苦手な方は注意ね
──集団たちの恰好に、統一感はなかった。
遠目からなのではっきりとは分からないが、それでも分かるぐらいにバラバラだ。
武装している者もいれば、普段着のような感じの者もいるし、なにやら動物(?)らしきモノに乗ったやつまでいる。
それが、まっすぐこっちに……かは分からないけれども、確実に近付いて来ているのを、一番勘が良くて遠くを見渡せるレイダが断言した。
「あれ、なんだと思う?」
首を傾げながらも尋ねてくるレイダに、僕と愛は首を傾げながらも答えた。
「偵察って感じにしては中々に雰囲気が物騒だね。僕としては暴徒の集団か、それに近しい組織からの襲撃かってところかな」
「ハチと同じく……もしかしたら、向こうには望遠鏡とか双眼鏡とか、あるいは遠見が出来る能力の人がいるのかも」
僕と愛の返答に、レイダはそうかもと納得した。
実際のところ、たまたまこっちに向かって来ているというのはとても考えにくい話だ。
以前ならいざ知らず、これだけインフラが壊された現在、地上にモンスターとかまで出現する可能性がある状況で理由もなく遠出をするのはただの自殺行為だ。
また、遊牧民族のように季節に合わせて移動するなんてのもあり得ない。居たとしても、この寒い時期にここに居る時点でおかしい。
広大な平原ならばともかく、日本は山あり谷ありな高低差だらけの国、雪に閉ざされて道が閉鎖なんてのは毎年のように起こっている。
平原ならばまっすぐ進めば済む道も、この国では大きく迂回しないと通れないなんてのはザラだ。
つまり、やつらはココから見える遠くの街から遠征してきた侵略者の可能性が極めて高い、というわけだ。
それも、愛の言う通り、望遠鏡とか双眼鏡とかそういうのを所持していて、ぐるりと周辺の状況を毎日監視している可能性が高い。
おそらく、瓦礫しかなかった場所に変化が起こったから、誰かが住みつき始めたと思ったのだろう。
ましてや、その速度があまりにも早く、柵まで設置し始めているのを見て……正確な人数が分からないにしても、相応の物資を持っていると判断したのかもしれない。
……そんな時に、わざわざ大勢で押しかけてくるということは、だ。
「間違いなく、ここを襲いに来ると思った方がよいと思うけど、二人は……聞くまでもないか」
明らかに目に物騒な色が混じり始めた二人を見て、僕は苦笑しつつ……さて、と思考を切り替える。
レイダが確認した限り、相手の人数は……目測で100人を超えているっぽい。
さすがに休みなくこちらへ向かってそのまま襲撃開始なんて事はしないだろうけど、油断はできない。
用心に越した事はないし、何と言ってもこちらは3人……同数ならともかく、一度にそれだけの数が一斉に来られたら押しつぶされる可能性が高い。
では、今から籠城でもするか……いやいや、設備も人員も足りないのに、何の意味があるのか。
どれだけ優れた城であろうとも、その城を守る兵が居なければ、それはハリボテと同じ。
と、なれば、ここは撤退するしか選択肢が無いことになる……が、しかし。
アッサリ奪われてしまうのはあまりにも腹が立つ。
少なくとも、手痛い結果を相手に与えてからでなければ、とてもではないが撤退したくはない。
それは二人とも同意見であった。タダでは奪わせない、そんな目つきをしていた。
とはいえ、どうしたものか。
いつぞやの、学校に押しかけて来たやつらならともかく、ここに向かって来る者たちは、他者を害する事に慣れきっている者たちだ。
レイダが『目の輝きが違う、アレは迷いなくこっちを殺しに来ると思う』と断言するぐらいなのだから、脅しは通用しない。
僕たちは全員レベルアップを果たしてはいるけど、別にそれは僕たちだけに限った話ではない。
向こうにも、レベルアップを果たしている者が何人かいるはずだし、そう思って間違いはないだろう。
なので、ますます近接戦闘は避けたいところだが……インベントリー内にある燃料を使って……いやいや、取り返しがつかないレベルの大火事にでもなったら……っと。
そこまで考えたあたりで、僕はふと思い出した。
そういえば、ここへ出てくる前に……地下15階のフロアで『虎の玉』を手に入れた事を。
あの時、レイダと愛の装備をこれで作れるぞと思っていたけど……色々と衝撃的な事が続いていて、すっかり忘れていた。
たしか、『タイガービキニ』という名の防具と、『召喚:タイガー』という名の宝玉が一つずつ作れた……と、なれば?
僕はさっそく、二人にこの事を話した。
『タイガービキニ』の方は防具なので除外するとして、気になるのは『召喚:タイガー』の方で……これ、もしかして、召喚獣とかそういうやつじゃないかな?
僕の話を聞いた二人は、なるほどと頷き……ゴーレム操作で感覚を掴んでいる愛が、私に使わせてほしいと手をあげた。
もちろん、僕はそのつもりだったし、レイダもその気がまったく無かったから、自動的に『召喚:タイガー』の宝玉は愛の手に渡った。
「よし、それじゃあさっそく……召喚!」
その言葉と共に、愛の眼前に……ゴーレムと同じく砂が集まり始め……砂で作られたトラが形成された。
それは、僕たちがこれまで幾度となく倒してきたトラと瓜二つであった。
色が付いていて、近くで確認しないと、その身体が砂で出来ているのが分からないぐらいに精巧に出来ていた。
「おお……思っていたよりもすごい」
思わず手を叩くレイダに、愛は……ちょっと気難しそうに、う~んと唸った。
「これ、感覚的な話だけど消耗が少し激しい気がする」
「そうなの?」
「少なくとも、今はタイガーを出している間は……私自身はあまり動けないかな。けっこう集中力がいるから」
「へえ、一長一短ってやつね」
「でもこれ、命令はゴーレムよりオートに動く感じだから、そういう面ではゴーレムより操作が楽かも」
「なるほど、猫は自由気ままだものね」
「それと、集中するとタイガーを通じて音とか拾える感じがする……到着したら試してみるわ。それじゃあ、行ってこい!!」
愛の指示を受けて、トラが……いや、タイガーが一つ吠える。ついで、駆け出して……なんと、柵を軽やかに飛び越えてそのまま走って行った。
……。
……。
…………改めて、僕たちが戦ったトラって客観的に見たらめちゃヤバいモンスターだということをこんな形で実感した。
だって、タイガーの身体の大きさって確実に2mを超えている。そして、設置してある策の高さ、実は4mほどもある。
つまり、体長2m超えの四足歩行動物(?)が、垂直4mのフェンスを軽やかに飛び越えてくる脚力を有しているわけだ。
そりゃあ、そんな脚力を有しているモンスターの爪や牙なんてまともに食らえば即死だし、かすっても即死するわけ……ん?
(あれ、そう考えると、そんなトラを毎日のように狩りまくっていた僕たちも……止めよう、この話は)
そこまで考えたあたりで、僕は思考を切り上げたのであった。
……。
……。
…………さすがは、タイガーというべきか。
人間なら回り道しなければならない獣道や山の中をスイスイ最短距離で進んでいき……日が落ちたあたりで、件の者たちの傍へと到着したようだった。
さすがに、夜通しぶっ通しでの強引な進軍をする気はないようだ。
まあ、侵略側とて人間だ。
徹夜での移動なんて危険しかないし、フラフラのまま向かって返り討ちにあったなんて事は避けたいのだろう。
そいつらは集団かつまとまって行動しており、なんとテントと思わしき寝床も用意して、焚火も行っていた。
いや、まあ、どちらも無ければ自殺行為なので、どちらも持っていて当たり前ではあるのだけど……とにかく、だ。
現代の照明器具とは違い、焚火の明かりというは加減なんて出来ない。
物音を立てているならともかく、暗がりに身を潜めて気配を消しているタイガーに気付ける者は誰もいない。
見張り役らしきものは周囲を見張っているが、それでも気付けない彼らは、火を囲んで順番に食事を取り、談笑していた。
そして、そんな会話の中身に耳を澄ませていたタイガー(愛)はと言うと。
「よし、殺そう」
「いいね、殺そう」
「待って、初手でそれは気が早過ぎるよ?」
彼らと同じく、僕たちも物置小屋にて食事を取っていたのだけど、ものの見事に愛がブチ切れ、レイダが即答で同意していた。
……とりあえず、タイガーを通じて盗み聞いた話をまとめると、だ。
当初の予想通り、やはり侵略者たちは双眼鏡をいくつか所持していて、それで僕たちが整地しているあの場所の異変を見つけたようだ。
これまた予想通り、あまりにも急速な変化が続いているのを見て、かつ、柵が作られていくのを見て、何かしらの物資を溜め込んでいると考えたらしく。
またまた予想通り、奪い取ってしまおうと考え、有志を募って動き出した……というわけだ。
「男は邪魔なら殺せ、女は使い道がありそうなら生かして楽しめって感じですね」
「よし、殺そう」
そして、さすがに遠すぎて人数までは把握出来ていないようで……その代わり、向こうは交渉とか考えておらず、暴力ですべて押し切ろうとしている感じなのが分かったのが皮肉だけれども。
……二人の反応が物騒すぎやしないかって?
むしろ、これぐらいじゃないと今はもう駄目じゃないかなって。
だって、今ってもうおそらく医者は絶滅危惧種ぐらい貴重な存在だろうし、医薬品とかそういうのも無いじゃん?
そんな状態で、しかも不衛生な人たちに……その、色々されたら、下手したらそれだけで何かしらの病気に感染する可能性があるじゃん?
そいつらが『温泉?』を手に入れていたならともかく、持っていなかったら……考えると、かなり怖いじゃん?
そのうえ、仮に妊娠したら……こんな状況化だ。
清潔な場所での堕胎処置なんて望めないから、偶発的な流産か、腹を叩いて流産するか、諦めて産むか……この三つしかないだろう。
どちらにせよ、すべて命に係わる。
下手したら死ぬ可能性だってあるのだから、レイダや愛からしたら、実質的には自分たちを殺そうとしているも同然で……まあ、キレるのも致し方ないか。
「──よし、タイガー、行くのだ!」
そして、キレた愛を止めるつもりなど、僕にあるわけもなく……クックック、と黒い笑みを浮かべている二人を他所に、自分の椀に具材をよそるのであった。
……。
……。
…………。
……。
……。
…………それは、一夜の出来事……どころか、ほんの数十分程度の出来事であった。
最初に気付いたのは、見張りをしていた者……だが、気付いただけで、そいつは何も出来なかった。
暗がりから、ナニカが飛び出した。
それに気づいて反射的に動こうとした──が、その時にはもうナニカの爪がそいつの顔面を切り裂いていた。
次に気付いた者が、敵襲の声をあげた──と同時に、伸ばされた爪で腹を切られて致命傷を負った。
気付いた者たちが一斉に武器を構えて身構える……だが、無駄に終わった。
悲しい事に、単純な話だが、強さが違い過ぎた。
ナニカの爪や牙は、彼らの身体のどこかをかすっただけでも無視できない傷を負わせ、まともに食らえば例外なく致命傷となった。
対して、彼らの攻撃は……ナニカに手傷を負わせるのは不可能だった。
召喚されたから、ではない。
召喚されたナニカの能力は、それを模したモンスターと同じ……つまり、彼らはトラを倒せるだけのステータスを持っていなかった。
そして、夜という圧倒的に不利な状況下において、彼らはなんとか応戦しようとはしたが、まるで歯が立たず。
最終的には暗闇に紛れて逃げ出した者が居たけれども、あっという間に追いつかれ……一人残さず、ナニカの餌食になったのであった。
それは、戦いが始まってからわずか数十分程度の出来事であった……。