切れば良いのだ、何事も!   作:葛城

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第34話: 最初にアイテムとか魔法とかを500種類ぐらい考えて力尽きるタイプ

 

 

 

 『温泉?』……ん~、もう『温泉』で良いか。

 

 それから、時々聞こえてくる爆発音に対して。

 

 

「誰かうっぷん晴らしに物でも壊しているのかな?」

 

 

 といった感じで聞き流すことに決めた僕たちは、さっそく各自『温泉』を手に入れるために動いたわけだが……これ自体は、けっこう楽に終わった。

 

 だって、レイダならキックを一発叩き込んでやれば、それだけでプレート1枚だ。

 

 

 レイダ曰く、『けっこう固いから、蹴り応えはある』とのこと。

 

 

 レイダで蹴り応えがあるって、どんだけ固いのか……そういえば、何度も手斧が刺さっても耐えていたあたり、けっこう体力があるというか、HP的なモノが高いのかもしれない。

 

 幸いなことに、プレートを持つ棒人間たちは動きが鈍く、攻撃を避けたりもしないし、攻撃もしてこない、逃げたりもしないし、率先して近づいても来ない。

 

 あえて厳しい部分を述べるなら、かなりのタフだから倒し切るまでに時間が掛かるし、体が棒人間だから、意外と攻撃が当てにくいぐらい……か。

 

 

 僕の場合は、まあ、アレだ。

 

 

 それこそ何百何千何万回と手斧を投げまくっていて、もはや駆け出しプロを名乗っても良いんじゃないかってぐらい慣れているから、当てられるだけで。

 

『戻ってお~の』を手に入れた当初だったら、たぶん当てるのに相当苦労しただろうなあって……さて、話を戻そう。

 

 とにかく、レイダに関してはめたくそに楽勝であった。

 

 なにせ、見つけ次第駆け寄って蹴り一発=プレートGetな流れである。

 

 もはや、時間が掛かる要素は『棒人間を見つける』という部分なだけで、戦っている時間全部を足しても、1体の棒人間を探している時の方が時間が掛かっているぐらいであった。

 

 

 ……で、愛の方はというと……これもまあ、楽勝であった。とにかく、棒人間に対しては相当に相性が良かった。

 

 

 なにせ、愛はゴーレムを使って戦うわけだが、愛のゴーレムの最大最悪の弱点は、とにかく動きが鈍いということ。

 

 相手を袋小路に追い込んだり、同じぐらい鈍い相手であったり、耐久力が無い相手ならば、ほぼ無双な感じで一方的に勝利してしまう。

 

 しかし、ゴーレムより速ければ、途端にマナのゴーレムは木偶の坊。

 

 条件さえ噛み合えば無類の強さを発揮できるが、噛み合わないと一方的にやられてしまう……そういうピーキーな能力なのである。

 

 その点を考えると、棒人間はこれ以上ないぐらいに噛み合う相手であった。

 

 動きは鈍いし、逃げたりしない。弱点である本体の愛を狙ってこないとなれば、もはやゴーレムの独壇場であった。

 

 

 ……とはいえ、時間は掛かった。

 

 

 見つけるまでの時間もそうだが、ゴーレムは動きが鈍い。

 

 砂の身体に取り込んで締め付けて殺すなんてことは可能だけど、固いとレイダが評価するだけあって、中々にしぶとい。

 

 叩いて倒すにしても、一発殴るたびにけっこうな距離まで飛んでいき……それを追いかけるのに、また時間が掛かる。

 

 効率を考えたら締め付けて殺すのが速いのだが、これはこれで難しいようで。

 

 圧力の加減を間違えると何かが作用して爆発してしまうみたいで、二回ほど周囲一帯に砂が飛び散る結果となった。

 

 なので、結局はレイダがやった方が速いということで、途中からレイダが交代して仕留めることになった。

 

 本来ならば、愛に経験を積ませるために、最後までやってもらった方が良いのだろうけど……今回は、意味がないと僕は判断した。

 

 だって、棒人間って基本的に動きが変わらないし、愛のゴーレムは、そもそも精密動作が非常に苦手である。

 

 言うなれば、クレーンゲームのボタン操作みたいな感覚が近いらしい。

 

 多少なり調整は出来るが力加減は苦手で、100・75・50・25・1といった感じで、大雑把にしか動かせないらしい。

 

 それなら、ちゃんと動くモンスターを相手に練習した方がよほど実践的だという話になり……結果、レイダが変わりを務めたわけである。

 

 

 ……で、そこからはまあ、語るまでもなくあっという間に終わった。

 

 

 僕と同じく(ただし、謎のお姉さんは登場しなかった)、『ステータス』に『温泉?』が表示され、二人ともが個別に温泉空間を手に入れた。

 

 すると──これまでにない変化が、僕たちの温泉に起こった。

 

 具体的には、僕たちの個々の温泉空間にクソデカい扉が現れたかと思ったら、僕たち3人の温泉空間が繋がったのである。

 

 これには、僕たちもびっくりであった。説明が全く無かった(忘れていた可能性有り)からだ。

 

 

 でもまあ、それだけであった。

 

 

 モンスターが出現したわけでもないし、扉には鍵を掛けることが可能で、内部で何か問題が起こったときはどちらかの方に避難できるなって、けっこうポジティブに捉えたわけである。

 

 まあ、それはそれとして、だ。

 

 

「     」

「あ、ゴマアザラシモドキの温泉ちゃん……え、なにこれ? パンフレット?」

 

 

 いつの間にか出現していたマスコットのゴマアザラシモドキの温泉ちゃんより、けっこう分厚い冊子というか、カタログを渡された。

 

 どういう事かと聞けば、どうやら僕はすでに温泉ポイントが一定量溜まっていて温泉レベルが上昇しており、僕の方の温泉を強化できるようになっている、とのことだ

 

 

 ……僕って、そんな上がるような事をしたっけ? 

 

 

 謎のお姉さんの話だと、モンスターを仕留めるとポイントが溜まっていく仕様だって……それなら、レイダや愛も上がるのでは? 

 

 

「    」

「え? モンスターによってけっこうポイントが違う? これまで殺してきたモンスターの分も加算されるの? でも、今はともかく昔はそんなには……え? 気付いていないだけで、ダンジョンには実はめちゃくちゃ色々な種類のモンスターが居たの?」

「    」

「知らないうちに倒していたのか……ん、ポイントの詳細は秘密? 知りたくば、謎のお姉さんとの一騎打ち……僕さ、どう足掻いても謎のお姉さんには勝てる想像がまったくできないんだよね」

 

 

 そう思って尋ねたら、詳しく教えてくれた。

 

 僕としてはありがたいけど、しかし、そうなると、中学生になってからだから……う~ん、今みたいな効率的なやり方はなかったけど……塵も積もればなんとやら、かな? 

 

 いちおう、レイダと愛はどうなのよって聞いてみたら、『ちょっと足りないよ』って事だった。

 

 そうなると、僕が倒したという謎のモンスターっていったい……まあ、覚えていないのだから、気にしたところで無駄……そんな事よりも、温泉をどうするか、である。

 

 

 とりあえず、ペラペラとカタログをめくる。左右から、レイダと愛ものぞき込んでくる。

 

 

 内容は……思っていたよりも種類も数も多い。

 

 シャワー設備の種類や規模だけでも百ページを超えていて、置かれるアメニティ関係にいたっては、パッと見ただけで四桁に達しているのでは……ていうか、だ。

 

 このカタログ、捲っても捲っても、どういうわけか終わりまで捲れない。

 

 最後のページを見ようと指を掛けた瞬間、音もなくページが増えて……いや、綴じられている紙の位置が移動している。

 

 最後のページに指を掛けたはずなのに、次の瞬間にはカタログの中間あたりに指を掛けた状態になっている。

 

 思わず、カタログを放り投げたくなってしまうような気持ち悪さだ。それでいて、ページ数はちゃんと増減しているのだから、なおのこと気持ち悪い……ん? 

 

 

「……浄化設備?」

 

 

 そんなのが必要なのか……と考えると同時に脳裏を過った嫌な予感に、僕はすぐさまゴマアザラシモドキへと問う。

 

 

「あの、この温泉のお湯って、ちゃんと綺麗になるんだよね?」

「    」

「あ、ならない? いや、正確には、一人で入浴するだけを想定している?」

 

 

 その結果、想定外の事実が判明した。

 

 まず、この温泉の水質は自動的に綺麗になっていく仕様なのだが、それはあくまでも所有した一人だけを想定したレベル。

 

 つまり、二人以上入浴すると、その分だけ浄化が追い付かず、徐々に水質が悪化し続けていくというのだ。

 

 それも、入浴は一日一回を想定していて、入浴の前に体を洗い終えてから……はっきり言えば、簡単な汚れも落とさずに入浴し続けても、浄化が追い付かなくなる仕様のようなのだ。

 

 また、供給される水量の問題もある。

 

 これも一定量生み出されているわけだが、あくまでも所有者のみを想定した量だけで、気にせず使えば、当然ながら供給が追い付かず浴槽の水位も減っていくわけだ。

 

 

 ……なので、そういった問題を解決するためには、温泉ポイントを溜めて温泉レベルを上げる必要がある。

 

 

 温泉レベルは所得したポイントの累計によって上昇する、というわけなのだけど……これがまあけっこう面倒くさい仕様のようで。

 

 そもそも、温泉レベルを上げないと強化出来ない項目がけっこうあるらしく、実質的に、レベルが上がるまではポイントは本当にただのポイントでしかない感じなのだ。

 

 

 具体的な例をあげるなら。

 

 

 僕の現在のレベルは、『温泉レベル:5』。

 

 対して、レイダと愛のレベルは、『温泉レベル:1』。

 

 僕の場合は、シャワーだけに限らず大半の設備強化や増設が可能となっている。

 

 しかし、二人は……ポイントはあるけど、タイルの柄変更とか、床の滑りやすさ改善とか、あとはお湯の温度調整とか、そういうことしかできない。

 

 ていうか、お湯の温度調整まで考えないと駄目なのか。

 

 どうやら、僕たちが欲しいと思うような部分はレベル2からスタートするみたいで……実質、現時点では僕しか改良できないようだ。

 

 ……なるほど、今日明日ではたどり着けない温泉道の頂とは、こういう事なのか。

 

 

「なんで、そういうところばかりこだわるの?」

 

 

 これ、アレだよね。

 

 やる気100%で挑んだけど、設定作り終えたあたりで力尽きたみたいじゃん。

 

 思わず、棒読みでそんな事を呟いてしまった僕は悪くないだろう……だって、レイダも愛も無言のままにうなずいたし。

 

 

 ……ま、まあ、とにかく、だ。

 

 

 大勢入るのを想定するなら、浄化機能は出来る限り高い方が良い。あと、水量も絶対に増やした方が良い。

 

 センターの共同風呂(かなりデカいけど)を使ったことあるから分かるけど、浴槽のお湯ってさ……意識して綺麗に使わないと、あっという間に汚くなるんだよね。

 

 最初の頃は気付かなかったけど、常に少量ずつ浴槽にお湯が足され続けるのって、単純に目減りした湯量を戻すだけじゃなくて、表面に浮いたゴミとか垢とかを外へ押し流す役割があるっぽくてね。

 

 言い換えたら、そうして常に少量ずつでも溢れさせて排出させて綺麗にしないと、お湯ってけっこうすぐ汚れるんだね……ってやつでね。

 

 でも、そんな常に蛇口全開放の勢いそのままジャバジャバってわけじゃないからさ。

 

 浴槽に入る前に軽く体を洗い流すのがマナーっての、アレはそういう意味もあったのかって気付いた時は、目からうろこっていうか……まあ、とにかく! 

 

 

(浄化レベルはまず最大値まで……)

 

 

 どうやって上げるのかと尋ねたら、マスコットであるゴマアザラシモドキに伝えたらOKのようなので、浄化のレベルを最大値へ。

 

 

「    」

「ありがとう……ん? あれ? 思っていたよりだいぶポイントに余裕が……」

 

 

 完了すると、完了したことを教えてくれる。

 

 見た目には分からないが、浴槽に超強力な浄化装置が組み込まれたようで、浴槽内は常に綺麗な水が循環されているようだ。

 

 当然、絶対に事故など起きない安全仕様。

 

 その水質は飲料水として使用できるぐらいに綺麗な状態が保たれているらしく、試しに泥団子でも投げ入れたら、底やら壁やらにスーッと吸い込まれて……といった感じになるらしい。

 

 続けて、ポイントがだいぶ余っている……どれぐらい余っているのかって? 

 

 今の『浄化機能』のレベルを最大値にするまで1万ポイントだけど、僕が現時点で所有しているポイントは150万ぐらいある。

 

 レイダと愛が所有しているポイントは約1万ぐらい……こう考えると、僕が知らず知らずのうちに倒した高ポイントのモンスターってなんだろうって気になる……いや、今はそのことはいい。

 

 

「ゴマアザラシモドキちゃん、絶対にこれだけは先に上げとけって項目あるなら教えて」

 

 

 とりあえず、餅は餅屋に聞けってやつで、最低限これだけはってやつを、片っ端から最大レベルまで上げていく。

 

 まず、『ボイラー(そんなもの無いよ)』とかいう項目。

 

 冗談じゃないよ、本当にそう書いてあるから。

 

 どうやら、温泉全体の湯の温度が関係している重大な部分らしく、これを上げておかないと、一度でも湯の温度が下がると中々戻らないらしい。

 

 あと、シャワー設備とかを設置しても、このレベルが低いと温い水(下手したら冷たい水)しか出てこなくなるのだとか。

 

 次に、『水圧&水量』

 

 これもまあ、とても大事。

 

 今のところは浴槽しかないからそこまでらしいけど、シャワー設備を一つでも設置したら分かるよって言われたので、これも最大に。

 

 

「     」

「あとはお馴染みのシャワー設備に、湯溜まり……あ、掛け湯用ね。身体を洗うための洗面スペースとか鏡とか、椅子に手すりに……冷静に考えると、かなり初期投資多くない?」

「    」

「いや、温泉道は一日にしてならずとかそういう話じゃ……とりあえず、片っ端から上げていくから」

 

 

 なんだろう、なんかゲームのレベル上げをしているような……まあ、ゲームなんてほとんどしたことがないから、本当にそうかって尋ねられたら首を傾げるけれども。

 

 そんな感じで、だ。

 

 絶対に上げておいた方が良いっていう項目を上げ終えたわけだけど、それでもまだポイントはたっぷり余っている。

 

 いちおう……絶対に忘れてはいけないらしい、『入場ON/』OFF』という項目もあるのだけど、これって1ポイントしか消費しないし、既にやっているし。

 

 

「……二人は、ここからどれを上げたら良いと思う?」

 

 

 余らせておくのもなんだし、買い物ってわけじゃないけど、こういう作業を僕一人で独占しちゃうのは……と思って、二人にも話を振ったわけだけど。

 

 

「ゴマアザラシモドキ。ハチくんの温泉って、私たちの方の温泉にも引けたりする? それと、アメニティとかも運び出せる?」

「     」

「設備は無理だけど、お湯やアメニティぐらいなら小山内くんのポイント使用で引ける……これ、温泉の内装そのものを変える事は可能ですか?」

「     」

「ふ~ん、それもレベルとポイントか……と、なると、私たち全員が同じ方向性に進むのは……なんだか、勿体ない気がしない?」

「     」

「そっか、温泉ちゃんも、そう思うわけね……じゃあ、決まりだね」

 

 

 なにやら、妙な気配がしたかと思ったら。

 

 

「シャンプーは絶対良いやつ。こんなチャチなやつじゃなくて、ちゃんとしたやつ。あ、でも、これは確か香料強くて合わない人も多いって話だから──」

「このボディソープはぜったい常備してください。あと、脱衣所も追加で併設して、ドライヤーも絶対常備。身支度に時間が掛かりますから、お風呂場と同じかそれ以上に広々としていたら──」

「飲み物も設置しましょう。ビタミンとかたっぷり入っているジュースとか置いてほしいな。けっこう栄養不足に陥っている子が多いから、重宝され──」

「コスメもあってほしいですね、特に保湿系。美容液とかあったら、私なら無理をしてでも通いつめます、何時の時代も美を求める女の欲求は──」

 

 

 怒涛の勢い……いや、怒涛なんて言葉を当てはめるのは間違いだろうけど、そう思ってしまうぐらいの勢いに、タジタジになる僕。

 

 とりあえず、ある程度内容を固めてからお願いね……っと。

 

 そんな感じで二人から離脱した僕は、傍のゴマアザラシモドキを横目で見やりながら……一つ、ため息をこぼした。

 

 

「ポイントだって有限なんだから、その調子だとあっという間に空になっちゃうのに……アメニティだから、補充するたび減るってことを忘れてないかな?」

「     」

「──え? 温泉が利用されるたび、僕には『温泉ガチャチケット』が手に入る? なにそれ?」

「     」

「1等だとけっこうな期間限定ポイント付与? 5等、6等でも、設置しているアメニティの補充とか……え、レベル上限が設けられているから、独りよがりな温泉だと頭打ち……え?」

「     」

「いや、そりゃあ、僕一人だけが使うようなアレじゃないけど……謎のお姉さん、本当に変なところにこだわるね」

 

 

 けれども、どうやらそれでも温泉道からは逃れられそうにはなかった。

 

 

 

 

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