切れば良いのだ、何事も!   作:葛城

41 / 57
第36話: これには、謎のお姉さんも笑顔に……

 

 

 

 ──正直に言わせてもらうなら、最初にその話を聞いた時の僕感想は、ただ一つ。

 

 

「え? 新手の自殺志願者?」

 

 

 で、あった。

 

 いや、だって、『温泉』はダンジョンである。

 

 そのことを知らなかったにせよ、今のご時世、超常的なことはだいたいダンジョンが関係しているというのが、暗黙の了解になりつつある。

 

 そして、ダンジョンに関する事柄は色々あるけど、その中の一つとして有名なのは、ダンジョンで手に入れたモノを奪ってはならない、ということ。

 

 厳密に言うなれば、奪った以上は、奪った分だけの成果がなければ呪いが発動する……らしいのだ。

 

 例えるなら、500万円相当のモノを奪ったのであれば、500万円相当の働きをダンジョンに対して行ったうえで、奪った相手がその500万円で行えていた様々な分をプラスαして返す必要がある、ということ。

 

 これの何がえげつないって、理由を付けて別の用途に回したりすると、その時点で呪いが発動するということ。

 

 つまり、ダンジョンへの移動用にと車を買うのは問題ないが、その車をダンジョン以外の目的で使用した時点でギルティ……に、なるわけだ。

 

 そのうえ、奪った相手が本来得ていた分も合わせて返済しなければならない以上、確実に良い暮らしは送れなくなる。

 

 毎日4時間ダンジョンに行っていた人が、毎日6時間ぐらいダンジョンに行って、そのうえで、それまで以上の働きが義務化(破ると死ぬ)されるわけだ。

 

 だから、よほど頭が狂っているやつでない限り、ダンジョン関係にて強盗や泥棒は発生しない。

 

 強盗して奪っても、それをダンジョン以外……それこそ、タバコ一箱買った時点で呪いが降りかかるし、下手したら服を買ってもギルティ判定が下る場合もあるのだ。

 

 しかも、使わなかったら使わなかったで、そのまま放置し続けると時限式に呪いが来るから、余計に襲うメリットが無いわけで。

 

 まだ確証が出来ていなかった昔ならともかく、今ではよほどの怨恨でもない限り、奪おうとする者なんてのは皆無であった

 

 

「……え、死にたいんですか、その人たち?」

「うん、まあ、気持ちは分かる」

 

 

 皆無であったからこそ、まさに寝耳に水みたいな話であり、思わず話を持ってきた教師に問いかけた僕は悪くないだろう。

 

 

 誰だってそうする。

 

 僕だってそうする。

 

 

 一緒のチームだからと傍にいたレイダと愛も、困惑に首を傾げていた。

 

 そりゃあ、そう。

 

 ダンジョン関係での奪い合いはご法度、子供ですら知っている常識で、殴られたら痛い、というぐらいの常識だからだ。

 

 

 ──が、しかし。

 

 

 防波堤になってくれている(ダンジョン関係なくても入れるつもりはないらしいけど)先生たちから、詳しく話を聞くと、だ。

 

 まず、集まっている人たちの言い分は単純明快。

 

『温泉』……すなわち、ソレがダンジョン由来であるのならば、それこそ独占的に使用する事が間違いであり、呪いが降りかかる原因になるので、即刻開放すべき……という主張である。

 

 

 ぶっちゃけ、その主張を聞いた時、前提が間違っていなければ正しい主張である……とは思った。

 

 

 なにせ、謎のビッグお姉さんから通告されていたが、『温泉』はダンジョンである。

 

『温泉』を利用できる者を制限するということは、すなわちダンジョンを恣意的に独占する行為にあたり、本来ならば呪いが降りかかってもおかしくない……話ではある。

 

 なるほど、間違ってはいない、理屈の上では。

 

 ただしそれは、あくまでも前提が間違っていなければ、の話だけど。

 

 そう、一見する限りでは理屈が通っているように思えるけど、前提をその人たちは勘違いしている。

 

 それは、『温泉』はダンジョンであると同時に、アイテムでもある、ということ。

 

 手に入れた者が所有権を得る、ダンジョンから手に入る恩恵の一つなのだ。

 

 なので、『温泉』をどう使おうが、所有者の自由である。

 

 それこそ、『温泉』の出入り口を並べて本来のダンジョンの通路を塞ぐくらいはしないと呪いが降りかかることはない。

 

 だって、本当に僕の行いがアウトなら、とっくの昔に僕自身が呪いで死んでいるからだ。

 

 それに、この『温泉』はゴマアザラシモドキ経由だけれども、もっと細かいルールを事前に提示されていて、僕はそれを守っている。

 

 先日、『ステータス』の【私からの一言】の項目に。

 

 

『──服を洗うくらいはギリギリセーフ、本当にギリギリ許します。ここからさらに、幼い子供だけでもとか、年老いた両親だけでもとか、そういうのを貴方が許したら天罰下しますので、あしからず』

 

 

 といった感じの忠告が入っていたから、余計に僕はルールを守っていたし、周知徹底させていたし、破ったやつは例外なく斧を投げつけて殺すつもりでいる。

 

 脅しというか、何度も言うけど僕だって死にたくないわけで。

 

 殺してでも守らせないと僕が死ぬんだから、むしろ、それでもルールの裏を突いて使わせているあたり、僕はだいぶ優しい方だと思うよ。

 

 謎のお姉さん、僕に対してけっこう優しいというか優遇しているっぽいけど、溺愛って感じじゃないんだよね。

 

 線引きが他より甘いだけで、それでも超えたらキッチリ罰を与えますってスタンスだから……だから、やる時はやりますよ、僕だって死にたくないから。

 

 そりゃあ、殺したくないよ。でも、いざという時にプルプルとナルシスト入った感じで迷っていたら自分が死ぬのがダンジョンの呪いだし。

 

 

 ルールを守れないなら利用するなって話だ。

 

 

 黙ってやるつもりなら、バレたら僕に殺されるのを覚悟するうえでやれって、僕は書面に認めてデカデカと掲示板に張り付けておくぐらい、周知させていた。

 

 実際……これだけ周知させても、いや、それ以前に反射的に何も考えず文句言ってくる人は少数ながら居るんだよね。

 

 今回のコレとは少し話が違うし、この前のことだけど、何を血迷ったのか石を投げられたし……知らないおばさんから、『恥知らず!』って罵られてね。

 

 

 たぶん、直情的に動いたんだろうね。

 

 

 今の僕の見た目って、ひとまず毎日お風呂に入っているから……たぶん、コネかなんかで良い思いしているって考えちゃったんでしょ。

 

 もちろん、やり返したよ。

 

 当てるつもりはなかったけど、当たったら運が悪かったねって感じで手斧ぶん投げて、顔のすぐ傍を通るように狙った。

 

 その時は、たまたま隣にあった街路樹にズドンと突き刺さって、気づいたおばさんが腰を抜かしていたけど……え? 

 

 

 警察に捕まらなかったのかって? 

 

 

 捕まるわけないじゃん、だって実物が無いんだもの。

 

 はた目にも分かるぐらい半狂乱になっている(なんか失禁していたっぽい)おばさんと、普通に手ぶらな僕……証拠も無いのに、そんなのいちいち警察も構っていられないって。

 

 

 ……で、まあ、話を戻すけど、今回押しかけてきた人たちだ。

 

 

 人数は、およそ……100人ぐらいだろうか。

 

 学校の最上階から数えたらしい……ずいぶんとまあ、集まったものだ。

 

 正門の柵は閉じられていて、乗り越えて入って来る者はいない。いや、これは居ないというよりは、出来ないといった方が正しいかもしれない。

 

 だって、全体的に年齢層が高いというか、そう見える人たちばかりが目に留まる。

 

 遠目にも、お爺ちゃんとかお婆ちゃんとか言われそうな感じなのだから、近くで見たら余計に……うっ、臭い。

 

 

『独占している入浴設備を、平等に開放しろー!!!』

 

『解放しろー!!』

 

『弱者を蔑ろにする、横暴を許すなー!!!』

 

『許すなー!!』

 

 

 なにやらリズムよく掛け声を繰り返しながら、看板を掲げる爺に婆に……う~ん、まあ、色々言いたいことはあるけど、一つだけ。

 

 

(……臭い)

 

 

 既に、5月。

 

 気温は4月の時よりも上がり、当然ながら汗を掻く機会も増えている。ぶっちゃけ、冬場の時と違って、二日間風呂に入らなかったら、はっきり分かるぐらいになっている。

 

 当然ながら、柵があったところで、臭いは防げない。

 

 正直、こんなの相手にしたくないなあって気持ちになっているけど、あの『温泉』の所有者は僕なわけだから、

 

 おそらく、集まっている眼前の人たちは、何か月とまともに身体を洗えていないのだろう。

 

 もしかしたら、生水ですら身体を拭っていないのかも……まあ、冬場の川水は冷たいしね。いや、まあ、それはそれで独特の臭いがするけど。

 

 

「はい、注目」

 

 

 とりあえずは、だ。

 

 ギャーギャーうるさい眼前の老人たちへと立った僕は、キッパリと告げた。

 

 

「あんた達の主張は分かった。それで、僕からの返答は一つだけ」

「アレは、『ダンジョン関連のモノでありルールがある』。ルールを定めたのはダンジョンなんだから、文句はダンジョンに言え」

「──以上、終わり!!」

 

 

 そう告げた僕に……一瞬ばかり面食らった様子の彼ら彼女らだが、すぐにヒートアップして僕へ罵声をぶつけ始めた。

 

 ただ、その勢いはさっきより少し弱い。

 

 理由は、深く考える必要はない。

 

 さっきは嫉妬やら不満やらで目を背けたまま突撃してきたけど、僕の言葉を受けて、改めて背けていた事実に目を向けたんだと思う。

 

 それすなわち、自分たちの行いがダンジョンの禁忌に触れているかもしれない……その可能性に。

 

 何度も言うけど、彼ら彼女らの言い分である前提が間違ってさえいなければ、呪いが降りかかるのは僕である。

 

 でも、その前提が間違っていたら、呪いが降りかかるのは僕じゃない。

 

 100:0と思い込んでいたコレが、実は50:50かもしれない……そう、考えてしまったわけで。

 

 だから、下手したら柵を壊してでも突撃しようとしてきた最初の時とは違い、今はもう言葉による圧力しかできないわけだ……で、だ。

 

 とりあえず先生には、学校に入ってきたら石でも投げつけろと、その後は無視しとけと伝えておいて。

 

 クラスメイトとかにも、無視しろ、なんかやってきたら殴り返せ、あいつらは人の皮を被ったモンスターだと伝えておいた。

 

 あと、いちおう警察にも連絡はしておいた。というより、こっそり先生たちが裏門から派出所に走っていってくれた。

 

 正直、警察という組織に対して良い印象なんて皆無だし、構造的に手遅れになってから動くわけだから、余計にそう思うけれども。

 

 それと、これと、話が違うわけで。

 

 出来るなら、『温泉』のお湯を分けてあげたいなあ……とは、思うけど……それしちゃうと、僕がヤバいことになるから、出来ないんだよね。

 

 だからまあ、それ以外では寄付してはいるけれども……で、だ。

 

 とりあえず、それで、その日は治まって、そのまま帰って行った。後に残ったのは、臭かった記憶とか、落書きとか。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………で、そのまま3日経っても何も無かったから、それであいつら諦めたんかな……と、思っていたら。

 

 

「……どうしたの?」

 

 

 何時ものように3人で登校し、それじゃあと別れようとした時……なんか、教室内で泣いている女子が居た。

 

 その子は確か、髪をいつも三つ編みでまとめている子だ。その周囲には他の女子たちが集まっていて、なにか声を掛けていた。

 

 

 ……マジで、何事? 

 

 

 状況が分からず困惑する僕たち……そんな僕たちに、気付いた男子が声を掛けてきて……そこで、ようやく事態が分かった。

 

 

 ──ありのままを語るなら、泣いている女子は襲われたのだ。

 

 

 誰にって、それは……三日前に学校に押しかけて来た、あの集団に。

 

 偶然にも、襲われた女子は、その中に居た複数人の顔を覚えていたらしい。

 

 なんでも、たまたま目があってから、なんかチラチラこっちを見てくるな……と、嫌な気持ちになっていたからだとか。

 

 あと、その複数人は、比較的年齢が若かったこともあり、そのせいでたまたま視線が行ったらしい……で、だ。

 

 

「……襲われたのは何時?」

「俺も又聞きだけど、昨日の夜らしい。なんでも、家に入り込んできたんだってよ」

「家に? 家族は?」

「あいつ、両親とも居ないんだって。祖母と弟の3人暮らしらしいんだけど……」

「……だけど?」

 

 

 そこで言いよどむ男子に、僕は嫌な予感を覚え……それは、悲しいことに的中してしまった。

 

 

「俺の聞き間違いなら良いんだけど、昨日襲われたときに、祖母が血を流して倒れているのが見えたって」

「──っ!」

「祖母が大声を出したおかげで、なんとか隙を突いて弟を引っ張って逃げて……友達の家に避難していたんだってさ」

「……なるほど、分かった」

 

 

 そこまで話を聞いた僕は……ゆっくりと、傍のレイダと愛を見やる。どういうわけか、二人とも、ちょっとビクッと肩を震わせた。

 

 二人とも、なんとも表現し難い表情をしていたが……それでもかまわず、僕は二人に問いかける。

 

 

「はっきり言うよ。僕は、やる。あいつら、僕じゃなくて、周りを狙った。なら、僕を狙ったも同じだ」

 

 

 二人とも、何が、とは問い返さなかった。

 

 

「そいつら、あの子がヤクザの娘とかだったら、襲っていたと思う?」

 

 

 二人とも、何も言わなかった。

 

 

「じゃあ、やらないと。言葉を捨てたのは向こう、それなら、こっちが言葉を使う道理はないね」

 

 

 だから、僕は……泣いている女子に近寄り、尋ねる。

 

 

「ねえ、襲ってきた相手の目印って、ある?」

「小山内くん、今は──っ!?」

 

 

 慰めていた別の女子が、僕へと振り返り──ビクッと、肩を震わせ、言葉を止めた。

 

 他の女子たちも、同様であった。

 

 でも、僕は構わず──問いかける。自分でも不思議に思えるぐらい、平坦な声が出ていたと思う。

 

 

「……小山内くん」

 

 

 そんな声色だったからなのかは知らないけど、泣いていた女子は……僕を見てから、ぎゅっと唇を噛みしめて……それから、僕へと問う。

 

 

「どうするつもりなの?」

 

 

 だから、僕は答える

 

 

「どうするって、決まっているじゃん」

 

 

 何時ものように、何時もの事として。

 

 

「切れば良いんだよ、何事もね」

 

 

 僕は……右手に出現させた手斧を、握りしめたのであった。

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。