけど、以前ならともかく、今はもうそんな綺麗事言っていられる場合じゃない人が多いから、誰もが見て見ぬ不利な状況であった。
……。
……。
…………そんな中で、だ。
僕たちは、どうしているかというと、いつものようにダンジョン……ではなく、今回僕たちが向かったのは、『石油ダンジョン』である。
どうしてかと言えば、それは石油が欲しいから。
もっと具体的に言うなれば、人助けみたいな話である。
なんでそんな事をしようと思ったのか。
それはひとえに、毎日流れてくる悲惨なニュースとは別に、謎のお姉さんが再び全世界に告知したからだ。
『──御機嫌よう、私です』
そう、あのお姉さんがそんな感じで告知をしたのだ。
その内容は、『石油ダンジョン』の成果(いわゆる、ドロップ)の変更で、持ち運びしやすい状態にした、とのことだ。
なにがどう持ち運びしやすくなったのかまでは教えてくれなかったけど、話を聞いた僕たちは、それならば……と、動いたわけである。
別に、正義感に目覚めたわけではない。
さすがに、僕が持つ『鍵&家』や『インベントリー』の事を公表するつもりも、社会奉仕とやらに勤しむつもりもない。
ただ、不幸になってざまあみろだなんて気持ちにもならないだけ。
どこか知らないところで幸せになってくれたらそれで良いわけで、わざわざ不幸を願うつもりも喜ぶつもりもない。
ましてや、幸いにも僕たちには余裕がある。
罪悪感ってわけじゃないけど、ちょっとぐらいは手を貸してやりたいよなって気持ちはあるわけで……レイダも愛も同じ気持ちだったのか、特に嫌がりはしなかった。
ちなみに、だ。
従来のダンジョンを選ばなかった理由は、食いつなぐために失業した人たちが押し寄せていて、冗談抜きで地下1階全体が鮨詰めみたいになっているから。
地下2階にも降りている人が居るらしいけど、今までまともにモンスターと戦った事がない人がどうなるか……まあ、ろくな事にはならないだろう。
下手したら、その人たちから邪魔をされる(自分が助かるために)可能性だってあるわけだし。
僕としても、そんな鮨詰めの中を進むのは嫌だし、因縁を付けられても嫌だし……それなら、復興のためにも石油がいるよねってことで、石油ダンジョンを選んだわけである。
「さ、さむっ……」
で、まあ、『このタイミングで呪いが発動したら……!!』ってな感じなのと、少しでも石油をということで。
ヒビ一つ入っていない石油ダンジョン出入り口の傍に用意された脱衣スペースという名のテントより、すっぽんぽんで外に出た僕は、堪らず身体を震わせた。
もう2月に入ったとはいえ、いや、2月だからこその冷気に、僕はぶるぶるっと身体を震わせ……そんな僕の背に、隣のテントから出てきたレイダと愛がヒィィっと悲鳴をあげた。
分かる、その気持ち。覚悟はしていたけど、実際に裸になると、寒さがめちゃくちゃ堪える。
だって、今日は特に冷えるとかで、昼間でも5℃、ちょっと日が暮れたら氷点下にまで下がるのだ。
びゅう、と風が吹けば、それだけで思わず身体を丸めてしまうぐらいに……え、恥ずかしくはないのかって?
そりゃあ、恥ずかしいに決まっているじゃん。
下手に隠すと余計に恥ずかしく思えてくるから隠さないだけで、恥ずかしいものは恥ずかしいよ。
レイダと愛だって、すごく恥ずかしがっている。
でも、2人とも『恥ずかしいって訴えれば、周りがなんとかしてくれる時代じゃなくなったから』って感じで、僕よりもよほど堂々としている。
その証拠に、テントからダンジョンまでの道なのだけど。
ある程度目隠しが設置されているとはいえ、そこまで厳密ではない。
見ようと思えば覗ける程度だし、こんな状況だというのに、なにやら通りすがりを装って覗こうとしている人が、僕の位置からでも確認できる。
「へ~、命がけで頑張ろうとしている若い娘を覗いて、シコシコ頑張ろうって人がこんな時にでもいるんだ!!」
「そこで覗いているお人、どんな顔をしているのでしょうか? よほど、性根の腐った顔をしているのでしょうね!!」
そんな中で、レイダと愛が、これみよがしに声を荒げれば……ビクッと、ほとんどの者が自分の行いを恥ずかしくみじめに思って離れてゆく。
中には、「は? ナメてんのか?」って感じで逆ギレして目隠しを蹴破ろうとする者が──居たのだけど。
その前に、先ほどの2人の声に気付いた他の人達が駆け寄ってきて──普通にリンチが始まった。
以前ならば警察が飛んでくるだろうけど、今は違う。
どんな人であろうと人権は……なんて綺麗事を維持できる状況ではなくなったのだ、誰も、彼も。
そして、リンチをする人たちからすれば、だ。
自分たちが怖がって動けないのに、石油ダンジョンに入ろうとしている若者たち……その裸を欲望のままに覗くばかりか、逆ギレして誤魔化そうとする始末。
やり場のない怒り、絶望へのはけ口、やつ当たりも多分に含んでいると言われたら、それまでだが……それでも、彼らなりの正義感を持ち合わせていた。
「……行こうか」
「そうね、早く済ませましょう」
「さ、さ、寒いっすよ~」
そして、それは僕たちも大して変わらなかった。
物語の主人公じゃあ、あるまいし……四方八方から蹴られまくって蹲っているソイツを横目に、僕たちは石油ダンジョンへと入ってゆくのであった。