切れば良いのだ、何事も!   作:葛城

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第13話: あのさぁ……

 

 

 

 ──結論、おそらく僕たちはハズレを引いたと思われる。

 

 

 ある程度体調が戻ってから改めてステータスを確認したけど、やっぱりレベルは上がっていなかった。

 

 とはいえ、5%だし? 

 

 上がれば儲け、その5%に賭けましょうっていうアイテムだから、ハズレたこと自体はまあ致し方ないと諦められるのだけど。

 

 ただ、毎回ハッスルモードになるとしたら……正直、かなり腰が引ける。

 

 いや、まあ、それはあくまでも僕の考えすぎで、ハズレた場合の作用は一つじゃないという話らしいから……僕たちは、たまたまそういうハズレを引いただけなんだろうけど。

 

 それでもまあ、回復期間を含めて最低3日は動けなくなるのは、ちょっと色々と及び腰になるデメリットかな……とは思った。

 

 

 ……ちなみに、回復に時間が掛かったのは僕と愛、レイダは初日のうちに回復を終えていた。

 

 

 僕は3日目でようやく全快ってくらいに回復したけど、愛は5日くらい掛かった……でも、僕は責めたりはしない。

 

 アレは正直、命を削る。

 

 やっている時は全然気にも留めなかったけど、なんかこう、冷静になると、アレは間違いなく命を削ってハッスル&ハッスルしていたなって実感するぐらい、とにかく疲れるから。

 

 実際、我に返った日の僕は全身が筋肉痛……それも、そんな部位が筋肉痛にって思ってしまうような変なところが痛んで堪らなかったし。

 

 僕よりも体力が無い愛は、それこそトイレに行くだけでも精一杯な感じで。

 

 ジッとしている方が体に悪いからと頑張ってストレッチをしていたけど、涙目になるぐらいヒイヒイ痛みを堪えていたほどに。

 

 それでも、そのレベルの筋肉痛やら軋みやらが5日程度で完治したあたり、一般女子より回復力があるのは確定なんだろうけど。

 

 

 とまあ、そんな感じで、だ。

 

 

 飲んでから約7日間も足止めを食らった僕たちは、聞こえていた『声』が無くなっていたのを確認してから、『鍵&家』の外へと出た。

 

 途端、地下14階ジャングルの熱気が僕たちを襲う。

 

『原始のペイント』を身にまとっていてもなお、蒸し暑さを感じるぐらいなのだから、これ無しだったらどうなっていたか……想像するだけで気力を失うだろう。

 

 改めて、『原始のペイント』は攻撃に対する防御力よりも、こういう目に見えない環境に対する防御性が反則的だと実感する。

 

 これだけで虫に刺されることが無いし、30℃を確実に超えている最中でも平気な顔で動き回れるし、それでいて微弱ながら物理的な防御性能は有しているし。

 

 ただ、これまでならともかく、ここから先は正直なところ微弱程度では不安が残るというか……可能ならば、そういった部分への防御性能が向上した防具が欲しいところだ。

 

 ぶっちゃけ、地下14階のモンスターの攻撃に耐えられなさそうなのに、これより下に向かうとなれば……なので。

 

 地下13階と同じく、僕たちは……ひたすら、モンスターたちを狩りまくることにした。

 

 あと、地下15階への階段探し。

 

 すぐに降りるわけじゃないけど、場所ぐらいは把握しておかないと……いざという時、ぶっつけ本番で探し回るってのは避けたかった。

 

 まあ、それは見つかったら儲けものって感じで、本命は別。

 

 僕の能力の一つであるクリエイト(正式名称は『出し入れ自由魔改造を添えて』)は、素材さえあれば、様々なモノを作ることができる。

 

 言い換えれば、素材が無ければ役には立たない能力というわけで……何をするにしても、素材を集める必要があるわけだ。

 

 そして、ここで手に入る素材はすべてモンスターから得られる。つまり、とにかくモンスターを狩らなければ話にならんわけで。

 

 結局、やる事は地下13階と同じであり、ひたすらモンスターを狩ってはセンターに向かい、素材を集めたりレベルアップの薬を使ったり、繰り返すわけだ。

 

 

 でも、これがまあ大変なのだ。

 

 なんでかって、必ず求める素材が手に入るわけじゃないから。

 

 

 ゲームに例えるなら、クリエイトによって制作する装備全般は、いわゆる『レア素材』的なモノを多く消費する……といえば、想像しやすいかなと思う。

 

 トラを倒して手に入る『レベルアップの薬』が、まさにソレだ。

 

 アレって実は、必ず手に入るモノじゃないっぽいんだよね。

 

 手に入りやすいけど、割合的には2割ぐらい……むしろ、トラのレア素材っぽい『虎の玉』とかいうやつの方がとにかく手に入らない。

 

 たぶんだけど、体感的に1%も無いのでは……現に、これまで何百体とトラを倒してきたけど、今のところ2つしか手に入っていないし。

 

 とはいえ、この『虎の玉』でクリエイトできる防具とアイテムには大変興味がある。

 

 詳細は分からないけど、『タイガービキニ』って防具が作れて、それを装備するとタイガーパワーを得られるらしい。

 

 アイテムは、『召喚:タイガー』という特殊な力を得られる宝玉になるとかで……どちらも、相当に強力なアイテムらしいのだ。

 

 

 とても、気になっている。

 

 

 ただし、どちらも一つ作るのに、『虎の玉』を3つ消費するので、作れるとしたらどちらか一つ。

 

 可能ならば両方作りたいが……ああ、そうそう、実はこの『レア素材』というのは、別にトラに限ったわけではない。

 

 これまで倒してきたモンスターたちも『レア素材』というのがあって、実は『原始のペイント』もレア素材で作られ……話を戻そう。

 

 地下13階と違って、ここのモンスターは攻撃力が跳ねあがっているので、緊張感もまた桁違いだが……それでも、時間の問題だった。

 

 なんと言い表せば良いのか上手く説明出来ないけど、『レベルアップの薬』によってレベルアップを繰り返していくうちに……こう、余裕が出てきた。

 

 この余裕ってのは、単純に慣れてきたとかそんなんじゃなくて……こう、年齢が上がった感じ? 

 

 子供の頃は怖くて怖くて堪らなかったホラー映画も、高校生になってから改めて見たら、『懐かしい~、よく見たらけっこうチープ~』ってな感じが近しいのかな? 

 

 出張センターが移動をするたび、強制的に僕たちも移動先を探して地下14階を探し回るのだけど……明らかに、以前よりさらに余裕があったんだよね。

 

 実際、不意を突かれなければ愛でもトラの攻撃を避けられるぐらいになっているあたり、僕たちのフィジカルは相当に上がっているんだと思う。

 

 

 ……で、そんな感じで一ヵ月ちょっとぐらい滞在していたあたりで……ふと、僕たちは地下15階への階段を見つけた。

 

 

 その階段は、とくに複雑な場所に隠されているわけではない。

 

 ただ、葛の葉のようなモノがもっさりと階段出入口周辺に生えているせいで、うっかりするとそのまま見過ごしてしまいそうな……そんな状態になっていた。

 

 ていうか、普通に見過ごすと思う。

 

 僕もレイダも普通に見過ごしていて、『ここの階段ってどこにあるんだろう?』って、すぐ傍にあるのに普通に見過ごしていたし。

 

 偶然にも愛が違和感を覚えていなかったら、僕たちはいざその時になってしらみつぶしに探し回っていたかも……で、だ。

 

 

 ──せっかく見つけたわけだし、ほんのちょっとだけ覗いてみるべきか? 

 

 

 そう、僕たちが思ったのはまあ、当然といえば当然かもしれない。

 

 地下15階がこの階と同じ環境ならまだしも、もっと蒸し暑い状態だったら、クリエイトする防具なんかを色々と考えなければならない。

 

 環境的に楽になった代わりにモンスターが凶悪になっていたら、もっと物理的な性能に優れた武器や防具をクリエイトした方が良いし。

 

 その判断材料として、確認出来るならば、しておいた方が良い……と、考えたわけだ。

 

 もちろん、降りてすぐにモンスターと鉢合わせして襲い掛かってくる可能性もあるから、警戒心を最大に引き上げて慎重に降りるのだけれども。

 

 

 ……そうして、だ。

 

 

 地下15階に降りた僕たちの眼前に広がっていたのは……トラが1体居るだけの、せいぜい学校の体育館ぐらいの広さしかない空間だった。

 

 天井も壁もレンガで構成されて、中央にトラが寝そべっている……ただ、それだけ。

 

 

 ……え、なにこれ? 

 

 

 これまでとはガラリと変わった内装に、僕たちは首を傾げた。

 

 トラの目は閉じられていて、開く気配は見られない。生きているのか、死んでいるのか、距離があるからなんとも──っ!? 

 

 

「はい?」

「ん?」

「え?」

 

 

 ふと、気付けば僕たちは──トラの眼前に立っていた。

 

 直前まで階段から覗いていたはずなのに、気付いたら僕たちはそこにいた。

 

 その瞬間の僕たちは、何が起こったのか分からず思わず互いの顔を見回し、周囲を見回していたが──事態は、待ってくれなかった。

 

 

 ──どしん、と。

 

 

 腹に響く、重たい音。

 

 振り返れば、先ほどまで確かにあったはずの階段へと続く出入口が閉じられていて、そこには壁が──その時であった。

 

 

『──動き出すまで残り1分。頑張って倒し切ろう! ──』

 

 

 ピコン、という効果音と共に、そんな文字が表示された電光掲示板がトラの頭上に表示され、直後に秒数が減り始め──え? 

 

 

「──ぶっ殺せぇぇぇ!!!!」

 

 

 我に返ったのは、僕が一番早かった。

 

 僕の言葉を受けて我に返ったレイダと愛は慌てて──必死な形相になって、トラを攻撃し始めた。

 

 このトラは、上の階で遭遇するトラの3倍以上大きく、愛のゴーレムすら子供に見えるぐらいの……とにかく、僕たちはいっせいに攻撃を始めた。

 

 直感的なことだけど、1分以内に殺し切らないとヤバいと思ったからだ。

 

 ゆえに、僕たちは全員本気であった、後先考えず全力だった。

 

 僕は少しでも切れ味が良くなれと念じながら無我夢中のまま『レーザーアックス』を何度も振り下ろし、全身が血まみれになって。

 

 レイダはレイダで『パワーメイス』を振り回し、ずっと息を止めたまま叩きつけて叩きつけて叩きつけて。

 

 愛はゴーレムを生み出す傍ら、持っている刃物を体重を掛けて突き刺し、ゴーレムが動き出せば、壊れるのも構わず殴り始め。

 

 そして……カウントが0になった、その瞬間。

 

 

『──カウント0,推定ダメージ117%、目標達成です! ──』

 

 ──ピコン、と。

 

 

 その言葉が表示されると同時に、傷だらけになったトラの身体がボフンと煙を放って……後には『虎の玉』が4つ、転がっていた。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………え、なにこれ? 

 

 

 僕は血まみれで、レイダは珍しく息を乱していて、愛は何がなんだかといった様子で座り込んでいた。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………え、マジでなんなの? 

 

 

 とりあえず、倒したのは分かった。

 

 振り返れば、地下14階へと続く上りの階段があって、トラの背後の先へと視線を向けたら、地下へと降りる階段が……ん? 

 

 よく見たら、階段の傍になんか文字が書かれたプレートが……気になったので、レイダと愛を伴って確認しに向かえば、だ。

 

 

『──制限時間内に倒し切ろう! 倒せなかった場合、推定地下25階相当のモンスターが動き出します──』

『──最初に倒せたもの勝ちです。倒された時点で、地上への直通エレベーターが開通します──』

『──このフロアとエレベーターの利用権は、最初に倒し切った者、あるいはそのグループやチームにのみ付与されます──』

『──今後も、こういったギミックを増やしていく予定です、ご期待ください──』

 

 

 それらの言葉が、記されていた。おそらく手書きで、ちょっと癖を感じさせられる文字だった。

 

 そうして読み終わった直後、プレートの隣が音もなく変形し、気付けばエレベーターが出現していて……『地上』と『地下15階フロア』のボタンが現れ、今はフロアの方のボタンが点灯していた。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………しばしの間、僕たちは何も言えなかった。

 

 何も言えなかったのだけれども、それでも、しばらくして。

 

 

「……注意書きが遅い!!」

 

 

 思わず、そう叫んでしまった僕は悪くないと思う。だって、レイダと愛の二人も、何度も何度も頷いていたから。

 

 むしろ、眼前のプレートを殴りつけないだけ平静を保てていたと、僕は思うのであった。

 

 

 

 

 

 

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