切れば良いのだ、何事も!   作:葛城

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※ ちょっとバイオレンスな描写あり




第1話: 真の意味で平等は無い

 

 

 

 ──愛は言った。

 

 

「一つ、間違いなく、国は『ダンジョン』の管理に動きます。何時から始まるのかは分かりませんが、法解釈を無理やり捻じ曲げてでも、最優先で確保に動くはずです」

「法解釈って言っても、法律でダンジョンには一切手出し無用で誰のモノでもないみたいな扱いじゃなかったっけ?」

「法なんてのは結局のところ、一部の者たちにとって下をコントロールしやすくするためのルールであり、議員や検察や裁判所が結託してしまえばいくらでも無理を押し通せるのです」

「そうなの?」

「極論になりますけど、どれだけ法に反したとしても、知らぬ存ぜぬを通せば止められません。それこそ、殺人ですらいくらでも無罪判決を下すのは可能です」

「え、そんなの通せるの?」

「通せます。やろうと思えば。罷免(ひめん)させるにしたって、結局のところ、判断を下す議員が結託してしまえば、何の意味もありません」

 

 

 ──愛は言った。

 

 

「二つ、間違いなく、管理に反対する者を例外なく警察などを通じて捕まえるでしょう。それこそ、テロリスト認定を下してでも、あるいは人々が正義のこん棒で探し回るでしょう」

「……そこまでする?」

「します。それを歴史が証明しています。直近の戦争である第二次世界大戦ですら、国民を苦しめたのは同じ国民でもありますから」

 

 

 ──愛は言った。

 

 

「そして、これまでとは違い、人々の間に明確な派閥が生まれます。今まで、『ダンジョンの呪い』という目に見えない防波堤があったから防がれていた悪意が、必ずむき出しになります」

「と、言うと?」

「まず、ハチが所有している資産を騙し取ったり、奪い取ろうとする者が出てくるでしょう。まあ、その前に、国が合法的という建前で、押収しようとするでしょうけど」

「……無茶苦茶じゃない、それ?」

「無茶苦茶だと訴えろと国は言いますよ。ただし、裁判所もグルですので、寿命が尽きるまで進展させないでしょう。その間は国の方が一時預かりという体にして、絶対に返さないでしょうけど」

 

 

 ──愛は言った。

 

 

「国や司法や警察だけではありません。今後は、隣人たちも当然の権利として、これまで以上に分け与えることを正当化……いえ、それ以上、共有することを強要してくるはずです」

「そこまで?」

「間違いなく、してきます。『みんな困っているから』といったもっともらしい理屈を並べて全て奪い取るでしょう。そして、奪い取られた貴方はこれまで良い思いをしていたのだからと、分け与えられることはありません」

「……あまり、否定できないかも」

「私とレイダは、ハチと一緒に行くことを決めました。私も、家族がハチへ援助の追加を求めるよう私に訴えてきたらそこで縁を切りますし、もうその時点で家族とは思いません」

「いや、そこまでしなくても……」

「しないと駄目です。それを訴えた時点で、彼ら彼女らはもう、それを悪い事とは思っていません。むしろ、拒否された時点で、自分たちこそ被害者であり、貴方は独り占めするケチ臭い男だと絶対に認識します」

 

 

 ──愛は言った。

 

 

「ですから今後、どんな理屈や理由を並べて今以上の譲歩や融通や共有化を求めてきたら、その時点で明確に切り捨ててください」

「…………」

「忘れてはいけません、ハチは善意でやってきたのです。それ以上を求めた時点で、もうその人たちの中ではソレが当然の共有物で、口だけの感謝しか抱いていない状態になっている、ということです」

 

 

 ……愛は、言った。

 

 

「いいですね? 今後、もっとも重要かつ価値を持つのは金ではなく、信頼であり信用です。それを、肝に銘じておくべきです」

 

 

 そう、愛は……寝る直前まで、こんこんと僕に忠告し続けたのであった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………そして翌日、空に姿を見せたビッグ謎のお姉さんは、僕に話したのとほとんど同じ内容を、全世界へ発信した。

 

 

 最初は、ざわめきばかりであった。

 

 そりゃあ、そうだ。

 

 歴史の教科書にも載っているぐらい昔からある『ダンジョンの呪い』が解除されたという話なのだ。

 

 呪いの恐ろしさはもう、遺伝子レベルで刻まれているといっても過言ではないし、僕だって、呪いと聞けばその場で手を止めるぐらいだから。

 

 そして、さらに翌日、そのまた翌日……ざわめきばかりでは、なくなった。

 

 一日、また一日、経過するたび、明らかに緊張感というか、言葉には出来ない不穏な気配を感じるようになる。

 

 もしかしたら、愛の予見通り、みんなも想像していたのかもしれない。国が、ダンジョンを管理下に置いてしまう可能性を。

 

 実際、ビッグ謎のお姉さんの告知から五日後。

 

 

『──ダンジョンは本日より国の管理下に置かれます』

『許可なき侵入は銃殺許可も出ております』

『許可証は、管理センターより発行できます』

『ぜったいに、無断侵入してはいけません』

 

 

 そんな、有無を言わせない警告と共に、『ダンジョン』出入口は事実上封鎖されたのであった。

 

 いったい誰が……それは、警察と自衛隊である。

 

 それも、どちらも非常に物々しい気配を放ち、出入口を封鎖する彼らに向かって、いくらかの集団が文句を言いに出た男たちがいた。

 

 けれども、それはすぐに出なくなった。

 

 何故なら、彼らは暴力で以て一気に抑え込んだからだ。

 

 威嚇して遠ざけるとか、そんな段階ではない。

 

 年季の入ったプロテクターを身にまとった彼らは、警棒などを始めとして、明らかに敵対者を傷つけるための武装をしていた。

 

 これまでなんとか確保されていた装填済みの銃器すら見え隠れしていて……幸いにも使用はしなかったが、文句を言った者たちは悲惨であった。

 

 有り体に語るなら、リンチである。

 

 

 たぶん、見せしめの意味があったのだろうと僕は思う。

 

 

 それぐらい、一方的であった。

 

 途中から『許してください』と何度も泣き言が聞こえたけど、彼らは一切手加減することなく、プレートが入った靴で何度も蹴りつけていた。

 

 彼らがリンチを辞めて元の位置に戻った時にはもう、男たちは悲惨な状態になっていた。

 

 遠目からなので正確には確認出来なかったが、遠目からでも『アレはもう助からない、間もなく死ぬ』と分かってしまう状態だった。

 

 ぐったりして動きが全く無かったし、元の顔が分からないぐらいに変形していて、目玉が片方飛び出ていた。

 

 たぶん、既に死んでいたのかもしれないけど……とにかく、邪魔だと判断したのか、途中でどこかへ運ばれていったけど。

 

 そんな光景を見せられて、果たして誰が続くだろうか……当然、誰もが怯えて、距離を取った。

 

 

 そして、そのリンチから一時間と経たないうちに、宣告された。

 

 『管理が解かれる予定は現状無いし、例外も認めない』、と。

 

 

 つまり、管理センターで許可証を発行してもらわない限り、僕たちはダンジョンに入れない、というわけだ。

 

 これには、話を聞いた者たち、ダンジョンに入ろうと来ていた者たち、例外なく怒りを露わにした。

 

 僕だって、滅茶苦茶不快感を持った。レイダもはっきり分かる程度に機嫌を悪くし……愛は、とにかく顔色が悪かった。

 

 でも、そんな僕たちの反応を他所に、彼らはまったく引かなかった。

 

 なんなら、武器を構えて向かったやつの……胴体に銃弾を撃ち込んで射殺し……ここでようやく、僕たちは悟った。

 

 

 ──本気だ、と。

 

 

 仕方がなく、僕たちは管理センターに向かったのだけど……そこでもまた、あまりにも理不尽過ぎる説明がなされた。

 

 

『──成果物の50%をダンジョン利用料として徴収!? ふざけるなよ、横暴にもほどがあるだろうが!!』

 

 

 そんな怒声が、全ての受付だけでなく、その怒声を聞いた者たちから、連鎖的にこぼれた。

 

 ……成果物。すなわち、ダンジョンで手に入っていた物、その全て。

 

 手に入れたモノの50%を利用料……ぼったくりにも程がある。しかも、それだけではない。

 

 あくまでも、許可証の有効期限は1回分だけ。出入りしたら、許可証を更新する必要がある。

 

 この更新料は、その時に応じて臨機応変に対応する。

 

 もしも、許可証無し(無効となった許可証にて)ダンジョンに入っているとこちらが判断したら、その時点で射殺対象とする。

 

 国家運営危機の有事であるため、一切の反論は受け付けない。納得できないのであれば、許可証は下りない。

 

 

 ……つまり、だ。

 

 

 このルールが設けられたことで、探索者たちは強制的に二重に税が課せられたというわけだ。

 

『ダンジョンで手に入ったモノ(50%)』と、『ダンジョンに入るための料金』は、別。入るだけでも何かしらを支払う必要がある、というわけだ。

 

 当然ながら、滅茶苦茶荒れた。

 

 そんなの通したら、過少申告したり、そもそも隠したりするのでは……そう思ったのだけど、彼らは、管理センターの人たちは、顔色一つ変えなかった。

 

 

『受け入れられないのであれば、お引き取りを』

 

 

 ただ、それだけ。

 

 顔色一つ変えず、無表情のまま、キッパリとそう告げた。

 

 職員たちの背後には、武装した迷彩服の人たちがズラリと立っていた。どこに隠し持っていたのか、彼らもまた銃器を手にしていた。

 

 

 ……冷静に考えるならば、だ。

 

 

 彼らが所有している弾薬には限りがあるだろう。

 

 それを使い切ってしまえば、自衛隊や警察組織の攻撃力は激減し、数の暴力で押し負ける危険性があるだろう……が、しかし。

 

 一体だれが、先陣を切るというのだろうか。

 

 戦国時代などで先陣を切る者が少なからず居たのは、大なり小なり先陣を切った者に対して、様々な恩恵が与えられたからだ。

 

 その恩恵が、今は用意できない。

 

 なぜなら、数だけの側は意思統一がなされていない烏合の衆に過ぎないからだ。

 

 これがまだ、『石油消失』が起こる前だったならば……あるいは、消失直後だったならば、違っていたのかもしれない。

 

 

 でも、もう遅い。

 

 僕たちに限った事じゃない。

 

 

 あの時から今に至るまで、人々の心には、他者を信頼するという気持ちが、かつてに比べて薄く小さく、途切れてしまった。

 

 その証拠に、クラスメイトの家鳴さんを始めとして、クラスメイトのけっこうな割合が、面識のない相手を強烈に警戒するようになった。

 

 以前のような、うっすら警戒して距離を取るとか、そんなレベルではない。

 

 そういう人物が自分たちのコミュニティに近づいてきたら、明らかに敵意を見せ、場合によっては先手を取って攻撃する……なんて考え方が当たり前になっている。

 

 そういう考え方に対して、誰も抵抗を覚えなくなっていた。

 

 そんな中で、いったい誰が見知らぬ誰かのために犠牲になるのか……だからこそ、全体としては極々少数の銃器であっても、烏合の衆を抑えつけるには十分な力を発揮したのであった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………そうして、僕たちは……許可証とは名ばかりの『ハンコ』を手の甲にポンと押されてから……ダンジョンへと入った。

 

 

 その時点で、だ。

 

 

 ダンジョンに入って来る探索者たちの雰囲気というか、機嫌は滅茶苦茶悪かった。

 

 正直、何時なにかしらのキッカケで喧嘩が始まっても不思議ではないと思えた……っと。

 

 

『……ハチくん、こっち』

 

 

 ふと、声を潜めたレイダより袖を引かれた。

 

 見やれば、足早にレイダが動き出している。傍の愛も同様だったので、僕はレイダの指示に従い、人の隙間を縫うように移動を行い……ずんずんと、先へ。

 

 

『エレベーターは使わないの?』

『下手すると移動した階数を覚えられてしまいますし、この空気の中で短時間とはいえ密室はちょっと危ないので』

 

 

 答えたのは、愛の方だった。

 

 

『なんで?』

『下の階層に行けるということは、その分だけ、色々と実入りが良いと思われるからです』

『いや、でも、下に行けるってことは、それだけの実力があるって話じゃ……』 

『私たち、見た目からしてそうは見えないでしょ』

 

 

 悲しい事に、否定出来なかった。

 

 

『今後、エレベーターも管理されるでしょう。それが国によるものなのか、あるいは反社組織によるものなのか、定かではありませんが……』

 

『……愛は、そうなると思っているんだね?』

 

『国としても、暴力に慣れきった反社組織を無駄に刺激したくはありませんよ。おそらく、そこを落としどころにするでしょうね』

『…………』

『とにかく、出来る限り下層まで潜ってから『鍵&家』で、作戦会議です。日が経てば経つほどやり辛くなっていくでしょうから』

 

 

 そして、いつもとは違う緊張感に顔を強張らせている愛を見て、僕はそれ以上の言葉を掛けられなかった。

 

 

 

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