切れば良いのだ、何事も!   作:葛城

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第25話: 寒いを通り越して痛いぐらい

 

 

 

 

 僕たちは白い息を吐きながら、石油ダンジョンの中を小走りで進む。

 

 

 事前に聞いていたとおり、石油ダンジョンは従来のダンジョンよりも浅い構造になっているのか、本当に分かりやすい一本道だ。

 

 そのうえ、出現するモンスターも、ぶっちゃけ自殺しようとしない限りはまず殺されないぐらい、弱くて遅い。

 

 だって、勝手に死ぬし。

 

 なので、僕たちは想像していたよりもずっとあっさり、奥へと行けた。奥の方が、手前よりも大量の石油が手に入るって話を聞いていたからだ。

 

 ただ、確証はそこまでない。

 

 ここに人が来ていたのはせいぜい数日で、さすがにそこまでの調査はおろか、行けた人すら居なかったからだ。

 

 

 まあ、当たり前だろう。

 

 帰りの時は、石油を持ち帰るのだ。

 

 

 奥の方に行けばトン単位で手に入るぞって分かっていても、人一人が持ち出せる量なんて高が知れている。

 

 そんなリスクを覚悟したり労力を掛けたりしなくとも、手前の方でポリタンクの一つや二つを運び出せば、それで十分利益が出ていた。

 

 おまけに、『石油ダンジョン』と呼ばれているだけあって、石油関連のモノ(具体的には、燃料)がそこかしこに出てくる。

 

 

 ……じゃあ、僕たちもそうした方が良いんじゃないかって? 

 

 

 するどいね、僕も最初はそう思ったのだけど……ふと、思ったんだよね。

 

 出入り口付近でもそれだけ手に入るぐらい、ここまで丁寧に難易度を下げてくれたダンジョン……その奥なら、どれぐらい手に入るのかなって。

 

 これは、別に好奇心だけの問題じゃないんだ。

 

 というのも、今は冬だ。

 

 当然ながら、昼間でも気温が一桁なところがほとんどで、夜になれば氷点下に差し掛かる都道府県だってけっこうある。

 

 

 これまで、そんな冬の暮らしを支えていたのは、『石油』だ。

 

 

 でも、その石油が今は無い。

 

 足りていないなんて話じゃなくて、そもそも、暖房に回す余裕がまったくないわけ。

 

 それってつまり、電気だって足りなくなるわけで……石油ショックの日から一度も暖房機を付けていないってのが大多数なの。

 

 ぶっちゃけるとね、凍死……ってほどにまでは行かなくても、既に重篤な状況に陥っている人が出てきているわけよ。

 

 既に、病院とかでも搬送するための車が動かせずそのまま死亡ってニュースが毎日のように流れている。

 

 石油とか使っていなかった時代とは違って、今って焚き火とか街中では出来ないらしいんだよ。

 

 

 なんでかって、現代は住宅が密集し過ぎているせいで、火を焚いて良い場所が少ないらしいんだよね。

 

 

 この『火』ってのは、安全に使用できるガスコンロとかじゃないよ、薪をくべて着火するファイア的なやつ。

 

 現代人って、ファイア的なやつの使い方というか、知識が無い人が大多数らしく。

 

 そんな中で各自が自由に『火』を使い始めたら、一ヶ月と経たずあらゆる場所で火災が発生するだろう……ってね。

 

 当然だけど、石油が足りていない現在で火災なんて起きたら、消化活動なんて出来ない。

 

 

 だって、ガソリンが無いんだもの。

 

 

 火災はシャレにならんって感じで特別に燃料がストックされているらしいけど、限度があるわけで。

 

 だから、誰も彼もが四六時中厚着をして……てな暮らしを余儀なくされているんだけど……やっぱりさ、耐えられない人ってのが出てくるわけよ。

 

 それも1000人、2000人って単位で、増えはするけど減りはしない……死んだら減るけど、右肩上がりが続いているわけで。

 

 そんな中でさ、チマチマちまちまと僕たち3人(あと、ゴーレム)が頑張ったところで、高が知れているわけ。

 

 だから、奥に行ってみようってなったわけ。

 

 従来のダンジョンだって、下層に降りれば降りるほど、手に入るモノが質が良くなっていたわけで……石油ダンジョンは違うってのは、分からないじゃん? 

 

 何も変わらなかったら変わらなかったで、チマチマやるのは変わらないわけだし……とまあ、そんな感じで、だよ。

 

 

「さぶぶぶぶ……」

「さむむむむ……」

「さびびびび……」

 

 

 僕たち3人の素っ裸共は、全身を震わせながら……転んだりしないよう気を付けつつ、我慢が続く限り頑張っていた。

 

 本当に、寒い……事前に話を聞いてはいたけど、話のとおりに、石油ダンジョンの中はとにかく寒かった。

 

 無風なので体感的にはマシなのだろうけど、それでも常にマイナス10℃前後の中を裸で進むのは、相当に堪える。

 

 実際、僕だけじゃない。

 

 僕よりもひ弱な愛は、そりゃあもう目に見えて寒さに震えている。

 

 女性の方が脂肪の割合が多い分寒さに強いって話を前にどこかで耳にしたけど、マイナス10℃の世界では、大した意味にはならないようだ。

 

 ぶるぶる、プルルン、ぶるぶる、プルルン、と。

 

 総身を震わせるたび、レイダよりも一回りも二回りも大きく見える(というか、普通にデカい)胸が少し遅れて震えるのが、よく分かる。

 

 いや、愛が極端に大きいだけで、レイダも大概に揺れて震えている。

 

 僕たちの中で一番身体が頑丈だとしても、寒さとかはまた別なのだろう。

 

 必死に身体を丸めるようにして腕を摩っているけど、ブルブルと総身を震わせるレイダの肌にもびっしりと鳥肌が立っているのが見える。

 

 

 ……ていうか、レイダってば股は隠さないのだろうか。

 

 

 寒さでそれどころじゃないのかもしれないけど、僕のとは違う形、陰毛だって普通に見える。

 

 まあ、それは愛も同じで、こちらも恥ずかしさとか気にしている場合じゃねえって感じで、ブルブルと全身を震わせていた。

 

 愛もまた、レイダと同じくちゃんと股に陰毛が生えている。

 

 ただ、ちょっとばかりレイダよりは色合いが濃いように見える。

 

 ここが石油ダンジョンでなかったら、悲鳴の一つでもあげて隠しちゃうのだろうけど、構っている場合じゃないって感じなのか。

 

 

 ……あ、僕はどうなのかって? 

 

 

 ぶっちゃけると、寒すぎてそんな気分にまったくならない。

 

 いや、強がっているとかそんなんじゃなくて、本当に寒すぎてちん○が立たない。見なくても、縮こまっているのが分かった。

 

 知らなかったよ……マジで寒い場所だと、女の人の裸を見てもピクリとも反応しないだってことが。

 

 僕だって男だからさ、やっぱ見るとドキドキするし、反応だってするわけだけど。

 

 今だけはさあ……いや、それより服をくれって感じなんだよね。

 

 もうね、身体がね、そんなところに体温を回せられる状況じゃねえって訴えているのが骨身にしみるぐらいに理解したよ。

 

 まあ、それはそれとして。

 

 僕の身体にはないからもあるけど、おっぱいってそんな揺れるものなんだなあ……って、思いながら眺めていると。

 

 

「──っう、だっ、あっ!?」

 

 

 なんか急にビクッと身体を震わせて、叫んだ。

 

 いったい急にどうした……そんな思いで見つめると、僕の視線に気付いた愛は、ぶるぶるプルルン……唇を震わせながら、ポツリと呟いた。

 

 

「おっぱいが……」

「ん?」

「冷えたおっぱいが、下乳の部分が変に肌に触れて、思わずびくつきました」

「え、おっぱいって冷えるの?」

 

 

 血管とか通っているから温かいんじゃないの……ってな思いが視線に混じったのだろう。

 

 

「おっぱいって大部分が脂肪なんだよ……汗を掻いたり裸でいたりすると、普通に冷たくなるんだよ」

「へ~、そうなんだ」

 

 

 言われて、そりゃあそうだと僕は納得した。

 

 ジュゴンのようなあまりにも分厚い表皮に覆われていたりとか、ホッキョクグマのような体毛に覆われていたりとか。

 

 そんな構造をしていない人間の身体なんて、服を着ていなかったらそこまで違いは──うひぃ、冷たっ!? 

 

 急に冷たいのがピタッと肌に触れて、僕は思わず背筋を震わせた。

 

 振り返れば、ブルブルと震えていたレイダが僕へと抱き着いていた。

 

 ギュッと、柔らかくも冷たくてスベスベとした肌やらおっぱいやら、あとなんか背中のあたりに毛のモジャッとした感触やら太ももの感触やらが……いや、冷たっ!? 

 

 本当に、冷たい。

 

 肌の表面が冷えているから、触れ合っただけだと普通に冷たい。

 

 しばらくギュッと抱き締め合っていたら、違うのかもしれないけど……いや、そんな事よりも、だ。

 

 

「さささささ、さむむむ……」

 

 

 ガチガチガチ、そんな感じで歯まで鳴らし始めたレイダを見て、こりゃあアカンと思った──瞬間、反対側から「冷たっ!?」もギュッと抱き締められた。

 

 

「さささささ、さびびび……」

 

 

 抱き締めて来たのは、愛である。

 

 愛も限界なようで、唇が青くなり始めている。

 

 レイダよりも脂肪が多いせいなのか、冷たさもスゴイ。

 

 柔らかいけど、前に触れた時よりなんか感触が固い……あと、少しでも暖を取りたいのか、愛もまた僕の身体を足で挟もうとしてくる。

 

 なんてこった、寒すぎて嬉しさも喜びも感じない。

 

 しょりしょりと二人の陰毛が僕に擦りつけられ、肌とは違うナニカが触れているけど、寒すぎて気にならない。

 

 

「──て、撤退!」

 

 

 いよいよ限界だと判断した僕は、すぐさま『鍵』にて扉を生み出して……『家』へと避難したのであった。

 

 

 

 

 

 

 ──そうして、身体を温めては石油ダンジョンへと戻り……我慢の限界が続くまで進み、また『鍵&家』にて休憩するという手法を取った。

 

 

 身体を温める方法は、言うまでもなく風呂である。

 

 熱い湯なんて入ったら身体がもたないから、ぬるま湯で。

 

 もちろん、命が掛かっているのにレディファーストもくそもないから、僕たち3人全員で入る。

 

 さすがに3人も同時に浴槽には入れないから、1人はシャワーだけど……それでも、身体を伝って流れるお湯が冷たくなるぐらいだから、身体は温まってくれるのだけど。

 

 これもまあ命が掛かっていたからさあ……ぷにぷに触れ合うけど、とにかく身体を温めたい気持ちばかりでさ。

 

 そうして交代しながら僕たち3人は身体を温め……それから水分を取って、協力して全身に『保湿剤』を塗り合う。

 

 

 ……ちなみに、この『保湿剤』。

 

 

 謎のお姉さんがくれた特注品なんだよね。

 

 なんか50kgぐらいあるボトルで渡された。

 

 これを塗ると、しもやけとかの症状が出ないんだとか。

 

 よく分からんけど、凍傷ってやつにならないらしいから、風呂から出た時は毎回塗れって言われた。

 

 正直、何が狙いなんだろううって思ったけれども。

 

 なんか、『見向きもされなくなるのは……』ってな感じらしくて、タダで良いって言われた。

 

 それなら外に石油を山のように用意したら良いじゃんって言ったら、『それをやると最終的に100%堕落するから』、だって。

 

 だから、まあ、美容とか、そういうのじゃない。とにかく保湿した方がより安全ってことで、ぬりぬりぬり、である。

 

 これまたおざなりだと本当に凍傷になりかねないから、僕たち全員がこの時も恥ずかしさは二の次で本気でぬりぬりぬり、だ。

 

 具体的には、全身余すところなくタップリ塗る。

 

 耳にも塗るし、顔にも塗るし、手が届く範囲は全部塗る。手が届かないところは、レイダと愛に協力してもらう。

 

 当然ながら、金玉の裏だって、棒を持ち上げて隙間にもしっかり塗る。さすがに、ここは自分で塗る。

 

 レイダや愛も、おざなりにして凍傷になるのは本気で嫌ってことで、お互いがお互いに……あと、万が一塗り忘れがあったらってことで、僕もちゃんと注意してみておく。

 

 ……正直、股の間もしっかりぬりぬりぬりしているのを見るのは、気まずさが半端無かったけど……まあ、そんな感じで、僕たちは先へと向かったのである。

 

 いやあ……それにしても、思っていたよりもずっとヤバかった、マイナス10℃の世界ってやつを。

 

 念には念をってやつで靴も履かず裸足でいるから、余計に辛い。冗談抜きで、足先が痛み以外何も感じなくなったし。

 

 

 ……センターの人から『絶対に石油ダンジョン内で身体を濡らしては駄目』って強く言われた理由が、よく分かったよ。

 

 

 あんな環境で身体を濡らしたら、マジで死ぬ。

 

 そういうのを予感させてしまう寒さだ。

 

 生まれた時から氷点下が日常みたいな場所で生きてきたならともかく、日本人には辛いよ、この環境。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………そうして、だ。

 

 

 何度も何度も身体を温めては身体を冷やして……ようやく石油ダンジョンの、最奥へと思われる地点に到着した僕たちを出迎えたのは、だ。

 

 

『──よくキタ! ここは石油ダンジョンの最奥、『サイオク・オタカラ・タップリ・スポット』だ!』

 

 

 なんか、総合センターとかでよく見かけるロボット……の、色違いというか、微妙に造詣が異なるロボットが居た。

 

 

『──ここでは、ボールを渡そう! 事故は起こらない!』

 

『ボールにはタップリ、燃料タップリ』

 

『キログラムなのよ』

 

『最低万トンから、トテモ、安全、安心、ハヤイ!』

 

『前より運びヤスイ! 芸者も滝ノボル、これハイクだよ!』

 

 

 なんか癖のある片言な言葉と共に、そのロボットは……僕たちの前に、なんか何十本もの棒が入った箱を差し出した。

 

 一本、フィッシング! 

 

 そう力強く言われた僕たちは……とにかく寒くて堪らないので、僕が代表して一本抜いて……その先は丸い板になっていて、赤字で『20』の文字が書かれていた。

 

 

『──ガンバルネ・キョウモアシタモ・セキガハラ』

 

 

 それを見たロボットは、なんかいきなり変な事を言い出したぞ……と思ったら、胸の辺りがパカッと開いて、中から黒いボールが出てきた。

 

 それを僕たちの前に置けば、ボールは瞬く間に巨大化すると……あっという間に、おおよそ直径が4m強にまで大きくなった。

 

 

『ズルは駄目! 押して外に出すまで、オカワリは駄目!』

 

 

 それから、それだけを告げると……ロボットは沈黙し、何も言わなくなった。

 

 後に残されたのは、巨大な黒い球体と、それを前に途方にくれる僕たち。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………え? 

 

 

「これ、まさか転がして行けってこと?」

 

 

 嫌な予感を覚えた僕は、この球体を『インベントリー』に入れたようとして……『あ、これ無理だ』みたいな抵抗感を覚えた瞬間。

 

 

「……ぶえっくしょん!!」

 

 

 愛のどでかいクシャミが、これが夢ではないことを僕に教えてくれたのであった。

 

 

 

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