切れば良いのだ、何事も!   作:葛城

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第33話: 与えるばかりはヨクナイ → 経験則(by 謎のお姉さん)

 

 

 

 ──結論から言おう、とんでもねえ戦いだった。

 

 

 まず、45℃ってのは地獄の熱さだった。

 

 なんと言えば良いのか、お風呂に噛みつかれたって感覚なのかな。

 

 普段のお風呂より3℃上がるだけだろって思っていたけど、たった3℃でも、ひぃっと悲鳴をあげるぐらい熱く感じた。

 

 いや、もうね、本当にね、熱いにも程があるだろって。

 

 なんか管理センターで寝泊まりしていた時、何気なく見ていたバラエティ番組で熱湯風呂ってやつにヒィヒィ言っている芸人のことを思い出したよ。

 

 大げさだろって思っていたけど、とんでもない。

 

 マジでシャレにならないぐらいに熱い。

 

 思わず飛び上がって逃げるほどってわけじゃないけど、いぃぃ……って歯を食いしばるぐらいには熱く、出た瞬間氷をバシャバシャ体に当てる気持ちはよくわかった。

 

 

 こ、これを耐久するのか。

 

 なんかもう、5分耐えただけでも十分過ぎないかな。

 

 

 そんな思いで、僕はスタートの合図と共に肩まで浸かった……のだけど。

 

 

『キュゥゥゥ!!!』

 

 

 その直後、横のゴマアザラシモドキが悲鳴をあげて浴槽から飛び出した。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………そう、飛び出したのだ。

 

 

 これには、驚いた。

 

 だって、我慢勝負だと思って覚悟したら、たったの数秒で決着が着いたのだから。

 

 

「だ、大丈夫?」

 

 

 勝負事とはいえ、さすがにあまりにも早く決着が着いたので心配にもなる。

 

 これ幸いとばかりに僕も浴槽から飛び出して、ひゅ~っと呻いているゴマアザラシモドキへと駆け寄れば、だ。

 

 

「   」

「え、なに?」

「   」

「……ゴマアザラシだから、お湯に弱いのだって? なんでこんな勝負に決めたんですか?」

 

 

 思わず、敬語になってしまうぐらいにしょうもない理由だったのが判明し、もう僕はそれ以上何も言えなくなった。

 

 なんでも、ゴマアザラシモドキ曰く、『マスコットキャラとして作られたけど、肝心の熱耐性を入れ忘れた』とのこと。

 

 つまり、このゴマアザラシモドキ。

 

 どこから見てもゴマアザラシには見えないが、体質的には一般的なゴマアザラシと同じく、お湯に体が触れるのはあまりよろしくない。

 

 温泉マスコットキャラのくせに熱々風呂は苦手を通り越して弱点であり、せいぜい体が冷えた時には人肌程度のお湯を飲むぐらいが限界とのことだ。

 

 

「あの、謎のお姉さん? 僕が言うのもなんですけど、こんな結果でいいんですか?」

 

 

 あんまりと言えば、あんまりな流れに僕は思わず虚空に向かって問いかけた。

 

 これだけ勿体ぶった展開なのに、出オチにも程がある。

 

 いや、僕としては出オチでオールOKなのだけど、謎のお姉さん的にはそれで良かったのか……と、ちょっと思ったわけである。

 

 実際、シュンっと音もなく出現した謎のお姉さんは、しばし考え込むように6本の腕を組んでうんうん唸ったあとで……ヨシっと手を叩いた。

 

 

『──これはうっかり、でもまあ、勝負は勝負なのでヨシとしましょう』

「あとでやり直しとかやめてね?」

『もちろん、そんな事はしません』

「他の人とかも、同じ条件で行くの? なんか僕だけこんな形だと、ちょっと罪悪感というか……」

『分かっておりますよ、ちゃんとこのままで行きますので』

 

 

 結果、今回は謎のお姉さん側の調整ミスということで、僕の不戦勝というか、判定勝ちみたいな感じになったのであった。

 

 

 

 

 

 ……さて、そんな感じで結果報告を終えて、せっかくだから今回の『温泉?』とやらの詳細を尋ねたわけなのだけど。

 

 

「……えっと、つまり、手に入るのはこの温泉スペースとお湯とか、本当に必要最低限だけで、ここから各自が温泉を育てていく……って流れなわけ?」

 

 

 自分で言葉にして何だけど、温泉を育てるってどういうことなのだろうか? 

 

 そういうモノかと受け止めると同時に、いやどういうことなのかと困惑する自分もいる。

 

 

『──その通りです。温泉道とは、今日明日でたどり着ける頂ではありません。数々の苦難を乗り越えた先にあるものなのです』

「手に入るのは温泉なんだよね?」

『はい、温泉ですよ』

 

 

 とりあえず、温泉の主(ゴマアザラシモドキのこと)を倒したことで、この温泉は僕のモノになったわけだが……ここで、改めてこの『温泉?』について説明しよう。

 

 この温泉空間を手に入れるには、いくつか条件をクリアする必要がある。

 

 まず、地上に出現している『棒人間』を倒すことで、入場券というか、手に入れるための第一の試練を突破することから始まる。

 

 この入場券とは、棒人間たちが手にしている『―温泉に入る―』と書かれたプレートだ。

 

 これは1枚だけではまだ条件クリアとは見なされず、複数枚を一か所に集め(合体して1枚になる)、最終的に『―温泉になった―』の文字にまで変化を促す必要がある。

 

 そして、それが終われば温泉空間への入口が出現するわけだが……実は、ここで(ふるい)に掛けられる者が出てくる。

 

 それは、最後の『―温泉になった―』というプレートを手にした者、一人だけが試練に挑戦できるというものである。

 

 あくまでも最後に手にしていた者であり、途中に何枚かき集めたとかは関係ない。なので、最後にプレートを合わせるときは注意が必要である。

 

 もちろん、無事に温泉の主であるゴマアザラシモドキとの対決に勝利さえすれば、その限りは消える。

 

 勝利した場合は、原則として勝利した挑戦者にのみ使用権が与えられ、その者が望めば温泉への出入りが可能になる……ということであった。

 

 

 ……なんとなく、だけど。

 

 

 とんでもなく不穏な気配というか、パッと聞いた感じでは、なんか色々なトラブルを誘発するような……まあ、うん。

 

 

 ……で、だ。

 

 

 ここで注意しなければならないのは、仮に試練に挑戦して敗北した場合……資格は失われ、再び一からプレートを集めなおす必要がある、ということ。

 

 そして、誤解しやすいとは思うけど、ここはあくまでも『ダンジョン』だということ。

 

 だから、内部の壁を壊して無理やり広げようとしたり、お湯をポンプで抜くなどしたり、結託して地上へ持ち出そうとするのも駄目。

 

 ギリギリ、タンクを背負って人力で運ぶぐらいなら見逃すが、あえて少人数に分散して偽装するといった小細工も許しはしない。

 

 モンスターこそここには出現しないけど、地上と同じ感覚で居ると駄目なので、それを念頭において行動するように……あとは、だ。

 

 

『他には……』

「他には?」

『……忘れました』

「えぇ……」

『マスコット制作に集中し過ぎておりました』

「謎のお姉さん、リソースの割り振りがおかしいよ……」

 

 

 そして、他にも色々とあったらしいのだが、どうやら謎のお姉さんはそこまで記憶していなかったらしく、そのうち思い出すだろうとあまり気に留めていなかった。

 

 

 とりあえずは、だ。

 

 

 『温泉ポイント』なるものを溜めていけば、そのうち温泉レベルなるものが上昇し、その時どのような方向性でこの温泉を成長させていくか……ということで。

 

 その温泉ポイントは、どうやって溜めていくのかというと。

 

 主に、ダンジョンのモンスターを倒した時、自動的に溜まるようになっているので、とにかくモンスターをぶっ殺していきましょう……とのことであった。

 

 ……ふと、その説明を聞いて思ったことが一つ。

 

 

(……思い返したら、謎のお姉さんって色々やっているけど、最終的にはとにかくダンジョン行けよって話に落ち着くね)

 

 

 それは、今回の温泉に限ったことではない。

 

 石油ダンジョンの時も、食料ダンジョンの時も、暫定的に助けると同時に、遠回しにダンジョンに行くよう促している。

 

 というか、ダンジョン行きなさいと直球に告げていた時もあったような……いったい、どうしてだっけ? 

 

 

『いえ、別に行かないのであれば、行かないでいいんですよ。ただ、そのうち地上にモンスターが溢れ出るので、そうなりたくなければせっせと殺しなさいという話でして……』

 

 

 率直に尋ねたら、そんな返答をされた。

 

 そういえば、ずっと前にそんな感じの事を話していたような? 

 

 

『別に、いいんですよ。好き勝手に自由にしたいのであれば、私も手を引きましょう。ここまで文明が育っているので、非常に勿体ないとは思いますけど』

「え、そんなあっさり……」

『ただ、『世界』は私のような手加減はしませんよ。私のように面倒くさがらず、効率的に余剰エネルギーをいくらか消費するため、たった今この瞬間から人類すべてを消費してしまうでしょう』

「え、そんなあっさり???」

『たかだか太陽系一つすり潰したって、また作れば良いだけの話ですしね。面倒くさいことに、今回の人類も、自分たちを高く評価し過ぎなのですよ』

「う~ん、ド直球……」

『有無を言わさず灰にされていた時に比べたら、私は数千年も猶予を与えているわけで、けっこうお優しい方だと思いますよ』

「そ、そうなんだ……」

 

 

 サラっと、とんでもなく怖い話をしてくる謎のお姉さん。

 

 これって、謎のお姉さんあたりのジョークなのかなって思ったけど、真顔のまま淡々と話しているあたり、ガチなのだと納得させられる。

 

 でも、そうなると、だ。

 

 回りくどい言い回しや方法を取らず、直球におまえら滅ぶから今すぐダンジョン行けって言えば済む話では……と、思ったわけだけど。

 

 

『それをすると、それなりの割合で、自由は永遠に失われただとか悲観して自殺してしまうので……なんなら、それを口実に暴動やら何やらが全体規模で大発生します。面倒くさいですね、私はもう幾度となく見てきましたからね、今回もそうなります』

「あんまり否定できそうにないのが辛いなあ」

『でも、放置していると、なにやら勝手にセーフティネットだとか何だとかにしてしまって、行かないで済んでいるのがある種のステータスみたいな扱いにしてしまいますし……その都度対処するの、面倒くさいんですよね』

「……いっそのこと、お姉さんが全部管理したら良いんじゃないの?」

『少年よ、私はこう見えて忙しいのです。そんなくそ面倒くさい作業を私にさせるのではありません』

「そ、そうなんだ、ごめん……」

 

 

 とりあえず、そんな感じで今回の、謎のお姉さんとのお話は終わったのであった。

 

 

 

 

 

 ……で、だ

 

 

 そんな流れで温泉の主となった僕だが、一旦外に出てから……レイダと愛を伴って、人目を避けるためにその場を離れることにした。

 

 すでに注目が集まっていたが、以前と違って今はスマホなんて所持しない人が増えている。

 

 なにせ、日常生活の電気はおろか、テレビ放送ですら時間帯制限が設けられている……当然、電話も以前に比べてほとんど繋がらないといっても過言ではない。

 

 スマホのバッテリー充電なんてしたところでネットも電話も(SNSも)ほぼ使えないし、そもそもまともに充電できる環境ではない……当然だろう。

 

 だから、ある程度逃げ切ってしまえばひとまずは大丈夫で……学校に行っている場合じゃねえって感じで僕たちはえっさほいさっと……今回は、何度か近くを通ったことがある公園にて。

 

 世界がこうなる前なら学生とか老人とかが居たりしたけど、今は……意味もなくダラダラ集まっているなんてことはないから、今の方が寂れていた。

 

 

「……というわけなんだ」

 

 

 その公園の中にある、土管っぽい遊具の中で、僕は謎のお姉さんから聞いた『温泉』に関しての話を全てした。

 

 ただ、話したのはあくまでも……『温泉』に関する部分だけ。

 

 僕としては、謎のお姉さんの思惑というか、人類に対してどう思っているのか……という部分も話そうとしたのだけど。

 

 

「知ったところで何もできないだろうし、今は知りたくない」

「私も……その、考え込んでしまうだけなので、知らない方が今は良いです」

 

 

 僕が何かを言う前に色々と察した二人から、先に釘を刺されてしまった。

 

 まあ、気持ちはわかる。

 

 実際、知ったところで出来ることなんて無いし、結局のところ、知った事への心労というか、解消できない重しが心に残るだけだし……まあ、その話は横に置いといて。

 

 今回は不可抗力という形で僕が『温泉』を所有してしまったが、今後の事を考えれば、各自が一つずつ所有しておくべき……という形になった。

 

 『鍵&家』にもお風呂はあるけど、広さは明らかに『温泉』の方が広いし、温泉レベルとやらが上がれば、もっと快適なお風呂になるだろう。

 

 別に今のお風呂が狭いというわけではないけど、やっぱり広々としたお風呂で思いっきり体を伸ばして入りたいなあ……という気持ちはある。

 

 あと、この『温泉』がどのような形で成長していくかは分からないけど、もう少し設備が改善すれば……せめてクラスメイトたちを入らせることも……ヨシ! 

 

 

「じゃあ、とりあえずはレイダと愛の分のプレートを集めて、『温泉』を手に入れ──」

 

 

 そこまで言葉を続けた、その瞬間。

 

 どーん、と。

 

 遠くの方より、爆発音が聞こえた。

 

 突然のことに慌てて飛び出した僕たちは……遠くから聞こえてくる悲鳴に……思わず、顔を見合わせたのであった。

 

 

 

 

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