切れば良いのだ、何事も!   作:葛城

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第14話: 治安は以前より悪くなっています

 

 

 

 ──久しぶりの地上とはいえ、どこへ繋がっているのかは分からない。

 

 

 けれども、僕は一度地上に出たいと思った。

 

 そもそも、今回僕たちがダンジョンに入ったのだって、半ば強制……言うなれば早い者勝ちの椅子取りゲームに勝つためだ。

 

 国による、暴力と銃器を使った明確な脅し、拒絶すればダンジョンには入れず、入るならば横暴と表現するしかない料金などを徴収される。

 

 そのダンジョンに入った者たちは、明らかに反社的な存在が幅を利かせようとして……遅かれ早かれ、国も制圧に動くと僕たちは思っていた。

 

 そうなる前に少しでも先へと進んで、ダンジョン内の資源やら何やらが独占され、支配下に置かれる前に……という前提の下で動いていた。

 

 だからこそ、上に戻る時はもっと強くなった後か、それこそ前に進めば全滅確定な状況にならない限りは……と、思っていたのだ。

 

 それが、まさか地下15階の時点で地上に戻れるようになるとは、正直なところ考えてすらいなかった。

 

 

 ……先に言っておくが、ここの僕たちが考えてすらいなかったのは、既存の『エレベーター』の出入り口はすべて押さえられていると思っていたからだ。

 

 

 だからこそ、僕たちはとにかく下へ下へと向かっていたわけで。

 

 しかし、ここのエレベーターとフロアの利用権を得たということは、既存の『エレベーター』とは別物と思って良いのだろうか? 

 

 それとも、地下15階を押した場合はこのフロアへと通され、そのまま強制的に制限時間1分の戦闘が始まっていたのだろうか? 

 

 もしも、そうだとしたら……地下15階行きのボタンを押した者は、軒並み先ほどのトラと戦って……敗北したのだろうか? 

 

 でも、そうなると、ここのトラが倒されていない以上は誰も地下15階より下に降りてはいないことに……ん? 

 

 

(もしかすると、僕たちが下りたルートって隠しルートみたいな感じ? 本来はちゃんと別にあったとか?)

 

 

 こういう時こそ謎のお姉さん(お姉さんの石像でも良い)に尋ねたいのだけど、たぶん、教えてはくれないだろう。

 

 お姉さん、そこらへんは君たちの目で確かめてくれっていうタイプだろうし。

 

 まあ、この件に関していちいち考えても何も変わらないから、それは後にするとして、だ。

 

 とりあえず、地上の様子を確認しておきたい。

 

 大まかな日数は数えているけど、細かいところは道中に起こった様々なトラブルが原因で分からなくなっているし。

 

 二人に聞いてみたら、二人も一度は地上を確認しておきたいと同意してくれて……さっそく、僕たちはエレベーターに乗り込んだのであった。

 

 

 ……ちなみに、だ。

 

 

 このエレベーター自体の大きさは、あのエレベーターよりも出入口の大きさが数倍ぐらいのサイズであった。

 

 中の広さも相応にあって、40~50人ぐらいは入れるぐらいで、高さも3m近くはありそうであった。

 

 内装自体は、特に変なところは……いや、エレベーターがある時点で変だけど、直ちに警戒するようなモノは見当たらない。

 

 照明が明るく、『地上』と『地下15』のボタンがあって、ディスプレイには現在の階数が表示されている。

 

 壁には、なんだろうか……色々な張り紙というか、ポスターが張られているのだけど、どうにも意味が分からないモノが多い。

 

 英語で書かれているモノや、英語以外で書かれているモノ。可愛らしい絵で描かれているモノから、よく分からないセンスの絵が描かれているモノ。

 

 

 日本語で描かれているモノもあるのだけど、内容が意味不明というか……例えば、だ。

 

 その1『商売をしませんか? 公平かつ正しい取引を行いましょう by ティナ』

 

 こう書かれたポスターには、なんだろうか……人間の顔を持つ女ロボットというか、そんなのがプリントされていた。

 

 

 その2『失せろと言っているのにしつこいんだよ、あとこっちの世界にちょっかいかけるな! by マリー』

 

 こう書かれたポスターには、なんだろうか……美しい少女が強くこちらを睨みつけている、そんな姿がプリントされていた。

 

 

 その3『天使を騙る異界の神もどきよ、疾く失せるがよい。おぬしとの取引には応じぬのじゃ by 鬼姫』

 

 こう書かれたポスターには、なんだろうか……巫女服を身にまとい、角を生やした幼い少女の姿がプリントされていた。

 

 

 他にも、ダルダルのTシャツとボロボロのズボンを履いた、嫌悪感を滲ませた黒髪美少女のポスターとか……とにかく、だ。

 

 よく分からないけど、日本語で書かれているポスターにプリントされている人(?)の顔のほとんどが嫌悪感満載なあたり、ツッコミどころしかないのだけど。

 

 これ、わざとそういうコンセプトで作られたポスターなのだろうか? 

 

 それとも、これを作った人が本当にこんな顔を向けられることを不思議に思いながらも、そのまま作ったのだろうか。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………まあ、そこはいいだろう、考えて答えを見つけ出したって、何かが変わるわけでもないし。

 

 そうして、ひとまず確認し終えた僕たちは、さっそく『地上』ボタンを押した。

 

 扉が閉められ、動き出す……それ自体はまあ、普通のエレベーターと何も変わらず、ディスプレイに表示された数字だけが減っていった。

 

 そして、『地上』と表示されて、すぐ。

 

 

 がこん、と音がして扉が開かれてゆき……僕たちを出迎えたのは。

 

 

 瓦礫というか、荒野というか、廃墟というか。

 

 そうとしか言い表しようがない光景であり、ポツンと地上に飛び出したエレベーター設備があまりにも異彩を放っているぐらい、そこに人の気配が感じられなかった。

 

 ただ、空はとても晴れていた。

 

 未曽有とも言うべき人類社会の混乱とは裏腹に、空だけは苛立ちを覚えてしまいそうになるぐらい、とてもきれいな青空が広がっていた。

 

 ぴゅうっと吹いてきた風にも人の営みが感じられず、それどころか、どこか焦げ臭さが混じっていて、まとわりつくような冷気が──ん? 

 

 

「……あ、もしかして今って冬?」

 

 

 思わず、僕たちは両手で身体を摩り──あっ、と今さらながら思い出した。

 

 僕たちの現在の恰好は、『原始のペイント』だ。

 

 つまり、パンツ1枚&ボディペイント……どこから見ても変態扱いされそうな恰好である。

 

 あまりにもダンジョン内でこの格好で居ることに慣れ過ぎてしまっていたから忘れていたが、普通はこんな格好で出歩いてはダメなのだ。

 

 これは、着替えた方が……いや、でも、『原始のペイント』は冷気にも対応している。

 

 その証拠に、最初に感じた冷気も徐々に治まってゆき、ダンジョンに居た時と同じく丁度良い感じに……あまりの急激な温度変化に、昨日が追い付かなかったのだろうか? 

 

 ……恥ずかしさはあるけれども、恥じらいで命を絶つほど身持ちが固いわけでもない。

 

 二人にも聞いてみれば、今さら裸の一つや二つ見られてアタフタはしないということで、安全が確認されるまでは……ということになった。

 

 そうして、僕たちはエレベーターがある建物を中心にあたりを探索することにした。

 

 ちゃんと『原始のペイント』が効果を発揮し始めたのでもう寒さをほとんど感じなくなったが、おそらく、今はもう冬なのだろう。

 

 僕たちがダンジョンに潜ってから……正確な日数は分からくなっていたけど、たしか夏頃に入った。

 

 時期的には12月かそこらだろうか……周りに今の時間を確認できるものが何もないから、あてずっぽうだけど。

 

 それにしても、小一時間ぐらい僕たちは周囲をグルグルと歩き回っているが……とにかく、何も無い。

 

 火事でも起こったのか、焼けた跡と思わしき建物とか、あるいは壊されたのか、とにかくまともに残っている建物が一つも確認出来ない。

 

 こういう場所、家を失くした人がこっそり住み着いているという光景が以前は見られていたのだけど……そんな人たちの姿も見当たらない。

 

 とりあえず、一番高さがある建物(半壊)へと登って、当たりを見回してみるが……目に見える近い範囲は瓦礫やらそんなのばかりだ。

 

 そう、そればかり。少し離れたところには、ここに比べたらマシな程度の街並みが確認できる。

 

 かなり遠く……遠くの方に川っぽいのが見える。その先にはまだ無事な建物がチラホラ確認出来るが……あそこまで行くとなると、どれぐらい掛かるだろうか? 

 

 近くの街へ向かうにしても、直線距離で……『原始のペイント』でそんなに歩くの? 

 

 ていうか、ここはいったいどこなのだろうか? 

 

 いちおう場所を示す看板はあったのだけど、真っ黒に汚れていて文字が確認出来ないし……確認できたとしても、知っている地名じゃなかったら一緒だし。

 

 スマホが使えていた頃なら調べて一発だったのだけれども、今はスマホに限らずインターネットすら使えなくなっているから……で、だ。

 

 ──結局、エレベーター周辺は誰もおらず、廃墟やら何やらがあるだけ……という事が分かっただけであった。

 

 とりあえず、自衛隊などを始めとした国の勢力が無いという事が分かっただけでも、調べる価値があったということだが……っと、その時であった。

 

 

『──おや、見つけましたね』

「え、なんでこんな場所に石像があるの?」

 

 

 何気なく……本当に何気なく、たまたま目に留まった半壊した建物へと視線を向けた時、一瞬ばかり人影を見たような気がしたので。

 

 念のため、ひょいっと中を覗いてみたら、そこに居たのは人ではなく、謎のお姉さんの石像だった。

 

 石像のシルエット(?)を人影と見間違えたのだろうけど、それはそれとして、ここは地上である。

 

 ダンジョンにしか置かれていないはずの石像が、どうして地上に……率直に尋ねてみたら。

 

 

『ここは既にダンジョンに半分ほど飲み込まれましたので、私の石像ぐらいは設置されていますよ。というか、ここはエレベーターフロアの一部みたいなものですから』

「はい???」

『まあ、あまり難しい話ではありません。ダンジョンからの制約が無くなった以上、制約に縛られたダンジョンもまた自由に動くのは必然だと思いませんか?』

「思いませんかと聞かれても????」

 

 

 まるで意味が分からない話だが、これはしっかり聞かなければヤバいと判断した僕は、そのまま言葉を変えて詳細を尋ねた。

 

 そうして、分かった事は、だ。

 

 どうやら、僕たちが『ダンジョンの呪い』と呼ばれるモノは、僕たちを縛り付けていたと同時に、ダンジョンそのものを縛り付ける鎖のような役割を果たしていたらしい。

 

 ダンジョンに意思というものは無いが、機能としてそういうモノが備わっているらしい。

 

 人体に例えるなら、栄養過多になれば太り、運動すれば筋肉が付いて……といった感じで、それ以上でもそれ以下でもないのだとか。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………????? 

 

 考え出すとキリが無いので、もうそういうモノだと思って諦めるが……とりあえず、僕は気になっている事を尋ねた。

 

 

「つまり、ここら一帯はエレベーターフロア扱いになっていて、もうここには誰も住んでいないわけね?」

『理解が早くて助かります』

「もともとここに住んでいた人たちって、どうなったの?」

『半分ダンジョンですので、半分モンスターに殺されました。その混乱の際にどこかで出火したみたいで、ここら全体に燃え移って、ご覧の有様です』

「……そ、そう」

『時期尚早ですので、街には向かわない方が良いですよ。自警団やら国の部隊との衝突で、内戦も同然な状況ですから』

「えぇ……」

『ここは雨風もまともに防げませんし、倒壊の危険性が大きいですし、貴方がここの権利を得る前はモンスターも出現しましたし、放棄された土地です、安心してください』

「いや、僕が言いたいのはそこじゃなくて──内戦起こっているのか……」

 

 

 なんだろう、地上にモンスターが出ているという話をサラっと流した謎のお姉さんに一言文句を言えばいいのか、僕が気にし過ぎるだめなのか。

 

 というか、住民の半数を殺すような数(あるいは、質)のモンスターが、そんな当たり前のように? 

 

 いや、でも、モンスター自体は既に地上に出現していたし……っと。

 

 

『──それではこちらをどうぞ』

「ちょ!?」

 

 

 なんか、唐突に石像より光が放たれ、それが僕の身体へとぶつかった。

 

 ギョッと目を見開くレイダと愛を他所に、光はすぐに治まり……と、同時に、僕は自分の身に何が起こったのかを理解していて。

 

 

『頑張ってくださいね、健闘を祈っております』

 

 

 合わせて、石像はそれだけを言い残すと同時にボロボロと崩れ出し、ものの十数秒ほどで砂粒になり、そのまま消滅してしまった。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………後に残されたのは、何が何だか分からない僕たち……が、僕だけはちょっとばかり分かっていた。

 

 要は、パワーアップしたわけだ。

 

 何がって、『インベントリー』や『クリエイト』の機能が……無言のままに、僕は半壊している建物から出て。

 

 それから『インベントリー』にて、手早く周囲の瓦礫を回収し、素材に変換し……僕だけにしか認識出来ない空中ディスプレイにて、操作を行えば。

 

 

 ──ぽふん、と。

 

 

 なんとも気の抜ける音と共に、僕の眼前には物置小屋がぽつんと出現していた。

 

 

 

 

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