切れば良いのだ、何事も!   作:葛城

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第3話: ハチくん、もう細かい事は気にしない事にした

 

 

 ──やあ、小山内ハチ17歳、いちおう立場的には学生なのかな。

 

 

 弱肉強食がむき出しになった世界がいよいよ眼前に迫ってきているのを言葉にされなくても肌身で感じたのは、つい先ほど。

 

 原因は、謎のお姉さんの、一連の話。

 

 正直ね、話を聞いた直後は違和感を覚えた程度だったけど、少し経ってから、ソレの危険性に気付いた。

 

 簡潔にまとめると、これからは、冗談じゃなくて力こそが全てな世界に成り代わるってこと。

 

 今までそうじゃなかったのかって聞かれた、今までもそうだったけどこれからはもっと露骨になった……ってな話。

 

 なんでかって、それを抑えていた『国』っていう組織に対する信頼が根底から失われたから。

 

 いざという時、自分たちのために動いてくれている、属していれば自らの助けになる、そう思えるからルールを受け入れ、税金を支払うわけで。

 

 これまで国の動きが鈍くて苦しい思いをしても、それまでの貯金があったから、まだ根底には国を信じて我慢していた。

 

 でも、その我慢を、国はおそらく最低なやり方で裏切ってしまった。

 

 もちろん、国にも理由があったのだと思う。

 

 無学な僕だって、何も考えずにそんな動きをしたとは思わなかった……でも、それは僕にはまだ余裕があったから、考えられることで。

 

 耐えて耐えて耐えて、それでも大半はルールを守っていたのだけど……よりもよって、そのルールを作った側が、ルールなんて知ったことではないと舵を切ってしまった。

 

 理由があるのは分かっている。

 

 でも、大半の人たちからしたら、安全な場所に居る者から『これは日本全体のためだ』と言われ、自分は死地へ……はたして、納得できる者がどれほど居るだろうか。

 

 しかも、お願いするのではなく、拒否するなら殺すという、徹底的な弾圧行為を見せてしまったし、実行してしまった。

 

 これは、言うなれば国が国民を欠片も信用も信頼もしていないし、必要なら使いつぶすと明言したも同然の行為。

 

 こうなってはもう、国からの言葉は二度と届かない。

 

 それでもなお人々が国に留まるのは、哀愁の他には、安全な新天地など無いと分かっているからで、今よりももっと過酷な環境に置かれる可能性を危惧するから。

 

 だが、もしも、自分の力で新天地を築ける事が可能と分かれば、その可能性が示唆されたならば、人々はどう動くのか。

 

 

 ──だからこそ、速やかに力を付けなければならない。

 

 

 今はまだ混乱が続いているのでマシだとしても、いずれ状況の理解が広まるにつれて……弱いのが悪い、という流れになるのは明白だ。

 

 

「……とりあえず、渡されたコレを飲んでみようか」

「不安なら、アタシから飲もうか?」

 

 

 レイダからそう促されたけど、僕は首を横に振った。

 

 

「ダメ、いちおう僕がリーダーみたいな立場だし、僕が最初」

 

 

 なので、僕たちは……謎のお姉さんに渡された『ジュース』とやらを前に、覚悟する。

 

 透明な瓶の形状に関しては、特に真新しさなどはない。

 

 中には、淡いオレンジ色の液体が詰まっている。パキッと蓋を捻って開ける……とりあえず、炭酸の類はなさそうだ。

 

 臭いは、無臭。

 

 いちおう、手のひらにちょろっと垂らして舐めてみる……うっすら、オレンジ系の味? 

 

 

「……ええい、ナムサン!」

 

 

 とりあえず、実は毒も混じっているなんて事はないだろうから、覚悟してから……えいやっと一口。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………あれ、思っていたよりも飲みやすい。

 

 

 ジッと心配そうに見てくる二人を手で制止しつつ、もう一口、二口。それで、一旦止めた後、僕は『ステータス』を確認する。

 

 

【あなた】: 小山内ハチ・17歳

【レベル】: 7

【生 命】: 585

【 力 】: 380

【 防 】: 216

【 速 】: 413

【 魔 】: 1179

【おまけ】:自己回復(小)、キャパシティ(極)、等価交換(魔力)、『鍵&家』、『戻ってお~の!』、『出し入れ自由魔改造を添えて』、『温泉?』、『共感能力』

【ひみつ】:猪突猛進、頑固、意地っ張り、覚えたてボーイ

【私からの一言】:勇気を出したあなた、その一杯が地球を救う。一度に飲み過ぎると死ぬ場合があるので、そこで止めた貴方は勘が良いですね。

 

 

 すると、愛が話していたとおり、『ステータス』にはレベルが追加されて……ていうか、事前に確認していなかったら、レベルが上がったかどうか分からないじゃん。

 

 

「そういえば、そう」

「うっかりでしたね」

 

 

 思わず二人にそう零せば、二人もそんな感じで……リアリストな愛も、やっぱり動揺していて頭が回っていなかったようだ。

 

 まあ、それはそれとして、だ。

 

 なんか、『共感能力』ってやつが増えているけど……これ、どういうモノなんだろうか? 

 

 

(えっと、自動発動っぽい? あ、もう発動中……意識して切らないとダメ……ん~、感覚が互いに伝わる? 肌を接触させた方が効果全般上がる???)

 

 

 こう、感覚的にふんわりと、そういうモノだと理解出来てはいるけど……ふんわりとだから、いまいち確証が得られない。

 

 とりあえず、レイダと愛に許可を取ってから、まずはレイダと手を繋ぐ……っと? 

 

 

「……レイダ、もしかして、この『ジュース』を飲んでみたいって考えていたりする?」

「え、分かるの?」

「分かるっていうか、なんとなく伝わってくるというか……そっちは、何か感じた?」

「う~ん……なんだろう、この能力って何かな、なんだろうな、なんだろうな、頭にいっぱい? マークを浮かべているって感じ?」

「おお、当たっている……」

「あと、ちょっと緊張している? なんで?」

「それも当たっている。緊張しているのは、レイダみたいな美人と手を繋いだからだよ」

 

 

 なんか、これだけでも分かったような気がしたけど、いちおう愛とも手を繋いで確認する。

 

 

「……間違っていたらごめんだけど、とにかく知りたい知りたい知りたい、私も飲んで効果の詳細を知りたいって考えていたり?」

「大正解です。すっごく、詳細を知りたいなって……私の方からですと、ハチは喉の渇きを感じたってところでしょうか?」

「合っているよ。変な事にはならなさそうって分かったせいか、ちょっと気が抜けちゃってね」

「そっちを飲むのはダメですよ」

「分かっているよ」

 

 

 続いて、僕たち3人が輪になるように手を繋いで……んんん? 

 

 

「……どう思う?」

「なんか混ざった感じがしますね。でも、ちょっとだけ楽しいって感覚がします」

「アタシも同じ。3人の方が、なんかギュッと暖かくなった感じがする」

 

 

 これは、言葉では説明出来ないが……とにかく、悪い感じはしない。

 

 役に立つかは不明だが、愛曰く『不埒な考えをするやつを、事前に察知できるのでは?』とのことなので、ある意味、ウソ発見器みたいなものかもしれない。

 

 

 そうして、だ。

 

 

 僕が終わったので、次はレイダが、その次は愛が飲む。なお、味の評価は、愛の方からは良評価。

 

 僕たち3人で分け合うように飲んだ後、改めて二人とも『ステータス』を確認する。

 

 レイダは上がらなかったけど、能力が一つ増えていた。ステータスの数値に変動はなかった。

 

 対して、愛の方はレベルが上がってステータスの数値が増えたけど、能力は据え置きであった。

 

 

「気分はどう? 僕はなんともない」

「アタシは、どうだろう……身体がポカポカする感じ?」

「すみません、私はちょっと……う~ん、軽い車酔いみたいな感じですかね?」

 

 

 僕はまったく異常なし、レイダはアルコールのアレに似た感覚。

 

 愛は我慢できないほどじゃないけど、少々気分が悪そうな様子であった……まあそれも、30分ほどで治まったけれども。

 

 ……ちなみに、レイダの『ステータス』はというと。

 

 

【あなた】: 九曜レイダ 17歳

【レベル】: 5

【生 命】: 1931

【 力 】: 1200

【 防 】: 1110

【 速 】: 1023

【 魔 】: 15

【おまけ】:飲食代謝(大)、自己回復(中)、剛健柔軟体質、ドラゴン因子、『ドラゴン・ファイア』

【ひみつ】: 可愛いモノ好き、大食い、耳が弱い

【私からの一言】:ドラゴン因子が活性化したので、口からファイア出来るようになりました。その場で焼き肉が出来ますよ、焼き肉が。

 

 

 という感じだった。

 

 【私からの一言】で、『ドラゴン・ファイア』ってのがどういうモノなのかを察せられたけど……焼き肉が出来るって、褒めるところそこなの? 

 

 あと、【ひみつ】のところにある『耳が弱い』の文字を見て、さすがのレイダも顔を真っ赤にしていた。

 

 耳とは……ドラゴンって、耳の部分にそんな重要なのがあるのだろうか……実物を見たことがないから、知らないけど。

 

 ちなみに、愛の方はというと、レベルが上がったからステータスの数値が全体的に良くなったっぽいのだけど、気になる点が一つ。

 

 

 ――【私からの一言】:食べる量をもっと増やしなさい、貴方の本気はちゃんこ鍋に比例します、ちゃんこ鍋じゃなくても大丈夫。

 

 

 なんだろう、この前見た時にはなかったけど、変な言葉が追加され……ていうか、食べる量? 

 

 チラリと視線を向けたら、なにやら複雑そうな顔をしている……もしや、今まで食べる量を我慢していた? 

 

 

「いえ、そうではなく……その、食べようと思えば食べられるというだけで、満腹感とはまた別なんですよ」

「特殊体質関係?」

「たぶん、そうだと思うけど……私にも、あんまり分からないの」

 

 

 気になって尋ねてみたら、そうではないと首を横に振られた。

 

 感覚的な部分なのでうまく説明出来ないらしいが、要は、愛の『胃袋(仮)』には、ある種の切り替えスイッチみたいなモノがあるらしい。

 

 それは、普段使っている己の胃袋、満腹センサーの類とはまったく別。

 

 ただ、そのスイッチを切り替えると、自分の身体の中にあるソレとは別に、普段は存在しない胃袋へカチリと入れ替えられたような感覚がするらしい。

 

 その胃袋は、愛曰く『底なし』と表現する代物らしい。

 

 昔、興味本位で『胃袋(仮)』に切り替えた状態で、食パンと牛乳を流し込んだらしいのだが……なんと、食パン20斤と牛乳8Lを入れてもなお、欠片の満腹感も覚えなかったらしいのだ。

 

 かといって、身体に異常が起こるわけでもないし、体重が増えるわけでもなく、なにかすごいパワーが出るわけでもない。

 

 あくまでも感覚的な話だし、わざわざ病院で調べるのも怖かったので、誰にも言わずに放置していた……とのことだ。

 

 

「じゃあ、普段から我慢しているわけじゃないんだね?」

「そうですよ。なんていうか、ブラックホールみたいなモノなんで、空腹とかそういうのは感じないんですよ」

 

 

 とりあえず、問題が無ければそれで良い。

 

 そう判断した僕たちは、もうしばらく様子を伺ってから、改めて異常が出ないかを確認してから……さて、と出発した。

 

 行き先は、9階より下だ。

 

 少なくとも、エレベーターが停まる11階より下……12階とか13階ぐらいに居ておきたい。

 

 『ダンジョンの呪い』が無くなったとはいえ、モンスターの危険性は変わっていない。我先俺先私先と突っ込めば、例外なく全滅するのがダンジョンだ。

 

 おそらく、今はまだエレベーター前は睨み合いの段階……通り抜ける時にちょっかいを掛けられる可能性は高いが、下に降りる分には追いかけては来ないだろう。

 

 下手に人を減らして他の勢力に占拠されたくないし、下に行く分にはモンスターたちが勝手に処分してくれる……おそらく、そんな考えだ。

 

 実際、地下11階のエレベーター前……予測通り、モンスターを倒しに行くわけでもなく、エレベーター前にはもう十数名ぐらいがたむろしている。

 

 そりゃあ、そうでしょうよ。

 

 エレベーターがあるのは、各階へとつなぐ階段に近い場所なので、僕たちに気付いた人たちが、ニヤニヤと笑いながら近寄ろうとしてきた。

 

 

 ……が、しかし。

 

 

 レイダは分厚い棍棒を肩に担ぎ、僕は僕で手斧を持っていたからか……それとも、一切合切を無視して下へと向かっていたからだろうか。

 

 エレベーターを使わず降りて来た時点で素人ではないのが確定しているし、下手に睨み合いの均衡を崩して殺し合いに発展するのもリスクがある。

 

 最悪殺し合いをしながら進むのを想定していた僕たちは、思いのほかあっさりさらに下へ……地下12階へと、進んだ。

 

 世界から石油が消失する前は、そういった深い階層にも、ダンジョンの呪いの穴を絶妙に突いて、協力して事に当たっている探索者が居た。

 

 

 でも、それは以前の話。

 

 

 それらは、あくまでも地上からの潤沢な支援というか、インフラが整ってこそで、地上がボロボロになっているのに、そんなハイリスクなんて取れなくなる。

 

 以前とは違ってそんな余裕が無くなってからは、そんな深い階層に入る者は居なくなった。

 

 まあそれは、『石油ダンジョン』とか『食糧ダンジョン』とか、そっちの方が金になるからってのもあるのだろうけど。

 

 少なくとも、日本はそうなった。居なくなったと表現できるぐらいには、人の気配が遠ざかっていた。

 

 ──そんな中で、僕たちは……ダンジョン内にて、信じられないモノを見つけた。

 

 

『イラサイマセー!! イラサイマセー!!』

『テコ入レ、ココデモ、シッカリヤルヨ!!』

『ガンバルゾー!! ガンバルゾー!!』

 

 

 それは、『出張・簡易総合センター』と書かれた看板が目立つ、僕たちにとってはすっかり見慣れたロボットたちが管理している、あの建物であった。

 

 

 ……ダンジョン内にも設置されたようだ。

 

 

 話を聞けば、どうやら『出張・簡易総合センター』とやらは、その名の通り、ダンジョン内に設置された総合センターのようだ。

 

 ただ、ずっとそこに居るわけではなく、一定期間ごとにランダム転移するらしく、機能は総合センターと同じとのことだ。

 

 ちなみに、ダンジョン内に出現するセンターに限り、建物内には簡易の休憩スペースがあるらしく、そこで寝泊まり出来るようになっている、とのこと。

 

 なお、建物内を含め敷地内での争い事はダメ。特に、ロボットたちの指示に従わない、攻撃を行うのもダメとのこと。

 

 

『ミンナ、元気ヨ! モウ、12人、処理シタヨ!! 世界デハ、5493人ヨ!』

 

 

 そして、どうやらもう日本だけで12人の人間が、何かを勘違いして設備を強奪なり何なりしたようで、処理されてしまったようだ。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………まあ、うん。

 

 

 ダンジョンの呪いは解除するとは話していたけど、ダンジョン内で何をしても許すとは明言していなかったし……勘違いした人の末路だろう。

 

 ていうか、ロボットたちへの攻撃とかそこらへんって、呪いとは無関係だったのか……それはそれで、怖い話だけど。

 

 

「えっと、とりあえず交換してもらえる?」

『ハイ、ヨロコンデ!!』

 

 

 ランダムで場所が変わる以上は、モンスターを交換出来る時には交換しておきたい。

 

 幸いにも、僕には『鍵&家』があるわけだし、ある程度の長期保管は可能……ふと、気になった僕は、受付ロボットに尋ねてみた。

 

 

「ところで、ここのダンジョンに現在潜っている人たちの中で、一番下に居る人って何階層?」

『階数言エナイ! デモ、最下層ヨ!』

「え、そんなやつ居たの?」

『ダンジョン、ワープ罠アルヨ! ウッカリ踏ムト、最下層ヨ!』

「待って、そんなのが有ったの!?」

『バージョンアップヨ!! ソノウチ、パッチ当テル予定ヨ!!』

「マジで待って、そんなの踏んだら即死確定じゃんか」

『大丈夫ヨ! オ仕置キ罠ダカラ!』

「大丈夫に思えないのだけど?」

 

 

 その結果、非常に聞き捨てならない話が出たけど……結局、そこまでは教えてくれなかった。

 

 

 

 






セーブポイントも設置、シゴデキ謎のお姉さん
なお、出待ちに関しては一切関与しない
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