いやいや、大事な話ってのは本当ですよ?
2015年の3月22日以降から、この小説を読み始めた人は、スルーで構いません。
では、本題に。
3月22日に、この小説をリメイクしました。変更点は……複数です。まあ、1・2・3話を読んでいただくのが一番良いんですが。
重要な所を言わせて頂きます。
1,自然現象を発生させる程度の能力の、自然エネルギーを吸収する機能を廃棄
2,メリアルのメモ帳、というコーナーの追加。そして、設定(メリアルの能力など)を必要な時のみ、このコーナーに乗せて説明する、という手法に変更
3,題名を少し変更。東方記憶旅→東方記憶帳。理由、よく考えたら主人公が旅しない。
以上です。
まあ、暇があれば読み直してみてください。
後、用事があり、2015年中に第二章が投稿できるか分かりません。
では、今後とも、この小説をよろしくお願いします。
恥ずかしい思いをしながらも、魔理沙さんの家を苦労して捜し当てた。
そんな私を出迎えたのは、何か分かんないちっちゃいのであった。私の顔と同じ大きさか、それより小さかった。
それは人型だった。しかも、浮いている。状況から察するに、扉を開けたのは、このちっちゃいのだ。
私はこれを妖精と判断した。
妖精の存在ぐらいは知っている。しかし、実物を見た記憶はなく、その名前以外はほとんど知らない。
妖精の容姿、性格、大きさ、強さ。大方の事を知らないのだ。
目の前にいる謎の生物、これを妖精だと断定する事はできない。なにせ、私は妖精の姿を知らないのだから。
しかし、姿不明で正体が分かっている存在と、正体不明で姿がわかっている存在がいるとき両者を合わせても、違和感のない存在が出来上がってしまう。
この場合は、姿不明の妖精と、正体不明のちっちゃいの、という二つの存在があり、両者が合わさった「ちっちゃい妖精」という違和感のない存在が出来上がる。
これを妖精だと断言する事はできないが、また、妖精ではないと断言することもできないのだ。
妖精か、妖精でないか、どちらかというと妖精っぽい。だから妖精。
妖精らしきちっちゃいのは、私に「ついてこい」とでも言うように、家の中へと入っていく。
喋ればいいのに……
私は妖精に合わせ家の中へ数歩、入っていく。
私はずっと妖精を見ていた。見たことのない物への興味心が湧いていたからだ。
妖精は、何処か目的地を目指すように。飛び続けていた。
その先には椅子に腰掛けた金髪の少女が居た。
魔理沙さん……じゃないよね。
金髪という点は同じだけど、なんというか……オーラが違うよね。魔理沙さんには悪いけど。てか、そもそも顔違うし。
この人は魔理沙さんのお手伝いさん的な何かだと思う。魔理沙さんの家に居るんだし。こんなに豪華な雰囲気の家だし。お手伝いさんが居てもおかしくない。
そうでなければ、魔理沙さんのお客さんかな?
「誰?」
その少女は膝元で何かをしながら私に聞いた。
私が誰なのか知らないって事は、彼女と私は初対面である可能性が高い。情報はほぼ無いだろう。
あれ? よく考えてみれば魔理沙さんも昨日が初対面じゃん。同じ地域に住んでいたからって、私の友好関係を知っているわけではない。
しまった、根本的な所を間違っていた。じゃあ、魔理沙さんの所に来た意味ないじゃん。神社にいった時点で分かってたじゃん。
知り合いっぽい霖さんに頼るしかないのかぁ……。行きたくない。
はぁ……とりあえず自己紹介の流れかな?
「メリアルと言います。魔法の森に住んでます」
「聞かない名ね……それで? なんの用かしら」
「魔理沙さんを探して、ここに来たんですけど………」
肝心の魔理沙さんは、見当たらなかった。ここに居るのは、さっきの妖精とこの人。よく見るとさっきの妖精に似たやつも結構居る。そのほとんどが、家事などをこなしていた。
魔理沙さんは妖精もお手伝いさんにできるのか……
きっとこの人は妖精達を仕切っている長なんだと思う。
それにしても、魔理沙さんは何処に居るんだろう。まさか、ここも外れだろうか。家にもいない、神社にもいない、店にもいない。一体何処に行ったのか。
こんなに苦労している自分が馬鹿馬鹿しくなってきた。魔理沙さんから情報が貰える可能性なんてほとんど無いんだし。
いや、魔理沙さんからは、霖さんの情報が貰えるかな。
霖さんがどんな人か、知っていて損はない。
「魔理沙…………ああ、あの。なんであいつがここに居るのよ」
「え? それは……ここが魔理沙さんの家だから、じゃないんですか……?」
何故かこの人に「違うだろ……」とでも言うかのような目で見られる私。
…………って、え? ホントに違うの?
目で問いかけるが、全く答えてくれない。溜め息までつかれてしまった。
これはまいった。私は勘違いをしてしまったようだ。本日のやっちまったパート2だ。
この家が魔理沙さんの家だって確証もなくノックした私が悪いのかな。魔法の森に建ててあるからって、魔理沙さんの家だとは限らない。
でもさぁ、こんな森に家を建てるなんて物好き、そうそういないと思うよ。それに、いかにも品のある魔法使いが住んでいそうな洋館だし。暖炉だってあるし。魔理沙さんに品があるかは別として、案外そういう趣味かもしれないんだし。
こんな事考えてたって、間違いは間違い。仕方ないか。
「それじゃあ……ここはあなたの家ですか」
「そうよ。ここには一人暮らし、寂しくはないけど」
「一人暮らしって…………」
ちょっと待て、このちっちゃいのはどうしたのか。お手伝いは頭数ですらないとでも?
あれとか、これとか、棚に座ってるやつとか。料理だってやってるのに。あんなに沢山居るのに。
ほら、あなたの近くに一匹、ふよふよ浮いてますよ―。見えないのかなぁ……
「あぁ、これ? 人形よ。全部手作り」
「えっ……人形……? これ全部? ……動いてますけど」
「私が動かしてるの」
「あぁ……」
今まで妖精だと思っていた物は、無生物である人形だった。それだけの事だ。
ほんの数分だけの勘違い。それだけの筈だ。
なにも変わらない。ここには、私と、少女と、小さいやつが複数、居るだけだ。状況はさっきと同じ。
妖精じゃなくて人形だ。ここにも、あそこにも居る。人形が居る。
しかし途端に、私は一つの感情にとらわれた。
――怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い――
私は恐怖を感じた。
ただの恐怖ではない。心霊的な恐怖を感じたのだ。
私は思わず、しゃがみ込んでしまった。人形を見たくない一心で。
人形達を視界に映らなくする方法を、反射的にとってしまった。
とにかく怖い。
見ているだけで呪われるような、存在自体が祟られるような、そんな印象が人形にあった。
どうにか落ち着こうとその体勢のまま深呼吸を繰り返した。少女らしき声が何度かしたが、何て言っているのかは分からなかった。
少しして、落ち着きは取り戻す事はできた。人形を見る事をやめたからだろうか。
しかし、根本的な問題が解決していない。
今こうしている間にも、人形は私の周りにいるんですね。わかります。
とりあえず落ち着いた、落ち着くことはできた。でも、まだ恐怖感は拭えていない。
そりゃそうだ、悪の根元が周りにいるんだもの。今、顔を上げれば恐怖の人形とご対面する羽目になる。
人形一体程度ならまだマシだろうけど。人形軍団は十数体以上いる。多勢に無勢ならぬ、無勢に多勢だ。
とにかく人形をどうにかしないと。
そういえば私と話してた人って、人形を動かしてるとか言ってたっけ。
よし、人形を操れるこの人に私から人形を遠ざけてもらおう。
この人が人形を動かせる、いわゆる人形遣いならできる筈。
「あ、あの……この沢山いる人形を私の見えない所にやってくれませんか…………」
「なんでそんな事をするのよ」
「それが怖いんですよ……。早くお願いします」
敵である人形がどうなっているのか分からない、というのも恐怖を煽られるもので、なるべく早くこの問題を解決してほしかった。
怖いものはしょうがない。なんで人形が怖く感じるのかは知らないけど。
妖精だと思っていた時は全然怖くなかったのになぁ。姿や形が怖いわけではなさそうなんだけど。
やはり記憶がなくなる前に関係しているのだろうか。
記憶がなくなる前のトラウマが今に影響している、ってのはありそうな話だし。
小さい頃、人形に手を噛まれたのかもしれない。
う―ん……そんな感じの怖さじゃないんだよね……
なんかもっと、こう……お化けみたいな感じの怖さかな。
「……終わったわ」
「あぁ……ありがとうございます……」
そう言って私は顔を上げた。そして瞬時に顔を下げた。
私の周りには人形、人形、人形、人形、人形…………
なんにも変わってなぁぁーーいっ!
むしろ、人形がさっきよりも近くにいたんですけどー!
あぁあぁ怖い怖い。どうしてこうなった!?
うぅぅ……本当に無理なんだけど……
「からかわないでください…………あの、もう……ホントに……」
「人形が怖いのね……」
可哀想に……とでも付いてきそうな事を言われる私。
まあそうだ。結構、落ち込める事実が判明したんだよね。人形を見ると恐怖を感じるっていう。
人形なんかに怯えながら生きていかなければならないなんて。ほんと残念。我ながらそう思う。
「哀れみなら受け付けますよ……」
なんで人形が怖いのかな……記憶がないのって凄く不便だ。
あんなちっちゃい人形に襲われる事なんてないでしょうが。
記憶の限り、あの人形達の顔が怖いって訳でもないし、むしろ妖精だと思っていた位だし。
「もう大丈夫よ」
人形の撤去が終わったのだろうか。
いや、さっきと同じ罠だという可能性もある。
「……嘘じゃないですよね」
「見ればわかるわ」
本当かどうかは分からないが、私は人形遣いさんを信じる事にした。
しかし、完全に信用した訳ではない。
恐る恐る顔を上げる。念のため、顔を手で覆い、その隙間から部屋を覗いた。これじゃ意味無いけど。
……うん、大丈夫だ。いない。辺りを見回しても人形の姿はない。
つい、安堵の息が漏れてしまう。
私はそのまま、ゆっくりと立ち上がった。
「ふぅ……なんか、すみません」
「別にいいわよ。それより、本当に人形が怖いの?」
「そうらしいですね」
「らしいって……自分の事でしょう。じゃあ、なんで人形が怖いの?」
「何故って……動かないし、笑わないし、喋らないからですよ…………えっ?」
なんだろう。無意識に言葉が出てきた。
動かない、笑わない、喋らない。何故これらが、人形が怖いという要因になるのだろう。
自分で言った事なのに、全く意味が分からない。
確かに人形は動かないだろう、笑わないだろう、喋らないだろう。しかし、それが怖い理由になるのだろうか。
「私の人形は動くわよ」
「えっと……あの…………そうですね、はい」
自分でも意味が分からないのだから。反論もできない。
自分の発言の意味が分からないってどういう事だ。本当にそう思う。
昔の私の持論だろうか。
――人形が怖い三ヶ条――
一、動かない
一、笑わない
一、喋らない
ってね。
「口角を上げれば、微笑ませるくらいはできるし。見る?」
「いや、いいです」
人形が笑ったら怖いでしょ……
あっ、あぁ……そういうことか。
動かない筈の人形が動いたら怖い、笑わない筈の人形が笑ったら怖い、喋らない筈の人形が喋ったら怖い。そういうこと?
ん? いや、どういう事だ?
普通の人形は動かないし、笑わないし、喋らない。
えっと……やっぱり分からん。
「さて、冗談はこの程度にして……魔理沙を探しに来た、と言ったわね。よければ場所くらい教えるわ」
「えっ、いいんですか?」
「手を差し伸べない理由は無いと思うけど」
「ありがとうございます!」
この人形遣いさん、結構優しいのかもしれない。
正直、冗談は面倒臭かったけど。初対面の私を試していた、と思えばどうってことない。本当に試していたのなら、私のは不合格だろうけど。
まあこの際、魔理沙さんの居場所が分かればそれでいい。
そうそう、ちゃんとお礼も忘れないようにしないと。
「お礼と言ってはなんですが、大きさを変えたいものってありますか?」
「それは……どういう事?」
少し分かりにくかったか。
いきなりワケ分からん事言い出す、私が悪いんだけどもね。
「要するに、大きくしたい物はありますか、って事です。食べ物を大きくしたり、食べ物を大きくしたり、他にも色々と。小さくもできますよ」
「大きくね……なんでそんな事ができるのよ」
「そういう妖怪だと思ってください」
人形遣いさんは考え始めたようだ。
この説明で納得してもらえたか自信は無いが、習うより慣れろって言うし。ん? 習うより慣れろって使い方合ってたっけ。
まあいいや。とにかく、お礼をしたいだけだし。
そういえば霊夢さんの時はお代を貰ったんだよね。まあ、今はお代をねだる空気じゃないし、別にいいかな。
いや、霊夢さんの時もお代を貰う空気じゃなかったような気がする。あの時は私が調子に乗っていたから仕方ないか。
お代は要らない。感謝の気持ちだ。霊夢さんの時に感謝の気持ちがなかった訳じゃないけど。あの時は本当にテンション上がってたからね。
人形遣いさんが何を大きくしたいのか、少し気になる部分もある。
野菜か、家か、それとも宝石か。人形だけは勘弁ね。
「…………特にないけど」
欲の無い事がよく分かる答えだった。
しかし、ここは少しでも我儘(わがまま)になってもらわないと困る。
私はお礼がしたいだけだ。
「本当に無いんですか?」
「ないわね」
「えぇ……でも、お礼ができないじゃないですか……」
「いいのよ別に。道案内なんて大した苦労じゃないでしょう」
「そうですけど…………分かりました。一つ借りです」
このまま押しても意味が無いと判断した私は、ひとまず引き下がる事にした。
そこで、「一つ貸しだな」的な格好いい台詞を言ってみた。意味が逆だけど。
ここでの借りはいつか返すのだ。
人形遣いさんが悪の組織に襲われている時に、助けに入ったり。人形遣いさんが強大な敵と戦っている時に、共闘したり。
借りを返すなら、道案内よりも遥かに大きく返したい。そして最後に、「借りを返しただけだ」と言って立ち去る。
格好いいけど普通に無理だね。まあ、妄想ではどうにでもなるのだ。
「それじゃあ、魔理沙さんの家は何処にあるのか、お願いできますか?」
「ええ、まず外に出ましょうか」
魔理沙さんの家の行き方を教えてもらって気付いた。
魔法の森って案外簡単な構造なんだよね。ただの広い森だ。
魔理沙さんの家を探している時は、辺りを見回しても木しか見えないから、方向感覚を失っていたんだと思う。
この家にたどり着かなければ、あのまま森をさ彷徨(さまよ)い続ける羽目になっていただろう。
これを考えれば人形事件も、まあ許せる。
「ありがとうございます。これなら行けそうですね」
「余程の方向音痴でなければ大丈夫なように教えたわ」
「ふふっ、大丈夫ですよー。人形遣いさん、ありがとうございました」
「人形遣い……私の名前はアリスよ。覚えておいて」
「アリスですか……分かりました。ではアリスさん、お元気で」
私は飛び立った。
ふと振り返ると、アリスさんの傍らには、私を出迎えてくれた人形がいた。人形は笑っていた。
何故かこの人形に恐怖を感じる事はなかった。
☆★☆★☆★
――アリス・マーガトロイド
彼女の仲間は人形だった。
人形は家事をしてくれる。共に戦ってくれる。人形は一番の仲間だ。
生命がないただの道具、と言われてしまえば言い返せないだろう。
確かに、人形は自分では動かない。動く意思がない。常にアリスの与えた指命以外こなさなかった。
思い入れのある人形はあるものの、いくつでも同じ物を作れてしまう人工物に過ぎなかった。
それでもアリスは、人形を仲間だと思いたい。
彼女の夢は完全に自立した人形を作ることだった。
自立した人形なら、自分の意思で考え、自分の意思で自分で動き、自分の意思で喋るだろう。
人形それぞれに性格が生まれ、いくつ作っても同じ性格にはならないだろう。
アリスには、それが何より幸せなことに思えた。自立人形であれば、誰もが認める仲間同士になれると思った。
そんなことを考えながら、アリスは人形の手入れを行っていた。糸がほつれてしまったのだ。
彼女にとって、このくらいの作業は容易いものだった。
一人で静かに作業をする。彼女はこの時間が幸せだった。
仕上げに取り掛かろうとした時、ノックが聞こえた。
アリスはお気に入りの人形を迎えに向かわせた。
彼女は今まで沢山の人形を作ってきた。作った人形の種類も多かった。
その中でも、アリスにとって、特に思い入れの強い人形がある。初めて作った人形だ。初めてだったため少し不格好だったが、とても可愛く思えた。
上海人形という種類の人形だった。あの人形は、あれから手直しを繰返し、当初よりも形が良くなっている。
あれから上海人形は沢山作ったが、初めて作ったあの人形よりも特別にはならなかった。アリスにとっての「上海人形」はこれだけだった。
上海人形は大抵、アリスの近くにの近くにいた。他の人形に嫉妬心があったなら、その嫉妬は上海に向けられただろう。それほど大事にしていた。
そんな上海人形を何故、訪問者の迎えにやったのか、アリスは自分でも分からなかった。
アリスは上海人形を使って、訪問者を家の中に誘導した。
初めからそんな気はしていたが、訪問者は見知らぬ者だった。
「誰?」
訪問者は声をかけられて初めてアリスに気付いた。すると訪問者はいきなり改まって自己紹介を始めた。
メリアルという名前のようだ。
彼女は敬語で話していたが、敬意のあるのか些(いささ)か疑わしい敬語だった。
アリスは、メリアルが妖怪であることに察しがついていた。妖怪の独特な雰囲気があったからだ。
しかし、妖怪にしては違和感があった。その違和感の正体は全く見当がつかなかった。
ここに来た用件を聞くと、魔理沙を探しに来た、とのことだった。
魔理沙とは誰か、アリスは知っていた。昔ちょっとした、いざこざがあったのだ。
話を聞けば、どうやら魔理沙の家をここだと勘違いしたらしい。
アリスは、自分はここに一人暮らしであることを告げた。
すると、その事実を疑うようにメリアルは人形達に目を移した。
人形がいれば一人暮らしでないと思っているのか。あるいは、人形だと気付いていないのかもしれない。
今度はここにある物は全て自分が作った人形だと伝えた。
「えっ……人形……? これ全部? ……動いてますけど」
やはり、人形だと気付いていなかったようだ。
彼女には人形が勝手に動いているように見え、生物と勘違いしたのだろう。確かにアリスは人形を、生物が動くように操ることができた。勘違いしてもおかしくはない。
尤も、人形が勝手に動く事は、アリスが強く望んでいることであるが。
「私が動かしてるの」
この言葉を聞いたメリアルの顔色が変わった。
焦点の定まらない目で、部屋を見ていた。それとも、部屋にある何かを見ていたのかもしれない。
すると、途端にしゃがみ込んでしまった。
息は荒く、震え、何かをぶつぶつ呟いていた。よく聞くと、「怖い」と繰り返しているように聞こえる。
とっさの状況にもアリスは冷静だった。
アリスはまず、メリアルが何に怯えているのか考えた。
自分の発言が原因であることは確かだ。人形を操っている事を伝えた後だ。
――もしや、魔法使いに恐怖を?
アリスはこの結論に達した。自分が、人形を操れる魔法使いだという事に気づいたために、メリアルは自分を怖がったのかもしれない。
アリスが、この状況をどうするか考えている時、メリアルの様子に変化が現れた。
呟くのをやめ、深呼吸を始めたのだ。
アリスは、メリアルに何回か声をかけたが、返事はなかった。
――私が出ていかないと駄目か……
魔法使いである自分が原因なのであれば、自分が家から出なければ問題が解決しない、とアリスは考えたのだ。
「あ、あの……この沢山いる人形を私の見えない所にやってくれませんか…………」
アリスが外に出ようとした時、メリアルが話しかけた。
それは魔法使いであるアリスではなく、人形を何処かに隠してほしいという要求だ。
「なんでそんな事をするのよ」
アリスには、メリアルがそれを要求する理由が分からなかった。彼女が感じている恐怖と、人形がどう関係するのか、人形を隠せば何が変わるのか。
「それが怖いんですよ……。早くお願いします」
答えは簡単だった。
彼女は人形に恐怖を感じていたのだ。
常に、人形と接しているアリスにとって、人形への恐怖というものは、全く無縁の感情であった。
可愛い人形に怯える、そんな彼女の姿を見ていると魔が差した。
――私の時間を邪魔したのだから、少し位からかってもいいわよね……
「……終わったわ」
人形を隠す作業が終わったように見せかけた。人形のうち数体を彼女に近づけた。
我慢しようと思えば我慢できたであろうが、人形に恐怖を感じる、という珍しい弱点を持った彼女の事を知りたくなったのだ。
「あぁ……ありがとうございます……」
メリアルは安心した様子で顔を上げ、すぐに下げてしまった。
彼女は先程よりも縮こまって震えていた。
ここまで過剰に反応するのかと、アリスは関心を示した。アリスにとって、人形は人形なのだ。決して怖がる対象ではない。
やはり彼女は珍しい。
「からかわないでください…………あの、もう……ホントに……」
「人形が怖いのね……」
しかし、アリスはメリアルの事を可愛そうだとも感じていた。
恐怖の対象が人形なのだ。町を歩くことも困難かもしれない。そんな人生を送らなければならないのだろう。
アリスは人形を操った。
人形がタンスや棚を開け、その中に人形が入っていく。そして、人形が中から閉める。
こうして、ほとんどの人形が隠れた。
一体だけ、あのお気に入り一体だけはアリスの背中に隠れた。
「もう大丈夫よ」
「……嘘じゃないですよね」
「見ればわかるわ」
メリアルは再び顔を上げた。
警戒の目で辺りを見回し、人形がいないことを確認すると、とても安心したように安堵の息を漏らした。
「ふぅ……なんか、すみません」
「別にいいわよ」
――謝る必要なんてないのに……
「それより、本当に人形が怖いの?」
「そうらしいですね」
答えは曖昧だった。
何故人形に対しての恐怖心が生まれたのか、アリスは気になっていた。
「らしいって……自分の事でしょう。じゃあ、なんで人形が怖いのかしら?」
「何故って……動かないし、笑わないし、喋らないからですよ…………えっ?」
メリアルは自分の答えに驚いているような素振りをみせる。
先程の曖昧な答えとは思えないような、はっきりとした返答だ。
しかし先程、メリアルがしゃがみこんだ時の状況と、理由が一致していない。
「私の人形は動くわよ」
真面目に尋ねた。
あの時、ほとんどの人形が家事をこなしていた。動いていない人形は数体だけであった。
しかし、メリアルは全ての人形に過剰に反応していたようだった。
「えっと……あの…………そうですね、はい」
「口角を上げれば、微笑ませるくらいはできるし。見る?」
次は冗談混じりに言った。
アリスが作った人形は、元より口角を上げて作っている。わざわざ笑ませる必要などない。
人形の表情を変えることくらい、アリスは、確かに容易く出来たが。
勿論メリアルはこの提案を断った。
「さて、冗談はこの程度にして……魔理沙を探しに来た、と言ったわね。よければ場所くらい教えるわ」
アリスは、魔理沙の家の場所を知っていた。何度か見かけた程度だったが、場所を覚えるにはそれだけで十分だ。
また、アリスはお人好し、という物であった。
「えっ、いいんですか?」
「手を差し伸べない理由は無いと思うのだけれど」
「ありがとうございます!」
メリアルは満面の笑みで礼を言った。
彼女は感情の変化が激しい、とアリスは思った。
「お礼と言ってはなんですが、大きさを変えたいものってありますか?」
いきなりだった。
大きさを変える、何故このようなことを聞いてくるのか。それを聞いてどうするのか。アリスには、この話題の意味が分からなかった。彼女といると疑問ばかり発生する。
「それは……どういう事?」
アリスは率直に聞いた。
その疑問に対して、メリアルは少し考えてから言った。
「要するに、大きくしたい物はありますか、って事です。食べ物を大きくしたり、食べ物を大きくしたり、他にも色々と。小さくもできますよ」
彼女に対しての疑問は尽きなかった。
彼女は「できますよ」と、確かにそう言った。本当にそんな事ができるのであろうか。
「大きくね……なんでそんな事ができるのよ」
「そういう妖怪だと思ってください」
忘れていた。彼女も妖怪であった。
先程のような弱々しい、人間らしい、そんな姿を見せられると、彼女を見た時の違和感と合わさって、妖怪らしさが打ち消されていた。
大きさを変える、そんな事ができるのも、妖怪としての彼女の能力のおかげだろう。
しかしアリスは、メリアルからの勧めを断ることにした。
アリスに大きくしたい物がない訳ではない。それは人形だ。単なる興味から来るものだが、メリアルには人形を大きくする事は到底無理だと判断したのだ。
「…………特にないけど」
「本当に無いんですか?」
「ないわね」
「えぇ……でも、お礼ができないじゃないですか……」
「いいのよ別に。道案内なんて大した苦労じゃないでしょう」
「そうですけど…………分かりました。一つ借りです」
しかし、メリアルは諦めていなかった。なんとしてでもお礼がしたい、という事だろう。
そこまでの事を、やっている訳ではないが。アリスはそう思った。
「それじゃあ、魔理沙さんの家は何処にあるのか、お願いできますか?」
「ええ、まず外に出ましょうか」
アリスは、メリアルにとても分かりやすく、丁寧に魔理沙の家までの行き方を説明した。
「ありがとうございます。これなら行けそうですね」
「余程の方向音痴でなければ大丈夫なように教えたわ」
「ふふっ、大丈夫ですよー。人形遣いさん、ありがとうございました」
「人形遣い……私の名前はアリスよ。覚えておいて」
自分の呼ばれ方が、「人形遣いさん」であった事を知ったアリスは、そういえば自己紹介をしていなかった、と思い、自分の名を言った。
「アリスですか……分かりました。ではアリスさん、お元気で」
メリアルは、人形遣いを訂正し、アリスさんと呼び、別れの挨拶をしてさった。
その時のメリアルの表情は、見ていて気持ちの良い笑みだった。
そんな時、アリスはこんな事を考えていた。
――人形に案内させた方が良かったかしら――
□■□■□■
はぁ…………迷った。
◎◎◎◎◎◎
<メリアルの日記帳>
魔理沙さんの家に行けなかったという。事件が発生した。
なんちゅう事だ。
アリスさんの説明を聞いたときは行ける気しかしなかったのに。
なんで行けなかったんだろう。謎だ。
でも、家には帰れたんだよね。めっちゃ時間かかったけど
本当に今日は散々な一日だった。
さて、これで第一章は終了です。
アリスは、私のお気に入りキャラなのです。
私の好きなキャラは結構いるんですけど。そのキャラは、異変に関係なく作中に出るんで。
期待も有りかと思われます。
レティさんは例外ですけど。
えっ? アリスは嘘を吐かないですって? ……ではでは、次回でまたお会いしましょう。