切れば良いのだ、何事も!   作:葛城

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※ グロな描写?ありね、気を付けてね


第10話: 気を抜いてはいけませんよ、それは誰かの言葉

 

 

 

 ──さて、苦い記憶として残っていた『トラ』を危なげなく倒した僕たちだが、だからといって、軽く考えてはいけない。

 

 

 あくまでも、僕たちの攻撃がスムーズに通るようになっただけで、向こうの攻撃が通らないわけではないのだ。

 

 というか、おそらくだけど、トラの牙や爪が当たったら僕たちは間違いなく重傷もしくは致命傷になると思う。

 

 だって、『インベントリー』に入れる前に、トラの死骸を確認したのだけど……その手足の太さ、鋭く分厚い牙や爪を見れば、嫌でも思い知らされる。

 

 こんなの、万が一にもまともに腹に当たったら一発で内臓が引き裂かれ、骨も砕かれるだろうなって。

 

 運が良ければ即死するだろうけど、運が悪ければ……動けなくなって、食われてしまうかもしれない。

 

 そもそも、腹をかすっただけで腸が零れ出てしまうぐらいの傷口になってしまうから……だからこそ、改めてレベルアップの重要性を僕たちは強く実感した。

 

 勝利したことでより強く実感するのは、僕たちが生き残った証。死んでしまったら、そこで終わりだから。

 

 なので……僕はトラを『インベントリー』に収納してから、改めて地下14階の探索を開始した。

 

 地下13階へ戻っても良いのだけど、その場合は、後続の人たちと遭遇するリスクがある。

 

 遭遇した相手が、僕たちが確認した、明らかに不穏な気配を感じさせた者たちでなければ……いや、ここでの楽観視は怖い。

 

 ここは、地上とはルールが違う。

 

 まあ、今の地上のルールは以前よりも明らかに欺瞞をオブラートに包んだりはしていないが、それでもここよりはマシだ。

 

 ここでは、文字通り力が全てだ。

 

 金だろうが何だろうが、関係ない。力で奪い取れば、それが許される場になった。

 

 以前は違った、だが、今は違う。

 

 如何なる非道も許され、如何なる残虐も許され、以前ならば即座に呪いが降りかかっていた行為の全てが許された。

 

 ならば……常に最悪の展開を考えておいて損は無い。

 

 今の最悪は、地下13階にて後続たちと接触し、奪い合いの殺し合いに発展し……全滅してしまうことだ。

 

 相手の実力は分からないが、数の多さは確実に負けている。人海戦術で攻められ続けたら、間違いなく僕たちは敗北するだろう。

 

 だからこそ、僕たちは数ではなく質で迎え撃つしかなく、そのためにはレベルアップこそが最短かつ唯一だと思ったわけで。

 

 同じようにリスクを取るならば、まだレベルアップ薬が手に入る可能性が上よりある地下14階を進んだ方が……というわけだ。

 

 

 ……そうして僕たちは、だ。

 

 

 地下13階よりも蒸し暑く、ジャングルとしか表現しようがない空間をえっちらおっちらと、警戒心をフルスロットルで研ぎ澄ませた状態で進むわけだ。

 

 正直、緊張感は地下13階より高まっている。けれども、最初にこの階に降りて来た時よりは、軽い。

 

 たぶん、『トラ』を倒したことで自信が付いたのだと思う。

 

 あまり実感出来ていなかった『レベルアップ』による変化を、くっきりと体感出来たから……おかげで、僕たちは緊張感を保ちつつも、どこか冷静でいられた。

 

 

 ……その証拠に、だ。

 

 

 時々、草葉に隠れてモンスターが飛び出してくる。その中にはトラとは違うけど、それに匹敵する巨体なモンスターもいた。

 

 そいつらはこの環境に適応しているだけあって、直前まで本当に……いや、下手したら、飛び出して来る時ですらほとんど音を立てない時がある。

 

 

 まさしく、それは『狩り』だ。

 

 

 もしも僕たちが地下13階にて地道に頑張って『レベルアップの薬』を集めていなかったら、レイダですら気付くのが遅れた可能性があるだろう。

 

 でも、それは仮定の話でしかなくて、僕たちは一ヵ月以上もひたすら地道にレベルアップに勤しんだ。

 

 その結果、トラに限らず様々なモンスターの接近に対して、現時点では100%の割合で察知出来ていて……その全てをカウンターという形で勝利することが出来ていた。

 

 それこそが、証拠である……まあ、他にも。

 

 

「……あのさ」

「なに?」

 

 

 周囲を警戒しつつも返事をしてくれた二人に、僕は少し前から考えていたことを二人に告げた。

 

 

「今の僕たちの恰好って、完全にジャングルに住まう原住民だよね」

「……んふ」

「斧に棍棒に……素手? もうさ、ウララララって叫びながら突撃したら、もうどこから見ても原住民じゃん」

「んう、んふふ、んふふふ……止めて、笑わせないでよ……」

「おっぱい丸出しで突撃してくるとか、もうさ……」

「んふふふふ……」

 

 

 そう、こんな感じで、ちょっとふざけられる程度には僕たちは余裕を持てていた。

 

 ちなみに、二人ともうっすら僕と同じような感想は持っていたらしいけど、あえて口には出さなかったらしい。

 

 だって、ねえ。

 

 別の立場から今の僕たちを見て、僕たちの事を探索者だとすぐに気付ける人……どれぐらい居るだろうか。

 

 少なくとも、僕はそういう姿をしたモンスターかなと思う。

 

 常識的に考えて、命を奪うモンスターがわんさか居るこんな危険な場所で、だよ。

 

 ボディペイントとパンツで探索しているやつなんて、頭がヤバいか自殺目的か、それともモンスターか……と、思わない? 

 

 僕なら、モンスター一択だ。

 

 実際に『原始のペイント』とかいう、事情を知らない者からしたらナメてんのと怒られそうな恰好をしている僕が言うのもなんだけど。

 

 いや、まあ、だって、僕だって『原始のペイント』とかいう意味不明なモノに実際に触れていなかったら同じ……まあ、とにかく、だ。

 

 地下1階、地下2階、それぐらいならともかく、地下14階まで降りて来てそんな事をする意味が分からない。

 

 可能性が0ではないにしても……とはいえ、それならまだ人っぽいモンスターが出たと思うのが自然な事だろうと思ったわけだ。

 

 客観的に見て、僕たちの様子は、まさしく地下14階の原住民みたいな感じだっただろう。

 

 恰好もそうだけど、地下14階にも虫はいる。

 

 一般的な都会人の感性からしたら、思わず顔を背けてしまうぐらいの数の虫が、ぶんぶん飛んでいる。

 

 もしも僕たちのようにパンツ一枚の恰好で歩いていたら、5分と経たないうちに全身虫刺されの酷い有様になっていただろう。

 

 それぐらい、虫の羽音が四方八方から聞こえる、そんな中を……僕たちは気にした様子もなく進んでいるのだ。

 

 そりゃあ、『地下14階に住まう原住民』と思われても致し方ない……っと、そんな事をつらつらと考えていた時であった。

 

 草木をかき分けた先に、開けたスペースがあった。

 

 そこには『出張・簡易総合センター』と書かれた看板と、その奥には……すっかり見慣れてしまったセンターが建っていた。

 

 

 それは、良い。

 

 

 それ自体は、とにかく待ち望んでいた安全スポットだから、それを見つけられたこと自体は、とっても幸運である。

 

 ただ一つ、気になるのは……簡易センターの前に居る謎のモンスターだ。

 

 モンスターの外観は、樹木である。ならば樹木だろと言われそうだけど、ただの樹木ではない。

 

 まず、明らかに他の樹木に比べて倍以上……おそらく3倍近いサイズだ。太さも相応にあって、ここがジャングルじゃなかったら遠くからでも認識出来ていただろう。

 

 それでいて、何故かセンターのすぐ前にポツンと生えている。

 

 その時点で怪しさが振り切っているが、僕たちがそいつをモンスターと認識したのは……その樹木の体表に張り付いている存在。

 

 見たままを語るならば、それは樹液のようなモノに包まれた状態で張り付いている人間であった。

 

 一瞬、人間っぽい形をしただけの模様かなと思ったけど、よくよく目を凝らせば……それが、生きた人間であることに気付く。

 

 

 なんでそう思ったのかって、その人間たち……生きているのだ。

 

 

 空気が通っているのか、それとも不思議なナニカで生かされているのかまでは分からない。

 

 けれども、目が合った途端、ギョッと表情を変えたのが見えたのだ。

 

 そのうえ、ほとんど身動き出来ていないけど……なにかこう、必死にこちらに気付いてもらおうとしているのが分かる。

 

 わずかに動く表情と、わずかに動く唇と、わずかに動く手足を必死に動かして……こちらにむかって助けを求めてくるのが見える。

 

 さすがに、そんなのを見てしまった後で『これはバカでかいだけの樹木だな』とは思えない……そのうえ、だ。

 

 樹液のようなモノに包まれている人間は、一つではない。

 

 樹木の幹のあたりに、両手では数え切れない数の人間が捕まっている。

 

 生きているのか死んでいるは分からないが、服装から見て……探索者だけでなく、地上の人間なのも確認出来た。

 

 

(……違う、こいつじゃない)

 

 

 同時に、僕は我知らず握りしめていた斧から少しばかり力を抜いた。

 

 ため息を吐けば、強張っていた肩からも力が抜けた──その瞬間だった。

 

 

 ──ぎちゅ、と。

 

 

 粘液に包まれている人間が、絞られた。

 

 それはまるで、雑巾を絞るかのように、あるいは圧縮して水分を絞り出したかのように……樹液の色が真っ赤に染まった。

 

 と、同時に、ギュッと樹液の袋が縮んだ。

 

 真空パックにされたミイラのような有様になったその人は、そのままズブズブと……幹の中へと取り込まれていき、ものの十数秒ほどで跡形も無くなってしまった。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………僕も、レイダも、愛も、何も言葉を発せられなかった。

 

 しかし、硬直する僕たちをしり目に、いくつもの人間……いや、弁当を身体にくっつけたそいつは、メキメキと。

 

 そう、メキメキと、まるで根っこを足のように動かして歩きだしたのだ。

 

 当然ながら、遠ざかっていくその幹には、こちらを見つめる人たちの……言葉は聞こえないけど、必死なその形相を目撃した僕たちは。

 

 何も、出来なかった。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………僕も、レイダも、愛も、何も言葉を発せられなかった。

 

 ただ、そいつの足音が完全に遠ざかって聞こえなくなるまで動けず……そして、ようやく動き出せるようになった僕たちは。

 

 

「……行こうか」

「うん」

「はい」

 

 

 どうにもならない事だと諦め、受け入れ、僕たちが僕たちのためにやれることをやるために、眼前の出張センターへと向かうのであった。

 

 

 

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