苦手な方は注意
──ダンジョンが空いていてガラガラ……ってほどじゃないけど、以前より空いているのは確かだ。
なにせ、『総合センター』のロボットから。
『──とても人が少ない! 減っている! 今こそ古の言葉、三本の矢は一本の矢よりスゴクツヨイ・ヤリ! で行くノヨ!!!』
とかいう、言わんとする事はなんとなく察せられるけど、冷静に考えると意味不明な事を話していたぐらいで、実際に人が少なかった。
なんでも、今はとにかく目先の食糧ということで、例の三つのダンジョン……合わせて『食糧ダンジョン』に人々が向かっているみたい。
まあ、そうなるのも致し方ない。
国は最優先に食糧生産関連の保護決定をしたとかで、とりあえず、食料ダンジョンによって、一次産業に従事する人たちが壊滅するだなんて事態にはならないだろうが……それはそれとして、こちらに回って来ていないのは事実だ。
そりゃあ、肉でも野菜でも穀物でも、成長するのはどうしても時間が必要となるし、天候にも左右される。
その点を考えたら、食料ダンジョンの存在は、これまで人類が抱えていた食糧問題を解決するぐらい……だけど。
さすがに、本当にダンジョンに全て任せて食糧生産を蔑ろにしちゃった後で、食料ダンジョンが無くなったら……なので、最低でも現在の自給率は維持しようということになったわけだ。
……あ、ちなみに。
曰く、『そのうち腹が満たされたらまた人が来る、腹さえ満たせば、人は自ら立ち上がれる力を持っている』、とのことで、そのうちダンジョンにも人が……ん?
誰が言ったのかって?
そんなの、ロボットに決まっているじゃん。
あいつら、時々というか、なんか良い事言ったなってキメる時は、中々なイケメンボイスを使うからさ。
だったら最初から最後までそれで行けよって思ったけど、それをすると負荷が掛かり過ぎて壊れてしまうんだそうな。
なんでイケメンボイス出しただけで壊れるねんって思わず使い慣れない関西弁でツッコミを入れたけど……まあ、とにかく、そんなわけだから、従来のダンジョンはとても空いていた。
おかげで、周りに気を使うこともなく、僕たち3人は悠々とダンジョン奥へと向かおうと思ったわけ……ん?
──もう生活に困っていないから、そんなリスクを背負う必要はないんじゃないかって?
いや、それが、僕ってば借金があるからさ。
謎のお姉さんは利子も付けず待ってくれるらしいけど、借金があるってのは、中々に嫌な気持ちになるわけでね。
僕が勝手にこさえた借金だから僕が返すつもりでいたわけだけど、レイダも愛も『私も利用しているわけで、関係ないわけじゃない』ってことで、協力してくれる……ってわけ。
食糧ダンジョンのおかげで食材関係が以前のように高く売れなくなるのは明白だし、石油関係は……売れはするけど、一回往復するたび目に見えて2人の顔色が悪くなってしまうし。
あと……けっこう前に謎のお姉さんが言っていた、ダンジョン内のモンスターを放置し続けるのは駄目ってやつ?
実際にどうなるかは、その時にならないと分からないけど……仮に地上にモンスターが溢れたら、マジでこの世の地獄みたいな光景になりそうなのが、さ。
まあ、それ以前に、食料ダンジョンのやつよりも、やっぱり地下5階とかより下で手に入るモンスターの方が美味しいから……ってのもあるし。
他には……僕はあまり実感出来ていないけど、どうもモンスターから手に入る食材って、普通の食材とは違うらしいんだよね。
なんかね、元気になるっていうか、健康になるらしいんだ。
僕とレイダはとにかく痩せ細っていた状態でのスタートだったから気付けなかったのかもしれないけど、愛は違うので、3日ぐらい食べ続けたらとても実感出来たんだって。
なんでも、ニキビが消えたんだって。
他には毛穴とかも綺麗になったとか、爪の水虫が良くなったとか、乾燥肌が改善したとか……とにかく、ただ美味しいだけではないらしい。
言われてみたら、確かに快便続き……以前は、2,3日便秘になるぐらい普通だったのに……さて、下の話はそこそこに、話を戻すね。
そんなわけで、僕たちはいつものようにダンジョンに降りたわけ。そこまでは、いつもと同じ。
「……なにこれ、エレベーター?」
でも、この日、僕たちは前回まで無かった設備を見付けてしまい、困惑するしかなかった。
具体的にというか、その見た目は完全にエレベーターのそれである。
場所は、ダンジョンの地下1階。階段を下りてすぐ横の壁側に、そのエレベーターはあった。
ボタンも設置されていて、インジケーターには『地下1』、『地下6』、『地下11』……と停まる階がランプで表示されるようになっており、現在は『地下1階』にランプが点灯していた。
当然ながら、ダンジョンにそのような設備があるだなんて聞いた事はない。
ボタンを押せば、ガコン……と音がする共に扉が開かれ、中も特に真新しさのないエレベーター。
内部の壁にはモニターも付いていて、現在は外の気温やニュースが放送されていた……え、いや、マジでなにコレ?
『──また会いましたね、少年。今日は画面の向こうからの、私です』
「あ、謎のお姉さんか……」
色々あった疑問は、モニターに映し出された謎のお姉さんの登場によって氷解した。
とりあえず、このエレベーターはなんなのかと言うと、要はショートカットを新たに作ったとのこと。
何時まで経っても下層に降りるのに時間を掛けているので、もう仕方がないからショートカットを用意しましょう……と、決めたそうな。
なんでも、つい2分ほど前に設置したとかで、僕たちが日本での発見者第一号なんだとか。
言われてみたら、たしかにエレベーターは場所こそ階段を下りてすぐの地点だけど、明かりも目印も無いし、そちらに視線を向けていなかったら気付けない。
だったら、なんでそんな場所に作ったんだよって話になるけど……まあ、考えても意味はないので、話を戻そう。
このエレベーターは、基本的に『1』、『5』、『10』、『15』といった感じで5階層ごとに降りることができる。
自力で降りた階(5の倍数)か、あるいは実質的にそれより下の階まで下りても大丈夫な人に限り、このエレベーターを利用出来るようになっている、とのことだ。
つまり、僕たちは地下5階まで下りているので、地下5階の乗り場まで使える。また、地下10階でも大丈夫だと判断されたら、地下10階で降りることも可能……というわけで。
「……うん? なんか『10』のマークに薄くランプが点灯しているけど?」
『──それでしたら、地下10階まで降りられます。どうですか、度胸試しで降りてみますか?』
言われて、僕は……2人へと振り返った。
レイダと愛は、『すぐに引き返せるようなら……』ってことで、興味はあるみたいだ。
「地下10階に降りて、1歩も出ないまま上の階に戻ることはできるの?」
『──問題ありませんよ。このエレベーター自体はぜったいに壊れませんし、扉が閉まらないよう妨害されることもありません』
「……それじゃあ、中から覗くだけってのもOK?」
『──問題ありません』
そう言われた僕たちは、一目見てから決めよう……と判断し、地下10階行きへのボタンを押したのであった。
……。
……。
…………チーン、と。
なんだか気の抜けてしまう、到着を知らせるチャイムと共に僕たちを出迎えた地下10階の景色は……一言でいえば、『夜』だった。
そう、夜だ。地下10階は、なんとそれまでと違って、夜の景色が広がっている。
いや、まあ、冷静に考えたら当たり前の話なのだけど、洞窟ではなくダンジョンは地下なのに昼間のように明るい景色が当たり前なので、逆に面食らってしまう人が多いのだ。
そして、地下10階では、なんと星空が確認できる。
地下だというのに夜空には星々が光り輝いていて、天の川のようなものまで確認できた。
僕はけっこう暇潰しがてら管理センターで見る事ができるダンジョンに関する報告を見ていたので想像出来ていたが、実際の光景は想像よりもずっと真っ暗だった。
(……従来のダンジョンでも食糧が獲れるようになってから地形とかが変わったって報告があったけど、本当に森が広がっている……)
せめて何も無い平原とかならまだ星空が……いや、星空なんて空が明るく見えるだけか……まあ、とりあえずは、だ。
「……ハチくん、エレベーターを出てすぐの場所に、バナナの木があるっぽい」
「え、マジで? それじゃあ……おっ、ギリギリ手前のところまではインベントリーで回収できる範囲だ」
うっすらとだけど、輪郭が確認出来た(コレが見えたレイダの目って……)おかげか手前部分のバナナ(?)は回収できた。
手前部分とはいえ、けっこうな量だ。
獲れる範囲は全部取ろうと思って回収したから……7,8本で1房とするなら、それが約30房分ぐらいはありそうだ。
(……たしかに、形はバナナだな。色は緑色だけど……熟していないのか、それともコレで熟しているのかな?)
頭の中にあるインベントリーにて、回収した『バナナ(?)』の外観を確認し終えた僕とレイダは……とりあえず、警戒しながら外へと出る。
さすがに、僕はレイダのように夜目は利かないから、エレベーター内部より漏れ出る光が無ければ何も見えなくなる。
だから、愛は『開ボタン』を押す係だ。
愛は、土魔法という特異な力を持っていて、ゴーレムを生み出して強烈な攻撃をお見舞いしたり、ゴーレム自身を盾にして戦うことができる。
しかし、魔法を発動してからゴーレムが形作られるまでタイムラグが発生し、また、ゴーレム自身もけして素早くはないという弱点がある。
ぶっちゃけると、複数に囲まれると普通に手が足りなくなる。
幸いにも、【かくれんぼの達人(極)】という超特異体質のおかげで、愛自身は息を潜めていたらまず狙われないのだが。
それでも、フィジカル自体は良くないので、あまり前に出ない方が良いのだ。
……で、だ。
どうやら獣のように夜目が利くらしいレイダは、僕とは違って明らかに夜の闇を視認出来ているようで……僕のインベントリーより取り出したハンマーを構え直すと──一息にジャンプして──振り下ろした。
──ぐぎゃん!!
瞬間、音もなく夜空の向こうから迫って来ていたナニカが悲鳴をあげて地面を転がった──のを見て、僕は無心に手斧を投げまくる。
手斧の利点は、刃が当たる際の力の向きや位置によって効果が変わるが、うまく当たってくれたら深々と刃が食い込んでくれるところにある。
一つ二つ外したとて、一本でも深く突き刺さってくれるだけ御の字……実際、僕たちの前に現れたモンスターも、ごぼごぼと体液が噴き出ていた。
そのモンスターの外見は、言うなれば、蝙蝠と人と蚊を足したかのような感じであった。
初めてみるモンスターだ。
当然ながら、僕の記憶に……覚えていないだけかもしれないが、こんなモンスターの話は見聞きしたことはない。
もしかして、新種の類なのだろうか?
ダンジョンのモンスターってのは、誰かが遭遇して、誰かが生きて情報を持ち帰らないと、未知なまま。
何かしらの条件を満たすと出現するモンスターの可能性は否定出来ないし、そもそも、各階層に出現するモンスターってのは、あくまでも確認されたモンスターというだけ。
総合センターのロボットに聞いても、教えてくれるのはどういった傾向のモンスターが出現するかってぐらいで。
詳しく尋ねると、『ここから先は、君たちの目で確かめてくれ!』ってな事しか言わないから、正直なところ……ってな感じであった。
……とりあえずは、だ。
ハンマーで叩き落とされた後に、僕の手斧が何本も刺さったことが致命傷になったようで……無事にインベントリーに収納した後で。
同じようなのがまた夜空の向こうから襲ってきたけど、レイダの前では暗闇に乗じてなんてことはできず、例外なくあっという間に叩き落され。
僕とレイダと、後は近くに落ちたやつを愛がゴーレムで即死させて……計7体仕留めて、もう襲ってくる気配がしないということで、一旦は地上へ戻ることにした。
あまりにも突然な出来事だったし、モンスターの遺体さえ持ち帰れば、総合センターのロボットが教えてくれる。
やはり、情報ってのは大事だから。
というわけで、僕たちはいつもよりも空いている総合センター受付にて、インベントリーより取り出した『よく分からんモンスター』を交換してもらうついでに、色々と情報を仕入れたわけなのだけど。
──結論から言うと、この『よく分からんモンスター』、めたくそにヤバいやつだった。
正式な名前は『吸血キメラマン』。
おまえふざけているのかってガチで思ったけど、ロボット側から『本当の名前なの! スゴク・シツレイダヨ!!!』って言われちゃって……まあ、それで、だ。
この『吸血キメラマン』なんだけど、かなり出現がレアなやつらしいのだけど、その分だけ極悪な強さらしい。
具体的には、空を飛行するわけだけど、飛行中の音を聞き取るのは至難の業で。
蚊のように口の針が突き刺さったら最後、7秒で成人男性でも失血死する勢いで吸血してしまうらしい。
しかも、刺さった場所に溶解液を注入するらしく、実際には2秒ぐらいで致命傷レベルで内蔵がとろけてしまうのだとか。
なんともまあ恐ろしいモンスター……なのだけど、その分だけ、すばらしいアイテムと交換できるとのことで。
『──へい、お待ち! 1体に付き、『バイオ・ポーション』と交換ダヨ!』
「なにそれ?」
『──簡潔にまとめると、老人もピチピチに若返る、若返りの薬ダヨ! 飲んだ人が望む年齢ぐらいまで身体が若返るよ!!』
「ふ~ん……なんて面倒臭いモノが……」
それが7本、僕たちの下へとやってきたのであった。
『──それと、『バナナ(?)』は、正式には『元気バナナ』って名前、コレ大事、古事記にもその名がある!!』
「身体に悪くないの? 元気になるの?」
『とてもゲンキになるよ!! 身体にヨイ!! ゲンキになるから、食べるなら1日1本まで、最初は半分以下の量で試すのがおススメよ!!』
「ふ~ん、わかった、ありがとう」
『美味しいからって食べ過ぎ駄目よ、オタッシャデ!!!!』
そして、バナナは、とりあえず美味しいってことが分かったので。
ダンジョン帰りで疲れていたし、なんか甘いモノが食べたかったのもあって。
僕たちはセンターの外……出店にて、肉じゃが(こんにゃく無し)を買うと、人の目が入らない場所で『鍵&家』を使い……パクッと、1本を3人で分け合って食べたのであった。
……。
……。
…………そうして、翌日。
「…………」
「…………」
「…………」
布団の中で……どうせなら大きい布団で寝るのが夢だったので、僕の部屋は布団を並べて疑似的に大きくしているわけだけど。
右を見る……僕と同じく、呆然としているレイダ。
僕と同じく、腹に大きなバスタオルが掛けられているソコ以外は素っ裸で、髪型は乱れ、乳房や首筋にはうっすら赤い痕が見えた。
左を見る……僕と同じく、ぽかんと呆けている愛。
僕と同じく、腹に大きなバスタオルが掛けられているソコ以外は素っ裸で、髪型は乱れ、頬には……うん、その、液体がへばり付いていた。
そして、僕は……バスタオルをまくって下腹部を見やれば、明らかに自分のモノとは思えない臭いと、ナニカが乾いた跡と思われる、カピカピとした感触が。
……。
……。
…………え?
「……ハチくん、アタシ、初めてだったから」
「……お察しのとおり、私もなんです」
──え?
「その、無理やりとかじゃないから……次からは、あのバナナは止めよう、アレはお互いに理性が飛ぶ。ていうか、アタシも理性飛んでた、アレはヤバいよ」
「そうですね、アレは駄目だと思います……わ、私、そういう事を想像して、しなかった事がないわけじゃないですけど、あんなのもう痴女じゃないですか」
……。
……。
…………え?
しばし、僕はそれ以外の事をなにも考えられなかった。
※ ゲンキになりました