切れば良いのだ、何事も!   作:葛城

3 / 57
第2話: 怒涛の一日な気がします

 

 

 

 ──御機嫌よう、失恋して……数時間ぐらい経っている、高校1年生16歳、小山内ハチでございます。

 

 

 謎のお姉さんから貰った斧、なんか念じるだけで消したり出現したり出来る、優れ物でした。

 

 これは、とてもありがたい。

 

 やっぱ刃物なんで、管理センターの外だと、許可証が無いと所持しちゃ駄目なんだよね……登録料も取られちゃうし。

 

 謎のお姉さん、色々と意味不明な人だけど、そういう気の利いたところがある御方なのは、とても良い事だと思いました。

 

 

「お疲れ様です。本日の清算金は1100円になります」

「ありがとうございます」

 

 

 本日の憂さ晴らし、1100円なり。

 

 時給換算にて、約550円なり。

 

 これを高いと見るか、安いと見るか。

 

 学歴不要で最低限の会話さえできたらやれる仕事のそれをどう判断するか、人によって迷うところだが……僕としては、割に合わないかも、である。

 

 なんでかって、この報酬……毎回定額で貰えるわけではないからだ。

 

 そう、ダンジョンは出来高制。一時間で10000円稼げる時もあれば、半日粘って200円とかも、珍しいけれども、起こらないわけじゃない。

 

 しかも、魔石やアイテムは持ち帰る必要があるわけで……当然ながら、量が増えると重いのだ。

 

 ちなみに、魔石の外見は、ガラスのように透明な殻みたいなので覆われているから区別しやすいが、重さは見た目相応にある。

 

 砂だってリュック一杯に詰めたら相応に重いのと同じく、魔石だって同じ……手提げ袋? 

 

 ハハッ、試したら? (経験則)。

 

 おまけに、怪我をしたって自己責任だし、人によってはここでレンタル費とかの徴収もされるから、普通にけっこうな赤字になる。

 

 いちおう、レンタル品の代金は国がある程度補てんしてくれるし、壊れても業務上仕方がない事として弁償する必要はない。

 

 けど、それだけ頑張ったということは、おおよそ身体を酷使しているわけだから……やっぱり、結果的にみたら赤字である。

 

 常に募集が掛かっているので、仕事にありつけないなんて事はないのだけど……やっぱり、稼ごうと思ったら命の危険が大きくなる地下2階から、という話になる。

 

 だから、『割に合わない』、というのが、僕の正直な感想である。

 

 実際、今日のところは静かだったけど、これまで何度かダンジョンから担架に乗せられた人(おそらく、死んでいる)を見たことがあるから、余計に。

 

 ちなみに、以前それをあの謎のお姉さんに話したことがあるけど、『なるほど、魔石やモンスターが増えた方がお得なわけですね』といった感じの斜め上な返答をされた。

 

 なんでそうなったのと尋ねたら、『向こうからやってきた方が、探す手間が省けて楽でしょう?』とも言われた。

 

 いや、そりゃあ、モンスターからでも魔石は取れるけどさぁ。

 

 あのお姉さん、顔は美形でおっぱい丸見えで眼福なところはあるけど、考え方がなんかズレているせいか、時々怖く感じるんだよね。

 

 でもまあ、極悪人かと問われたら、悪気がないだけで根は善人寄りじゃないかなってのが、今のところの僕の判断。

 

 この前、お腹空いたなって思っていたら、なんかクロワッサンくれたし……どこからともなく出して来たという点に触れなければ、優しい人……人か? 

 

 冷静に考えると、あのお姉さんもモンスターの類なのだろうか? 

 

 僕以外には見えていないっぽいから、下手に誰かに相談すると僕の頭の方を先に心配されてしまうから、迂闊に誰かに話せないんだよね。

 

 まあ、今日のように、突然プレゼントをくれる時もあるから……なんだかんだ言いつつも、僕はダンジョンで見掛けるたび、声を掛けるようにしているのである。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………さて、そんなこんなで時刻はもう夕方だ。

 

 

 更衣室内に併設されているシャワールームにて汗を流した僕は、1100円をポケットに入れて、飲食チェーン店へと向かう。

 

 ちなみに、このシャワールーム……身体をギュッと折りたためない入りきれないぐらい狭くて小さいけど、浴槽が使えるから気に入っている。

 

 面倒だけど、ちゃんと湯船に肩まで使ってちゃんと温もる。

 

 これは実際に体感しないと分からないけど、シャワーって表面的な汚れが落ちるだけで、それだけだとけっこう体臭が残るんだよね。

 

 脂と一緒で、人体の皮脂というやつも、温めた方が落ちやすいのだ。

 

 もちろん、全身まんべんなくシャワーを当てたら皮脂もある程度は落ちるけど、入浴した方が手っ取り早いし、疲れた身体には湯船に肩まで浸かるに限る。

 

 おまけに、なんともあり難い話だが、使用料はタダだ。ほんと、入浴できるってのはありがたい贅沢である。

 

 ちなみに、レンタル品のジャージなどは血による汚れさえなければOKなので、洗濯の手間が掛からない点でも、実に在り難いサービスである。

 

 さて、そうして身綺麗になった僕は、学生服に着替えて管理センターを後にする。

 

 基本的に、僕の晩御飯などは用意されていない。色々あって僕は家族とほぼ絶縁状態にあり、会話もほとんど無い。

 

 あくまでも、世間体のために寝る場所だけ用意させてもらっている……という立場なのが僕である。

 

 実際、家に僕の居場所は無い。誇張じゃなくてね、庭の物置の中が僕の寝場所。私物も全部そこで、食事なんて用意されない。

 

 いやぁ、デキの良い兄妹に挟まれるのは辛いねえ。

 

 昔はそうでもなかったけど、兄妹がマジで器量その他諸々が良いってのが分かってから、そりゃあもう露骨&露骨。

 

 暴力こそ無いけど、もうあからさまに優劣付けられた。僕だけお菓子&ジュース&玩具無しとか普通だった。

 

 誕生日のお祝いなんて、小学生低学年の時が最後じゃないかな。

 

 僕は参加させて貰えなかった、兄妹たちの見事なホールケーキに比べて、あの8分の1カット(しかも、割引品)のミジメな気持ちと来たら、涙無しでは語れんよ。

 

 血の繋がりなんて、有っても無くても意味を持たない事はあるというのを幼くして思い知った、僕である。

 

 まあ、今さら頭下げられて仲直りしましょうとかされても気持ち悪いから、高校卒業して成人したら絶縁かな……といった感じだ。

 

 というか、それ以前に謝罪なんて絶対にされないだろうなあ……というのが、正直な感想。

 

 だって、中学の時から事あるごとに『高校を卒業したら出て行け』って言われているし……あの家の人達からしたら、僕が敷地内に居ることすら我慢しているって感じだし。

 

 

 ……う~む、なんとか卒業まで我慢してほしいものだ。

 

 16歳でやれるバイトって、基本的にその先が無いんだよね。

 

 

 せめて、僕に背丈とかあったら別なんだけど、僕の場合は見た目からして……何度か落とされた結果、ダンジョンに潜ることを決めたわけだし。

 

 ダンジョンなら、自分の命をベットするだけだから、そういった点はめちゃ楽なんだけど。

 

 将来的に伸びるかどうかは別として、ある程度はまとまった預金を確保してから追い出されたいなあ……と思う、僕である。

 

 

(斧も手に入ったし、偵察がてら地下2階に行ってみるか……)

 

 

 正直、不安はあるけど……土壇場になってから行くより、経験しておいた方が良いだろう。

 

 そう最終的な決断を下した僕は、英気を養うために帰り道の途中にあるチェーン店へと……入る直前、見知った人物を見かけて足を止めた。

 

 

「──、ハチくん?」

 

 

 向こうも僕に気付いたのか、足を止めた。

 

 なんでここに居るのかと思ったが、なんてことはない。

 

 そういえば、近くにスーパーがあるんだなと思い出したと同時に、その人……幼馴染の母親である、美弥《みや》さんが歩み寄って来た。

 

 美弥さんは、島田さんに似て……という言い回しは逆だが、とにかく、歳を取ったらこんな感じになるだろうなあ、という風貌をしている。

 

 具体的には、美人な人。

 

 オバサンとか言うと不機嫌になるし、島田さんと同じ苗字なので紛らわしく、名前で呼ぶよう言われている。

 

 

「いったい、どうしてここに居るの? 彩音はどうしたの?」

「はい?」

 

 

 突然の質問に、僕は首を傾げる。美弥さんも、不思議そうに首を傾げ……説明したおかげで、疑問が解消した。

 

 原因は、幼馴染の島田さんだ。

 

 どうやらアイツ、僕とお出かけするって名目で外出していたらしい。その僕が、こんなスーパーの近くを1人で居るから、不思議に思ったのだとか。

 

 

 ……アイツ、なんでそんな変な言い訳をしたのだろうか? 

 

 

 意味が分からなかった僕だが……少しばかり美弥さんと話をして、すぐに答えは出た。

 

 難しく考える必要はない。ただ、浮気を誤魔化すための嘘なだけ。

 

 今さらな話だが、僕と島田家は幼馴染な関係から、ちょろっと付き合いがある。その流れで、美弥さんは僕と島田さんが彼氏彼女の関係であると思っていたようだ。

 

 まあ、美弥さんからしたら、だ。

 

 特に喧嘩別れした感じでもなく、昔の事とはいえ告白したのは島田さんからだし、けっこうな頻度で一緒に行動したりしていたから、お付き合いは変わらず継続中……と考えるのは当然である。

 

 

「ああ、アイツは恋人と一緒っすよ。たぶん、バレるのが恥ずかしくて僕をダシにしたんじゃないっすかね」

「はっ?」

「正直、胸糞悪いっすけど……まあ、若気の至りってやつっすね」

「え、いや、待って、ダシって……え? え? え? 恋人って、ハチくんの事じゃないの???」

 

 

 心底不思議そうに……なんだろう、擬音で表せばマジで『????』みたいな感じになっている美弥さんに、僕はキッパリ告げた。

 

 

「違いますよ。アイツ、普通に先輩とお突き合いしていますから」

「待って、ちょっと待って、お付き合いって、どういうこと?」

「疑うなら、証拠を見ますか? あんまり人の往来がある場所で見るもんじゃないっすけど……」

「……分かった、分かったわ。ええ、そうなの、彩音が……」

 

 

 スッと懐よりスマホを取り出せば、それでようやく納得してくれたようで……深々とため息を吐いた。

 

 はたして、その内心はどんな気持ちが渦巻いているのか。

 

 少しばかり気にはなったけど、もう無関係な他人だ。島田さんとの付き合いが途切れる以上は、この人ともお別れみたいなものである。

 

 

「それじゃあ、島田さん。アイツが今後なんか僕をダシにして誤魔化しても、僕はマジで無関係ってことを忘れないでくださいよ」

 

 

 ──それじゃあ、御達者で。

 

 そう言い残してその場を離れようとした僕……の、肩に手を置かれた。

 

 振り返れば、なんだろう……どうにも表現し辛そうな表情の美弥さんが、困ったように視線をさ迷わせ……その瞳が、僕へと向いた。

 

 

「なんですか?」

「あの、その、どうして急に苗字で……?」

 

 

 素直に聞けば、島田さんはそう尋ねてきたので……僕も、素直に答えた。

 

 

「だって、アイツと関係性が薄れたら、もう島田さんとは名前で呼び合う間柄じゃなくなるじゃないっすか」

「そんな事……!!」

「それに、島田さん。僕のこと、そんなに好きじゃないでしょ?」

「──っ」

「え、なんでそんなにビックリした顔を?」

 

 

 一瞬ばかり、島田さんの手が震えた……ソレも感じ取った僕は、もしやと首を傾げた。

 

 まさか……気付かれていないと思っていたのだろうか? 

 

 僕は、ちゃんと覚えているのだ。

 

 小学生の時はまだしも、中学生になった頃から……幾度となく、当人は隠したつもりでも見え隠れしていた……向けられる視線の中身。

 

 

『──この子で、本当に良いの?』という、見下しの視線。

 

『──他に、もっと良い子がいるでしょ?』という、蔑みの視線。

 

 

 当人にはその自覚は無くても、向けられる側って気付くものなのよね。そういう視線を向ける時の視線って、言葉を失くすぐらい冷たいから。

 

 それでもまあ、アイツが僕の事を好きだって言ってくれたし、そこまで好いてくれる相手だから、僕も好きになるわけで。

 

 その前提が崩れた以上、今に至るまでず~っとうっすら嫌っている人に好かれようと思う程、僕はお人よしでも心深くもなかった。

 

 

「用が無いなら、もう行っていいっすか?」

「え、あ、うん……ごめんなさい」

「それ、何に対する謝罪なんですか?」

「…………」

 

 

 ちょっと意地悪な質問かなと思ったが、居心地悪そうに黙ってしまったので……僕は優しく手を振り払うと、今度こそ空きっ腹を静めるために向かうのであった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………さて、妙に長く感じた一日も終わり、後は物置小屋でお休みだぁ……と、考えていたわけなのだけど。

 

 

「──ハチ、こっちに来なさい」

 

 

 珍しく……いや、もう、本当に珍しく、なんか父が物置小屋に向かうまでに声を掛けて来たので、正直驚いた。

 

 いや、だって、アレだぞ。

 

 僕がここに戻る時間帯なんてその日によってバラバラだから、待ち構えていないとまず顔を合わさないんだぞ。

 

 正直、声を掛けられた瞬間、僕は思ったね。

 

『あれ、この人誰だっけ?』って。

 

 で、まあ、少しして思い出したので、なんか他人の家に入るみたいでドキドキするなあ……てな感覚でいたら、だよ。

 

 なんか、みんなリビングで勢揃いしていた。はて、こいつらってこんな顔だったっけ、とも思った。

 

 それはそれとして、僕って毒殺でもされるんかと思って余計にドキドキしていると、なんか父がね……こう宣言したんだよ。

 

 

「お前も、もう16歳だな」

「ウッス、そうっすね」

「ダンジョンにも1人で入っているそうだな」

「ウッス、そうっすね」

「……つまり、ある意味ではもう、お前は大人なわけだ」

「ウッス、そうっすね」

 

 

 ──ん??? 

 

 

「これから、物置小屋の利用料として家賃を徴収する」

「うぉあえ!?」

 

 

 それは、寝耳に水……いや、相当に悪い展開であった。

 

 なにせ、ただでさえ、現金収入が少ないのだ。ここで家賃を請求されたら、文字通り餓死してしまう! 

 

 

「──それが嫌ならば、これからは2階の──」

「長らく大変お世話になりました! 僕の事はとおい昔に死んだ親不孝者とでも思っておいてください!!!」

 

 

 こんなところで死んでたまるか!! 

 

 そう思うと同時に、僕は全速力で逃走する。なんか背後から声を掛けられたような気がしたが、無視して裸足のまま全力で物置小屋へ──ひとまとめにしてある荷物を抱え、塀を一息で飛び越える。

 

 ……荷物? 

 

 そんなの、ある日突然追い出されてもいいように、ダンボールに入れてまとめてあるのだ。

 

 ……塀をジャンプで? 

 

 伊達に、ダンジョンで頑張っているわけではない。

 

 火事場の馬鹿力よろしく、渾身の力を込めて道路へと飛び出した僕は……全速力で、ダンジョン管理センターへと向かうのであった。

 

 ……なんでかって? 

 

 あそこなら、大災害を恐れて基本的には無理強いアンタッチャブル、避難所としてはもってこいだからである! 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。