切れば良いのだ、何事も!   作:葛城

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※ セクシャルな描写、バイオレンスな描写あり、苦手な方は注意


第42話: 言葉はもう届かない

 

 

 

 

 ──初めて見る幼馴染の裸を前に、僕はとても不思議な気持ちになった。

 

 

 胸の大きさを考えるなら、愛の方が大きい。大きい分柔らかくて、重量を感じるのは愛のおっぱいの方だ。

 

 でも、不思議と、僕は彩音のおっぱいが一番手に馴染むような気がした。

 

 

 お尻の張りを考えるなら、レイダの方が張りはある。大きくて形が良くて、触るとすべすべしていて、気持ちいい。

 

 でも、不思議と、僕は彩音のお尻の方が一番手に馴染むような気がした。

 

 

 同じ裸だ。そこに、違いはない。

 

 

 おっぱいがあって、お尻がある。むしろ、一時期の栄養状況とかを考えたら、彩音の裸は二人よりも一段二段は貧相なんだと思う。

 

 でも、不思議と、僕は人生で一番硬く勃起したと断言出来た。あまりにも固くなり過ぎて、ちょっと痛かったぐらいだ。

 

 好きとか、嫌いとか、そういうのとは少し違う気がする。いや、こんな事を言うのもなんだけど、僕自身、良く分からなかった。

 

 

 前は、ちゃんと好きだったと思う。

 

 

 浮気された時、正直なところ、僕は彩音の事が汚いと思った。持っていたスマホも、汚いモノと繋がっていて汚いと思ったぐらいには。

 

 

 話したくないって、その時は思っていた。

 

 話したいとは思わなかった。

 

 話してほしいとも、思わなかった。

 

 

 でも、それでも、僕は……彩音に、不幸になってほしいとは思えなかった。

 

 

 たぶん、僕は心から怒っていたんだと思う。

 

 でも、怒っていないという気持ちもあったんだと思う。

 

 そりゃあ、やった事は許せないし、今の彩音の境遇は自業自得だって思う部分はある。

 

 運よく僕はやり返せただけで、あのままだったら、僕は長年良くしてくれた幼馴染を捨てて浮気した最低男って扱いになっていたから。

 

 

 でも、それでも……それ以上の事を、僕はする気にはなれなかった。

 

 

 彩音との思い出は、本当に些細なことが多い。

 

 どんな思い出があったかなと思い出そうとしても、うまく思い出せない。ただ、ふとした拍子に、思い出す事が多い。

 

 何気ない帰り道にて伸びる影を見て、夕暮れの中で僕の手を握ってくれた時の事を思い出し。

 

 ダンジョンにて負った擦り傷を洗っている時、擦りむいた膝に絆創膏を貼ってくれたことを思い出し。

 

 周りからバカにされても、変だよと言われても、僕の傍に居てくれたり。

 

 デートっぽい遊びに行った事もある。

 

 

 でも、今になって、彩音はだいぶ僕に気を使っていたんだなって思えるようになった。

 

 

 苦痛だったと思う。

 

 嫌だったと思う。

 

 今になって分かるけど、当時の僕の恰好だけでなく、全体的な雰囲気は……お世辞にも、良くなかった。

 

 そりゃあ、そうだ。

 

 今はだいぶマシになったけど、あの頃の食事なんてお世辞にも栄養バランス最悪なうえに足りてないこともあったから、僕はかなり痩せていた。

 

 傍から見たら、明らかに親から虐待を受けている児童……でしかなかった。

 

 僕は隠し通せているつもりだったのだろうけど、そんなわけがない。

 

 周りからしたら、なんでこんな子に、こんな美少女が一緒に……そう、思われていたと思う。

 

 実際、周りからそう言われている彩音を、何度か見た覚えがある。

 

 でも、彩名はそれでも、僕から離れるなんてことはしなかった。

 

 その事を、僕は嬉しいと思っていた。申しわけないとも思っていたけど、それ以上に嬉しかった。

 

 本当に、本当の本当に、涙が出るぐらい嬉しかった。

 

 

「……正直さ」

「え?」

「彩音が浮気しているのを見た時……ああ、ついにこの時が来たか……って、心の中でちょっと思ったんだ」

 

 

 うっすら汗で濡れている彩音の横顔を見ていると、その時の事を思い出す。喘いでいて、逃げようとしていなかった彩音の姿が。

 

 行為が終わって、僕と彩音以外は寝息を立てている……わずかばかりにと付けられた小さな照明が、うっすらと彩音の裸体を照らしていた。

 

 

「客観的に見たら、僕自身って大した魅力無いもの。むしろ、他所に男作らない方が不思議ってぐらいだったし」

「そんなことは……」

「そんなこと、あるよ。僕って、そこまで自意識過剰じゃないから」

 

 

 反射的に身体を起こそうとした彩音をなだめつつ、僕は……改めて、当時の事を考える。

 

 

「そりゃあ、浮気を擦り付けようとしたのは彩音が悪い。僕への評価は別として、二股を……いや、僕はまだ童貞だったから違うけど、そこだけはちゃんと彩音が悪い」

「うん……」

「でも、心変わりをするなってのは僕の傲慢かな……って。そこを抜いたら、結局これって順番を間違えたって話だなって」

「……そんなことないよ」

「そんなこと、あるよ」

 

 

 そう、そんなこと、あるんだ。

 

 あるから、彩音は僕に対して何も言えない。

 

 彩音の方からだって、言いたいことはいっぱいあると思う。むしろ、無い方がおかしいと思う。

 

 でも、どこをひっくり返しても、結局のところは、全てが言い訳になってしまう。だから、彩音は僕に何も言えない。

 

 それは、浮気をして良い理由にはならない、この一言で終わってしまうから。

 

 

「……ねえ、彩音」

「なに?」

 

 

 でも、それでも……僕は、何も言えなかった。

 

 本当に、彩音は僕の事が好きだったのか……と。

 

 信じたい気持ちと、疑う気持ちが、交互に湧いてくる。

 

 冷静な心の部分が、『小学生の時から、そんなこと出来るわけがない』と訴えてくるけど。

 

 でも、感情的な部分が、『でも、それならどうして……』と、彩音の事を疑おうとする。

 

 彩音の口から、本心を聞きたいという気持ちと。

 

 幸せな思い出のままに終わってほしいという気持ちが。

 

 交互に、交互に、交互に、やってくる。

 

 本心を聞きたいと考える時点で、疑っているわけだけど……それは分かっているのだけれども、僕は。

 

 

「……やっぱり、なんでもない」

「……うん」

 

 

 まだ、僕は……綺麗な思い出を、綺麗なままにしておきたい。

 

 本当にそれが綺麗な姿をしていたのか、それとも、僕だけが綺麗だと思い込んでいただけなのか。

 

 まだ、僕は……それを知る度胸も、覚悟も、無かった。

 

 話さないと分からない……愛のその言葉が、僕の脳裏を過る……でも、勇気を出せなかった。

 

 それでも、区切りにはなったのかもしれない。

 

 それは、心地よい切り替えではなかったけれども、それでも、僕の中では……少しばかり、何かが変わったような気がした。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………そうして、翌日。僕たちは簡単な食事を取ってから、『家』から現実世界へと出る。

 

 

 そのまま別れる……という空気というか、タイミングじゃなかったからなのか、なんとなく僕たちは一緒に行動する。

 

 レイダも愛も、全然気にした様子が無い。早くも、今日のお昼の話をしている。

 

 二人とも割り切っているのか、それとも気にしないタイプなのか……なんだろう、僕と彩音だけが、どうにもぎくしゃくしている気がする。

 

 時刻は朝、昨日の巨大テレビの映像は何か変わったのかと向かえば……画面は、真っ暗になっていた。

 

 

『──テレビは一日8時間──』

 

 

 そんな文字が、真っ暗な画面にデカデカと表示されている。

 

 テレビが置かれている周囲は、昨日とは違って人がまばらだ。

 

 行く当てがなく、不安から残り続けているのか、それとも、真っ先に確認するために来ているのか……それは、分からない。

 

 ただ、昨日みたいにパニックなりかけのような、危険を予感させる喧騒は無くなっていて、代わりに……消えかけた火のような、なんとも言えない空虚な空気が流れていた。

 

 

「──あっ」

 

 

 そんな中で、ふと、彩音が足を止めて……つられて僕たちも止まれば、「あっ」僕も、思わず声が出た。

 

 同じ構図になって、初めて気づいた。

 

 そこは昨日、ちょうど僕が彩音を見つけて、彩音の手を取って、連れ出した場所だったからだ。

 

 狙って移動したわけじゃない。

 

 むしろ、彩音が立ち止まらなかったらそのまま一生気付かなかった可能性すらある。

 

 

「……ハチくん」

 

 

 そんな偶然の中で、彩音がギュッと唇を噛みしめて……今日初めて、僕を見た。

 

 あの日から、あの時から、初めて……罪悪感とか、そういうのとか無かった、綺麗な思い出の中にある、同じ瞳で僕を見た。

 

 いったい、何を言おうとしているのか。

 

 噛みしめた唇は、開かない。

 

 でも、彩音は心を絞り出そうとしている。

 

 話さないと分からない、その言葉が脳裏を過る。

 

 彩音が、何かを語ろうとしている。

 

 僕はそれを、静かに見つめる。黙って、その時を待つ。

 

 視界の端で、レイダと愛がそっと距離を取ったのが見える。

 

 彩音の唇が、ゆっくりと開かれる。

 

 音が、ゆっくりになる。自分の心臓の音が、よく聞こえる。

 

 

「ハチくん、あのね──」

 

 

 僕を呼ぶ声が──僕はソレに対して。

 

 

「なに、あや──」

 

 

 その瞬間──ナニカが下から伸びて、僕と彩音の間を遮った。

 

 

「ね」

 

 

 幼馴染の名は、そのナニカに遮られ──直後、ぐちゃり、と、ナニカが潰れた音がした。

 

 

「──え?」

 

 

 ナニカが、頬に当たった。何が起きたのか、分からなかった。

 

 ただ、黒いナニカが蠢いたかと思ったら、ぎょろりと目玉が姿を見せた。

 

 それはまるで、クジラを思わせる大きな目玉だった。

 

 その目玉は、一度、二度、三度、瞬きをしてから、黒いソレと一緒に下へと下がり……視線で追いかければ、それは暗い穴の奥へと……??? 

 

 

「……え?」

 

 

 意味が、分からなかった。

 

 穴の近くには、小さな手首が転がっている。

 

 手首から先だけが、無造作に転がっている。断面図から血が滴っていて、ぴくぴくと痙攣しているのが……?? 

 

 

「なに、これ?」

 

 

 意味が分からず、それを手に取る。

 

 暖かくて、小さくて、それでいて、覚えのある手のひらの──瞬間、グンと身体が後ろに引っ張られた。

 

 何が……レイダだ。

 

 レイダが、これまで見たことがない形相で、僕と愛を抱えて全力で走っている。それはもう全速力なのが、視界の揺れで分かった。 

 

 揺れている。

 

 周りが、グラグラと揺れている。

 

 ふと、隣へ視線を向けたら、揺れる視界の中で、顔を青ざめて硬直している愛の姿があった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………手に持った、暖かい手のひらを見やる。

 

 

 それは、どこか見覚えのある手のひらだった。

 

 それは、どこか触れた覚えのある手のひらだった。

 

 少しばかり……そう、間近で確認しないと分からない、見覚えのある指の形を見て……僕は、思った。

 

 

(  殺す  )

 

 

 絶対に、絶対に、どんな手を使ってでも殺してやる。

 

 交換なんざ、しない。

 

 何の意味もなく、何の利用もされず、只々殺されろ。

 

 覚えた、覚えたぞ、絶対に、忘れないぞ。

 

 頬の生暖かいヌメリが渇いて、そこへ、頬を伝っていく冷たい感触。

 

 ギュッと握りしめた指先は、当然ながら、握り返されることはなくて……少しずつ冷たくなっていくのが、伝わってきたのであった。

 

 

 

 

 

 

 





 第1部完



※ 裏切られてもなお心のどこかで無自覚に想っていて、その相手と、己の傷を抉り出すような繋がりを経て、ようやく心が一歩前に行けると自覚出来た瞬間、それが永遠に途絶えてしまう……それも、目の前で……こういうの好きや……




 謎の●●さん「あっ──」 ←(デモンストレーションとして一体だけ地上へ飛び出すモンスターの出現地点を、うっかりハチの前方に固定。さすがに初見殺しにも程があるので、善意で絶対にハチには当たらないよう調整し、ハチが立ち止まってから一定時間経過後、そのまま動かないと判定されたら一度だけ出現する……と、設定。なお、ズルは良くないとハチには一切知らせず、この数時間後にはもうこの設定のことを忘れた)



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