東方記憶帳~過去を無くした小さな妖怪~   作:ガルナイド.

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 一話目で私を見捨てなかった皆さん、ありがとうございます。どうも、この作品の投稿者、ガルナイドです。
 さて、今回から本格的に「ss」って感じにしますので。よろしくお願いします。
 
 


第一頁 銀髪の少女

「――あなたは誰?」

 

 

 目覚めたら記憶がない。あまりにも非情といえるこの状況。

 私は焦った。私は誰? ここは何処? って状態だった。今、私の目の前にいる少女しか、頼れそうな者はいなかった。

 本当に彼女に頼って大丈夫なのか、それを確かめるために尋ねた。

 この質問をすれば、どうにかなると思った。目の前にいる銀髪の彼女の正体が分かる。彼女が良心的であれば、ここが何処かも分かる。確実にこの状況に光が見える。

 この質問をしようと決心した時は少なくともそう思った。

 しかし私は気付いてしまったのだ。

 気付いた方が良かった事を――

 

『あっ、〇〇じゃん! 久しぶりー』

『あぁ……(あれ、誰だっけ?)……うん、久しぶり……』

 

 ――たった今、これと同じ状況が発生しています。

 しまった! 完っ全に失敗したぁー! 

 疑問に思った事を質問しただけだ。「君誰?」って。けど目の前のこの人が、友達かもしれないじゃん。いや、もっと酷ければ、家族かもしれない。だとしたら、気まず過ぎるこの状況。

 でもまあ、彼女の正体が実は、私を誘拐して、さらに記憶を消した一味のメンバーで、私の様子を見にこの部屋に……って、親友とかだったら本当にどうすんの。

 

 うわぁ……どうしよう……どうにかして誤魔化せないかな……。もし本当に家族とかだったら、結構(まず)いよこの状況。流石に逃げる訳にもいかないし…………そうだ。これは単なる冗談で、ふざけてたって事にすればいいじゃん。アハハ、冗談冗談、って感じで。今ならまだ間に合うか?

 私が表情を(うかが)うと、何故か彼女は笑んでいた。さすがに信じられなくて、冗談だと思ったのだろう。

 なるほど、こんな冗談に落ち着いて対応するとは、見かけによって大人っぽいね。って、これは冗談じゃなくて本気の質問なんですけどー!

 誤魔化そうとしたけど、そもそも何にも覚えてないんだから誤魔化せる訳ないじゃん。

 いっそのこと、記憶がないという事を正直に話して弁解した方がいいか。そうすればこの場もある程度は収まる筈だろう。

 私は、冗談を言っているわけではないという事を示すため、顔を引き締めた。

 その真剣な眼差しから、私がふざけている訳ではないと分かったのだろうか、それに合わせたように彼女の顔も真剣な物となった。

 彼女が口を開きかける。

 相手はどう答えるだろうか。素直に名乗るか、それとも真実を拒否するか。どうであれ、今の状況は変わる。

 私は息を飲んだ。

 

「熱でもあるのかしら……」

「……え?」

 

 彼女の返答は、質問の答えでも、哀しげなため息でも、聞き返しでもない。私への心配だった。

 ただの優しさを言葉にしただけのような物に聞こえる。実際にそうだ。彼女は私に、優しく接しているのだろう。見かけと同じで、やはり性格も大人っぽい雰囲気を漂わせている。

 これといった情報も無さそうなこの答えだ。しかし、よく考えれば彼女と私の関係性を、この一言が示している事が分かる。

 これはただの予想。しかし、確信のある予想だ。

 そしてその予想というのは、彼女が、久しぶりに会った友達などではなく、かなり親しい友人、もしくは身内であるということである。

 根拠は沢山ある。

 例えば、彼女に誰なのかと質問した後の第一声が「覚えてないの?」ではなかったこと。

 彼女は、私が彼女のことを覚えていない事が当たり前でないと感じている。何てったって、私の頭が熱でおかしくなっている可能性があることから指摘しているんだから。あれ、自分でも何言ってるか分からなくなってきた。

 ……ともかく、彼女を忘れてしまった私は頭がおかしくなっている、ということだ。きっとそうだ。熱はないと思う。それなら、私は頭を何処かにぶつけて――

 

「……たの? 大丈夫?」

 

 気がつくと、彼女は自分の手のひらを私の額にあてていた。その手は冷たくて、気持ちいい。

 私の熱でも計っているのだろうか。だとしたら彼女の手は冷たすぎる。私の額が熱いのかもしれない。結局、熱があるのだろうか。

 

「……やっぱり分からないわね……。さて、大変な事になったかもしれないわ。本当に私の事が分からない?」

 

 意味ありげなことを呟いた後、彼女は私に尋ねた。疑う、というより、確認みたいな物だった。しかしそれは、やはり否定できない事実だ。本当に私は彼女の事を覚えていない。それがどれ程異様な事なのかは、彼女の表情と言い様が物語っていた。私は勿論、頷いた。

 彼女の事を、私は覚えていなくてはならない。それが当然の事であるこのようだった。

 それだけじゃない。私にはおかしい所が他にもあるのだ。

 

「まさか、自分の事も覚えてないの?」 

 

 そうだ、私は自分の事も思い出せない。

 自分が何なのか。自分はどんな人か。自分はどう生きてきたか。なーんにも覚えてない。

 ……これって結構、緊急事態じゃない? 自分が何者か分からないって。

 情報といえば、今、目の前にいる彼女が、私の身近な存在である可能性がある、という事だけ。

 

「記憶喪失ってやつかしら…………分かったわ」

 

 彼女は改めて、私に目を合わせた。その顔は先程までの困った表情とは違い、何かを決意したような、そんな凛々しさを感じた。

 私も彼女の目をしっかりと見て、聞きの姿勢に入った。

 話が長くなりそうだ。

 

「レティ・ホワイトロック、やっぱり覚えていない?」

 

 

 

 

 彼女の説明に私はとても長い間、聞き入っていた。途中で、部屋の机から探しだしたメモに、彼女の話を必死に書き留めた。もしかしたら私は、定期的に記憶を失ってしまう何かかもしれない。いざと言う時、このメモが役に立つだろう。

 話を聞いている内に、身の回りの事が分かってきた。

 例えば、彼女の名は「レティ・ホワイトロック」だという事。彼女はこの家に住んでいるという事。私もこの家に住んでいるという事。そして、私の名前はメリアルで、妖怪だという事。全く聞き覚えがない。 

 

 それにしても、私の事を知ってる人が近くにいて、本当に良かった。いや、人じゃないけどね。

 彼女がいなかったら私はどうなっていただろう。自分が誰なのか、ここは何処なのか、何も分からずにそこら辺を彷徨(さまよ)っていたかも。そして、そのまま誰かに拾われて、伝説の妖怪として育てられる。そこで現れたのが悪の秘密結社だった。幻想郷を支配しようと目論む奴らに、私は立ち向か――

 うん? 話が逸れたかな。まあいいや。

 とにかく、彼女が話してくれた事は、とても重要な事ばかりだった。

 しかし、どんなに説明を聞こうとも、思い出せる事は無かった。彼女の話している事、それが、他人についての話にしか聞こえなかった。私は一度死んだも同然。何故かそんな考えがよぎった。

 はぁ……とりあえずネガティブ思考はやめようか。

 私はメリアルだ。自分で自覚はできない、だけど私は私だ。……多分。

 自分は今ここに生きてるんだから、ね?

 まあ、記憶なんてその内戻るでしょ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「暑いわね」とレティSOS。

 涼気出すため私得るそうです。

 イェーイ、YO-YO。

 ラップ調で語ってみました。自分でも後半意味分かんない。「何が?」って感じ。

 まあ、何が言いたいのかっていうと、レティの為にここら辺を涼しくしなきゃって事。

 レティは暑いのが苦手なのだ。

 どうやって涼しくするのか。今の私には簡単な質問だ。

 ふっふっふ……私の能力を使うんだよ……。

 私の能力とは……! あれ? メモは何処だっけ。私の部屋かな。

 

 

 

◎◎◎◎◎◎

 

 

 

<メリアルのメモ帳>

 

 ――自然現象を発生させる程度の能力①

 

 私の能力の一つ『自然現象を発生させる程度の能力』

 これは、天気や季節、風などを発生させ、僅かながら操る、という物。

 対象に季節を纏わせれば、対象の周りの気温を調節する事も可能。

 とにかく便利。 

 他にも色々な事ができるらしい――

 

 

 

 

□■□■□■

 

 

 

 あぁ……そんな感じだったか。うん、メモっといて良かったねー。

 それにしても、便利そうな能力だ。夏は涼しく、冬は暖かく。これが容易にできる。

 本気で頑張れば幻想郷中を冬にしたりできそう。妖怪の力をなめんなよ、って感じ。まあ、妖力が枯渇しない程度にね。

 しかも私の能力はこれだけじゃない。

  

「メリアルー。まだかしらー?」

 

 おっと、誰かが私を呼んでいる。急がなきゃ。

  

「はーい、今行くからー」

 

 リビングにいる誰か、もといレティに返事をしつつ、私は彼女の元に向かった。

 レティを見ると、疲れているということが分かる。余程、暑いのだろう。確かに窓の外は明るく、最も気温が高い時間帯だ。

 なるべく早く、涼しくしないといけない。しかし、いざ能力を使うとなると、上手くいかなかった。

 まず、何をすればいいのか分からない。 

 冬を出せといっても、記憶がないから出し方が分からない。感覚が掴めないのだ。

 冬よー冬よー、と念じてみたけど駄目だった。これ程頑張っているのに思うようにいかない。

 目を強く瞑り、息を止め、拳を握りしめ、とにかく念じた。それでも辺りは涼しくならず、余計に腹が立った。

 

「力みすぎてない?」

 

 力みすぎ……確かにそうだったかもしれない。もっと落ち着けばいいのだろうか。

 私は目を瞑り深呼吸をした。そして、自分から力の波が出ているようなイメージを思い浮かべ、もう一度念じた。

 …………ダメだ。疲れた。やっぱり感覚が掴めない。

 

「はぁ……レティ、ごめん」

 

 私は近くの椅子に座り込んだ。とてもバテているレティを見ると、申し訳なさが募ってきた。

 自分にはできないんだろうか。力不足か。夏の暑さが、さらに気分を落ち込ませてくれる。

 涼しくならないかなぁ……。そんな希望を唱えた時だった。肌に、ひんやりした空気が触れたような気がした。

 これが気持ちの力ってやつか。暑くても、寒い寒いって言ってればマシなるっていう……。

 

「あっ……」

 

 いや違う、これってホントに涼しくなってるみたい。能力を使えたって事? 

 いや、もしかしたらこれも錯覚かも。

 私はレティに、涼しくなったのか聞いた。

 だけど心の中では、冬が出ている事を確信していて、つい口角が上がってしまう。

 レティはに聞いたのは念のため。確証を得るためだ。さっきのは、ただの保険だ。

 

「涼しく……なったわね」

 

 ソファーに寝転んでいたレティが、体を起こして言った。その答えは予想通りだ。予想通りでも嬉しかった。

 よし、今のはマグレかもしれないから、能力を使いこなす練習をしないと。

 

 

 と、このように思い立った能力の練習を、私は夜まで続けた。つい夢中になってしまったのだ。

 立てていた目標を達成した私はヘトヘトで、ソファーに飛び込んで休んでいた。

 レティはこんな練習にも付き合ってくれた。本当に感謝だ。

 彼女は今お風呂に入っている。レティが出たら入ろっかな。

 そういえばこの家って結構良くできた作りだと思う。

 リビング、キッチン、バスルーム、私の部屋とレティの部屋、2人で住むのに広さは申し分無い。

 家具も一式揃っている。お手製だとは思えない出来だ。この家具は何処から持ってきたんだろう。まさしく謎である。

 それに、まだ一歩も外に出ていないから、この家がどんな外観をしているのか分かっていない。家の内装を見るかぎり、洋館のように思えるけど。

 明日は外に行ってみようかな。

 窓を覗いてみた。今は、窓が鏡のようになってよく見えないが、窓の外には森ばかりだった。

 所々にキノコが生えていて、暗い雰囲気のある森だ。夜で辺りが真っ暗なせいかもしれないが。

 しかしあの森の雰囲気、なんか見覚えが……

 

「練習終わったのね。お疲れ様」

 

 レティがバスルームから出てきたようだ。体にタオルを巻いている。

 いつもはゆったりとした服装なので気付かなかったが、とてもスタイルが良い。

 先入観からして、レティはスタイルがさほど良いとは思ってなかった。何気酷い事思ってた。

 いいな~美人って、スタイル良いって。

 

「何? メリアル」

「……えっ? あっ、えっと……思い出しそうな事があって……」

 

 とっさに吐いた嘘である。ただ単純に見とれていただけだ。

 しかし、嘘は吐きたくない。今の言葉を嘘にしない為に、さっきの続きを思い出そうと思います。

 森……森……。

 うぅん……キノコかぁ…………キノコの森? 違うか。いや、そんな感じだったかな……

 何とかの森。そうそう、こんな感じ。ええっと、なんだっけな――

 

「あっ……」

 

 思い出した、森の名前。そうだそうだ、これだ。

 

「えっ? 何か思い出したの?」

「…………魔法の森、ここは魔法の森でしょ?」

「えぇ、そうだけれど……思い出した事って、それだけ?」

「えっと、そう……ごめん」

「謝らなくていいわ。それに、記憶が戻らなくても今日私が話した事さえ覚えていれば、生活に支障は無いしね。じゃあ、私はそろそろ寝るわ。おやすみなさい」

「え、早くない?」

 

 夜とはいえ、日没から少ししか経っていない。

 流石に寝るには早いだろう。

 

「果報は寝て待て、寝る子は育つ。って言うじゃない?」

「あぁ、うん。じゃあ、おやすみ。今日はありがとう」

「どういたしまして。おやすみなさい」

 

 とても眠そうに、しながら自分の部屋へ帰っていくレティ。私はその姿を見送った。

 生活に支障は無い、かぁ……自分自身の事、一緒に住んでいるレティの事、この家の事、これらを知っていれば確かに生活には困らない。

 しかしそれは、ずっと家に引き籠っているなら、の話だ。

 外に出て、色んな人や妖怪と接するんだったら、私の知識量はこんな物じゃ足りない。

 もっと思い出さないと。もっと知らないと。

 私の性格――知り合いと話す時に違和感がないように。

 幻想郷の地理――道に迷わないように。

 幻想郷の偉い人・妖怪――遭遇したらすぐに逃げれるように。

 幻想郷の楽しい場所――いつでも現実逃避できるように。

 魔法の森を思い出したんだ、頑張れば他も思い出せるはず。

 でもなー、手がかりゼロからって厳しすぎる。いや、レティがいるか、手がかりいくつかはありそうか。

 さて、そろそろお風呂に入ろうかな。

 そうそう。魔法の森の事メモしておかないと。

 私はメモを片手にお風呂場へ向かった。

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 辺りは静まり返っている。睡眠を阻害する音は無い。いつもであればすぐに寝付ける筈だが、レティはなかなか眠れないでいた。

 今日はいつもとは違う一日だった。毎日、何気なく、のんびりと暮らしていた今までとは違う。

 異変を感じたのは起床してすぐだった。

 

 

 

 ――暑い、何故だろう。

 起きてしばらくすると、レティにこんな疑問が浮かんだ。

 季節は夏、しかも昼である。普通は暑いのが当たり前だ。

 レティ・ホワイトロックは冬の妖怪。暑さにはとても弱く、冬以外の季節は涼しい所で一日のほとんどを睡眠に費やす程だ。物心ついた時からずっとそうだった。

 しかし、メリアルに出会って全て変わった。

 冬以外も活動ができるようになった。

 安心して眠れる場所を確保できた。

 いつでもお風呂に入れるようになった。

 そしてなにより、親友ができた。

 

 夏の昼が暑い。そんな当たり前の事を疑問に感じる原因はメリアルにある。

 メリアルは自然現象、主に季節の気候を発生させるだけではなく、物の周りに纏わせる事もできる。

 レティの周りに冬を纏わせる事によって、彼女の快適気温を保っているのである。

 だが、その力は徐々に弱まっていく。そこでメリアルは朝と夕方に、冬をレティに着け直していた。

 レティが起きるのは昼頃、いつもであれば、メリアルが朝、レティの部屋に来て能力を使う筈なのだ。起床時にはメリアルが発生させた冬の寒気が周りある筈なのだ。

 しかし、今日はいつもより暑い。

 レティは、メリアルに何か原因あると確信していた。

 毎日してきたことを、メリアルがやめるとは考え難い。朝、自分の部屋に来る事ができない大きな理由があるとしか考えられない。メリアルの身に何かが起きたのかもしれない。急がなければ手遅れになるかもしれない。

 一度そう考えてしまうと居ても立ってもいられなくなり、レティは部屋を飛び出し、メリアルの部屋に向かう。

 

「――メリアル、起きてるの?」

 

 メリアルの部屋の前で我に返ったレティは、扉の前に立ち止まってそっと訪ねた。

 返事がない、焦る。

 何故だ、何故返事がない。

 ――まだ……寝てるのかしら……

 そうだ、きっとそうだ。だから返事がないのか。

 自分の中で根拠ができると妙に落ち着くことができた。

 しかし、不安が拭われた訳ではない。メリアルが無事である事へのこじつけだとレティは気付いていた。

 

「……入るわよー」

 

 レティはドアノブを握りしめる。

 確かめればいい、それで済む事だ。ここで考えていても意味が無い。

 部屋にメリアルが居れば、この考えは杞憂に終わる事になる。それがいい、そうであって欲しい。

 レティは思いきって扉を開けた。

 その先にはメリアルがいる。いつもと変わらない、いつもと同じ。その事に安心した。

 

「珍しいわね、こんな時間まで寝ていたなんて」

 

 レティは皮肉っ気を込めて言った。

 無駄に心配させられたメリアルへ、ちょっとした悪態をつきたくなったのだ。

 メリアルから返事はなかった。呆けたような顔でレティを見つめている。

 いつもだったら「ああ、ごめんなさい。いま起きるから少し待ってて」などと、無駄に生真面目な言葉が返ってくる筈なのだ。

 しかし、メリアルは言葉を出そうとはしない。

 

「どうしたの? メリアル。 ジッとこっち見て」

 

 レティはただ、純粋に疑問に思った。

 何故メリアルは返事をしないのか。

 何故こちらをジッと見つめているのか。

 

 これらの疑問を一度の質問にして返した。

 メリアルから返答はない。それどころか、メリアルは俯(うつむ)いてしまう。明らかに様子がおかしかった。

 喋ることができなくなったのか。レティはそのような事すらも視野に置いた。メリアルの様子はレティにとって、そこまでにおかしく見えたのだ。

 レティは思った。このまま何も会話が成立しないのではないか、と。

 十数秒ほど沈黙が続いた。

 この沈黙を破ったのは意外にもメリアルであった。

 

「あなたは誰?」

 

 自分が誰なのかを親友に訪ねられたという、何とも非常識な質問の意味に気付くよりも先に、レティは安心していた。

 よかった。いつも通りだ。しっかりと話せている、と。自分の心配が杞憂に終わった事、メリアルがいつも通りであること。

 レティは、つい頬を緩めてしまう。

 しかしメリアルはいつも通りではなかった。一年以上もの間、生活を共にしてきたレティに向かって。誰なのか問いているのである。

 レティがこの質問のおかしさに気付くのに少し時間がかかった。

 冗談を言っている訳ではない。メリアルの顔は真剣そのものであった。

 まさか、一年間過ごしてきた。そんな自分を、メリアルが忘れる筈などない。と、レティは困惑していた。

 

「熱でもあるのかしら……」

 

 考えた結果、レティはこの推測に達した。熱によって頭がやられてしまったと考えたのだ。

 レティはメリアルの額に手をあててみた。

 

「やっぱり分からないわね……」

 

 とても熱く感じた。レティは冬の妖怪だ。自分とメリアルでは体温が違う。故に、メリアルの体温が正常なのか確かめることはできなかった。予想はしていたが。

 途中、メリアルが上の空だった為、声を掛けてみたが返事はなかった。

 レティは状況を整理し、今がどれほど拙い事になっているか再確認した。

 

「さて、大変な事になったかもしれないわ。本当に私の事が分からない?」

 

 今度は返事があった。その答えは肯定であった。

 

「まさか、自分の事も覚えてないの?」

 

 次の質問の返事も肯定だ。

 一年間一緒であるレティの事はおろか、自分の事すら覚えていない。レティはこの状況がどのような物か知っている。

 

「記憶喪失ってやつかしら……」

 

 原因は分からないが、親友の記憶がない。共に住んできた親友だ。軽い鬱になってもおかしくない状況である。

 しかし、レティは開き直っていた。

 記憶がないからなんだ。死んだわけでもない。

 記憶などすぐに取り戻せる。それを待てばいいじゃないか。

 記憶が戻らずともメリアルであることに変わりない。今まで通り過ごせばいい。

 

 不安を全て取り払ったレティに、今まで忘れていた暑さと使命感が押し寄せた。

 ――ずっと、メリアルに世話になっていた――

 

「分かったわ。私の事、あなたの事、出来る限り教える。あなたが何も覚えてないと私も困るのよ。ほら、暑くて暑くて」

 

 ――今度は私の番ね――

 

 

 

 

 

◎◎◎◎◎◎

 

 

<メリアルの日記帳>

 

 

 今日から日記を書くことにした。

 次に記憶をなくしたとき、未来の私が見れるようにする為。あと、何となくやりたくなったから。

 

 今日は、片方の能力を使う練習をした。もうほとんど使いこなせるようになってると思う。

 幻想郷中を冬にするとか、できそうな気がしてきた。でも、妖力が足りるのか心配だ。まあ、やらないけど。

 そして、楽しみにしていたお風呂が、水だった。お湯かと思って入ったらすごく冷たかった。

 お湯を沸かすとかやり方わ分かんないし。めんどくさくなって湯船には浸からなかった。レティは水風呂に入ったのだろうか。

 

 とりあえず、今日から記憶奪取を目指して頑張ろう。いや、誰から奪取すればいいのかな。

 

 

 




 「メリアルのメモ帳」は、あくまでも、設定紹介程度だと思ってください。

 え? お風呂の水はどっから引いてるのか、ですか? 
 この世界のssなんて、そんな矛盾で溢れ返ってますよ。私の小説の場合、森に通っている川から引いていますけど。

 あと、①←これ、機種依存記号じゃないですよね。何かおかしかったら言ってください。
 そして、作中にちょいちょい出てる□■□■□■←こんな感じの帯ですが、意味があります。

□■□■□■――主人公の一人称視点
☆★☆★☆★――三人称視点
◎◎◎◎◎◎――コーナー
△▲△▲△▲――その他
 
 以上です。まあ、参考までに

 ではでは。次回でまたお会いしましょう
 
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