切れば良いのだ、何事も!   作:葛城

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第35話: じゅう、と淡い音がした

 

 

 

 さて、そんな感じで脱衣所も作り、利用時間帯を分けて、お試しとして学校にて希望者を募ったわけだが。

 

 

「……想定していた以上の倍じゃきかないぐらいの大盛況だ」

「そりゃあ、そうでしょ」

 

 

 呆れた様子のレイダと愛の言葉を他所に、僕は……眼前にて大騒ぎになっている、待合所代わりの体育館の喧騒に、ちょっと圧倒されていた。

 

 始める前、校長にて許可をもらう時は……まあ、ちょっと職員室が騒ぎになった。

 

 まあ、そりゃあ、そうだろう。

 

 世界から石油が失われてから、お湯に浸かるという行為が贅沢になって久しく、それどころか、飲み水にすら事欠くような時もちらほら起こっていた。

 

 当然ながら、綺麗な水で顔を拭くといった行為ですら、けっこう贅沢になりつつあって。

 

 そんな状況で、だ。

 

 

『温泉やるから、許可ください』

 

 

 なんて話をしたら、そりゃあ、ちょっとした騒ぎになって当たり前である。

 

 言葉だけを聞いたら、酒にでも酔っているのかって言われても不思議ではないが、ソコはソレ、謎のビッグお姉さんが改めて通達していたようで、誰も疑いはしなかった。

 

 あと、普通は許可なんて下りないのだけれども、『温泉』がダンジョン関係の可能性が極めて高いので、拒否できなかった……という理由もある。

 

 また、それ以外には、教師たちもまた身綺麗にしたい気持ちは例外ではなく……許可は出せるけれども、自分たちも入って良いのか、と尋ねられた。

 

 それに関して、僕が出した条件はいくつかある。

 

 

 一つ目。

 

 まず、利用できるのはこの学校の関係者に限る。

 

 僕は正義の味方でも善人でもない。余裕があるから誰かを助けろだなんて、相手の善意を強制するようなやつは大嫌いである。

 

 だから、善意を強制しようとするやつは、いかな泣き言を零したところでその後はぜったいに使わせないということ。

 

 これに関してはその『温泉』の持ち主の判断に任されるということで、レイダと愛に相談した結果、そう決めた。

 

 そもそも、もう十二分に社会への義理は果たしたつもりである。これ以上を求めるやつは、もうその時点で僕の敵である。

 

 

 二つ目。

 

 利用料は、1回100円である。ただし、子供は50円、文句を言ったやつはその時点で退場である。

 

 ツケは認めるが、泣き落としなどで踏み倒すつもりでいるとか、初めから払う気が無かったのだと判断したら、その時点で永久退場だ。

 

 僕としては困っているわけだし、臭いが取れるだけ十分だから……と、思ったわけだけど、レイダと愛から強く反対された。

 

 曰く、『安くてもいいから、必ず金は取れ』とのこと。

 

 今は100円でも払うのが厳しいなんて人はいるけど、それでも、100円すら払うのに渋るやつは、間違いなく余計なトラブルを引き起こす。

 

 そういう人たちは、人の善意を受けても直後にもらえて当然のモノと認識する。

 

 そして、それがもらえなくなれば、その瞬間に自分たちは被害者であり、こちらを出し渋る加害者だと認識する。

 

 そういうやつらを少しでも減らすために、少しでも良いから絶対に金は取れ……と、念押しされたので、そのようになった。

 

 もちろん、謎のお姉さんにも相談したうえでの話である。

 

 だって、『温泉』はダンジョンだ。

 

 金を取って利用させるという行為は、下手したらダンジョンを恣意的に独占して利用している……すなわち、呪いラインを越えてしまうのではと危惧したわけだ。

 

 結論から言えば……僕の場合は、『まあまあセーフです』とのことだった。

 

 理由は、利用者を同じ学校の関係者……すなわち、ほとんどを若年層に限定したことで、結果的にはダンジョン参加へのモチベーションに繋がるだろうから……とのことだった。

 

 つまり、回りくどい形にはなるけど、ダンジョンへ後押ししているからセーフ、である。

 

 ただ、ここに様々な理由を出してはダンジョンには行かない者たちを含めていたらアウトになっていたので、くれぐれも基準を緩めてはならない……と、真顔で忠告されたけれども。

 

 

 三つ目。

 

『温泉』は、あくまでも、利用させるだけである。

 

 間違っても、商売ではない。商売ではないから、金を払ったからといって、客ではない。文句あるなら他所へ行け、なわけだ。

 

 万が一にも『私たちは客だぞ』だなんて口に出したら、その時点で排除に動くし、抵抗するなら容赦なく……命を奪うことも先に書面でも明言しておいた。

 

 これに関して、謎のお姉さん的には『問題ありません、その場合、相手はダンジョンで少年が手に入れたモノを奪おうとする強盗と同じ扱いになります』とのこと。

 

 つまり、殺してもダンジョンの呪いが降りかかる可能性は0だということ。

 

 むしろ、僕たちが出したルールや指示に従わず、あまつさえ、抵抗して僕たちを害した時点でダンジョンから制裁が発動するということも、書面にて明言しておいた。

 

 そのことに関して学校側から、『警察が動くかも……』と忠告されたけど、構うことはない。

 

 事は、ダンジョンである。

 

 ダンジョンでのいざこざに警察関係が動いて、万が一僕たちを逮捕してみろ。

 

 どんな言い分が警察や司法にあったとしても、客観的な事実として、『ダンジョンで手に入れたモノを奪われかけたから反撃し、その結果相手は死んだ』が残る。

 

 名目上はとか、法的には一旦とか、そんな人間の理屈はダンジョンには通じない。

 

 それをやった時点で、動いた者たち(下手すると、血が繋がっているだけでも)は例外なくアウト、呪いが降りかかる。

 

 実際、数十年前にそれをやって、警察関係者(家族含む)だけでも1200人近くが死んだのだから……よほど狂ったバカでなければ、民事不介入である。

 

 

 ……そして。

 

 

 他にもいくつか条件を出して……学校が承諾できる範囲はすべて承諾させたうえで、無事に体育館の使用許可が下りたのであった。

 

 不幸中の幸いというのは少し違うけど。

 

 今どき体育の授業なんてやっていられるわけがない(栄養失調の子が多いのだから)から、どこからも文句は出なかったのは……なんとも皮肉な話だろう。

 

 ていうか、謎のお姉さんというか、ダンジョンからしたら、だ。

 

 そんなお遊戯で運動とかしている暇があるなら、ダンジョンに行けって話なんだろうけど……まあ、そんなわけで、だ。

 

 脱衣所は作ったけど、男女用に二つ分けているわけじゃないから、時間帯を区切ったうえで、入浴の際のルールを設けたうえで、来たい奴だけ来いと校内放送をしたわけだが。

 

 

 その結果が……眼前の喧騒、女子たちの大騒ぎである。

 

 

 今回は最初なので、使うのは僕の『温泉』だけだ。いちおう内部を拡張して広くしたけど、それでも順番待ちがすごかった。

 

 ちなみに、男子はすでに入浴時間終了であり、順番はサイコロで決めた。奇数と偶数、文句なしのジャッジである。

 

 身体から石鹸の匂いを立ち上らせた男子たちへと向けられる女子たちの視線は、それはそれは……で、だ。

 

 まあ、そうなっても不思議じゃないけど、とにかく、だ。

 

 現在、体育館には既に湯上りでバスタオルな恰好の女子たちと、順番待ちしている女子たちが混在している状況で、それはそれは姦しい喧騒に満ち溢れていた。

 

 

 ……なんで、バスタオル姿の女子も居るのかって? 

 

 

 そりゃあ、10人20人ぐらいならともかく、1秒でも早く身綺麗にしたい女子が……全学年で100人を超えているわけだ。

 

 しかも、今は誰も彼も長期間お風呂に入れていない。

 

 溜まった垢などを念入りに落としたいし、そこまでくると、髪だってシャンプー一回で綺麗になるわけじゃない。

 

 ていうか、そもそもシャワー数には限りがある。

 

 1人当たり1回5分で手早く終わらせたとしても、例外なくどの女子も1回では汚れを落とし切れない。

 

 つまり、どうしても順番待ちが発生するわけだ。

 

 かといって、浴槽に浸かろうにも、汚れた体をそのまま……というのは、なんか嫌だという声が上がり……まあ、これに関しては気持ちがわかる。

 

 

 コレは、アレだ。いわゆる、穢れってやつ? 

 

 

 分解して全清掃を行い、そのうえでアルコール消毒と熱湯消毒を施したうえでも、その便器に溜まった水を飲めるか……ってやつ。

 

 いくら綺麗になるよって話でもさ。

 

 お湯が汚かったならともかく、底まで見えるぐらい綺麗なお湯に汚れたまま入るのは……他の人たちも使うわけだしって、気を使うじゃん? 

 

 僕だって、みんなと同じ立場だったら気を使うよ。

 

 せめて、シャワーとか垢すりとかで汚れを落としてからじゃないと、浴槽に浸かれないって。

 

 でもまあ、こういう時でも『知ったこっちゃねえ』って感じにさっさと好き勝手しようとする人が居なくて助かったよ。

 

 そういうのが一人でも居ると、間違いなく場に流されて同調する人が増えるからね……僕としても、手斧が活躍する機会が無くて一安心というものだ。

 

 

 ──まあ、それはそうと、だ。

 

 

 自宅とは違い、学校の体育館なんて隙間風だらけである。

 

 安普請(やすぶしん)というよりは、そもそもが、そういう用途で作られたわけではなく、むしろ通気性は良い方なのだ。

 

 しかし、そのおかげで、4月とはいえタオル一枚は肌寒い。

 

 身体を洗い終えた者から順次入れ替わってもらっているが、当然ながら、しっかり水気を拭いて出てきているわけではない。

 

 それもまあ、致し方ない。

 

 入浴を終えた者はゆっくり水気を拭きとりたいだろうが、順番待ちをしている女子たちからしたら、さっさと出てこいって話だし。

 

 それに関してはみんな分かっているのか文句を言う人はおらず、出てくる女子たちは一人の例外もなく髪がビシャビシャのままだった。

 

 なので、再び石油ストーブの出番である。

 

 いつぞやの、謎のお姉さんが店員をやっているリサイクルショップより新たに購入したソレらの前に、女子たちが集まって身体や髪を乾かしている。

 

 いや、それだけではない。

 

 カゴに入れた大量の洗濯物……主に下着類だが、それを石油ストーブの熱が届く範囲に並べて干して、順次乾かしていっている。

 

 ……言っておくけど、シャツだけじゃない。

 

 普通にブラもパンツも含まれている。なんなら、誰がそんなの履いていたのかって思っちゃうような、セクシーなやつもあった。

 

 

 なんでこんな場所で干しているのかって? 

 

 それは、『温泉』にて洗濯しているからである。

 

 

 というのも、浄化レベル・水量レベル・ボイラーレベルを最大にしているおかげで、温水をほぼ無限に活用できるのだが。

 

 そこで、僕は……男子の番が終わり、女子たちが交代で向かっている時に……ふと、思ったのだ。

 

 このお湯を使って、下着だけでも洗えないのかな……って。

 

 試しにゴマアザラシモドキに聞いてみたら、『よくぞお気づきになられた……』みたいな事を言われて……あ、OKなんだってことが分かり。

 

 それを女子たちに伝えたら、そりゃあもう、女子たちは僕が居るのも関係なく、その場でパッと下着を脱いでしまったわけである。

 

 なんでも、本当はこんなの付けたくないけど、無いよりはマシ……洗えるなら、今すぐにでも洗いたい、だったそうな。

 

 要は、身体をいくら綺麗にしたからって、その後に汚れて異臭を放っている服を着られるだろうか、という話だ。

 

 むしろ、身体を綺麗にしたからこそ、汚い衣服なんて着たくないって思うのが普通なわけで……しかし、今は水が貴重である。

 

 それも、お湯はもっと貴重だ。当然ながら、洗剤なんて使えなくなった人も数多い。

 

 そんな中で、水よりもお湯の方が汚れが落ちるうえに、衣料用洗剤は使えなくとも、石鹸でもシャンプーでも十分だからと……まあ、うん。

 

 そんなわけで、僕は『温泉』への出入り口傍で、することもないのでボケーっと椅子に座って眺めていた。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………さて、おそらく、ここで疑問を覚えた者がいると思う。

 

 

 おまえ、なんでそこに居るんだよって思われるだろうけど、これには理由がある。

 

 それは実際に使用し始めてから判明したことなのだが、『温泉』使用中は、その主は『温泉』から一定範囲より離れられない……ということである。

 

 つまり、『温泉』を出している間は、ずーっと『温泉』の傍に居るか、『温泉』を利用するしかないのである。

 

 これが発覚した時、冗談じゃなくマジでビビった。

 

 だって、見えない壁がそこにあって、どう頑張っても出られなかったのである。

 

 あまりに想定外なことに、最初はゴマアザラシモドキに尋ねることすら頭から出なかったのだから、いかにその時の僕がビビったのかがうかがいしれるというものだ。

 

 

 ……で、だ。

 

 

 それで、どうして僕が目隠しもせずボケーっと座っているかと言うと、単純に、女子たちから『気にしなくていい』と言われたからである。

 

 なんでも、そこまで図々しく要求する気にはなれない、とのこと。

 

 こんな状況でお風呂を用意してくれた相手なのだから、こんなのは我慢のうちにも入らない……らしい。

 

 僕からしたら、保健室とかから目隠し持ってきて使えば良いんじゃねって思ったわけだけど。そんな浅ましい要求はしたくない、とのことらしい。

 

 いまいち、良く分からない感覚だけど……まあ、それで納得するなら、それでいいかって僕は判断したわけだけど。

 

 

「……女子の下着に興味あるの?」

 

 

 そんな僕の下へ、同じく案内とか指示とか出していたレイダがやってきて……唐突に、そんな事を言い出した。

 

 いきなりなんだ……と一瞬ばかり思ったけど、客観的に今の自分の事を考えれば、言われて当然である。

 

 だって、実際に干されている女子の下着というか、その辺りを見ているわけだし……でも、これに関しては一つ誤解があるから、それだけは弁明しておく。

 

 

「パンツをステーキのようにひっくり返しながら乾かしているのの、見ないやついるの?」

「それは……そうだね」

「しかもなんかやたらと上手くなっているし、なんか程よく乾いたやつをトレイにポイポイ入れていくし……」

「ごめん、言われて気付いたけど、私もアレは見ちゃう……」

「男子も、あんな感じで乾かせられるかな? 先ほどから、温度調整を駆使して乾かし始めたけど……」

「ど、どうだろう??? 男子の下着は分からないなあ……」

 

 

 謝罪するレイダに、良いよって僕は返事をした。

 

 そう、そうなのだ。

 

 石油ストーブの周りにはバスタオル姿(ちなみに、バスタオルは『温泉』のアメニティに含まれていた)な、わけだけど。

 

 その中で、何やら職人の雰囲気を醸し出している女子が、調理器具のテコを使って、まるでお好み焼きをするかのように、ストーブの上部に載せたパンツをひっくり返しているのだ。

 

 これがまあ、載せてはダメなやつはキッチリ弾いたうえでなうえに、その女子はストーブに当たり続けて熱いのか、途中からタオルで身体を隠さず汗を拭く方で使って……まあ、うん。

 

 あえて触れないようにしているけど、普通に見えている。

 

 意外と大きいおっぱいに、股間の茂み。

 

 あまりにも堂々とし過ぎているから、なんか逆にこっちが気圧されてしまうというか。

 

 しかも、その隣のストーブでは、どこから持ってきたのか、櫛みたいなモノにブラジャーを巻き付け、焼き鳥をするかのようにくるくると回転させて乾かしている猛者すらいた。

 

 

 ……まあ、冷静に考えて、だ。

 

 

 出来る限りギュッと手で絞ったとはいえ、ストーブの熱に数十分かざした程度で乾くわけがない。

 

 熱は必然的に上に向かうわけだから、効率性を考えたらストーブの上部に置いた方が良いのは分かるけど。

 

 ここまで効率的というか、恥じらいを捨ててやられたら、エロとか思うよりも前に、その手があったかと感心する気持ちの方が大きくて。

 

 

(……逞しいな)

 

 

 なんとなく、彼女みたいな人は、この先も強く生きていけそうだな……と、思った。

 

 

 ……ちなみに、だ。

 

 

 眺めている女子たちの中に、幼馴染の島田さんの姿があって、島田さんはなんか僕の視線に気づいて恥ずかしそうにしていたけど。

 

 僕がしばらくボケーっと眺めていたら、なんか急に……ショックを受けたかのように辛そうに俯いて……僕に話しかけてくることはなかった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………で、だ。

 

 

 そんな感じで、早3週間。

 

 下着類から始まった洗濯が一通り終わり、生徒たちの家族の衣服も持ち込んで洗い始め。

 

 僕は僕でレイダと愛を伴ってダンジョンに潜ることもあるので、毎回初回のように一日中なんてことはなかったけれども。

 

 それでも、なんとか上手く回っているなあ……と、思っていた……そんな時であった。

 

 

『独占している入浴設備を、平等に開放しろー!!!』

 

 

 学校に、そんな看板を持った集団が押しかけてきたのは。

 

 

 

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