切れば良いのだ、何事も!   作:葛城

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第5話: 漏れても安心

 

 

 

 ──結論から言おう、謎のお姉さんからもらった『斧』と『鍵』、滅茶苦茶便利である。

 

 

 まず、念じるだけで消したり出現させたりできるこの斧は、いわゆる『手斧』に分類されるサイズで、大きくはない。

 

 持っていると意外と軽く、設計の段階でしっかり重心が計算されているようで、素人の投げ方でもけっこう速く遠くまで飛んでゆく。

 

 それだけならば、高品質な斧というだけなのだが……さすがは謎のお姉さんが用意したやつだ。

 

 

 なんと、この斧。

 

 念じると、斧がどの位置にあっても手元に出現するのである。

 

 

 あと、これはなんとなくだが……微妙に斧そのものがアシストしてくれているのか、ほぼほぼ狙い外さず刃が直撃してくれるのだ。

 

 つまり、モンスターに直撃してすぐに手元に斧を戻す→投げる→戻す→投げる、この攻撃を無限に繰り返す事が可能で、しかも毎回狙い外さず直撃するのだ。

 

 これはもう、とても画期的であった。

 

 なにせ、投げた斧はとりあえず当たればけっこう深く食い込んでくれるのだ。

 

 人間相手なら一発即死、地下2階のモンスターとはいえ、身体のどこかに当たってくれたら、それだけでかなり動きが鈍くなる。

 

 つくづく実感したけど、斧の殺傷力ってマジスゴイ。

 

 さすがに機動力がありそうなモンスターは避けて、動きの鈍いやつをターゲットにしているけど……だいたい、2,3回当てたら死ぬ。

 

 下手に近付かれる=死なので、とにかくモンスターに近寄られないよう細心の注意を払っているが……ん? 

 

 

 どんなモンスターが居るのかだって? 

 

 

 特に、地下1階と変わらない。ただ、積極的に人間を襲うようになって、ガチで無抵抗だと殺されてしまう、ただそれだけ。

 

 実際、度胸試しとかで地下2階に入ったりする大学生とかいるらしく、1年に1回か2回ぐらいはそれで死者が出る。

 

 知らない間に回り込まれて逃げ切れず、死ぬまで滅多打ちにされ……といった感じで、人間ってあそこまでグチャグチャになるんだなあって、始めて見た時はゲロ吐いたね。

 

 でもまあ、そんな危険の代わりに、地下1階での活動とは比べ物にならないぐらい魔石が集まるのだけど。

 

 

 で、話を戻そう。次は、『鍵』……というより、『部屋』の方だ。

 

 

 現時点では本当に自分だけが入る事の出来る部屋だが、ここで一つ新たな使い方を考案した。

 

 それは、いわゆるアイテムボックス的な使い方だ。ぶっちゃけると、物置代わりである。

 

 ダンジョンでは、どうしても魔石を持ち帰るのがネックになる。いくら質が良くなっているとはいえ、リュックに詰められる分が限度なのは変わらない。

 

 

 そこで、『部屋』だ。

 

 

 今は何も無いわけだが、見方を変えたら、その分だけ手ぶらで移動できるということ。

 

 常に身軽でいられる、この利点は計り知れない。

 

 というか、物置小屋みたいな殺風景な部屋を、本当に物置にしていると……なんだか感慨深い気持ちになるのは、僕だけなのだろうか? 

 

 たぶん、僕だけなんだろうね。

 

 まあ、とにかく、リュック一杯の魔石を背負って往復するという重りから解放されたおかげで、疲労軽減的な意味では本当に大活躍なのだ。

 

 

「か、肩の感覚が……」

 

 

 とはいえ、それで僕の方が鍛えたプロ野球選手並みに強くなるわけじゃあないけどね。

 

 頑張ったおかげで、右肩の感覚が半ば死んでしまうかわりにお金は稼げた。左投げは要練習、まともに前に飛ばないから。

 

 終わったその日は、箸すらまともに持てなくなるが……それでも、平均して4万~5万の稼ぎとなった。

 

 僕はそれをなんとか一週間続けて、計30万円の稼ぎとなり……そして、8日目、9日目、10日目。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………いや、これ無理だわ。

 

 そう、僕は……管理センター内の借りている部屋にて、全身を襲う疲労と筋肉痛に、どうしたものかと考えながら……う~ん、と頭を悩ませていた。

 

 

「……なんだろう、どっかで破綻する気配をビンビンに感じるぞ」

 

 

 理由は、リターンが想定していた以上に少なかったからだ。

 

 一見すると、稼ぎがだいぶ大きくなって余裕が持てているように見えるだろうが……忘れてはいけない。

 

 『ダンジョン』に潜るということは、命を危険にさらすということ。そして、怪我を負っても自己責任であるということ。

 

 気合と勢いと根性で、なんとか一週間だけはぶっ通しでやってみたけど、ぶっちゃけ身体がもたん。

 

 頑張ろうと思ったけど、倒れ込むようにベッドに入った瞬間、次に目覚めたのは13時間後だった。

 

 当初の目標をやりきって気が緩んだせいなのか、それから全身を襲う筋肉痛やら何やらがあまりにも酷すぎて。

 

 部屋に備え付けてある電話で受け付けに助けを求めたら、簡単なカウセリングと、栄養点滴と、オムツ着用の結果となった。

 

 

 そう、オムツだ! 

 

 

 まともにベッドから出る事も出来なかったから、2日間はベッドにてオムツ、看護師さんにちん○とか汚れたオムツの交換とか、本当に恥ずかしかった。

 

 とにかく急性疲労のせいで固形物は少し控えましょうと言われ、ポタージュスープと点滴にて補給しつつ、とにかくグウグウ眠って……そして、今朝になってなんとか点滴は外されたわけだけど。

 

 

「舐めてたわ……いや、厳しい。これはちょっと、方針を改めねばならんねえ……」

 

 

 正直、体力には自信があったけど、1日潜ったら1日休むべきだと強く実感したし、後悔した。

 

 それぐらい、色々と疲れる。

 

 ガチで死ぬかもしれないという環境を、少々舐めていた。

 

 気合と勢いで誤魔化せるのは一瞬だけで、それを押し通したら必ず無理が祟る……なんとも、手痛い勉強代である。

 

 ……とりあえずは、だ。

 

 ベッドの上に並べた預金通帳の数字と、手持ちの現金と、あとは、部屋の隅にまとめて置いてある私物を見やりながら……僕は、どうしたものかと首を傾げた。

 

 

「ん~……とりあえず、現時点で一番の出費である、ここの宿泊費を削れたら良いのだけど……でもなあ、食堂と風呂も込みだから、セットで考えると格安なんだよなあ……」

 

 

 そう、管理センターの宿泊施設、泊まるだけを考えたらちょい安いぐらいだけど、小さいけど風呂が部屋に付いているし、食費も込みだから、全体で見るとかなり安くなる。

 

 場所も、すぐ近くにダンジョンがあるから距離的な利点もある。医療施設もあるから、万が一、いち早く治療を受けることもできる。

 

 なので、そこだけを見たら、これ以上ないってぐらいに僕たちの味方って感じではあるのだけど。

 

 

 ……でもなあ、とてもじゃないけど、学生をやりながらだとそのうち宿泊費を出せなくなるんだよなあ。

 

 

 幾度となく考え、その度に同じ結論を出した僕は……改めて、う~ん、と頭を掻いた。

 

 いや、ほら、ちょっと冷静に考えたらわかるんだけどさ。

 

 この一週間の稼ぎって、夏休み中で、その日の体力が続く限りやれて、その金額ってわけ。

 

 学校が始まってしまえば、必然的に行ける時間も減るわけで……当然、稼ぎは減るわけだ。

 

 そうなると、最低限の宿泊費をなんとか……ってなぐらいしか稼げないどころか、赤字になる可能性はあるわけで。

 

 つまり、下手しなくても、その他諸々で預金が減るわけで……しかし、これから先の事を思うと、ここで変にケチるのも考え物。

 

 

(ゆくゆくは『部屋』を改良していくにしても、まずは寝袋とダンボールか……いや、こっちは逃走する予定はないし、布団で良いか?)

 

 

 とはいえ、余裕が無いのもまた、事実なのが困り物。

 

 

(中は本当に照明だけで何も無いし……トイレとか水道とか追加すると、いくらになるんだろうか?)

 

 

『部屋』を使うとなれば、ここを出て水とトイレが使える公園とかの近くに行く必要がある。

 

 けど、最近はなんか悪戯対策とかで、水が出ないようになっている公園が多いし……人に見られて騒ぎになっても、困る。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………一旦、あのお姉さんよりメニューを見せてもらった方が良いだろう。

 

 とにかく、飲める水道とトイレを開通さえできたら、最悪ここの宿泊費を切り詰めることは可能。

 

 選ぶ選ばないは別として、選択肢の一つとして、どれほどお金が掛かるのか……それを確認しておいた方が良いだろう。

 

 そう思った僕は、「イタタタッ……」ギチギチと軋んで痛む身体をなだめながら、着替えようとした……その時であった。

 

 

「私を呼ぶ気配がしましたよ、少年」

「──っ、いっだぁ!?」

 

 

 唐突に、それはもう前触れもなく、当たり前のように謎のお姉さんが隣に出現した。

 

 あまりにも突然過ぎて、筋肉痛も忘れて思わず飛び退き──あまりの激痛に、思わず涙が出る。ていうか、ちょっとオシッコ漏れた。

 

 でも、大丈夫。なんてったって、オムツしているから。

 

 まだ、回復しきったわけではない。身体がビックリしたり、痛みで思わず力が入ると、ちょびっとだけ漏れてしまうだけである。

 

 ……なので、今日はまだオムツは外せそうにないのが悲しいところ……で、だ。

 

 

「では、メニューをどうぞ」

 

 

 その言葉と共に、僕の前に……なんだろうか、立体映像というか、そういう感じの画面というか、ディスプレイみたいなものが音も無く出現した。

 

 こういう言い方はなんだけど、謎のお姉さんのやり方にしては、とても分かりやすい。

 

 なんでかって、一目でどういうものかなんとなく察せられたから。

 

 コレはアレだ、実際に利用した事はなくとも、なんとなく画面を見ただけでだいたい操作方法が分かるタッチパネル系の……と言えば、分かるかな? 

 

 さすがに、二度目なのでオシッコは漏らさなかったが……それでも、ちょっとビキビキッと痛みが走ったのを堪えつつ、僕は空中に表示されている画面を指差した。

 

 

「これ、僕が触っていいの?」

「??? そのために出したのですが、なにか気になるところでも?」

 

 

 そう呟く、6本腕の背中に翼を生やし、なんかずっと目を瞑ったままの謎のお姉さん。

 

 そんなお姉さんに対し、僕は……いや、もうね、本当に困惑しながらも、表示されている画面の上部……そこに点滅している文字を指差した。

 

 

「ここに、『管理者用(おまえさぁ……(呆れ))』みたいな文字があるんだけど?」

「おや?」

 

 

 不思議そうに首を傾げた謎のお姉さんは、細い指先で画面を突いた……が、表示されている内容に変化は無く。

 

 

 ──ブブー! ──

 

 

 と、文字に表わしたらそんな感じのブザー音が何処からともなく響いただけであった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………??? 

 

 

 首を傾げる僕を尻目に、謎のお姉さんはバンバンと画面を叩いて……あっ、と謎のお姉さんはパンと6本の腕を合掌して、頷いた。

 

 

「そういえば、これは私しか使えない代物でしたね。すっかり忘れていました」

「えぇ……」

 

 

 呆気に取られる僕を尻目に、謎のお姉さんは一つ頷いた。

 

 

「でもまあ、せっかくの機会ですし、『世界』も少しぐらい融通を利かせても良いと思うのですが、駄目なのですか?」

『駄目に決まっているだろ……』

「おや、駄目なのですか?」

『なんでイケると思ったのか……』

「少年、どうやら駄目なようです」

「待って、お姉さん。当たり前のようになんかチャットみたいな事をしているけど、それってどうなっているの?」

 

 

 残念ながら、お姉さんは何も答えてはくれなかった。

 

 ほぼ毎回思う事だけど、やっぱこのお姉さん思考回路が独特過ぎてよく分からん。

 

 いや、まあ、悪い人(?)ではない、うん、本当に悪い人(?)ではないのだろうけど……っと。

 

 

「では、口頭で仰って下さい。やれそうなら、やりますので。次回には、代わりのモノを用意しておきますので」

「えぇ……まあ、いいけど」

 

 

 本当にマイペースな……まあいい。

 

 色々と怪しい部分が満載だけど、それはそれとして、手助けしてくれるというのだ。

 

 対価が必要とはいえ、こんなありがたいサービスはない。

 

 

「え~っと、とりあえず、『鍵』を使った先の『部屋』なんだけど、水道通して、トイレとお風呂があるとありがたいかな。あと、テレビも」

「ふむふむ、他には?」

「とりあえず、パッと思いついたのは……ああ、それと、お姉さんは、なんか身体を鍛えるのにおススメの道具とか知らない?」

「身体を鍛える、ですか?」

 

 

 目を瞑ったままの顔を向けられた僕は、小さな己の身体をお姉さんに見せた。

 

 

「見てのとおり、僕は小柄なの。少しでも背丈とか伸ばして強くなりたい……なにか良い方法はないかなって」

「なるほど、分かりました」

 

 

 ポン、と手を叩いた謎のお姉さんは。

 

 

「たった今、完了致しました。そして、これを授けましょう」

 

 

 その言葉と共に、ソッと僕に手渡してきた。

 

 それは小さな瓶で、ラベルには『あっぷるジュース』と書かれていた。

 

 

「さあ、グイッと」

「いきなり何を? いや、まあ、いいけど……」

 

 

 促されるがまま、飲む。りんごの味。

 

 ちょっと甘みが強かったけど、まあまあ美味しかった。

 

 ただ、味が濃いから、1本飲んだらその日は満足かな……とも思った。

 

 

「では、おさらば」

 

 

 そして、その言葉と共にお姉さんはフッと消えた。

 

 後に残されたのは、口内に残るりんごの味と、状況の変化にまったく付いていけていない僕と。

 

 

「……ん? 完了?」

 

 

 印字された数字が0に近くなっている、預金通帳。

 

 その事に僕が気付くのは、もう少し後の事であった。

 

 

 

 





※ 腕が6本あって背中に翼が生えている女……いったい、何者なんだ?

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