切れば良いのだ、何事も!   作:葛城

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※ プロローグなので、ちょい短め


第2部: プロローグ

 

 

 

 ──自分でもよく分からない気持ちに、なんだか心が落ち着かない……皆さま、いかがお過ごしでしょうか、小山内ハチです。

 

 

 彩音は、僕の事をどう思っていたのか。

 

 僕は、彩音にどんな言葉を返すつもりで居たのだろうか。

 

 

 結局、それは最後まで分からずじまいのまま……僕は、人が住んでいる気配がまるで感じられない島田家に居た。

 

 住んでいる気配が無いと僕が称したのは、室内には彩音が生活していた痕跡があるのだけど、それ以外の気配が途絶えているように見えたからだ。

 

 室内には、干された彩音の衣服があるけれども、それ以外が無い。食べ物の痕跡も、彩音の分と思われる一人分だけ。

 

 

 ……彩音の両親は、どうしたのだろうか? 

 

 

 これまでの『ダンジョン』絡みの騒動で……それとも、アレのせいで……もしくは……彩音を捨てて? 

 

 どれも推測の域を出ないが……彩音の部屋に飾られている写真立ての内の一つに、僕の視線が吸い寄せられる。

 

 その写真は……僕が覚えている限り、ちゃんと彩音と撮った数少ない写真であった。

 

 現像にもお金が掛かるので、僕は持っていなかったけど……それが、彩音の勉強机にポツンと置かれていた。

 

 その写真に写る僕の姿は、客観的に見て、酷い姿をしていた。表情こそ笑顔だけど、一目で虐待児童だなって分かる恰好だった。

 

 そんな僕の隣で、彩音が笑っている。僕と手を繋いで、僕と同じように笑ってピースサインをしていた。

 

 ……無言のままにその写真と、他に彩音だけが映っている写真を見つけ、それを懐に入れた僕は家を出る。

 

 家の外で待っていたレイダと愛に挨拶をしてから、僕は……学校へと向かった。

 

 学校には生徒が集まる。

 

 人伝とはいえ、人数が集まればそれだけ色々な情報が集まることもあって、いつしか学校は勉強する場ではなくコミュニティの場としてでしか思われなくなっていた。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………あの日、僕の目の前で、彩音を食い殺したヤツは、あらゆる場所に姿を見せた。

 

 

 どうやら、アレは一体だけではないようだ。

 

 アレへの対処法が謎のお姉さんより告知されるまで、約2日間。

 

 どうやら、思っていたよりも人間が弱いと判断したっぽくて、これはちょっとテコ入れしないとなあ……って流れなんだとか。

 

 3日目には、『出現頻度抑えますので、その分だけダンジョン行け、出ないと元に戻す(要約)』というお告げと共に、アレの姿をまったく見なくなった。

 

 なお、アレの出現頻度それ自体は、全体として見たらかなり低かったらしくて、アレの存在を知らない人が大半だったようで。

 

 二階より上に居たらまず問題ないが、地上に居るとアレの射程距離になるようで、けっこうな割合で『え、そんなの居たの?』といった反応だった。

 

 

 …………で、まあ、うん。

 

 

 アレの対処法としてはまず、地面の分類に該当しないモノがあれば、そこから上は安全……という性質のモンスターのようだ。

 

 アスファルトだろうと、コンクリートだろうと、それを地面に敷き詰めると、それ自体が地面の一部として分類され、貫通してくるけど。

 

 上に物を置いて足場を作ったりする程度なら、それを障害物と認識して、その上は襲ってこないようになっているのだとか。

 

 

 まあ、つまり、だ。

 

 

 廃材でもプラスチックのボードでも、取り外しできるようなモノなら足場判定され、アスファルトのようなモノは、地面判定されるようだ。

 

 ちなみに、靴はアウト。厚底靴も、ある程度低ければアウト。そこに何の違いがあるのかって思ったけど、とにかくアウトらしい。

 

 また、足場判定されるのは、ソリでも一輪車でも良い。あと、水たまりでもOKらしいけど、ダメな場合もあるらしい。

 

 正直、基準が分からないなあ、と僕は思った。

 

 だって、固いアスファルトやコンクリートは容易くぶち破ってくるのに、布切れ1枚あるだけで、アレは攻撃してこなくなるのだ。

 

 もちろん、何も無い場所を歩いた瞬間に襲われるわけじゃないし、襲われる可能性は稀である。

 

 でも、0%と、それ以外との間には、文字通り天と地ほどの差があるわけで……必然的に、ただでさえ行動範囲が狭まっていたのに、さらに縮まるキッカケとなってしまった。

 

 

 当然ながら、可能性が低いとはいえ、だ。

 

 

 翼でも生えていなければ、もはや隣の家に向かうだけでも覚悟しなければならない環境に……誰も彼もが、寝床と移動経路の確保を優先せざるを得なかった。

 

 そりゃあ、そうだ。

 

 起きている間ならともかく、寝ている間なんて攻撃の避けようがないし、出現する場所、その兆候を感知できるレイダでも、即死してしまうのだから。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………そんな中で、だ。

 

 

『──やあ、少年、私です』

 

 

『鍵&家』の中にある、使われていない部屋にいた僕は……謎のお姉さんから、いつものように話しかけられていた。

 

 いつものように、気配も前触れもなく、背後より声を掛けられた。

 

 ……しばしの沈黙の後、謎のお姉さんがそっと傍まで来たのが気配で分かった。

 

 

「こんにちは、お姉さん。今日は何の用なの?」

『大した要件ではないのです。ただ、貴方の大切な方がお亡くなりになったと小耳に挟みまして……』

「…………」

 

 

 再び沈黙していると、そっと……6本の腕が視界の横より伸びて、大きな花束が……僕の眼前に置かれた。

 

 今ではもう金を出しても見ることができない、人の手で育てられたかのように整えられた、立派な花束だ。

 

 それと、クロワッサンも置かれた……お供えのつもりなのだろうか。

 

 あいにく、宗派とかそういうのは分からないから、それが良いのか悪いのかは分からなかったけど、たったいまオーブンから取り出したかのような、焼きたての匂いがした。

 

 

『──さて、少年。今日、私は貴方にお話があって来ました』

 

 

 そして、クロワッサンを置いてから5秒ほど経ってから……唐突に、謎のお姉さんは話を切り出した。

 

 

『実はですね、少し見直そうかと思ったのです』

「見直すって、何を?」

『貴方たち人間が集結して行動すると罰を与える、ダンジョンの呪いの条件です』

「……は?」

 

 

 そこで、僕は思わず振り返った。

 

 そこには、いつものように無表情で……閉じられた瞼の向こうよりこちらを見ている、謎のお姉さんと目が合った気がした。

 

 

『──私は詳しいのです。人間の真の強みは、力と知恵を集結させて1を作ること。そして、1を2に、2を3に、増やしていくこと』

『──しかし、それも長く続きません』

『──必ず、集団となった人間は、増やしたソレに寄生する者が現れ始める。もはや、それは遺伝子に定められた規定と言っても過言ではない』

『──しかも、寄生する者は増えこそすれ、減りはしない』

『──100だったものを99に、99だったものを98に……寄生した人間は、あらゆる手段や非道を用いて、宿主を死なせるまで吸い尽くし……新たな寄生先へと飛び立つ』

『──これまで、幾度となく繰り返されました』

『──せっかく質良く育ったかと思えば、どこからともなく寄生する者どもが現れ、かと思ったら、育てた者の中にも表れ始める』

『──腐敗は、絶対に避けられない。人が人である限り』

『──ゆえに、私は定めました』

『──寄生するのであれば、初めから要らぬのだと』

『──そして、私は実行しました』

『──そして、また失敗しようとしている』

『──私は、こう見えて色々と考えているのです』

『──ゆえに、私は少しばかり改めることにしました』

 

 

『──貴方たち人類に与えていた、あらゆるダンジョンへの規制を撤廃しましょう』

 

 

『──色々と考えてもどうもうまく行きませんし、いっそのこと自由にさせても良いのでは……そう、逆転の発想というやつです』

『──もしかしたら、今の人類は……これまでとは違って、本当の意味で人々が協力し合い、動いてくれるかもしれない』

『──10を守るために1が自ら命を捨て、1を守るために10が自ら命を捨て……結果的に、100に至る』

『──これまでになかった、そういう人類かもしれない』

 

 

 その言葉と共に、謎のお姉さんは……ズイッと、僕を指差した。長く細い指先が、ツンと僕の額を突いた。

 

 

『──小規模なチームで挑んでも良い』

『──大規模な組織を作っても良い』

『──共同で管理しても良いし、管理しなくても良い』

『──それとも、これまで通り自由でも良い』

『色々と、他にもテコ入れするつもりですが……明日からですので、気を付けてくださいね。今日はまだ、呪いが発動しますので』

 

 

 そして、それだけを言い残すと──次の瞬間にはもう、謎のお姉さんは僕の前から姿を消していた。

 

 後に残された僕は、しばしの間……誰も居なくなった空間を見つめた後で。

 

 

「……え、ヤバくない、それ?」

 

 

 それ以外の感想が、出なかった。

 

 実際、レイダと愛にも、この話をしてみたら。

 

 

「……大丈夫なの、それ?」

 

 不安を覚えたレイダは、困ったように頭を掻いて。

 

 

「…………あ、すみません、ちょっと立ち眩みが」

 

 愛は、サーッと顔色を悪くしたかと思ったら、くらりと傍のクッションにもたれ掛かり、しばらくそのままになったのであった。

 

 

 




謎のお姉さん「我ながら、妙案だ……」
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