次回は少し動きを出す予定。
●中島少尉の苦闘:3025年1月4日夕刻
戦闘が終わり、基地からの回収ヘリを待って二機のメックを収容した後、あたしたちはメックで帰還した。
例によって隊長は事後処理をあたしに丸投げし、自分はさっさとシャワーを浴びて街に繰り出した様だ。こちらは手早くシャワーを浴びるだけで事務仕事をやらなければならない。
まずは自小隊の損害評価だ。事務処理用の端末を小脇に抱え、あたしはハンガーへ向かう。丁度良くクルツ君が整備班と話し込んでいた。
「お疲れ様。損害状況はどう?」
「おっと中島さん、今チェックしていた所です。フェニックスホーク二機と僕のオストソルは装甲板の張り直しだけで済みそうです。後は中島さんのパンサーですが……SRM4の交換と一部機体中枢にダメージが入ってますね。
「そ、そう……。物資は足りる?」
「装甲板はまだ在庫があります。ただし、今回の整備で使い切っちゃうので追加が必要ですね。SRM4はどっかから持ってこないとありません」
「装甲板はどれくらい買えば良いかしら?」
「そうですね、10tばかりあれば当面もつかな? それよりSRM4はどうするんです?」
少し胃が痛くなってきた。どちらもリャオ正規軍から購入しないといけない。それでも足りなければ武器商人から買うしか無いのだが……果たして都合良く手に入るか。
「何とかするわ。手配しておくから整備はよろしく」
「まっかせてください!」
あたしは自分のオフィスへ戻った。
* * *
お気に入りの湯飲みに日本茶を淹れ、PCに向かう。まずは正規軍の物資に余裕が有るかの確認だ。傍らの電話機から受話器を取り、内線で兵站部へ連絡する。
「はい、兵站部」
「こちら、葉隠傭兵団の中島です……、ええ、ちょっと物資調達のお願いをと……え、何ですか、直接来い? はあ、分かりました」
通話を切って淹れておいたお茶を啜る。はてどう言う事か。暫し考えて見る。
ふと閃いた。おのれリャオ人め! 袖の下の催促か。……今幾ら持ってたかな。
あたしは暗澹たる気分で兵站部へ向かった。
* * *
「やあいらっしゃい中島少尉。何をどれくらい欲しいのかな?」
妙ににこやかに応対する中年の男。階級は大尉だ。あたしは財布から100リャオHビル札を10枚取り出し、握手をする振りをして相手の手に握らせた。効果は覿面だ。この人、物資の横流ししていないでしょうね?
「理解が早くて助かる。我々はできる限り君達の要望に応えるよ。ただしちゃんと対価を払って貰えればね」
「では、装甲板10tとSRM4をひとつ、あと若干の人工筋肉を頂ければ」
大尉がPCの在庫リストを一瞥する。そしてあたしに頷いた。
「丁度在庫がある様だ。代金は君達の口座から引き落とさせて貰うが、問題はあるかな?」
「いえ、それで構いません。残高も問題無い様ですし」
「分かった、では暫し待ってくれ」
大尉はそう言うと書類のプリントアウトを始めた。
「お待たせ。これにサインを」
さらさらと書類にサインすると、大尉は満面の笑みを浮かべた。
「はい、契約成立と。また良い取引をしたいものだな」
ええ、袖の下が必要無いならばね! 早い所出入りの武器商人と連絡を取らなきゃ。でもあっちはCビルでしか扱って無いのよね……。
(1Cビル=100円、1Cビル=0.5リャオHビル換算)
* * *
●ゲルトの日常:3025年1月4日夕刻
お腹減った。戦闘が終わってまず思ったのはそれだ。戦闘によるストレスと運動によるエネルギーの消費がまずひとつ。
そしてメックの操縦席には熱が籠もり、まるでサウナの様になるので汗をかく。それによる水分減少がもうひとつだ。かつては耐熱戦闘服があったらしいが、パイロット毎に体型は異なるし、生産工場もまともに稼働していない為、一般の兵士には高くて手が出ない。
その為、必然的に薄着での出撃となる。それでも一度出撃すれば汗だくで帰着するのが日常だ。
わたしはシャワーを浴びて食堂へ向かう。整備は整備班が居るし、事務処理は副長がやってくれるだろう。今は次の出撃に備えて栄養を補給するときなのだ。
食堂は独特の匂いで満ちている。言うならば化学調味料の匂い。厨房では大きな鉄鍋を振っている調理師達が沢山。今日のメニューは何だろう。わたしはフォークとスプーンを取ってカウンターに並んだ。わたしは箸を使うのが苦手。基地のリャオ人や、隊長と副長が器用に使っているのをいつも感心して見ている。
カウンターに並んだわたしを見て、食堂のおばちゃんが声を掛けてきた。
「お仕事お疲れ様。今日はいつも通り大盛りかい?」
わたしは黙って頷く。
「相変わらずだねえ。まあいいや! へい大盛り一丁!」
おばちゃんが野菜と肉の炒め物とスープ、ライスをトレーに並べてくれる。スープ以外は山盛りだ。わたしは満足して席に向かった。
この基地の食事は美味しい。ダヴィオンに居た頃は大味で量だけが多いものばっかりだったので、なおさらそう感じる。問題はどれも同じ化学調味料の味しかしない事だが。それでも長期作戦中に支給されるレーションよりは遥かにマシだ。
副長に言わせれば、ドラコの食事の方がもっと美味しいとの事だが、わたしはこれで満足している。
* * *
黙々と食事をしていると、リャオの正規軍らしき男が目の前にトレイを持って洗われた。階級章を見ると、少尉だと分かる。
「ここいいかな?」
わたしは黙って頷く。承諾が得られたのが分かると、その少尉は顔をほころばせた様だ。心無しか、そわそわしている様にも思える。席に座るとわたしに話しかけてきた。
「今度赴任してきた傭兵団の人でしょ? 俺は正規軍のメック戦士なんだ。宜しく」
わたしは儀礼的に会釈する。そんな事に興味は無い。今は食事が大事だ。そのまま少尉殿を無視して食事に専念する。
少尉殿はなんやかやと話しかけてきたが、わたしが話に乗ってこないのを見ると、ばつの悪そうに食事を始めた。全く、人が食べているときに邪魔をするとは何と非常識なのだ。暫し経って食事を終えると、わたしはトレイを持って立ち上がった。
少尉殿は何か言いたそうだったが、わたしは無視する事にした。指定位置にトレイと食器を返すと、脇きに並んでいる自動販売機が目に留まる。何か飲み物を買っていこう。
定番の炭酸系飲料の他、リャオ独特と思われる謎の飲料がある。菊花茶とか、燕の巣ドリンクとかだ。全く味が想像できない。
少々の冒険心で、わたしは燕の巣ドリンクを買ってみた。部屋に戻ったわたしは、その選択を激しく後悔する事になる。
●クルツの整備日誌:3025年1月4日夕刻
整備班長と相談し、4機のメックを作業台に固定する。格納庫は間借りしているものの、作業台は傭兵団の備品だ。これがあると無いとでは作業効率が全く違う。整備班長が声を掛けてきた。
「クルツ、準備が出来たよ。後は副長がSRM4と
「あ、はい。頼みます。また何時出撃があるか分からないし、なるべく早めに頼みます」
「分かってるよ。まあ、2時間もあれば終わるんじゃないかな。後は任せて、お前さんも休憩しておけ」
「いや、僕はメック弄ってる方が楽しいから。何でも手伝います」
「そうかい? まあ助かるのは助かるんだが。じゃあ、手前のメックの作業をたのまあ」
「はいはい。オストソルは装甲だけだかららくしょーです。じゃあ」
整備班は作業を開始した。1時間程経った頃、リャオ正規軍の整備兵がパレットを引いてやって来た。
「ご注文の品、持って来たぜ。受け取りにサインしてくれ」
少し古ぼけたSRM4と、人工筋肉の束がパレットに載っている。僕はサインを整備班長に任せ、SRM4の動作チェックに取り掛かった。古びてはいるものの、動作に支障は無さそうだ。
「班長、SRM4の動作確認おっけーです。中島さんのパンサーに取り付けちゃってください」
「あいよ、しっかしまあ、何で一番軽い機体が一番損傷が酷いのかね? 大体、お前さんのオストソルが前線で壁になりそうなもんなのによ」
「あー、それは中島さんの性格じゃないかな? あの人、メックに乗るとやたら攻撃的になるし」
「有り得る話だな。無茶しなきゃ良いんだが……」
「大丈夫ですよ、僕や隊長達がいるし。それより、ちゃっちゃと取り付けましょう」
「ああ、俺達も飯にしたいしな。おーい、クレーンに誰か!」
その後も作業は滞りなく進んだ。これで何時出撃命令が出ても大丈夫。僕は安心して整備班の連中と食事に向かった。
どうも、作者のビリーTです。
今回は戦闘以外の風景を書いてみました。袖の下とか食事の辺りはかなり偏見入ってます。
あと例によってハウスブックは読んでませんので、ドラコが日本食とかリャオが中華とかはでっち上げです。
多分その辺も記述はあるんだろうなあと思うのですが。
後、自動販売機の所でネタにした、菊花茶や燕の巣ドリンクは実在します。
どっちも余り美味い物ではありません。東南アジア方面で実際に飲めると思います。
出張や旅行の際にお試しあれ。
それではまた次回。