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なんかもう色々と考えるのが面倒くさくなった僕は、その日はもうダンジョンに向かわずダラダラ過ごそうと思った
もちろん、それだけが理由ではない。
いや、その理由も大きいけど、それと同じぐらい、考えなくてはならない問題があるから、まずは先にそれを考えてから……と思ったわけだ。
で、その考えなくてはならない問題というのは……謎のお姉さんが話していた、『モンスター出現率4.3倍』とかいう恐ろしいワードのこと。
これ、単純にモンスターの数が4.3倍になったからなのか、それともどこからともなく出現するまでのタイムラグが短くなったのか、似ているようで微妙に違う。
たぶん、出現するまでのタイムラグが短くなったのだと思うけど……モンスターの数が増えるって改めて忠告したあたり、もしかしたら両方なのかもしれない。
……いや、無理じゃね?
今では余裕を持って倒せるようになったトラだけど、毎回4体で現れるようになったら……だし、下手したら十数体とかが群れで押し寄せてくる可能性があるわけで。
ぶっちゃけ、押しつぶされると思う、物量で。
ていうか、下手したら今では楽勝のオークですら手こずりかねない。いや、もうね、マジで本当に数が……あ、待てよ?
数が増えすぎたら……やばくね?
新しく増やした場所とかからは出てこないらしいけど、元々あった都市部の方では、そうじゃないってわけで。
ぞわぞわっと、今さらながらに背筋に悪寒が……いや、これはふて寝している場合じゃねえ、急いで情報収集しないと諸々が手遅れになるかもしれない。
その事に思い至った僕は、レイダと愛にも話した。
二人とも最初は不思議そうに首を傾げていたけど、話が進むにつれて真顔になり……僕の危惧する事を聞けば、それは確認した方が良いと頷いてくれた。
なので、さっそく……物置小屋内部にいつの間にか設置されている『扉』がダンジョンのどこへ通じているかも気になるけど、まずはエレベーターの方だ。
地下15階と地上の二か所を繋ぐエレベーターは、僕たちの許可が無ければ乗り降りすることすらできない。
それは地下15階フロアも同様で、お姉さんの話が本当ならば、ひとまず降りてすぐのフロアは安全が保たれているはずだ。
……そうして降りた結果、昨日と同じくフロアにはモンスターの影はなく、安全が保たれたままであった。
とりあえず、ここにモンスターが出現していたら今後はこのエレベーターは閉鎖確定だったから、ひとまず安心。
だが、しかし……うっすら察してはいたけど、安全が確保されているのはやはり地下15階フロアだけのようだった。
まず、地下14階。
階段から絶対に地下14階へ身体を出さないようにと注意はしていたけど、そんな注意をする前に……既に、そこにはトラが居た。
しかも、なんか多い。パッと見ただけでも3体居る。
これまでトラと遭遇するときは1体ずつ。多くて2体同時か、倒して間もなくもう1体が出現するといった感じだった。
……とりあえず、階段内から斧を投げる。
以前ならともかく、今の僕のステータスならトラの身体を切り裂けるだけのパワーで斧を投げられる。
だから、うまく頭部に当たればそれだけで致命傷に……実際、油断していた1体はそれで仕留められた。
当然、他のトラたちが異変に気付いてこちらに向かって来るが……トラであろうと階段内へは入れないのか、そこで立ち止まった。
……この戦法、うまくいけば本来はその階層に通じない人でも1体は倒せるのだけど。
死体は回収出来ないし、他のモンスターが来てしまう可能性があるから降りられないので、あまり多用する方法ではない。
まあ、とにかく、増えているのは感じ取れたので撤退……そのまま、ついでに地下16階の方を覗いてみることにした。
「うっわ、さむ……」
そうしたら、地下16階は雪景色が広がっていた。
信じられないことに、地下16階は雪が降っていた。地下14階の熱気をまるごと反転したかのような、肌を刺すような冷気がゆらゆらと階段内へと混じり合っていた。
ただ、モンスターの姿は確認出来ない。
たまたまなのか、それとも地下16階は元からモンスターの数が少ないのか、判断に迷うところだが……とりあえず、様子見なのでそこで撤退。
そして、エレベーターで地上へ……なにやら柵向こうの難民たちが騒いでいるようだったけど、無視して僕たちの物置小屋へ向かう。
小屋の中には、確かに見慣れぬ扉が出現していた。
そのまま開けるには敷かれている布団が邪魔をするから、畳んで退かして……いざ、ナムサン!
すると、扉を開けてすぐに……なんだろう、細長い通路がまっすぐ続いていて、左右に扉がいくつもある変な空間に出た。
扉の上部には『地下〇階』といった感じで、行き先が表示されている。
見たままのとおりならば、この扉はダンジョンの各階へと繋がっているのだろうけど……それよりも、だ。
気になるのは、他の扉と比べてちょっと豪華な感じになっている、『ワールドフロア』と書かれた文字だ。
……いちおう、僕たちはまだ『原始のペイント』装備だ。万が一を考えたら、これを脱ぐ理由にはならない。
そして、いちおう、この先がどういう状況なのかぐらいは知っておくべきだろうと僕たちは互いに納得して……ゆっくりと、扉を開けた。
──その瞬間、僕たちは……正直、圧倒された。
一言でいえば、そこは超巨大なドーム空間というか、そんな感じ。先客が居たようで、既に大勢の人たちが……僕たちと同じく困惑した様子で周囲を見回していた。
パッと見た限りでも、おそらく1000人を超えているのではと思う。ただ、とにかくあまりにも広すぎて、端が見えないぐらいの広大なせいで、とてもスカスカでまばらに思えた。
横を見れば、今しがた僕たちが出て来た扉と似たような感じの扉が、壁に沿うようにしてずらーっと……彼方の先まで続いている。
なるほど、人口の数だけ扉があるのだ。それを一つのドームに収めようと思ったら、それだけの面積になるわけだ。
一つ、納得した僕は……改めて、眼前の……距離があり過ぎるので眼前とは言えないけど、とにかく、明らかに日本人ではない風貌の人たちを見やりながら……心の中で思った。
……なんか、臭くないか、と。
いや、まあ、失礼だとは思ったのだけど、正直に言わせてほしい……なんかこう初めて嗅ぐというか、言葉では表現できない臭いが、どこからともなく嗅ぎ取れる。
最初は近くに臭いの出所があるのかと周囲を見回し……レイダも愛も嗅ぎ取っていたようで、僕が探す前から周囲を確認していた。
あ、ちなみに、僕たちが今しがた出て来た扉はなんか光っていて目印になって……話を戻そう。
当然ながら、そんなモノがあったら探そうとした時点で見つかっている……しばしあたりを見回した僕たちだけど、少し前方にて、僕たちの前を……こちらをチラ見しつつも通り過ぎて行った人(?)を見て、僕たちは理解した。
これ、アレだ……体臭の残り香だ、と。
そりゃあ、以前ならいざ知らず、今は風呂に入れていない人が大勢いる。ましてや、世界がこうなる前から毎日入らないのが当たり前な国の方が多かったのだ。
そんな状態で世界がこうなってしまえば、さらに風呂に入らないのが当たり前な環境で……いや、でも、これは……!
「ちょっと、これは我慢できない……なんだろう、動物の臭いとも違うし、本当にコレはキツイ……」
「……ハチくんからそう言ってもらえると助かる。アタシはたぶん、もっとキツイかも……は、鼻が曲がりそう……!!」
思わず弱音を吐けば、レイダが真っ先に賛同してくれた。
言われてみたら、レイダは僕たちの中で一番五感が鋭い。
嗅覚も実はけっこう鋭いらしく、臭いでモンスターの気配を察知する事が可能なレイダからすれば、僕以上に辛いはずだ。
そんな中で、愛はけっこう平気そうな様子であった。
聞けば、昔から臭いには鈍感、臭いのは分かるけど……とのことで、嫌ではあるらしいけれども、その程度な事らしい。
……なんだろう、興味を引かれはしたけど、なんか急に関心が薄れてきている。
調べようとは考えていたが、この臭いだけはどうにもならない。なんというか、こう、げんなりしてくる。
まあ、扉の数がこれだけあるのに、いちいち一つ一つ調べていたら何年かかることか……とりあえず、今回は機会が無かったとして、次にしよう。
そう思った僕は二人にソレを伝える。
愛はどちらでも、レイダは1も2もなくとにかく1秒でも早くここを出たいらしく、すぐに同意してくれた。
それじゃあ、今回の調査はここまで、まずはダンジョン探索の流れをどの階から……と、僕たちが新たな話題を出しながら戻ろうとした──その時であった。
『──っ! ──っ!』
「え、なに?」
なんか急に、背後から怒鳴られた。
振り返れば、当然ながら面識はおろか見覚えすらまったくない外国人(?)が5名、僕たちを指差しながら声を張り上げていた。
……。
……。
…………???
言葉が分からないうえに、なんでこっちを見て指を指しているのかは知らないけど……とりあえず、良くない空気なのは分かる。
なんていうか、目の輝きが違う。獲物を前にした狩人のように、こちらを心底なめくさっている、そんな目をしていた。
とりあえず……なんかニヤニヤ笑いながら近寄って来るので、僕は無言のままに手斧を取り出した。
さすがに、向こうも足を止める……だが、それでもどこか余裕そうな顔をしていて、僕たちを囲う様に……あれ、なんか増えた?
5名だと思っていたら、なんか彼らの後方から一人、二人、三人と集まってきていて……気付けば、その人数は15人になっていた。
……う~ん、困ったな。
野次馬かと思ったけど、その人たちを含めてニヤニヤ笑いが続いている。こいつら、全員お仲間だ……そして、その目的は……レイダと愛か。
なんとなく察した僕は、軽くため息を吐いた。
客観的に考えたら、今の二人はボディペイント&パンツだ。刺激的な姿であることには変わりない。
ましてや、二人とも毎日お風呂に入って身綺麗にしているから、余計に綺麗に見えるだろう。
特に、眼前の……なんとも言い表しがたい悪臭を放っている人たちにとっては、磨き抜かれた玉体に見えているのだろう。
ていうか、本当に臭い。
違う国の言葉と見た目も相まって外国の人たちだってのは分かるのだけど、体質の違いだけでここまで変な……もしかして、水があまり取れない内陸部の方からの人?
「──近寄れば、切る」
まあ、どちらでもいい。
斧を構えれば、向こうもちょっと真面目な顔になって距離を……逃げないあたり、本当になめくさっているようだ。
とはいえ、言葉が通じないにしても、警告はした。
斧を振り上げて脅しを掛けているのに近寄ってくる時点でそういう目的なのは察せられたから、それ以上の情けは必要ない。
「迷った時は、切れば良いのだ……何事もね」
結局のところ、最後の最後で物を言うのは力である。
それが権力なのか、暴力なのか、その時にならなければ分からないけれども、それで物事が片付いて助かる時もある事を、僕は既に知っていた。
だから──横から、回り込むようにしてこちらへ──いや、愛へと走り出したそいつに、僕は考えるよりも前に斧を投げた。
モンスターよりはるかに遅い人間なんて、今の僕には実に当てやすい的でしかなく──どすん、と胸元の奥深くまで食い込んだソレによって、そいつは即死した。
『──っ!!』
その瞬間、僕が手ぶらになったのを見計らって彼らは一斉にこちらへ──だが、それは悪手だ。
僕の斧は、瞬時に手元へ戻る──だから、僕は驚愕に目を見開く彼らに向かって、連投する。
驚愕して立ち止まろうとしたやつは、それで即死した。そのまま突っ込もうとしてきたやつは、レイダのこん棒でなぎ倒された。
そして、そんな中でたまたま愛の位置に近かった者は──こっそり発動準備がなされていたタイガーの餌食になったのであった。
──悲鳴が、聞こえる。
見やれば、人々が僕たちから距離を取ろうと離れていくのが……まあ、いいのだけどね。
「いきなり襲い掛かって来るって、あまりにも本能で考えすぎじゃないかな?」
「外国の方だとガチめの戦争っていうか、内乱とかも起こっていたし……弱肉強食って考えなんじゃないの?」
「この人たち……刃物を持っていたようですけど、あんまり質が良くないですね」
なんにせよ、他に襲い掛かって来る人が居ないのを確認した僕たちは、これ以上の長居は無用と思い、地上に戻ることにした。