切れば良いのだ、何事も!   作:葛城

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第20話: たった一つの賢いやり方(by 私です)

 

 

 

 ──それから、7日後。

 

 

 当初は難民たちもひとまず雨風凌げて寝られる場所と、飢えずにいられる量の食料と、『温泉』によって、とにかく身体と心を休めて。

 

 ようやく頭が回るようになり、ひとまず今にも倒れそうな状態からは脱したようで、目に生気が宿り始めていた。

 

 そうすると、会話の気力すら無くなっていた彼ら彼女らもいくらか話をするようになって……そこで、僕たちはようやく都市部というか街の状況を詳しく知ることができた。

 

 

 ……うすうす察していた事ではあるけど、やはり、思っていたとおりの酷い圧制が敷かれているようだ。

 

 

 世界がこうなる前と違って、今は完全に暴力が全てを決める時代であり、極論を言えば、より強大な暴力を持っている組織ほどあらゆる決定権を……あれ、それは前から……ま、まあ、とにかく、だ。

 

 現在の都市部では、武器を貯蔵してある『自衛隊』と、武器を隠し持っている『反社団体』とで、勢力図が実質二分されているんだとか。

 

 

 ……『国』? 

 

 

 残念ながら、国はもう名前があるだけでほとんどその役割を果たしておらず、自衛隊と国の立場は完全に逆転しているんだとか。

 

 なので、取り締まりを行う警察組織も名前が残っているだけで、実質的に『自衛隊』に組み込まれている……まあ、下請けって感じになるのかな。

 

 ちなみに、自衛隊が国の代わりをしているわけではなくて、けして社会秩序とかそういう役割を果たしているわけでもないらしい。

 

 

 これはまあ、アレだ。

 

 

 言葉は悪いけど、西のヤクザと東のヤクザ、どちらがマシかって程度の違いで、この人たちの立場からしたら、どちらも変わらないのだとか。

 

 実際、自衛隊と名乗ってはいるけど、日常的に暴力を気ままに振るって威張っているし、毎日どこかで無理やり連れ込まれた女性が乱暴されているんだとか……ああ、まあ、うん。

 

 世も末という言葉で済ませるのも哀れな話かもしれないけど、呪いが消えて最初にやったのが暴力による弾圧だもの。

 

 最初の内は、まだ『国』も機能していたっぽい。

 

 なんかこう、一般人の間でも密告とかコネとか、なんかそういうのがあったっぽい。

 

 でも、そう長くは続かなかったらしい……とにかく、あまりにもすべてが急激に変わり過ぎたのだろう。

 

 現場で弾圧を行う側が、それまでの社会ルールを皆が守るからこそ権力を発揮出来ていたお偉方の命令に、いつまでもペコペコ頭を下げて従うかって……そんなわけもなく。

 

 たぶん、どこかでキッカケが起こったのだと思う。

 

 あれ、なんで俺たちこんなやつらの命令に従っているんだって……こんな時代に、裁判がどうとか、誰が従うのかって。

 

 そうなれば、後はもう総崩れって感じで秩序が崩壊し……今の状況に至るまで、あっという間だったとか。

 

 ぶっちゃけ、それらの話を聞いた時、なんか愛が話していたのと似たような末路になったなあ……という感想しか僕にはなかった。

 

 

 ああ、それと。

 

 

 やはり、最初にここへ出発した時よりも人数が減っていたのは、力尽きて動けなくなってしまったので置いてきたから、とのこと。

 

 どうしようもない事だが、まともに歩けなくなった者を連れて行けるほどの余裕なんてあるわけもなく……おそらく、もう死んでいるだろう、とのことだ。

 

 僕はそれを、冷たい対応だとは思わなかった。

 

 悲しい話だけど、極限状態においてそういう者を助けようとしても、結果はほぼ同じ……共倒れ。

 

 恋人とか家族とか、それでも見捨てて置けないぐらいの間柄ならともかく、たまたま居合わせただけの集団なら……まあ、そんなものよねって話だ。

 

 

 ──で、話を冒頭に戻すけど、難民たちがきて7日間を過ぎて、8日目を迎えた、その日の朝。

 

 

 最初ぐらいは何か起こった時のために様子見をしておくかってことで、僕たちは地下16階へは進まず、日帰りにて地下14階でのレベル上げに勤しんでいた。

 

 なので、8日目の今日も、昨日と同じく地下14階への日帰りレベルアップツアーか……と、思いながらも物置小屋から出て来た、その時だ。

 

 

「……え、なにアレは?」

 

 

 柵で区切った向こう側、難民たちが寝泊まりしている物置小屋の向こう……つまり、僕たちから見て外側の方に。

 

 ぽつん、と。

 

 まるで、地下鉄への入口のように、昨日までなかった地下へと続く階段がそこにはあった。

 

 ご丁寧に段差や屋根が設置されていて雨水が入らないように……え、まさか、アレって……ダンジョンへの入口? 

 

 

『──お気づきになられましたか』

「うぉわ!? び、びっくりした……」

 

 

 ポカンと呆けていた僕の背後より、いきなり気配なく声を掛けられて──堪らず飛び跳ねた僕は悪くないだろう。

 

 振り返れば、なんだか久しぶりに見る気がする、生身の謎のお姉さんが立っていた。

 

 相変わらずの6本腕に、前が見えているのか、目を瞑ったまま……あれ、なんか頭に漫画みたいなタンコブが出来てない? 

 

 一瞬気のせいかと思ったけど、やはり気のせいではない。はた目にもはっきり分かるぐらいの大きなタンコブが、プクッと髪を押し上げていた。

 

 

『お久しぶりですね、少年。ええ、そうです、私です』

「お、お久しぶりです……あの、頭のタンコブ大丈夫? どこかにぶつけたんですか?』

『ご安心を、先輩と言いますか、ちょっと相談したら怒られまして……』

 

 

 なんだろう、めちゃくちゃ気になる単語が出て来たけど、僕は気合でそこから意識を逸らした。

 

 

「……えっと、そんな大きなタンコブを作るぐらい怒られたんですか?」

 

 

 代わりに当たり障りのない部分にしたのだけれども。

 

 

『そう思いますよね? あのお方ったら、『全部終わってから相談しに来ても遅いんだって!!』と怒りまして……ケツの穴の小さい女神だと思いませんか?』

「ケツの穴が小さいかは知りませんけど、そりゃあ怒るとは思いますよ?」

 

 

 なんだろう、もっと気になる部分が出てきてしまった……これ、僕が悪いのだろうか? 

 

 

「単刀直入に聞くけど、アレってなに? もしかしなくても、ダンジョンだったり?」

 

 

 とりあえず、あまりこの話を広げるのは怖いから、話を戻す。

 

 

『お察しのとおり、ダンジョンへの入口でございます』

「やっぱり……でも、なんで急に?」

『私とて、色々と考えているのです。せっかくですから、ちょいと他の世界の有力者たちに相談を持ち掛け、よりよいダンジョンライフを送ってほしいなと動いているのですよ』

「あ、そうなんだ」

『とはいえ、中々ご理解してもらえず……己への反省として、その時の相談相手の表情をプリントしてエレベーターに貼り付けております』

「あの嫌悪感満載の顔、その時のやつなんだ……」

 

 

 前々から謎のお姉さんのセンスって独特だなって思っていたけど、やっぱり独特だなって改めて実感する。

 

 まあ、その話は置いといて、なんで急にダンジョンの出入り口が出現したのか……その事を改めて尋ねてみると、だ。

 

 

『どうも、ダンジョンへの数が少ないという話を見聞きしまして……言われてみたら、ダンジョンに行こうと思っても遠すぎて諦める方がいるかもと思いまして』

「……ああ、まあ、うん、それはあるかもね」

『なので、ダンジョンの数を増やしました。コピー&ペーストってやつですかね、思ったより楽々ちんちんでした』

「……へえ、そうなんだ。まあ、奪い合って殺し合うよりは本末転倒じゃなくていいと思うよ」

『そう言ってもらえると頑張った甲斐がありますね。とりあえず、ダンジョンへの入口も現在の総人口と同じ数に増やしましたので、これならば喧嘩は起きないかと』

「はぃぃ???」

 

 

 一瞬、僕は何を言われたのかマジで意味が分からなかった。

 

 いや、だって、総人口と同じって……思わず、僕は柵向こうの見た目が地下鉄への入口みたいなソレを見やった。

 

 

『あ、アレは公衆ダンジョンならぬ、ダンジョンへの公衆出入口です。アレに加えてプライベートな入口を設置することで、個人のプライバシーを守る……良い考えだと思いませんか?』

「お姉さん、僕が言うのもなんだけど、優先順位おかしくない?」

『それと、もう少し人々が交流出来るように、ダンジョン内にワープ移動用の出入り口を作っておきます。これからは、地球の裏側の人々とも交流可能、グローバルってやつですね』

「お姉さん、本当に優先順位おかしいよ?」

 

 

 思わず、僕はそんな言葉を──あ、いや、待って、サラっと聞き流しかけていたけど、お姉さん……ダンジョン増やしたとか話していなかった? 

 

 増やす予定じゃなくて、増やしたってことはもう……ていうか、そうなると、地上に出てくるモンスターが増えるのでは? 

 

 今ですら、地上にモンスターが出て死傷者が出ているのに、ここからさらに出てくるとか……え、マジで? 

 

 

『ご安心を、私はこう見えて色々と先手を打っているのです。ちゃ~んと、これまでの諸々を見たうえで対策をちゃんと取りました、ちゃんとですよ』

「あ、そうなの? それならまあ……」

『まずは、出入口を増やしましたけど、増やした分からモンスターが出てくる事はありません。そのように設定致しました』

「おお……!!」

『そして、入る人が増えることを想定致しまして、ダンジョン内のモンスター出現率を4.3倍に致しました。たくさん倒せますよ、時間の節約になります、アフターファイブもばっちりです』

「おお……いや、待って?」

『同様に、『食糧ダンジョン』と『石油ダンジョン』でのアイテム出現率も4.3倍に致しました。もっとお手軽に資源が手に入りますね』

「…………」

『それと、なにやら思ったよりうまくいっていないようなので、『ダンジョンの呪い』を一部再設定致しました』

「……え?」

『分かち合うかと思ったら、まさか共謀して独占に走るとは……まあ、そこらへんは私も想定していましたので、対策はしております』

「……えっと、どのような?」

『対象に対して行った行為に対する呪い判定の除外、対象のレベルをマイナス50で固定します。他人のレベルアップの機会を奪ったのですから、私もちょっとプンプンしております』

「それ、下手しなくても恨み辛みで死者が出まくりじゃない?」

『まるごと全部下げてしまうと色々と面倒くさいので、下がった余剰分を全て生命力に回します、しぶとくなりますよ、死なないので再起可能です』

「…………」

『それと、改めて言いますけどモンスターの数は増えますので、頑張ってみんなで協力してモンスターを倒してくださいね』

 

 

 そう言うと、謎のお姉さんはピカッと光ったかと思えば、そこにはもう誰も居なくなっていた。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………しばらく、僕は何も言葉を出せなかった。

 

 ただ、呆然としている僕をしり目に、背後の物置小屋から『……え、なにこの扉?』起きた愛の戸惑いの声が……あ~、うん。

 

 

「……頭痛くなってきた、寝よう」

 

 

 僕はもう、しばらく考えるのが嫌になって……ふて寝しようかなと思ったのであった。

 

 

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