詳細は聞かないけど、なんか翌朝の愛の顔がとてもスッキリした顔になっているから、色々と済ませたのだと思う。
その証拠に、レイダからも『あいつら、居なくなった』って話していたし……まあ、終わったならいいけど。
とりあえず、話を戻そう。
あの後、ちょっと話し合ったのだけど、まず『温泉』を設置することにした。
すっかり忘れ去られているっぽいけど、そういえば出しっぱなしのまま放置していた『温泉』ってどうなったって話が出たからだ。
『温泉』はアイテムであり能力でありダンジョンである。温泉空間なる場所を作り出す、なんかよく分からないやつだ。
言葉だけなら意味不明過ぎて首を傾げられそうだけど、事実だから致し方ない。いまだに、そういうモノだと僕は何も考えず受け流しただけだし。
で、この『温泉』を使用すると、眼前に温泉空間への出入り口が出現する。
形状は、木製のガラス窓無し電話ボックスといった感じ。
出入口が取っ手が付いている面だけで、そこから先は異空間……すなわち、温泉空間が広がっているわけだ。
なんか色々と頑張れば内装とかお湯の質とか色々とパワーアップさせたり変更させたりが可能となる、なんかすごい温泉である。
僕が最後に確認した時の内装は、温泉というよりは銭湯といった感じで、まだまだこれから……という状態だった。
……いちおう、『ダンジョンの呪い』が発動していた時は、僕が近くに居ないと誰も入れないような仕様になっていた。
なんでかって、何度も言うけど『温泉』はアイテムでありダンジョンであるから。
つまり、その頃はまだ僕の許可なく、あるいは脅して、あるいは僕の知らないうちに勝手に使用すると呪いが発動しかねない状況だった。
しかし、それはあくまでも呪いがあった時だ。
今は呪い全般が無くなったので、『温泉』を勝手に使用されても呪いが発動しない。
僕の方でも、ダンジョン内で『温泉』とか入れる状況に無かったし、なんか怒涛の展開が続いたせいで、愛から指摘されるまですっかり忘れていた。
だって、広さだけなら出張センターに引けを取らないし。
それ以外では『鍵&家』の風呂で普通に満足していたし、そんな事よりもレベルアップを急げって気持ちで頭がいっぱいだったから……で、だ。
早速だけど、放置されっぱなしの『温泉』を出してみることにした。
もしかしたら、所有権とか移っちゃっているかもと不安を覚えたけど、そういうこともなく普通に呼び出せ──うぇ!?
「くっせぇ!? え、なにこれ!?」
記憶のまま出てくるかと思って身構えていなかった分、僕もそうだけど、二人とも思わず退いたぐらいに……それは、酷い有様になっていた。
まず、出入口の外観が酷かった。
以前は綺麗な木目調といった感じだったけど、なんかこう……落書きだらけというか、細かな傷が増えている。
そして、臭いが酷い。なんというか、アンモニアの臭いってやつなのだろうか。
まるで、上からぶっかけられたかのような、そんな臭いを放っていて……正直、中に入る気持ちがこの時点で消えてしまっていた。
「い、いったい、どういう使われ方をしていたんだ……?」
「 」
「うわっ、びっくりした」
あまりにも酷い有様に思わずそんな言葉をこぼした──瞬間、扉が内側から開かれ、中から……『温泉』のアイドル、『温泉ちゃん』がのそっと出てきた。
なお、この『温泉ちゃん』……謎のお姉さん曰くモデルはゴマアザラシらしいのだけど、見た目はまったくゴマアザラシではない。
なにせ、ゴマアザラシなのに獣のような四足歩行。もうその時点でゴマアザラシ違うだろって言われそうだけど、そこは序の口。
後ろ足よりも前足の方が大きく、何故か前足の部分にはヒヅメが付いていて、後ろ足は人間の足っぽい形状になっている。
胴体部分は獣っぽいが、尻尾は蛇……あるいは馬とかそっち系、今のところ、よく分からない。
首はキリンのように長く、イノシシみたいに鼻が出ていると思ったら、頭には角みたいなのも……さて、『温泉ちゃん』の説明をまとめると、だ。
どうも、呪いが無くなって誰でも『温泉』へと勝手に入る事が出来るようにはなったのだけど、その代わり、所有している者から離れると著しく機能が低下してしまうらしい。
なんでも、温泉の主はあくまでも所有者であり、主のいない温泉なんぞそこらのため池も同然なんだとか……意味が分からないけど、そういうものなのだろう。
で、なんで汚くなっているかって……それは単純に、『温泉』の浄化&浄水能力に対して、利用者たちの数がまったく釣り合っていなかったからだ。
そりゃあ、仮に源泉掛け流しみたいな感じで、チョロチョロと綺麗なお湯が絶えず追加され続けたとしても、だ。
一度に何十人って人たちが次から次に入れば、追い付かなくて当たり前である。
ましてや、汚れはお湯だけではない。
『温泉』そのものの機能が低下したということは、水垢やら何やらも増えていくし、なんならカビだって生えてくるかもしれない。
そして、出入口がアンモニア臭い理由だが、どうもけっこう前にコレを巡って奪い合いが幾度となく勃発したらしい。
落書きは所有者のマーキングみたいなもので、アンモニアの臭いも奪われた側からの嫌がらせ。
なお、内部も普通に使用し過ぎて汚い状態なので、入るのはおススメしないとのことだ。
どれぐらい汚いかって、勝手に使っている人たちからも『あそこはもう汚いし、近寄るな』って言われるぐらいに。
「 」
「うん、お願い。とりあえず、外も中も汚れもカビも……とにかくピカピカに綺麗にして、無菌無臭の清潔空間に、お湯とかも全部入れ替えて綺麗にしてね」
なんとも頭が痛くなる話だが、不幸中の幸いなことに、『温泉』の機能などをカスタマイズする際に必要となる『温泉ポイント』は、たんまり溜まっていた。
この『温泉ポイント』は、主にモンスターを倒すと増える。僕たちはず~っとモンスターを殺しまくっていたから、まさに不幸中の幸いであった。
……そんなわけで、ピカッと光ったかと思えば、後には……先ほどの汚れや異臭が幻だったかのように新品木目調になった窓なし木製電話ボックス(温泉出入口)が姿を見せていた。
自分で言ったことだけど、自分でも何を言っているか分からなくなってくる……まあ、それは置いといて。
中も綺麗になっているとのことで念のために確認すれば……おお、マジで隅から隅までピカピカのピカ、汚れを探し出すのが難しいぐらいに綺麗になっていた。
お湯も何時ぞやと同じく透明で、僕が温泉空間に足を踏み入れたことで機能が活性化したのか、浴槽に溜められていくお湯の量がチョロチョロではなく、ジョロロロみたいな感じになっていた。
おお……こうしてみると、なんか懐かしさを……ん?
なんか袖を……ではなく、唯一の服であるパンツを引っ張られたのでそちらに振り返れば、温泉ちゃんが申し訳なさそうにしていた。
いったいどうしたのか……聞いてみたら、どうやら一つだけミスをしてしまったらしい。
なんでも、この『温泉』は所有者こそ変わっていないが、どうやら管理していた人たちがマーキングをしていたらしく、今の綺麗にする作業でそれを消してしまったらしい。
消したところで『温泉』には何の影響もないのだけど、その代わり、マーキングを施した者たちに、所有者が『温泉』を移動させたことが伝わってしまった……とのことだった。
ちなみに、どんなやつらがマーキングをしたのかは分からないらしい。
はっきりとは言わないが……それって、つまるところ。
「俺たちのモノを奪い取ったやつらはどこのどいつだ……ってな感じ?」
「 」
「おお……戦争って、こういう形で起こるんだね」
率直に尋ねたら、素直に頷かれたので……僕は、苦笑いを浮かべるしかなかった。
……。
……。
…………で、だ。
マーキングしたやつらが奪い返すにしても、以前のような強盗集団かな……と、思っていたら、違った。
「……あれ、自衛隊じゃない?」
「え、マジで?」
「分からないけど、なんかそんな感じの服を着た人が運転している──あ、ていうか、車が動いているわね」
「え、マジで──石油ダンジョン占拠しやがったか」
前回と同じく高台より様子を伺っていたレイダの感想を聞いて、僕は……さすがにこれはヤバいぞと唸った。
車を動かしているということは、少なくとも燃料は確保してあるわけだ。今になって燃料が手に入りやすいのは……石油ダンジョンだろう。
というか、石油ダンジョンが確保されたということは、食料ダンジョンも確保されていると考えていいだろう。
その証拠に、レイダ曰く、『前回のやつらに比べて動きが良い。車の有無に関係ない、遠目でも分かる』とのことだ。
と、なれば、だ。
相手は前回のやつらとは違って、相手を制圧する訓練を受けたプロだ。さすがに銃器は……弾がまだあった場合、さすがに分が悪すぎる。
いくらなんでも、銃弾は避けられない。当たったら大怪我は確実……これは、どうしたものか?
「アタシ、たぶん平気だよ」
「へぁ?」
そうして悩んでいると、あまりにも予想外な事をレイダから言われた僕は、思わず変な声が出た。
「だから、アタシは平気。なんとなく分かる。あの人たちの持っている銃だと、数発当たったくらいじゃビクともしないと思う」
「えぇ……わ、分かるの?」
「なんとなく……持っている銃もなんかハリウッド映画とかで見たようなやつより小さいし……」
「え、そこまで見えるの?」
「う~んと目を凝らしたら……前回は、なんか恰好が汚かったからそこまで見たくはなかったけど、今向かって来ている人たちはまだ身ぎれいな感じだから」
「そ、そうなんだ……」
目を凝らしただけでそこまで遠くの……豆粒のように小さいのに、そんなの確認……いや、そっちじゃない。
あまりにもサラっと言われたから流しそうになったけど、いつの間にかレイダは銃弾すら耐えられるようになったのだろうか?
レイダはこの手の冗談を言わないから、当人が可能と言えば本当に可能なのかもしれないけど……あ、いや、でもアレだ。
レイダって、ちょっとやそっとの怪我なら負傷無しって判断するタイプでもある。
言うなれば、多少の傷なら、明らかに血が滲んでいるのに『怪我してないよ』と言っちゃうタイプ。
やせ我慢とかじゃなくて、当人の中ではその程度の傷は怪我としてカウントしないだけ……でも、包丁でのうっかりならともかく、対銃器でそれをやられると不安しか残らない。
しかし、なんかレイダがやる気になっているというか、次は私が良いところを見せなきゃみたいな反応をしているというか……え、待って、もしかして既に敵認定?
「そもそも、他人のモノを勝手に使っておいて、その事に感謝の言葉もなく武装して向かってくる時点で……どこに友好的な要素があると?」
「悔しいことに、何も言い返せない……」
「大切に使っているならともかく、あそこまで汚く使い倒しておいて、いざ無くなったら確認しに大勢で来る時点で友好的な要素が無いと思う」
「それを言われてしまったら、本当にお終いじゃん、何も言えないよ……!!」
本当に、何も言えなかった。
だって、マジで汚かったし、それだけ粗末に扱われていたのが僕にも分かったし、なんなら放置されていたのも察せられた。
それでいてマーキングをしていたということは、所有権が自分たちにあると思っていたからなのか。
なんにせよ、向こうの理屈では正しくとも、こちらにとっては理不尽極まりない話である。
……で、話は戻るけど、レイダの事だ。
なんか今にも向かいだしそうなぐらい戦意を高めているレイダを押し留めるのは、これ以上難しい。
かといって、向こうの進軍速度は……車を使っているから、いくら遅くても今日中にはここへ到着するだろう。
前回のようにタイガーを先行させて様子を伺うなんてことが出来なさそうだし、かといって、無策のままレイダを突っ込ませるのも……っと、その時であった。
「ハチ、レイダに『タイガービキニ』とやらを作ってみては?」
愛から、そんな提案をされたのは。
「いや、しかし、ビキニだよ?」
「それを言ったら、『原始のペイント』なんてボディペイントじゃないですか」
「むむむ……!!」
そう言われたら……まあ、時間も素材も限られているのだ。
『召喚:タイガー』の宝玉を愛が使うことになったので、『タイガービキニ』はレイダの方に……というのは、僕の気持ち的にも楽だ。
それに、実際に装備して効果を感じ取れなかったらプランBみたいな感じで作戦変更すれば良いわけだし……ということで、だ。
レイダからも催促するような眼差しを向けられた僕は、促されるがままクリエイトを行い……『タイガービキニ』を制作した。
……その見た目は、トラ柄のビキニ。なんというか、野性的なセクシー。
出会った当初に比べて胸も尻も大きく腰が細く(こっちはもともと細い)なったレイダには、良く似合っていた。
……が、しかし。
似合っているからといって、それが何なのか……と、思いながらも張りのある膨らみを見ていると、ぴょん、とレイダの頭にトラの耳が生えた。
…………???
思わず目を瞬かせる僕をしり目に、尻尾も生えた。
あと、なんかビキニの布地部分がわさわさと盛り上がり……え、なんか布地に合わせて毛が生え……トラ柄の体毛?
なんだろう、先ほどもセクシーだったのだけど、今はそれ以上にセクシーになった。
だって、実質的には裸だし。体毛で隠されただけで、裸だし。ある意味、『原始のペイント』よりもよほど露出度が高かった。
両手と両足も、なにやら体毛が生えて変形して一回り大きく……ちゃんと人間の手足だけど、トラを思わせる野太くも鋭い爪がにょきにょきっと。
「うわぁ……エッチですね、コスプレみたいです」
思わず零した愛のその一言、僕は深々と頷いた──と、その時であった。
「うぅ……あ、熱い、身体が、火のように……!!」
急にレイダが歯をガチっと噛みしめて──あれ、なんか牙が──ナニカを堪えるかのように呻いて──直後、吠えた。
「うおぉぉおぉおお────んんん!!!!」
あっ、と思った時にはもう、レイダは走り出していて──設置されている柵を容易く飛び越えて、そのまま駆け出していった。
……。
……。
…………それからまあ、なにやら遠くの方で音がするなと思ってから、それが途絶えて……小一時間ぐらい経った後。
全身血まみれ(すべて返り血)で戻って来たレイダの目は爛々とした輝きを放っていて、全身からホカホカと湯気立つような熱気を立ち上らせていた。
深くは、聞かない。たぶん、タイガーになったのだろう。
ただ、血まみれで人知の中をウロウロされると別の意味で危険なので、せっかくだから綺麗になった『温泉』へ……愛には様子見してもらって。
僕の方はというと、走り回ってお腹が空いただろうし喉も乾いただろうし、食べられない場合でも、気が向いたら食べるかも……という感覚で、飲み物を用意し、ポトフもどきを作っていた──その時。
いつの間にか背後に来ていたレイダに──押し倒された。
触ってもいないのに、デリケートなゾーンがびちゃびちゃに濡れていた。まさしく、貪るという言葉がこれ以上ないぐらいの勢いであった。
「……トラの交尾って、終わるまで多くて100回ぐらいするらしいんで、頑張ってください」
その際、他人事のように、ちょっと離れたところから愛が解説してくれたけど……うん。
比喩抜きで、ちん〇〇もげて取れるかと思った。
※ 闘争本能が刺激されたトラは、色々と本能がむき出しになるのです