切れば良いのだ、何事も!   作:葛城

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第40話: 「……まあ、大丈夫でしょ」 ← どうして、そう思ったのですか?

 

 

『衣』・『食』・『住』。

 

 

 この三つが揃って初めて人は心を安定させられるというが、これに関して、確かにその通りだなって強く実感するようになった。

 

 着る物に関しては、ぶっちゃけてしまえば、生命活動を維持するに十分なラインより上は、周りの影響が大きい。

 

 突き詰めてしまえば、みんなが例外なくシャツ一枚にパンツ姿が普通な状況が長く続けば、それで慣れてしまって誰も気にしなくなる。

 

 人が羞恥心を覚えるのは、そこに違いがあって、そこに周りが優劣を生じさせるからで、本当に全員がイーブンの立場になったならば、羞恥心は生まれにくい。

 

 もちろん、現実として、そんな状況は本当に極々稀というか、ほぼほぼ起こりえない状況だった……現在のような状況にならない限りは。

 

 

 これはまあ、実際に体感している。

 

 

 クラスメイトだけでなく、学校の女子たちなんて、最初の頃は恥じらいってモノがそれなりにあったのだけど、今ではそうでもない。

 

 僕の前で裸になっても(ちゃんと隠そうとはする)、悲鳴をあげたりしないし、間が悪くてそうなった時は、『ちょっとごめんね』と謝られて、それ以上は無い。

 

 まったく羞恥心を覚えていないということはないけど、明らかに、世界が今みたいな状況になる前よりも、そこらへんの感覚が薄れているように思える。

 

 麻痺している……というわけではないのは、確かだ。

 

 これは男子たちも同様で、最初の頃は同性であってもちょっと気恥ずかしそうにしている人は多かったけど、今ではもう誰も気にしていない。

 

 僕はいまだに恥ずかしいのだけど、僕が繊細過ぎるからだろうか。

 

 上半身ぐらい、ぎりぎりパンツ一枚ぐらいならともかく、素っ裸を見られると恥ずかしいよね……って思っているのだけど。

 

 

『裸を見られることに慣れたからじゃないの? そんなの気にしてグチグチ泣き言ほざいて、誰が助けてくれるのって話でしょ』

 

『むしろ、歴史を振り返れば歪なぐらいの、異常と言っても過言じゃないぐらいの恥ずかしがり屋なんですよ、現代人の羞恥心って』

 

 

 それをレイダと愛に何気なく尋ねたら、返ってきた言葉がソレだった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………まあ、そんな感じで、季節は再び廻り、7月も半ばに差し掛かった頃。

 

 

 この頃になると、学校には僕以外にも『温泉』を手に入れる者が現れ始めた。

 

 どうやら、数名でチームを組んで、一気に畳みかけて棒人間を仕留める……といったやり方で、チーム全員が『温泉』を手に入れるまで繰り返しているらしい。

 

『温泉』はあくまでも個人の物であり、チーム全員の所有物という扱いにはならないので、必然的に合意の下で約束を取り付けるようだ。

 

 最初にその話を聞いた時、それって約束を反故にするやつが現れたりしないのかな……って、思った。

 

 

 結果だけを見れば、そういう人は居たらしい。

 

 

 ただ、それをすると、『ステータス』に『契約破りガイ』なる表記が増える(ちなみに、女性の場合は『契約破りガール』)らしく。

 

 それで、そいつが重大な契約を一方的に破った人物だというのが分かるようになる……ここまで聞いて、僕はピンときた。

 

 そう……これまで皆がそれとなく目を逸らしてきていた『ステータス』を開示し、相手の詳細を知るという行為。

 

 

 それが、グループなりチームを作る際の、最低条件になったのだ。

 

 最初にその話を聞いた時、僕はちょっと驚いた。

 

 

 だって、これまで僕たち3人以外で、まともに『ステータス』を開示した人を見たことが無かったし、それはクラスメイトたちとて例外ではなかったからだ。

 

 でも、実際に生徒同士で『ステータス』を確認している光景を見て……僕は、なんとなく、これからはそれが普通になるんだろうなあ……とも思った。

 

 実際、『ステータス』を意地でも出さない生徒は少なからずいるけど、もうその時点で生徒たちは二つのグループに分かれた。

 

 言うまでもなく、『ステータス』を開示した側と、開示しなかった側だ。

 

 開示したからといって全面的に信用できる……というわけではない。

 

 けれども、後ろめたい部分は無いという証明にはなるし、有ったとしても、事前に分かるというのはそれだけアドバンテージってやつがあるわけだ。

 

 別に、『ステータス』を開示することが偉いわけではない。

 

 僕の『ステータス』には『ならず者キリング』なる、人殺しを意味するモノが追加されていたから、それだけを見て僕から距離を取る者だって0ではなかった。

 

 中には、相手を脅す意味や、仲間内で序列を決めるために開示する者はいるだろうし、こけおどしではない事を示すために見せつける者もいるだろう。

 

 でも、ほとんどの場合、明確に自分たちが安全であり、己が潔白であることを示し、相手からの一定の信用を得るうえでは、これ以上ないぐらいに都合が良かった。

 

 コレは何も、『温泉』に限った話ではなくて、あらゆる場面でそんな光景がチラホラ見かけるようになった。

 

 ダンジョンに行くのもそうだけど、何かしらの作業を協力する時でも、『ステータスを開示しない』というだけで明確に区別されるようになっていた。

 

 しかしまあ、これは開示しない側も同様である……のだけど。

 

 開示しないグループの方は、開示するグループに比べてより多くに細かくグループが分かれ、また、中には反社に引き込まれている生徒も居て……そんなわけで、だ。

 

 

 7月半ばを過ぎて、有って無いような夏休み。

 

 

 そう呼ぶには些か違うというか、去年の夏休みとはまったく事情が異なる夏休みがスタートしようとしていた中で……とある問題に、僕たちは直面しようとしていた。

 

 

『 ぴんぽんぱんぽ~ん 』

 

 

 それは、夏の熱気が高まり続ける最中のことで。

 

 

『 ──やあ、元気かな、私です 』

 

 

 その始まりは、久しぶりに青空に浮かぶ雲海よりにゅうっと姿を見せた、謎のビッグお姉さんの挨拶から始まった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………その瞬間、ざわっと張り詰めた空気が流れたのは……まあ、何時もの事になりかけていたし、致し方ないことだけれども、だ。

 

 

『 私は大変嘆かわしいと思っています 』

 

『 何故ならば、貴方たちはどうにもダンジョンへの気概というものが足りていないように見える 』

 

『 もちろん、色々と大変な状況にあって、目先の事ばかりにしか目が向いていないのは分かっております 』

 

『 しかし、あまりにもあなた達は気長に過ぎる 』

 

『 以前にも忠告したとおり、ダンジョンは待った無し、猶予はそう長くないというわけですが……ここで、私は考えました 』

 

『 どうやら、武器と防具が心許《こころもと》ないようですね 』

 

『 ダンジョンに入れば、武器や防具と交換できるモンスターはありますが、言い換えたら、狩らなければ手に入らないということ 』

 

『 これまでサボっていた大半の人たちにとって、そもそも、そのモンスターを狩ることすら難しいことに、感が鋭く思慮も深い私は思い至りました 』

 

『 なので、私はさらなるイージーモードを作りました 』

 

『 これまでそういった武器防具との交換になるモンスターは決められていましたが、今後は完全ランダム仕様となります 』

 

『 つまり、地下1階のクソ雑魚モンスターでも、運が良ければ武器防具と交換出来るかも……といった感じになります 』

 

『 もちろん、従来通りの交換も行われます 』

 

『 具体的に言うなれば、たま~にレアが混じっている、と思っていただけたら想像しやすいかと 』

 

『 イージーですね、あまりにもイージーですね 』

 

『 あまりにも甘やかしてしまうと、それを当然のモノと思い始めますので、気は乗らなかったのですが……そして、もう一つ、いや二つ 』

 

『 一つ目は、あなた達へ少々競争意識を持ってもらいたいという思いから、『テレビ』を設置することに決めました 』

 

『 この『テレビ』は、世界中の現時刻の光景をリアルタイムで見せる、不思議なテレビ。これで、少しばかり焦燥感というモノを感じてもらえましたら……そして、二つ目 』

 

『 ──さらに、非常に珍しい、『はぐれモンスター』と呼ばれる個体を、地上にも出現するように致しました 』

 

『 まあ、これは運が良ければ遭遇する、経験値が超高いレアモンスター程度に思っていて十分でしょう 』

 

『 いちおう、これはそうせざるを得なかったという、深い深いふか~い事情があるわけですが……まあ、いいでしょう 』

 

『 本当はダンジョンに行きたいけど、ダンジョンに行けなかった、そこの貴方たち 』

 

『 この機会に、運よく遭遇した『はぐれモンスター』を倒し、武器や防具などを手に入れ……先へ行きましょう 』

 

『 世界は、貴方たちを待っておりますよ 』

 

『 ……ああ、それと 』

 

『 そろそろ、地上にも以前話したように、モンスターが出ますので、頑張ってくださいね。健闘を祈ります 』

 

『 十分に準備をしてから、お覚悟を 』

 

『 では、また…… 』

 

 

 今回の話は、これまでの中で1,2を争うぐらいの、劇薬のような内容であり。

 

 実際に、縦横100mぐらいの超巨大テレビ(あらゆる角度や時間帯や天気に関係なく、鮮明に見える)が突如出現したのは、話が終わった直後で。

 

 

 これを受けて、僕たちは……ダンジョン探索を取りやめ、その『テレビ』とやらを見物しに向かった。

 

 

 なんでかって、僕だけでなく、現在の日本では、外国の情報が入ることがとんと無くなっていたからだ。

 

 なにせ、日本国内の情報ですら、人から人への伝聞とかが基本で、それも録画機器なんて使えないし不定期な状況なのだ。

 

 完全にテレビ放送が無くなったわけじゃないけど、以前に比べて明らかに数が減っている。

 

 

 いや、もうね、本当に減っている。

 

 

 比較的放送頻度が多かった番組ですら、今ではほとんどが放送終了になっているし、僕もここしばらくはテレビを点けていない。

 

 日本は島国で、周りが海に囲まれているし、旅客機なんて飛ばなくなって久しいから、余計に外国からの情報がシャットアウト状態。

 

 そんなわけだから、誰も彼もが『外国では、どのような状況になっているのか』ということを知りたくて、『テレビ』へと向かったわけだけれども。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………その結果、どうなったかと言うと。

 

 

 簡潔にまとめるなら、テンションがガタ落ちした。それはもう、二度目の石油消失かってぐらい、ガタッと落ちた。

 

 

 いったい、どうしてか? 

 

 

 それは、『テレビ』に映った外国の様子が……次々に、一定時間ごとに映し出される光景が……ありのままを語るならば、戦争が勃発していた。

 

 しかしそれは、近代のような戦争とは違う。

 

 まるで中世に戻ったかのような、剣やこん棒といった近接武器を片手にぶつかり合い、弓矢などの飛び道具が行き交う……文字通りの殺し合いであった。

 

 最初、それを僕たちは映画のワンシーンかナニカだと思った。

 

 そう思ってしまうぐらい現実感が無かったし、あまりにも規模が大きすぎて、CG映像にしか思えなかったからだ。

 

 でも、そうではなかった。

 

 一人、また一人。

 

 これはCG映像ではなく、リアルタイムの映像なのだという事を思い出し……少し遅れて、誰もが同じことを考えた。

 

 ──いったいどうして、彼らは戦っているのだろうか……と。

 

 

「……国そのものの乗っ取り……いや、これは、規模が大きいだけの無差別な暴動……???」

 

 

 その答えというか、推測を、傍に居る愛が、独り言のように話してくれた。

 

 まず、世界中にダンジョンは点在しているけど、コンビニのように探せばすぐ見つかるほどの数は確認できていない。

 

 日本は交通網やらインフラがまだ整っていた方だったからマシに済んだだけで、いきなりダンジョンだけで生きていけるような環境を整えていた国は、一つとしてない。

 

 原因は、ダンジョンの独占は呪いが発動するし、ダンジョンの権利を主張するような行為には呪いが降りかかるから、どこの国も怖がって触れようとはしなかったからだ。

 

 だから、住んでいる地域によっては、最寄りのダンジョンまで数十キロ歩かなければならないなんてところもあるだろう。

 

 

 ……と、なれば、だ。

 

 

 以前ならともかく、今はダンジョン周辺に人が集まって来るのは必然、むしろ、現状唯一の生命線といっても過言ではない。

 

 石油という替えが効かない燃料資源を失ってしまった以上、よほどの理由が無い限りは……人々は、一極集中を続ける。

 

 そうなれば、待っているのは……人口密度の完全な許容オーバー。

 

 東京に例えるなら、たった1年で人口が2倍、3倍、4倍と増えたようなもので……そんなの、例外なく破綻して当たり前である。

 

 しかし、先述したとおり、ダンジョンそのものの独占は出来ない……が、しかし、ダンジョンが関係していないならば、話は別だ。

 

 そう、例えば、住民同士のいざこざからくる殺し合いならば、ダンジョンの呪いはギリギリ発動しない……のでは、ないだろうか。

 

 外から中に入る事を、止めることはできない。それを排除しようと動いたら、呪いが待っている。

 

 しかし、次から次に外から押し寄せる人口に対して、個人レベルで身を守るために跳ねのけようとする分には、大丈夫な範囲が大きい。

 

 そう考えれば、『テレビ』に映し出されているそれは戦争ではなく、規模が大きいだけの無差別かつ無秩序な暴動で、制御が完全に失われているのではないか……というのが、愛の見解で──っと、その時であった。

 

 

「あっ」

 

 

 誰かが、声をあげた。

 

 理由は、『テレビ』の映像が切り替わったからで……改めて、映し出された映像は、外国と思われる風景と共に映し出されたモンスターだった。

 

 その姿は異形……まさしく、異形なモンスターだ。あえて近しい動物の名を挙げるならば、カメレオンだろうか。

 

 少なくとも、僕はそのモンスターの名を知らなかった。

 

 見聞きしたことがない姿形をしたモンスターで……それが、なんと、次々に人を襲っているのだ。

 

 そのカメレオンモンスターの大きさは、襲われている人の体格から考慮して、おおよそ4,50m近くある、超巨大なモンスターだ。

 

 そのカメレオンモンスターは、その名の通り長い舌をビュット伸ばして、次々に人をからめとって食べていく。

 

 逃げ惑う人々、『テレビ』から聞こえてくる音声は、現地の人たちの悲鳴や怒声、鬼気迫る雰囲気を伝えていた。

 

 その中には、銃声も聞こえる……が、しかし。

 

 カメレオンモンスターには、まったく効いた様子が無い。衝撃にうろたえる様子もなく、その行進を誰も止めることができないでいる。

 

 銃弾は当たっている。

 

 中には、バズーカと思わしきモノが着弾する様も……けれども、やはり堪えた様子はなく、瞬く間に傷が治り……まるでわんこ蕎麦のごとく、人間が食われてゆく。

 

 それは、地獄のような光景であった。

 

 どれだけ命乞いをしようが、どれだけ泣き叫ぼうが、無機質な瞳をぎょろぎょろと動かすカメレオンモンスターは、舌を伸ばして新たな人間を──っと。

 

 また、映像が変わる。

 

 今度もまた、モンスターだ……ここまで説明すれば、どうしてテンションが下がったのかが分かるだろう。

 

 

「……え、あんな化け物が、これから先、地上に出てくるの?」

 

 

 思わず、僕もそうつぶやく。

 

 そう、これまで戦ってきたモンスターとは危険性が違う、とんでもないモンスターの出現予告に。

 

 映像を見た誰もが……言葉を無くし、高揚感もまた完全に失ったのであった。

 

 

 

 

 






※ カメレオンモンスターは、レアモンスターではありません。以前、謎のお姉さんがちょろっと語っていた、間引きが足りなくて出現するタイプのモンスターです


※ なお、「──あっ」は、コレではありません
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