切れば良いのだ、何事も!   作:葛城

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※ バイオレンスと虫なシーンあり、注意要


第7話: ずっと、鳥肌が立ちっぱなしだった……

 

 

 

 翌日には出発するつもりだったけど、どうにも疲れが取れきれていないと判断した僕たちは、数日ほど泊まることにした。

 

 理由はいくつかある。

 

 その中でも致命的なのは、愛もそうだけど、僕も筋肉痛になったということ。

 

 特に、愛の方は筋肉痛が僕よりもキツイらしく、翌朝部屋から出て来た時の動きときたら、錆びついたロボットのように、どこかぎこちない感じになっていた。

 

 なんでいきなり……と思っていたけど、それは意外というか、受付のロボットたちから教えてもらえた。

 

 

 曰く、『地下13階の地面は比較的湿気を多分に含んでいるので、無意識のうちに踏ん張ったり力を入れたりする回数が増えるから』、とのこと。

 

 

 どういうこっちゃと思って詳しく聞いてみたら、要は花壇の土みたいにフワフワな場所がちらほらあるらしい。

 

 これは実際に自然豊かな森の中を歩いてみないと分からない感覚だが、アスファルトやコンクリートなどで固められていない地面というのは、けっこう感触が違う。

 

 人の往来が激しくて踏み固められている場所ならともかく、そのうえ、だ。

 

 この階層はけっこう頻繁に雨が降るおかげで、けっこう地面がぬかるんでいる場所が多く、無意識にソレに足を取られてしまって疲労を溜めやすい、とのことだ。

 

 言われてみれば、けっこう水たまりが多かったなって……また、場所によっては微妙な傾斜になっているところもあるらしい。

 

 傾斜ってどんなに……まあ、要は無視できる程度には地面が凸凹しているせいで、知らず知らずのうちに疲れが溜まってしまう、というわけらしい。

 

 実際、そのせいで僕だけでなく、愛もひどい筋肉痛になって、レイダもちょっと疲れが残っているっぽい感じになったのだから、なんとも地味な危険ポイントである。

 

 

 まあ、幸いにも、だ。

 

 

 地下13階の『出張・簡易総合センター』はあと20日ほど、この場所に留まるようで、それまでは自由にして良い、とのことだ。

 

 なので、僕たちはちゃんと身体を休めてから(特に、愛の筋肉痛が完治してから)、出発することにしたわけで。

 

 僕とレイダは翌日には疲労と筋肉痛が抜けたので、その間に、『出張・簡易総合センター』の周囲をぐるりと回ってみた。

 

 

『おや、見つかっちゃいましたね』

 

 

 すると、センターの裏手に広がっている森……というか、樹木の陰に、まさかの謎のお姉さん石像発見であった。

 

 謎のお姉さん石像は、ダンジョン内にランダムで出現するお助けスポットみたいなもので。

 

 傷を治すか、何かしらのアイテムを与えるか、そのどちらか望んだ方を渡してくれる……というやつだ。

 

 使用されるとその場より消失してしまうし、誰が見つけたかではないらしいので、奪い合いの際の争いは注意とのこと。

 

 正直、ロボットたちの会話能力向上よりも、その争いが起こらないような処置とか、解毒剤をもっと手前で手に入るようにとか……止めよう、言うだけ無駄だろうし。

 

 

『おめでとう、貴方たちが地下13階で初めて私を見つけたわけです。特にご褒美はありませんが、祝福を致しましょう』

「え、あ、どうも」

『冗談です、祝福はあげませんけど、今後の冒険のためにも役に立つ情報を一つあげましょう』

「あ、はい……」

 

 

 相変わらずのよく分からないテンションにそれ以上何も言えないでいる僕たちをしり目に、謎のお姉さん石像は……ポツリと、告げた。

 

 

『少年よ、ちゃんとレベルアップをするのです。貴方達は、とにかくレベルが足りません。本来、貴方達のレベルで来られる場所ではないのですよ、ここは』

「え? でも、行こうと思えば来られたのだけど……それなら、一定レベル以下は入れないとかしてくれたら……」

『まったく、これだから少年は……いつものようにレベル上げをしようと思って違う草むらに入ったら、くそ強い終盤雑魚敵に遭遇……それもまた、醍醐味とは思いませんか?』

「ごめんなさい、貴女が何を言っているのか、僕には分かりません」

 

 

 素直にそう言えば、『なるほど、これがジェネレーションギャップ……』なにやらよく分からない形での納得を……っと。

 

 

『とにかく、レベルを上げるのです。レベルアップアイテムは、センターでも入手できますから』

 

 

 なにやら、サラっと重大な話が出たので、思わず僕は待ったを掛けた。

 

 

「前の時には、ダンジョン内で入手するって……」

『世界から怒られまして、指導を受けました。私はけっこう優秀らしいので、『もう君はそれでいいよ……』と褒められます』

「え、それって……」

『長い付き合いになりますからね、私と世界はズッ友ってやつですよ──それよりも、です』

 

 

 スビシ、と。

 

 なんか効果音が聞こえた。変なところで手が込んでいる。

 

 

『センターでも入手出来ますよ。ただし、必要な対価が相当掛かるので、今後も歩き回った先で自然に見つけ、余裕があればセンターで……との方が良いでしょう』

 

 

 そう言うと、『それでは、治療かアイテムか……ですが』謎のお姉さん石像は本題に入った。

 

 

『残念でしょうが、この場に居ない人の怪我などは治しません。なので、アイテムを渡しましょう』

 

 

 直後、一方的に宣言され、選択されてしまった。

 

 まあ、この場に居ない愛の筋肉痛はダメって言われたら、アイテムの方しか選択肢が無いので、構わないのだけど。

 

 相も変わらず有無を言わさない調子で、僕たちの前に……ガラスのボトルが現れた。中には、ナニカの液体が満たされていた。

 

 色は、緑色。見た目は、『緑ボトル』といった感じか。

 

 と、同時に、ポンと軽い煙が立ち上ると同時に、フッと謎のお姉さん石像は消えたのであった。

 

 

 ……まあ、本当に良いのだけど。

 

 

 とりあえず、僕とレイダはそのボトルを手に、センターへと戻り……鑑定という程ではないけど、どういう代物なのかを尋ねてみた。

 

 

『コップ1杯デ、半径数十メートルノ大地ガ緑化サレルヨ! 砂漠地帯デ使ッテモ樹木ガ生イ茂ルケド、水ガ降ラナカッタラ枯レチャウカラネ、注意ヨ!!』

 

 

 なんか、とんでもない代物ではないだろうか……ということだけは分かったけど。

 

 正直、これの使い道って……と、思わなくはない代物だったので、個人的にはちょっと微妙な気持ちになったのであった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………しかし、レベルアップ、か。

 

 

 その事に関しては、ちょっと気にはなっていたのだけど。

 

 でも、どうすれば手に入るかどうかが分からないから……謎のお姉さんも、そこまでは教えてくれなかったし。

 

 あと、前に貰って飲んだ時は、愛がちょっと体調を崩しかけたし……とはいえ、謎のお姉さんからここまで直接的に忠告されたのならば、無視しておくわけにもいかない。

 

 ひとまず、『緑ボトル』は『鍵&家』の中に保管しておくことにして……愛の回復を待つことにしたのであった。

 

 

 

 

 

 ……そうして、二日後。

 

 

 体調を崩すことなく回復を終えた愛が復帰したので、僕たちはセンターを出発して先へと進み……地下14階へと進む。

 

 幸いにも、センターから地下14階へと進む階段までの距離は意外と短く、小一時間程度歩いただけで、到着することが出来た。

 

 

 ……いちおう、一つだけ言っておきたい。

 

 

 『出張・簡易総合センター』の出現位置がランダムなのは分かるのだけど、そうだけど、もうちょっと手前の方に出現させた方が良いんじゃないのって、思うわけで。

 

 回復スポットを、ランダム配置するなって思ったけど……さて、愚痴はそこまでにしておいて、話を戻そう。

 

 僕たちは、降りてすぐに突撃してくる可能性を考慮して、ゴーレムを先行させて、何もなければ……という形で、地下14階に降り立ったわけなのだけど。

 

 

「……なんか、暑さがヤバくない?」

 

 

 なんだろう、景色がガラッと変わっていた。

 

 上の階が梅雨に差し掛かった時期なら、地下14階はソレを通り越して、もはやジャングルだ。

 

 言葉を選ぶならば、亜熱帯……といった感じだろうか。

 

 漂ってくる臭いもそうだけど、気温や湿度の変化が感じ取れるぐらい高い。試しに、気温計を出してみたら。

 

 ──37℃。

 

 なんと、驚異の30後半。地上ならば猛暑日認定、熱中症になってしまった人がゴロゴロ現れ始める気温だ。

 

 

「……待って、アレってどうみてもトラじゃない?」

 

 

 そのうえ、なんか木々をかき分けてヌッと顔を見せたのは、トラ……なんか、トラ(?)っぽい獣だ。

 

 なんか、尻尾がトカゲを思わせる野太い形をしているという点に違いがあるけど、全体的なフォルムはトラ(?)であった。

 

 

 ──で、だ。

 

 

 そのトラだけど……見た目通り、普通に素早い動きでゴーレムを避けて、たまたま進行方向に居たレイダへと──それを、レイダのパワーメイスが迎え撃った。

 

 その瞬間、すごい音がした。

 

 まるで、ダイナマイトが爆発したかのような、鈍い破裂音で……辺りに、いや、それどころか、後方に居た僕たちに降りかかる。空の色が一瞬ばかり赤くなる勢いで、飛び散った。

 

 合わせて、どすん、と。

 

 奇しくも、レイダとトラが倒れたのは、ほぼ同時。

 

 けれども、結果は違っていた。

 

 痛そうに腕を摩っているレイダは、顔どころか体中に飛び散った鮮血を確認し、嫌そうに顔をしかめただけ。

 

 対して、トラの方は……酷いモノだ。

 

 反撃を食らうとは思っていなかったのか、まともにパワーメイスを受けた顔面は砕けていて、ビクビクと痙攣するだけ。

 

 一目で、完全な致命傷だというのが分かる傷だ。

 

 まあ、顔面が半分以上無くなっているのだから、これで死んでなかったらもうそれは……で、だ。

 

 僕たち3人の中で一番のアタッカーが手首を痛めてしまったのであれば、次に取るべき行動は決まっている。

 

 

 そう、撤退である。

 

 

 地下14階に降り立ったばかりだが、この状態で突き進まなければならないほどのリスクを取る段階ではない。

 

 トラの亡骸を『インベントリー』に保管しつつ、レイダを連れて階段へと戻り。

 

 それから、パワーメイスも『インベントリー』に保管し、代わりに、そのクリエイトの途中で出来上がった、それよりも軽量の棍棒を渡してから。

 

 地下13階のモンスターからの襲撃をいつも以上に警戒しながら、『出張・簡易総合センター』へと引き返したのであった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………ちなみに、だ。

 

 

『鍵&家』よりもよほど安全が確保されているセンターまで戻る途中のことだが、僕たちの身体にはすごい事が起こっていた。

 

 それは、僕たちの身体に……とんでもない数の羽虫がびっしりと集ってきた、ということだ。

 

 いちおう、先に説明しておこう。

 

 僕たちの身体にどうして羽虫が集まってきているのか……それは単純明快、トラの鮮血が目当てである。

 

 『原始のペイント』によって、僕たちに付着している鮮血だが、肌に付着したわけではない。

 

 全身を覆っているバリアの上に、鮮血が付着しているのだ。

 

 そして、集まっている羽虫は全て、この鮮血の臭いに引き寄せられている……というわけなのだけど。

 

 

「……大丈夫、我慢してね」

 

 

 僕の言葉に、レイダと愛は……はた目にも分かるぐらいはっきりと顔を引きつらせて、足早に進んでいた。

 

 気持ちは、分かる。

 

 僕だって、こんな数の虫に一度に集られたら、思わず悲鳴をあげてしまうぐらい気色悪いのだ。

 

 でも、まっすぐここを抜けて突破してしまったから、この階層にある水場とかの安全を確認出来ていない。

 

 かといって、こんな大量の虫を『鍵&家』がある空間には入れたくない(これは、二人とも同意見だった)から……だから、我慢するしかないわけで。

 

 

 傍から見たら、だ。

 

 

 ボディペイントにパンツ一枚着ただけの、全身に羽虫が集っている男女が歩いている……という、他の人が見たら問答無用で攻撃を仕掛けてきそうな状況なわけで。

 

 僕たちがセンターの敷地に入ったと同時に、ぶあーっと一気に羽ばたいて一匹残らず離れていく様もまた、非常に気持ち悪くて。

 

 それゆえに、僕たちは受付ロボットたちの挨拶をそこそこに……大浴場へと直行したのであった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………それから、ようやく人心地付いた後。

 

 

 手首を痛めた可能性があるので、再び回復までセンターに……という段階で、『インベントリー』に入れっぱなしにしていたトラの事を思い出し。

 

 レイダと愛はもう今日は休むとかで、それなら僕は元気が余っているから、受付ロボットに持って行って交換してもらった……のだけど。

 

 

『アイヨ! レベルアップ薬ダヨ!! 味ハ、オレンジ!! アンタ、運ガ良イネ!!』

「え?」

『毎回手ニ入ルワケジャナイヨ!! 今後トモ、オタッシャデー!!』

 

 

 まさか、このタイミングで手に入るとは思っていなかった僕は、思わず目を瞬かせるばかりであった。

 

 

 

 

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