切れば良いのだ、何事も!   作:葛城

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第6話: 剥いたばかりのゆで卵を悪くしたような臭いがした

 

 

 ──金が無いと施設の利用は出来ない。悲しいかな、それが現実である。

 

 

 

 というのも、管理センターは先払い式。

 

 いちおう、事情を話せば後払いは可能ではあるのだが、何度も後払いをしていると、そのうちブラックリストに載るという噂がある。

 

 というか、載る。

 

 だって、ダンジョンって死ぬ時あるし。死んだ場合、下手したら料金関係泣き寝入りの可能性があるし。そんな世界で、後払いばかりしていたら、そりゃあ信用も無くすというものだ。

 

 ただ、それで施設が利用出来なくなるかと言えば、そういうわけではない。普通に続けて利用はできる。

 

 僕も盗み聞きした程度の知識しかないけど、どうやら信用問題として、管理センターとは別に、様々な機関に情報が回るようになっているらしい。

 

 

 なんで、直接的な罰則を設けないのかって? 

 

 

 直接的に施設利用を断るような対応を取ると、ダンジョンへの妨害として、なにかしらの不運が起こるとか、そういう理由かららしい。

 

 なんでも、過去にそれをやって、100人以上の死者(原因不明の奇病とか)が3日の間に起こったとかで、そのような取り決めになったのだとか。

 

 それじゃあ別機関に情報を流すのも駄目なんじゃないのって疑問に思った、そこのアナタ? 

 

 鋭いね、そういう感性大事だよ。

 

 そう、実際、最初はそれが警戒されていたっぽいのよ。

 

 でも、それを逆手にとってあまりにもやりたい放題している人が続出したから、もう我慢ならん殺すなら殺せって感じで動いた人たちがいたの。

 

 そうしたらね……何も無かったらしいんだよね。

 

 それで、これってもしかして……って、色々なやり方で慎重に検証したらしく……結果、ある事がわかった

 

 それは、『こいつ締め出してしまった方がはるかに有益である』と判断された場合、何も起こらないってこと。

 

 この基準は今でも明確に分かってはいないけど、経験則というやつで、今はある程度のセーフラインを設け、そのラインに従って対応が変わる……というふうになっているのだとか。

 

 で、まあ、話を戻すけど、ブラックリスト。

 

 冷静に考えたらさ、いきなり大怪我を負ったとか家が燃えたとか詐欺にあって全財産失った……とか。

 

 本人にも予期できなかった、起きる時は起きてしまう事故や事件で、支払いが出来なくなってしまった……とかならともかく。

 

 ○○を買っちゃって、とか。

 

 ××で豪遊しちゃって、とか。

 

 そういう理由で手持ちが無くなった人に対して、前者と同じように信用してもらえるかと言えば……そんなわけ、ないよね。

 

 お金にだらしない人ってさ、基本的に他の事にもだらしないところがあるっていう話でね。

 

 僕の場合、『謎のお姉さんから、半ば騙し討ちみたいな感じでお金使われて手持ちありません!』ってなわけだけど。

 

 

 いったい、誰がその話を聞いて『かわいそうに……』なんて信じると思う? 

 

 

 その場合、どういう流れでお金を使われたのかを言わないとさ、信用してもらえないじゃん? 

 

 そこで、『いや、それは……』なんて言葉を濁したら、なんか良からぬ使い方したなコイツ……って思われるのが当たり前じゃん? 

 

 特に、僕ってば16歳なのよ。

 

 いくらダンジョンが中学生以上OKとはいえ、まともな家庭の子ならさ、最悪命を落としますなんて場所に行く許可なんて、普通は出すわけがないのよ。

 

 だいたい、高校生(少数)になってからとか、大学生(こっちが主流)になってからとか、そんな感じなわけで。

 

 それを出す時点で、家計がけっこう苦しいとか、人見知りでバイトとか無理だとか、あるいは家庭がヤバいとか、そういうなにかしらの理由があるわけで。

 

 そうでなくとも、必ず複数人で行くとか、行く前には必ず報告しておくとか、事前にけっこうガッチリ話し合いをしているわけよ。

 

 地下1階に出てくるモンスターは雑魚もくそ雑魚だけど、事故とかそういうのは起こるし、やっぱ向こうは殺しに来るわけで。

 

 少なくとも、僕みたいに中学生になってすぐに来るとか、もうその時点で『こいつ、なんかあるな……』ってな目で見られるのが普通で……やっぱ、そういう意味では信用が薄いんだよね。

 

 実際、僕と同じく中学生でダンジョンに来ている若年層、だいたいヤバいんだよね、色々な意味で。

 

 家庭環境の問題か、当人の資質が原因なのかは分からないけど、けっこう色々とやらかすというか、やらかしているんだよね。

 

 具体的には、窃盗とか。

 

 金払っていないのに無断使用とか、色々ある。

 

 以前食堂でこっそり盗み聞いた話だと、なんか施設のどっかで売春が行われていたようで、それからかな、色々と厳しい感じになったのは。

 

 宿泊しているこのホテル自体、めちゃくちゃ広いしね。さすがに、全部監視が行き届いているわけじゃないみたい。

 

 他にも、当人ではないけど、金をむしり取りに来た親族がセンター前で待ち構えているとか、受付に突撃しに来ている姿とか、時々だけど見掛けるし。

 

 まあ、そこまで突き抜けている人たちは、そのうち謎の奇病で軒並み死んじゃうから、あくまでも一過性の話なのだけど……で、だ。

 

 非常に心苦しい話だけど、僕って既に何回か後払いになったことあるんだよね。

 

 もちろん、不可抗力だよ。物置小屋が寝床だしね、急に薬とか追加の毛布とか必要になって……とか、あったわけよ。

 

 だから、おそらくだけど、管理センターの方でもブラックリストに載っているかもしれないんだよね。

 

 さすがに、僕ってリスト載っていますかなんて聞いても答えてくれない。

 

 でも、取り返しがつかないレベルにまで信用を落とすのはアレなので……僕は私物入りのダンボールを持って、センターを後にしたわけである。

 

 

 

 ──そうして、御機嫌よう、皆様方。

 

 

 

 僕は小山内ハチ、厳しいコンクリートジャングルを生き抜こうと頑張っている高校1年生16歳。

 

 この度、所持金(通帳も含め)がほぼ0に近くなり、翌日以降の宿泊を急遽キャンセルした、しがない少年でございます。

 

 さて、施設の外に出たわけですが、だからといって、行く宛てはまったくありません。

 

 実家にはサラサラ戻る気なんぞございませんし、連れ戻そうとしたら誇張抜きで斧を叩き込んでやるぐらいです。

 

 しかし、季節は夏とはいえ、地面の上でそのまま寝たら凍死しかねません。

 

 というか、蚊が酷すぎて眠れません。

 

 これは経験則なんですけど、限界を超えて蚊に噛まれ続けますと、もう気が狂うんじゃあってぐらい痒くてヤバいんですよね。

 

 あと、目立つ場所に居て万が一補導とかされちゃいますと、色々と面倒ですよ。

 

 僕、過去にそれで父親に顔面殴られましたから。お叱りのパンチとかじゃなく、ガチのパンチで。

 

 ボタボタと鼻血が噴いて大変でしたよ、マジでシャツ1枚捨てる必要があるぐらい出ましたから。

 

 

 ……長話も程々に、話を進ませましょう。

 

 

 さて、そんな僕ですが、気持ちはあの頃よりはだいぶ楽です。

 

 なんでかって、『部屋』がありますから。

 

 公園に設置されている小さな物置小屋の壁に、『鍵』で扉を作れば……その先には、先日とは打って変わって住み心地が良くなった、僕の部屋があるわけでございます。

 

 広さは、ちょっとだけ広くなった感じですかね。

 

 違いは、水とお湯が出る台所スペースと、雑に置かれたテレビと、室内に新たに取り付けられた扉が追加されている点、でしょうか。

 

 扉を開ければ、なんとそこにはトイレとお風呂が……アレですね、ユニットバスってやつですかね。

 

 そりゃあもう、僕は飛び上がるほど喜びましたよ。

 

 だって、自分用のお風呂とトイレがあるんですよ。

 

 それ自体は宿泊施設にもありましたけど、アレってあくまでも借りているわけじゃないですか。

 

 なんかこう、違うんですよね……気持ちが、ね。

 

 窓なんてものはないですけど、明らかに身体狙いのやつとか、ヤベータイプのヤンキーとか、そういうやつらに目を付けられる心配をしないで寝られるって、ほんと楽なんだよね。

 

 しかもこの『部屋』、外へと出る際に、なんか壁一面が透けて外の様子を確認出来るような機能が付いていたんだよね。

 

 おかげで、外に出てうっかり通行人から不審な目を向けられるなんて事もなく……僕は、なんとか施設の外でも上手くやれていたのであった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………しかし、五日後。

 

 

 予想外の事件が起こった。

 

 それは、謎のお姉さんが飲ませてくれた『あっぷるジュース』が効いたのかは知らないけど、無事に回復して元気よくダンジョン金稼ぎを再開させていた頃。

 

 やはりメリハリが大事、休む時はしっかり休む。

 

 これを心掛けたおかげで、なんとか筋肉痛地獄に陥ることなくく順調に金稼ぎは進み、つい先日、初めて自分だけの布団一式を買って。

 

 ──ふふ、僕も布団に寝られる身分になったんだぜ……!! 

 

 という感じで全能感に溢れ……お持ち帰りの牛丼&プルコギ丼&キムチ牛丼を買って、無敵モードに浸っていた……そんな時であった。

 

 

(……うわ、なんか居る)

 

 

『部屋』への出入り口にしている公園の物置小屋。いつも『鍵』を使う場所に、誰かが座りこんでいるのを見つけたのは。

 

 正直、こいつ目の付け所が違うなとは思った。

 

 何故なら、その場所は周囲に生えている木々や住宅などの関係から人目に入り難く、覗き込もうとしない限りはまず見つからないから。

 

 街灯の明かりもわずかしか届かず、ちょっとぐらい手元を明るくしたぐらいなら、周りからも気付かれない……そんな空間。

 

 

(……しゃーない、違う場所にするか)

 

 

 しかし、そんな空間でも、先客が居るならば仕方がない。

 

 別に、『鍵スポット』は一つだけではないのだ。

 

 こういう事もあろうかと、事前にいくつも見付けてあるのだ。この程度のトラブル、トラブルの内には入ら──ん? 

 

 フワッ、と。

 

 暗闇の中で、ナニカが動いた──と、思ったら、そいつが……暗闇の中に居たソイツが、立ち上がったのが見えた。

 

 

「──助けてください」

 

 

 と、思ったら、暗闇の中から──女が出てきた。

 

 暗がりでも分かる、ボサボサの黒髪。

 

 暗がりでも分かる、ボロボロのジャージ。

 

 暗がりでも分かる、薄汚れた姿。

 

 か細い声で、そう声を掛けてきた女は──そのまま、ペタンと倒れてしまった。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………??? 

 

 

「え、なに、だれ、この……臭い女は?」

「けいさつ……呼ばないで……」

「え、嫌なんだけど?」

「おねがい……家には……」

「えぇ……」

 

 

 あまりに突然のことに、僕は逃げることもできず……しばし、呆然と……うっすら女から漂ってくる悪臭に、僕は……どうしたものかと、頭を抱えたくなったのであった。

 

 

 

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