切れば良いのだ、何事も!   作:葛城

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※ ショッキングな描写あり?
 注意っす


第8話: 事前の準備が足りなった場合

 

 

 ──レベルアップの薬。

 

 

 よく分からないけど、なんかステータスとか諸々が上がって、場合によっては特殊な能力を得たりするアイテム。

 

 文字通り、強さの段階を引き上げるアイテムだ。

 

 体感的には、半年筋トレするよりも、これ1本をゴクゴクした方があっさり強くなれると思う。

 

 ただし、一度に大量に飲み過ぎるとヤバい……というか、死ぬらしいから、飲むときは量を加減する必要があるのだけど。

 

 また、それ以外に、受付ロボットたちは明言していなかったが、レベルアップの薬には、おそらく微弱な副作用があると僕は推測している。

 

 

 なんでかって、初めてソレを飲んだ時。

 

 愛が、体調を崩しかけたからだ。

 

 

 アレを偶然が重なっただけと捉えるのは簡単だけど、タイミングがあまりにも……それでいて、僕たちの中で一番体力がない愛に異常が起こりかけたのだ。

 

 たぶんだけど。

 

 飲み過ぎたら発動する類の副作用じゃなくて、レベルアップの薬そのものに副作用があって、人によっては少量でもソレが出てしまうのかもしれない。

 

 

 ……理屈というか、考えてみたらまあ、分かる。

 

 

 いわゆる、筋肉増強剤と呼ばれる薬ですら、人体に対して副作用が生じる危険性があるのだ。

 

 代償として内臓に致命的な障害を引き起こしたり、心臓への重大な負担、抜け毛が発生したりといった、取り返しのつかない副作用だ。

 

 僕は昔小柄な自分が嫌で、筋肉を付けようと思って調べたことがあるから、そこらへんはちょっとだけ詳しいのだ。

 

 ……ただ筋肉を増やしやすくするだけで、それだけのリスクが生じるのだ。

 

 むしろ、筋肉が増えたわけでもないのに、傍目にも体感的にも分かるぐらい身体能力が上がったことを実感するような薬が、その程度の副作用で済んでいるあたり……話が逸れてきたので、戻そう。

 

 

 とにかく、だ。

 

 

 全身虫だらけになって色々と疲れ切ってぐっすり眠っている二人を起こすのもなんだし、その日は僕もゆっくり休むことにして、だ。

 

 翌日……二人はけっこう早めに起きてきて。

 

 愛はすっかり元気に、レイダも腕の回復が完了したということで、軽く朝食を取ってから……僕は二人に、レベルアップの薬について相談した。

 

 内容は、改めて言うまでもないことだが、飲むか、飲まないか、その選択である。

 

 

「それ、飲まない理由がない」

「飲むに決まっているじゃないですか」

 

 

 結果は、『飲む』という即答であった。

 

 いちおう副作用があるし、前に飲んだ時は、愛はそれっぽいのが出たでしょ……と、確認してみる。

 

 

「じゃあ、ちょっとずつ身体に慣らさないと」

 

 

 すると、愛の返答は、まったく変わらなかった。

 

 話を聞けば、どうやら地下14に下りてモンスターに遭遇したことで、レベルアップの必要性を強く意識したらしい。

 

 太刀打ちどうこう以前に、まともに反応すら出来なかった。一方的にやられて、一方的に気絶させられた。

 

 もしも、今回己が一人で同じ場面に陥っていたら、間違いなくそこで死んでいた……その事実を、愛は強く強く受け止めたらしく。

 

 多少なり高熱が出て寝込もうが、それでもレベルアップした方が結果的には、はるかにプラスである……と、のことだった。

 

 ソレに関しては、僕だけではない。レイダも、同意見であった。

 

 今回、地下14階で僕たちが助かったのは、ひとえにレイダのおかげだ。

 

 僕の手斧では、おそらく当てることが非常に難しい。下手したら、愛に続いてそのままやられていた可能性が高い。

 

 レイダがあそこで仕留めていなかったら、僕たちはあそこで全滅していた……悲しいかな、それは確かな可能性であった。

 

 しかし、そのレイダも、あそこであのトラを仕留められたのは、半ば偶然の産物だと語った。

 

 曰く、『愛がやられて、アイツが油断してくれたから倒せた』、とのことだ。

 

 つまり、あのトラは一発で愛を気絶させたことで、『こいつらは大したやつらじゃない』と油断したのだ。

 

 言い換えれば、そう判断できるほどの知能を有しているわけで。

 

 もしもあの時に仕留めきれず、手負い程度で終わっていたら……あのトラはそこで油断を完全に止めて、一人ずつ確実に仕留める動きになっていただろう。

 

 そう、僕たち3人、全員が同じなのだ。

 

 どこかで一つでも判断が違っていたり、あるいはトラの動きが違っていたりしたら……あの場で全員、死んでいた可能性があるわけで。

 

 だからこそ、僕たちは……えいや、と勇気を出してレベルアップの薬を飲み干した。

 

 ……その結果、僕たちのレベルは1ずつ上がった。

 

 残念ながら、新たな能力などは得られなかったが、その代わり、各種ステータスの数値がちょっとずつ上がっていた。

 

 また、前回と同じく愛がまたちょっと気分が悪そうにしていたので、落ち着くまでは……で、だ。

 

 

「──一旦、地下14階へ進むのは止めよう。まず、出来るかぎり地下13階のここでレベルアップしてからでないとヤバいと思う」

 

 

 その間、ただ待つだけなのもなんなので、僕は改めて二人に今後のことを相談してみた。

 

 あの謎のお姉さんの忠告だけが理由じゃないけど、ダンジョンの先へと進むためには、従来の人間の強さでは不可能だと僕は思うのだ。

 

 地下14階で、痛感した。あそこより先へ行くならもう、人間の限界を超えるしかない。

 

 手っ取り早く強くなるだけじゃなく、人間という殻を破って、人間を超えた力を手にするには……レベルアップの薬を使うしかないわけで。

 

 その点に関しては、二人も同意見のようで、この階に留まる事に関しては二つ返事で同意してくれた。

 

 

「……たぶん、全身虫だらけになるのが確定しているけど……頑張れる?」

 

 

 ただし、その点に関しては。

 

 返事をするまでの間が……先ほどよりも長くなったのは、まあ、仕方がない事だと思った。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………そうして始まった、レベルアップタイムだけど……案の定というか、そうスムーズに事は進まなかった。

 

 

 理由は色々とあるけど、まず、足場が良い場所がほとんどない。

 

 雨が降っている時を除けば、ぬかるんで大変という程ではなくなるのだけど……それでもまあ、けして良くはないのだ。

 

 また、アスファルトで舗装されている道路と違って、ダンジョンの地面は、基本的に足跡がそのまま残る。

 

 乾いた地面ならば、せいぜい靴の跡がうっすら残るぐらいだが……地下13階の地面はどことなく湿っていて、時には沈み込むときがある。

 

 つまり、歩きやすい場所、移動しやすい道なんかは、僕たちが往復した足跡が無数に残り……凸凹した感じになるわけだ。

 

 

 これがまあ、誤算だった。

 

 

 僕はそのうち踏み固められるだろうって思っていたけど、そうならなかった。

 

 地面が踏み固められるのって、そんな簡単な話じゃなかった。

 

 何千、何万人って人々が日常的に行き交いして初めてビクともしないぐらいに踏み固められるのであって。

 

 僕たち3人がしばらく行き交いしたぐらいでは、まったく固まる気配がなくて……何時まで経っても、思い出したように足元が凸凹しているなあ……と思わせる状態だった。

 

 おかげで、疲れるだけでなく、筋肉痛も起こって大変だった。

 

 やっぱり、いつもとは違う感覚で踏ん張ったり力を入れたりするから、普段使わない部分に力が入るみたいで……僕もそうだけど、愛はもう足がプルプル震えていたぐらいだった。

 

 なお、タイミング次第では、『出張・簡易総合センター』が一か所に留まる時間をオーバーして移動してしまう時があって。

 

 そのせいで、『鍵&家』にて休息を取りつつ、センターを探し回るなんてことも起こったりした。

 

 

 ……次に、意外にも厄介なのが虫よりも、鳥の存在だった。

 

 

 いや、虫も厄介ではあるのだ。

 

 『原始のペイント』によるバリアによって虫に刺されるといった事態は避けられるが、とにかく数が多くて視界を幾度となく遮られる。

 

 刺されないとは分かっていても、目の前を何十匹もブンブン飛び回れば、我慢していても反射的に手で払ってしまいたくなるわけで……で、鳥だ。

 

 なんと、地下13階……遭遇する頻度こそ少ないけど、鳥系のモンスターが居たのである。

 

 幸いにも、殺傷能力は低いようだが……鳥が厄介なのは、とにかく攻撃できる手段を用いているのが僕だけだったから。

 

 レイダの場合は石ころを投げつけられるが、そんな正確無比なコントロールがあるわけじゃないから、だいたい外す。

 

 僕だって、鳥の動きを予測できるほど慣れていないから、レイダのよりは当たるってだけで……つまり、だ。

 

 苛立ったレイダががむしゃらに投げまくった石つぶてがクリーンヒットして落下したところを仕留めるか。

 

 これまた、運良く斧がぶち当たって一発即死、そうでなくとも落下したところを……てなわけで、とにかく襲われると時間が掛かって仕方が無かった。

 

 

 最後に……水場にのみ出現が確認された、『ウッドゴーレム』である。

 

 

 なんでウッドかって、見た目のまんま。

 

 太い樹木に枝葉が手足のようになっていて、まるで木で出来たゴーレムみたいで……こいつがまあ、しぶといの、なんの。

 

 幸いにも動きこそノロいけど、とにかく、しぶとい。

 

 斧を当てても堪えた様子が無いし、叩き切っても、なんきゃにょきにょき伸びて元の姿に戻っちゃう。

 

 手足の枝葉を切り落としても、あっという間に伸びて元に戻るし。

 

 一回、レイダが切れてメイスで砕いたけど、それでも再生に時間が掛かっただけだったのだから、そのしつこさが分かると思う。

 

 

 まあ、とはいえ、だ。

 

 

 これまた幸いなことに、愛の『ゴーレム』が非常に噛み合う相手であった。

 

 両方とも動きが遅いけど、ゴーレムの方がまだ速くて……そして、満遍なくゆっくりと破壊出来るゴーレムは、まさしくウッドゴーレムの天敵に──―ん? 

 

 何をしたのかって……それは、ゴーレムの体内に取り込んで、圧殺するというものだ。

 

 

 これのおかげで、だ。

 

 

 ここしばらく不遇な感じになっていた愛のゴーレムは日の目を浴びる形になり、対ウッドゴーレムの時には、ちょっと自信が付いた感じになっていた。

 

 ……そうして、時は流れ……時々見つかるレベルアップの薬を飲んでステータスアップをしながら、おそらく一ヵ月半ぐらい、だろうか。

 

 再び『出張・簡易総合センター』が位置を変えたので、また場所を探さないとなあ……と雑談しながら、さて、頑張るぞと僕たちは『鍵&家』を出て、少し歩いた……その先で。

 

 

「……ねえ、アレってさ?」

「……そうね、死んでいるわね」

「死んでいますね、全身に羽虫が集っていますし、なんか異臭がしますし……」

 

 

 地下13階に下りてから初めてとなる、僕たち以外の人間を発見したのであった。

 

 まあ、そいつは遠目にもはっきりと死んでいるのが分かる有様で、全身に羽虫が集って真っ黒になっていて……死臭ってやつが漂っていたけれども。

 

 

 

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