切れば良いのだ、何事も!   作:葛城

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第32話: なお、モンスターのデザインはほとんどが謎のお姉さんではありません

 

 

 

 その疑問は、その日のうちに解消された。

 

 場所は、通学路の途中……レイダと愛と一緒に登校している時であった。

 

 

 『―温泉に入る―』

 

 

 そう書かれたプレートを手にした、『棒人間』……見たままを語るならば、そうとしか言い表しようがない奇妙な存在が、なんと地上に姿を見せ始めたのだ。

 

 これには僕たちだけでなく、初めてその姿を目撃した人たち全員が驚いていた。

 

 だって、これまで人類は……それこそ、『ダンジョン』との関係は今に至るまで、あくまでもモンスター関係はダンジョン内に限定した話だったからだ。

 

 いわゆる『ダンジョンの呪い』に関しても、天変地異だったり奇妙な不審死だったりで、モンスターのような実態を伴った存在が殺しに来るなんてことはなかった。

 

 なかったのだが、それが今、そうでないにしても、起こっている。

 

 『棒人間』は、どこから見ても棒人間にしか見えない。

 

 ひょろっと伸びた手足には爪も指もなく、関節らしい部位もなければ体毛や皮膚も見られない。

 

 首から上に当たる部分……そもそもどこからが首になるのかはさておき、その部分はまるで円形のヒモだ。

 

 見た目の通り、円形のヒモだから顔に当たる部分は空洞だ。

 

 普通に向こう側が見えるし、なんなら石を投げたら普通に空洞を通り抜けて反対側に落ちた。

 

 その際、周りから『えっ!?』ってな感じでものすごい目で見られたけど……いや、なんでそんな驚くのだろうか? 

 

 

 明らかに生物のソレじゃないじゃん。

 

 どう見ても、ダンジョン関係じゃん。

 

 

 レイダも愛も、とりあえず何かアクションを起こさないと分からないよねって感じで気にも留めていないのに。

 

 

 ……というか、なんか謎のお姉さんが前から言っていなかったっけ? 

 

 

 地上にモンスターが云々っての……あれ、言っていなかったっけ? 

 

 まあ、言っていなかったにしても、直前のビッグ謎のお姉さんはなんかそんな感じの事を臭わせていたわけだし。

 

 これはもう、モンスターの類って思うじゃん? 

 

 実際、間近で観察すればするほど、地上の生命体には見えないというか……う~ん、まどろっこしい言い回しは止めよう。

 

 

 とりあえず──眼前の『棒人間』だ。

 

 

 本当に、何気なくチラシの裏に書いた棒人間がそのまま実体となって飛び出してきたかのような、そんな印象しか覚えない姿だ。

 

 ひょろひょろっとした見た目のとおり、動きは……あまり、素早そうには見えないし、驚異的にも見えない。

 

 爪や牙、こん棒の類のような武器は持ち合わせているようには見えない。

 

 所持しているのは、『―温泉に入る―』というプレートだけ……ん? 

 

 観察していると、なにやら棒人間がチラチラとプレートを僕の方へと向けてきた。

 

 顔の部分が無いから表情は分からないけど、なんだろう……やれるモノならやってみろ、そんな言外の気配を感じ取れたような気がした。

 

 なので……とりあえず、射線上に誰もいないことを確認してから、僕は『戻ってお~の!』にて手斧を出現させ、投げた。

 

 さすがにこれまで何百回、何前回、何万回と投げ続けただけあって、すっかり上手になってきているソレは、ヒュンと風を切って──ドッ、と頭部の丸部分に当たった。

 

 周りの通行人が、ギョッと一歩引く気配……まあ、ダンジョン内ならともかく、地上で斧なんていう武器を見たらドキッとするのもまあ、致し方ないのだけど。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………それよりも、だ。

 

 

 斧が食い込んだままの棒人間なのだが……効いているのかいないのか、声一つ出さず全然反応してくれない。

 

 

 いったい、マジでこいつは何なのだろうか? 

 

 

 アタシが行こうか……そんな目で見てくるレイダを手で制止しつつ、距離を一定に保ったままにする。

 

 見た目があまりにもアレなせいで、どんな攻撃してくるかすらまったく想像できないからね。

 

 死んでいるのかどうかすら不明なので、再び斧を出現させて投げる。ドスッとまた刺さったけど、やっぱりビクともしていない。

 

 とりあえず、難しいことを考える前にモンスターは切れば良いのだ。

 

 その際、既に投げた斧は消失するので、斧同士がかち合って……なんてことはない。

 

 ただ、これ見よがしに持っているプレートの事が気になるので、そこには当てないように意識しつつ……ざっと、5回目の斧がグサッと刺さった、その瞬間。

 

 サーッと、棒人間の身体が砂のように崩れ始め、すぐに跡形もなくなってしまった。

 

 後には、持っていたプレートだけがポロリとアスファルトに落ちて。

 

 マジでこいつ何だったのだろうかと首を傾げながらも、まさか爆発したりしないよなって感じで恐る恐る……それを手に取った。

 

 

 『―温泉に入る―』

 

 

 書かれているのは、それだけだ。

 

 何か変化が起こるわけでもないし、金とか銀とかで出来ているわけでも……ん、裏に何か別の文字が小さく──

 

 

『―そうしたい気持ち―』

 

 

 ──書いてあったけど、本当になんだコレ? 

 

 これまでも中々に説明不足なモノは多かったけど、今回はこれまでの中で一番説明が足りていない。

 

 

「……これ、どういう意味?」

「さあ、ハズレってこと?」

「説明が足りなさ過ぎて意味わからないですね」

 

 

 両隣からのぞき込むように見ていた二人も、首を傾げていた……と、その時だ。

 

 

「あ、また出た」

 

 

 ひょっこり、と。

 

 どこからともなく姿を見せた新たな『棒人間』の登場に、周りの人たちも驚いた……マジでどこから出現したの、こいつ? 

 

 

「こんどはアタシが倒す」

 

 

 そんな僕をしり目に、レイダはふんすと意気揚々に宣言すると、小走りにそいつへと向かい……回し蹴りで、棒人間の胴体を真っ二つにしてしまった。

 

 とんでもねえ威力である。

 

 これには周りの人たちは絶句だ、僕と愛も絶句した。

 

 しかし、当のレイダは欠片も気にしていないご様子で、先ほどと同じく跡形もなく消えた棒人間が所持していたプレートを手に取ると、小走りで戻ってきた。

 

 

『―温泉に入る―』

『―そうしたい気持ち―』

 

 

 そして、書かれている内容は同じであった。

 

 これは……もしかして、集めると何か変わるのだろうか? 

 

 そんな疑問を二人に伝えたら、その可能性はあるかもしれないとのこと……なので。

 

 とりあえず、僕のカバンにまとめて入れておこうかってことで、プレートを重ねたら──なんと、にゅるりと音もなく合体したかと思ったら。

 

 

『―温泉に入る―』

『―ちょっと気持ちが高まっている―』

 

 

 なんか、文字が変わった。あと、最初のやつは白色プレートだけど、水色っぽい感じになった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………??? 

 

 

 何が起こったのか分からない僕たち。

 

 どういうことなんだよ……そんな言葉が僕たちの脳裏を過った。

 

 そう断言できるぐらい、レイダも愛も困惑顔でぽかんと呆けていた。

 

 

「……これ、プレートを合体させていくものなの?」

 

 

 困惑した様子のレイダからそう尋ねられても、そんなの知らんとしか言えず……これまた、どこからともなく3体目の『棒人間』が出現していたので、再びレイダが仕留める。

 

 

『―温泉に入る―』

『―まあまあ気持ちが高まっている―』

 

 重ねたら合体して、文字が変わった。

 

『―温泉に入る―』

『―それなりに気持ちが高まっている―』

 

 また重ねる。

 

『―温泉に入る―』

『―かなり気持ちが高まっている―』

 

 また重ねる。

 

『―温泉に入る―』

『―相当に気持ちが高まっている―』

 

 また重ねる。

 

『―温泉に入る―』

『―明日にでもなぐらい気持ちが高まっている―』

 

 また重ねる。

 

『―温泉に入る―』

『―もう入らなければという気持ちになっている―』

 

 また重ねる。

 

『―温泉に入る―』

『―そろそろ入らないとヤバいぜ―』

 

 また重ねる。

 

『―温泉に入る―』

『―温泉に入らないとヤバいぜ―』

 

 また重ねる……すると。

 

『―温泉に入る―』

『―温泉になった―』

 

 

 なんか意味不明な文面になった──直後。

 

 プレートがピカッと光ったかと思えば、それは……帯状に光る文字列へと変わり、スーッと音もなく僕の身体へ吸い込まれ──はっ? 

 

 

「え、なに?」

 

 

 あまりに突然のことに、傍のレイダも愛もポカンと目を瞬かせて……そりゃあそうなるよとなんか冷静になった僕は、『ステータス』を呼び出してみた。

 

 

 

【あなた】: 小山内ハチ・16歳

【生 命】: 265

【 力 】: 180

【 防 】: 146

【 速 】: 231

【 魔 】: 679

【おまけ】:自己回復(小)、キャパシティ(極)、等価交換(魔力)、『鍵&家』、『戻ってお~の!』、『出し入れ自由魔改造を添えて』、『温泉?』

【ひみつ】:猪突猛進、頑固、意地っ張り

【私からの一言】:温泉取得おめでとう。資格無くば、真の意味で取得は出来ない。しかし、温泉道はまだ登り始めたばかり……真の温泉マスターを目指し、今後も温泉を倒して温泉を手中に収めましょう

 

 

 

 そしたら、なんか変なのが追加されていた。

 

 具体的には、『温泉?』の部分。

 

 ?マークがあることに底知れぬ不安を覚えると同時に、【私からの一言】にある、温泉を手中に収めろってのはいったい? 

 

 

「えっと、ちょっと使ってみるね」

 

 

 と、とりあえずは、だ。

 

 斧を取り出すときと同じく、感覚的に使い方を理解できていた僕は、同じような感覚で『温泉?』とやらを発動──すると、だ。

 

 僕たちの眼前に現れたのは、長方形の物体……言うなれば、木製の電話ボックスみたいなやつだった。

 

 大きさは一回り以上大きいが、四方すべてが木の板で隙間なく塞がれていて、内部は確認できない。

 

 唯一、取っ手が付いているところから、扉を開ければ……その奥にはなんと、銭湯という他ない光景が広がっていた。

 

 

 これは、アレだ。

 

 

 僕が所持(?)している『鍵&家』と同じだ。

 

 扉の先には不思議空間というか別空間が広がっていて、外から見える広さと中の広さが一致しないやつだ。

 

 

「おお……なんか、すごいなコレ……」

 

 

 そのまま中に入った僕は、意外と奥行きがある広々とした空間に目を瞬かせる。

 

 すべてが真新しく、浴槽には並々まで湯が溜まっており、独特な臭いが立ち上っている……っと。

 

 

「ハチくん、入れないよ」

「え?」

 

 

 背後からレイダにそう言われて振り返れば、レイダが出入口の……正確には、この空間と外との境目のあたりで、パントマイムみたいな動きをしていた。

 

 いったい、どうしたのだろうか? 

 

 尋ねてみると、どうやら境目の部分に半透明な膜というか壁みたいなものが見えるし有るらしく、それが邪魔をして入れないのだという。

 

 

 ……僕には、そんなモノは見えないし、何も無いのだけど。

 

 

 レイダだけかなと思ったけど、どうやら愛も同様に内部を確認出来ないらしい。

 

 手を伸ばしても、確かにナニカが遮っているようで、僕が二人の腕を掴んで引っ張ったら、確かに見えないナニカが壁みたいに二人を遮っているようだった。

 

 

 これは……もしかして、まだなにか条件を達しないと駄目なやつなんだろうか? 

 

 

 とりあえず、二人にはそこで待っているように伝えてから、改めて内部へ……しかし、あるのは、ソレだけ。

 

 よくある、大型浴場の、ソレだ。

 

 壁とか床とか滑りにくいような感じにはなっているけど、シャワー設備はおろか、手桶の類は一切なく、脱衣所だって見当たらない。

 

 全体の構造としては、行き止まりの最奥に浴槽が設置されただけの温泉……といった感じで、お風呂場として見たら、かなり殺風景に思えた。

 

 

 ……シャワーとか脱衣所とか完備って話じゃなかったっけ? 

 

 

 なんか話していた内容と違うような……いったい、謎のお姉さんが話していた『こだわった』という部分はどこなのか……と、思っていると。

 

 浴室内の最奥端っこより、だ。

 

 なんか……ふにょ~ん、と壁が揺らいで波紋が生じたかと思ったら、なんか……なんか……え、なにコイツ? 

 

 思わず、僕は目を瞬かせた。

 

 何故ならば、壁の向こうから姿を見せたそいつの姿が、ちょっと僕の貧弱な語彙《ごい》では表現できない姿形をしていたからだ。

 

 見たままを、そのまま語るのであれば、だ。

 

 そいつの見た目は、獣のような四足歩行な感じである。

 

 ただし、獣とはなんかちょっと違う。

 

 後ろ足よりも前足の方が大きいが、何故か前足の部分にはヒヅメが付いていて、後ろ足は……何だろう、人間の足っぽいけど、そうは見えない。

 

 胴体部分は獣っぽいが、尻尾は蛇か……え、いや、これ馬とかそっち系? 

 

 首はなんかキリンのように長いし、なんかイノシシみたいに鼻が出ていると思ったら、頭には角みたいなのがある。

 

 

(……マジでナニコレ?)

 

 

 あまりにも意味不明というか、見たことがない感じの生物というか。

 

 そんなモンスターを前に、僕は素直に斧を投げつけて良いのか分からず構えたままの態勢でいると、硬直した状況が動いた。

 

 

『──やあ、少年、私です』

「あ、謎のお姉さん」

 

 

 唐突に、立体的なディスプレイというか、立体映像みたいな感じで謎のお姉さんが表示された。

 

 そんなのするぐらいなら素直に姿を見せた方が手っ取り早いのでは……と思いつつも、ひとまず何を伝えるのだろうかとそちらに目を向けると。

 

 

『──どうです、私のこだわりを。温泉のマスコットキャラクターとして私がデザインした、ゴマアザラシをモデルにした『温泉ちゃん』です』

「──っ!? こいつ、ゴマアザラシなの!?」

『モデルにしただけで、オリジナルキャラクターです。あまりにこだわりすぎて時間がなくなったので、他のやつは棒人間になりましたけど』

「リソース配分は大事だと思うよ?」

『まあ、それは置いといて、どうです、中々大変でしたでしょう? なんでもかんでも与えると駄目ですので、ちょっと遊び心を加えましたわけです』

「だから、リソース配分を……!!」

 

 

 たいして知りたくもなかった重大な秘密が明らかになった。

 

 

『この温泉ちゃんは、各々が資格を得た、その温泉の主として登場します』

「主とな?」

『この場合、倒せば少年がこの温泉の主となります』

「とにかく、倒せば良いわけね?」

『ただし、通常の方法では倒せません。ここは温泉……『決戦の温泉フィールド、略してK・O・F』にて決着をつける必要があります』

「待って、決戦の温泉フィールドってなんぞ?」

『K・O・Fでは、ふさわしい戦いを経て勝利を掴む必要があります……油断すると死にますので、油断してはいけませんよ』

「待って、お願いだからちゃんと説明を──あ、消えた」

 

 

 相変わらず人の話を聞かない謎のお姉さんは、一方的にそれだけを言い残して、シュンっと映像が消えた。

 

 後に残されたのは、ぬぼ~っとした、推定ゴマアザラシな温泉ちゃんが……っと。

 

 唐突に、温泉ちゃんはノソノソと人間のように立ち上がると「そう動くんかい!?」、堪らずツッコミを入れた僕をしり目に、どこからともなく大きな板を取り出し──僕に見えるように、ドカンと置いた。

 

 

 

『──アツアツお風呂我慢対決!! 江戸っ子なら45℃は楽勝だよね!? ──』

 

 

 

 それを見た、僕は。

 

 

「……え、待って、そういう対決なの、これ?」

 

 

 思わず、そう言わずにはいられなかった。

 

 

 

 






※ 棒人間は、一度攻撃を加えてから一定時間以内に倒し切らないと自爆します
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