切れば良いのだ、何事も!   作:葛城

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第2話: 石像なので、みんなも認識できる

 

 

 

 ──『鍵&家』にて。

 

 

 ダンジョン地下9階……地下6階と11階にはエレベーターが停まるのでということで、間を取って地下9階。

 

 9階は、いくつもの通路がアリの巣のように広がっているが、まっすぐ進めば必ず10階への道にたどり着く……そんな構造をしている。

 

 なお、途中にはいくつかそれなりに広い森林が広がっている場所と、何もない場所がある。

 

 言うなれば、通路と部屋が交互にある、といった感じだろうか。

 

 今はまだ探索者たちも国の横暴なやり方に憤っているのと混乱も相まって、ほとんどのモノは、おそらく低階層しか行かない。

 

 エレベーターを使える層の人たちも、まずは様子見としてしばらくは……とのことで、どちらからも半端な階を選択したとのこと。

 

 

「分かってはいましたけど、やはり国が独占に動きましたね」

 

 

 そうして、ひとまず中でお茶を啜り、いくらか気を落ち着かせたあたりで……愛が、そう話を切り出した。

 

 そう、その話は、以前にも愛が話していた事だ。

 

 遅かれ早かれ国が確保し、管理され、これまで通りに自由に入れないようになるという推測だが……残念ながら、当たってしまった。

 

 

「でも、あんなやり方だと反発するんじゃないの? 少なくとも、アタシはめちゃくちゃイラっと来たし、なんならぶっ飛ばしてやりたいって思ったけど」

 

 

 ポツリと、レイダが呟く。

 

 それは確かに、僕も頷いた。

 

 少なくとも、あの場で上のやり方に反感を抱かなかった者は居なかったと思う。

 

 正直、向こうが銃器を持っていなかったら、僕はさっさと手斧を投げつけていただろう……それぐらい、一方的だったからだ。

 

 

「反発するぐらい、向こうは織り込み済みですよ。というか、反発されてでも、ダンジョンを確保しないとならなかったのでしょうね」

 

 

 ため息と共に、そう呟いた愛は……次に、『テレビ』にて放送された外国の出来事について語り始める。

 

 

 ……僕たち3人は、常にずっと行動を共にしているわけではない。

 

 

 ダンジョンへ行く時間を除いて、その時々に合わせて自由時間を作っていて、その間はレイダと愛が何をしているのか、僕も知らない。

 

 いちおう、レイダはボケーっと街を見下ろして人々の動きを眺めるのが好きで、よく高いところにいるとかで、たまに見かける時がある。

 

 愛は、家族の様子を見に行ったり、謎のお姉さんが設置した『テレビ』を見に行ったり、情報収集が好きなんだとかで、色々な場所を歩いているのだとか。

 

 

「ここしばらく、ダンジョンに行く時間減らしていましたよね」

「……ごめん」

「謝らないでください。ノルマがあるわけでもないですし……それでですね、自由時間の間に、私はちょくちょく『テレビ』を見に行っていたのですが」

「ですが?」

「お空のお姉さんが宣言したあの日、他の国は即日に動きました。もうなりふり構わず、各自バラバラにって感じでしたけど、とにかく動きだけは早かったっぽいですね」

 

 

 それは、この国ではない、他の国の話であった。

 

 曰く、日本のように統率して一気に動いた国よりも、指揮系統が混乱しているにも関わらず確保に動いた国が大半だった、と。

 

 それは、国だけではない。

 

 国に奪われる前に少しでも時間を稼いで……なんて動いた組織は数知れず、奪われるぐらいならと、なんと『ダンジョン』に砲撃したところもあったぐらいだ。

 

 最悪の事態を想定して貯蔵していた弾薬を、よりにもよってダンジョン破壊に使用するのは本末転倒もいいところである。

 

 なにせ、自ら貯蔵庫に……それも、紀元前から存在が確認され、未だ全く尽きる気配がなかったそこへ、火を放つようなモノだ。

 

 しかし、それでもなお、だ。

 

 そうしなければならないほど、『呪いが消えたダンジョン』というのは計り知れない価値があり、それに比例する分のリスクがある。

 

 古来より、『ダンジョン』による戦争が起こっては呪いが発動……という歴史が繰り返されたのは、けして無知からくる誇張だけではないからだ。

 

 何故ならば、現在の世界において、ダンジョンは唯一エネルギー資源が手に入る場所と言っても過言ではないからだ。

 

 油田がある国だって、以前のように採れてはいない。

 

 何故ならば、採掘するための燃料が圧倒的に不足しているからで、そもそも、掘り出すことが出来ない状態になっているところが大半だからだ。

 

 一般的に石油燃料というのは、掘り出せばすぐに使えるといった類のものではないし、どろどろとした黒い液体……というだけではない。

 

 いわゆる、黒い黄金と呼ばれるようなモノとは別に、もっと重く固まった泥のような状態の石油もあるわけで、それを使える状態にするためには、分離するための溶液を使用する必要がある。

 

 この溶液だって、専用の工場がいるわけだ。

 

 また、昔と違って、今は浅い部分の石油は粗方取り尽くしたと言われていて、その装置も昔に比べて大型かつパワーが必要になったという話もある。

 

 つまり、かつての時代よりも、より深い位置の石油を掘り出す必要があるわけだが……この作業にも、水などを注入して圧力にて取り出していたりする。

 

 当然、この水も分離させなければならないので、これにもまた専用の設備がいるわけで……石油産出国ですらも、石油危機は例外ではないのだ。

 

 また、掘り出せたとしても、今度は輸送の問題も出てくる。

 

 重さ10トンの資材を、陸路を通って1000km離れた場所に運ぶために、以前なら計24時間掛かっていたとする。

 

 ならば、車無しの人力で何日掛かるかと言えば……間違いなく、人も時間も食料も、そのコストは何十倍、何百倍にも跳ね上がる。

 

 馬などを使った輸送だって、そう簡単なモノではない。生き物を使うというデメリットも……とにかく、だ。

 

 それゆえに、『ダンジョン』の価値は人類史上最大といっても過言ではなく……だからこそ、諸外国は如何なる犠牲を払ってでも、『ダンジョン』の確保に動いたわけだ。

 

 

「日本はまだ海を隔てているから、対岸の火事でいられますが……それも、時間の問題でしょうね」

 

 

 そして、愛の予想は、その延長線上にあって。

 

 

「これまで通り、民間で各自が思い思いになんてしていられなくなったのでしょう。この状態がどれぐらい先に続くかは分かりませんが……もう、国際条約なんて言葉すら言葉は死語になるでしょうね」

 

 

 そこに、愛は……希望的観測をまったく入れなかった。

 

 

「奪うか、奪われるか、それだけなんです。殺すか、殺されるか、それだけなんです。そして、『ダンジョンのルール』が変わらない限り、奪われる期間が長ければ長いほど、確保した期間が長ければ長いほど、奪い返すことが困難になっていきます」

 

 

 だからこそ……愛は、生き残るために非情になることを躊躇しなかった。

 

 

「ハチ……これから先、ハチが取る手段はおおまか三つに分かれると思います」

「……それは?」

 

 

 尋ねれば、愛は指を立てた。

 

 

「一つ、このままダンジョンに引きこもり続けること」

「引きこもり……え、ずっと?」

 

 

 思わずそう尋ねたら、当然ですと返された。

 

 

「地上はもう国が完全に管理下に置かれるか、それに反発した国民との間で暴動が起きるか……とにかく、今を生き残りたいだけなら、引きこもるのが安全でしょうね」

 

 

 二本目の指を、立てる。

 

 

「二つ、ダンジョンで手に入ったモノをココに置いて……つまり、国を騙す感じですね」

「ただ、これもおそらくすぐには通じなくなるでしょう。おそらく国は『ステータス』の開示を義務化させてくるでしょう。もちろん、ダンジョンに入る者だけに限定して」

「……それ、ヤバくない?」

「ヤバいですけど、大多数の人たちは後押ししますよ。特に、役に立つ特殊能力などを持っていない人たちほど、助け合いの精神だと善意の強要をしてくるでしょうし」

 

 

 これもおススメしませんが……という言葉と共に、三本目の指を立てた。

 

 

「今のうちに、国外へ逃げるという方法です」

「え、どうやって?」

「もちろん、手漕ぎボートか、放置されたモーターボートでも盗んで、一か八かの逃避行しかありません」

「それ、危なくない?」

「もちろん、危ないですよ。『鍵&家』より食料と燃料は用意できますが、船が故障したらヤバいですし、向こうはここ以上に魔境です、人を見たら真っ先に殺せって感覚でないと、異邦人である私たちの末路なんてそんなものでしょうし」

 

 

 そして……最後に、と前置きをしてから、愛は四本目の指を立てた。

 

 

「一つ目と同じく、ダンジョンに引きこもりはしますが……ただ引きこもるのではなく、現状を打破するために潜るという選択肢です」

 

 

 言われて、僕は……その選択肢の先を考える。

 

 1~3の選択肢は、実質的には論外である。どれも先が無いのが、僕の頭でも分かるぐらいだ。

 

 かといって、四つ目は……ぶっちゃけ、博打だ。

 

 現状を打破するって言ったって、何をどう打破すれば良いのかすらまったく分からない、検討すらつかない。

 

 まさか、ダンジョンに手のひらサイズのミサイルがあるとかなわけがない。

 

 この状況で資源とか燃料が手に入ったところで、国は殺してでも奪い取ろうとするか、あるいは脅してくるだろうから。

 

 僕とて、国の無慈悲さは身に染みている。

 

 命を繋げていた『センター』だって、結局のところは飼い殺しだ。

 

 そこから福祉に繋げて脱却とか、訓練して別職種へってのは無かったし、そのまま開拓者としてやっていくならって感じの講習しかなかった。

 

 既に義理を果たした以上は、僕がこれ以上国に何かをしてやる義理もないわけで……ヨシ、うん。

 

 

「一つだけ気がかりがある。顔馴染み程度だけど、クラスメイトのことがちょっと心配。なんとか出来るかな?」

「それも、ダンジョンで何かしら現状を打破できるようなモノを見つけない以上は、このまま戻っても共倒れになると思います」

 

 

 そう言われて、僕は……少しばかり、クラスメイト達の顔を思い出し……静かに首を振って、頭から追い出した。

 

 悲しいけど、愛の言うとおりだ。

 

 余裕があれば力を貸してやりたいが、今は僕たちですら、判断を迫られている時……まずは、僕たちの事だ。

 

 そう、判断した僕たちは……準備を整えてから『家』を出て、ダンジョンへと戻る。

 

 まあ、準備とはいっても水分補給とか、トイレとか、それぐらいだ。

 

 なお、僕たちの会話を聞いていたレイダは、聞いていただけで、僕の決断に全て従うといった感じで、話の内容に関して気にも留めていなかった。

 

 これを強いと捉えるべきか、何も考えていないと捉えるべきか……僕は、強いという考えだったりする。

 

 誰かを妄信するのは簡単だけど、そこへ自分の命を賭けてでも信じて付き従うって時点で、強さがないとダメだなって……で、だ。

 

 9階ダンジョンの森の中へと出た僕たちは、他の人たちに見られていないかを確認しながら……慎重に行動する。

 

 以前とは違い、今は探索者同士が殺し合っても何一つ罰が下ったりはしない。

 

 ましてや、今はタガが外れてしまった者が数多くいる……僕と同じく、必要だからと殺しに動く者が出てくるだろう。

 

 つまり、今はモンスターだけでなく、以前は味方にはならなくても敵にはならなかった者たちが敵になりうる状況なわけで。

 

 最悪、敵対の意思に関係なく目撃者は殺さなければならないなんて事態にも……と、ちょっと嫌な気持ちになっていた、そんな時であった。

 

 

『──やあ、少年、こんな場所で出会えるとは思わなかったよ』

 

 

 まさかの、謎のお姉さんとの遭遇だった。

 

 そして、それは僕のセリフでもあった

 

 なんでかって、これまでと違って、今回の謎のお姉さんは石像だったから。

 

 つまり、謎のお姉さんそっくりの石像が森の中にポツンと置かれていて、その石像から、まるでスピーカーのように声が響いてきた、というわけだ。

 

 あと、声を掛けられた瞬間、レイダがめちゃくちゃビビっていた。

 

 どうしたのって聞いたら、「声を掛けられるまで、まったく気付けなかった」ってことで、ものすごく驚いたそうな。

 

 曰く、レイダ自身は気配に敏感らしくて、森の中にこんな不自然なモノが置かれていたら、もっと早く気付いたって……まあ、それで、だ。

 

 

「えっと……?」

『テコ入れ、というやつです』

 

 

 どうお姉さん(石像)に声を掛けたら良いかと言葉をさ迷わせていたら、逆に向こうから教えてくれ……くれたのか、これ? 

 

 

『少年、勘違いしましたね? 私はちゃ~んと、皆さまの事を考えているのです』

「あ、うん……」

『かねてより、私はちょこっと考えていたのです。人間さんたちあまりにも弱いから、テコ入れするべきでは……と』

「あ、そこらへん考えていたんだ」

 

 

 思わずそう口に出したら、『そうですよ、わたくしこう見えて忙しいので』と返された。

 

 ……そういえば、テコ入れするって話していたけど、いったいどうするつもりなのだろうか? 

 

 武器でも支給するのだろうか、それとも、モンスターが弱体化したりするのだろうか、あるいは……考える僕に、謎のお姉さん(石像)は、キッパリと答えた。

 

 

『レベルやステータスアップ系のアイテムや、スキルと呼ばれる特殊能力を得られるアイテムなどを出現するようになりました』

「え゛っ!?」

 

 

 反応したのは僕ではなく、愛の方だった。

 

 

『あと、石像の私はお助けキャラとして、ダンジョン内にランダムで出現するようにしました。石像1体に1回だけ、傷を治したりランダムでアイテムを渡したりする、なんともニクイヤツですね』

「え゛え゛っ!!??」

 

 

 再び、愛が変な声をあげて反応する。

 

 急にどうしたのかと僕とレイダが愛に視線を向け……そこで僕も、(あれ、これヤバくない?)と、嫌な予感を覚えた──直後。

 

 

『誰も怪我をしていないようなので、これをば。レベルアップジュースです、1レベル上がると、ステータスも上がるので探索が楽になりますよ』

 

 

 ぽん、と。

 

 眼前に光が生じたかと思ったら、僕の眼前には……謎の液体が入った瓶が1本置かれていた。

 

 

『では、またダンジョンのどこかで運が良ければ──』

 

 

 そして、その言葉を最後に、ポンと淡い煙を放ったかと思ったら、一瞬にして謎のお姉さん(石像)は消えてしまった。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………後に残された僕は、茫然としたまま謎の瓶を見やり──っと、「ああ、やっぱりぃ!?」またもや愛が変な声をあげた。

 

 顔をあげたら、顔面蒼白になった愛が、己の『ステータス』を見たまま……ポツリと、呟いた。

 

 

「れ、レベルの項目が、追加されている……」

「……? それが、どうかしたの?」

 

 

 状況が分かっていないっぽいレイダが尋ねれば、愛は……目じりに涙を滲ませながら。

 

 

「こ、これだけ信頼関係が壊れた状況で、レベル制って……ヤバいなんてもんじゃないですよ、これぇ……」

 

 

 そう、声を震わせたのであった。

 

 

 

 

 

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