詳細が明かされない謎の任務。
陳中尉はどう動くのか。お楽しみください。
●惑星フナン衛星軌道上:3025年1月28日深夜
何の因果か私達はレパード級降下船に搭乗し、惑星フナンの衛星軌道に居る。
基地では爆竹が準備され、正に大晦日と言った感じだったのだが……。
折角のChinese New Year休暇がふいになってしまった。
ここで時間は3時間程戻る。我々が夕食を取り、それぞれ休暇を楽しもうとしていた時だ。基地指令から我が小隊に招集が掛かった。
「葉隠傭兵団の諸君、急だが新しい任務だ。詳細は追って話す。今はすぐにメックを我が基地のレパード級降下船に積み込んで欲しい。既に船長には連絡済みだ。急ぎ給え」
と言う訳で、ブリーフィングも省略されて我々は機上の人となった。大気圏を脱した所で操縦席に挨拶に行ったが、船長は詳しい任務の内容を聞かされていないらしい。
ただ、
「葉隠傭兵団のメックを衛星軌道上まで搬送せよ」
とだけ指示されたそうだ。後分かったのは、メックの降下殻が四機分用意されているらしい。どうやら基地指令は、我々に軌道上からの降下作戦をやれと暗に言っている様だ。
降下船内の休憩室に戻る。小隊員達はまだメックの搭乗服には着替えていない様だ。
「小隊長、船長は何と?」
中島君が聞く。
「残念ながら何も知らないそうだ。基地指令からの通信を待つしかないね。それまでみんな休憩していて頂戴」
「ええー、折角の休みが無しですか?」
「まあクルツ君、そう言う事。私も残念だよ。今頃基地は派手に騒いでるだろうなあ」
「……ここの御飯美味しくない」
「ゲルト少尉、贅沢言っちゃだめよ。積み込める物資の量って決まっているんだから。あたしのお菓子でも食べてなさい」
そう言って、懐から小さな赤い紙箱を取り出す。箱には”都昆布”と書かれている様だ。マリーネブラウ君は大人しく箱を受け取ると、包装を剥がして濃い緑色の”何か”を口に入れる。
「……味、無いよ」
「良いからずっと噛んでなさい。そのうち美味しくなるから」
そう我々が漫才をやっていた時、休憩室のモニタに秘匿回線からの通信が入った。相手は基地指令らしい。
「全員拝聴。やっと正式な指令が来た様だよ」
手近のリモコンで回線をONにすると、我らが基地指令の仏頂面がスクリーンに映し出された。
「あー、座ったままで構わん。正式な指令を伝える。まずはこの地図を見て欲しい」
スクリーンに映し出されたのは、惑星フナンの極北地域の地図だ。
「元々惑星フナンのこの辺りには気象観測基地以外何も存在していない。しかし、6時間前にダヴィオン軍所属のレパード級降下船が二隻降下。今回は我々の気圏戦闘機部隊も出撃したが、敵方の気圏戦闘機部隊と戦闘を行っている隙を付かれて地表に降下されてしまった。偵察機の報告によれば、敵は二個小隊。メックの種別までは判明していない。そこで諸君らに威力偵察及び可能であれば敵勢力の撃退を頼みたい」
小隊員が一様に顔を見合わせた。二倍の戦力だって?
「ちょっとちょっと司令殿。それは無茶な命令ではありませんか?」
私は基地指令に不満を漏らす。
「あー、付帯事項がある。報酬は通常の三倍。勿論撃破報酬も捕獲報酬もだ」
「やります。やらせてください」
中島少尉が不満そうな私の口を手で押さえて答えた。
「それは重畳。降下殻も準備している。直接軌道上から現地に降下してくれたまえ。以上だ」
それっきり通信は切れてしまった。やっと喋れる様になった私は中島君に言う。
「どう言うつもりだい、中島少尉? こちらが返り討ちに遭う確率が高いと思うが。慎重な君らしくも無い」
「……ええ、普通ならわたしも反対します。隊長、我が小隊の経理情報は見られていますか?」
あ、そう言えば暫くチェックしていなかったな。
「前回の出撃報酬で何とか回していますが、補給部品の調達や隊員の給料、な・に・よ・り、隊長の使い込みがですね……」
「ごほんごほん、あー、分かった。何、やばそうだったら接近せずに逃げれば良いさ。我が小隊の機動力に追いつける部隊だったら軽量級~中量級が主体だろうし。地の利はこちらにあるからね」
「……」
「まあ、僕は戦えれば別に良いんですけどね」
マリーネブラウ少尉とクルツが諦めた様に言う。
「では10分後にハンガー集合。作戦は現地を偵察してから決定する」
「了解!」
全員が唱和した。それぞれ降下船内のハンガーへ向かっていく。
さて、久々の降下作戦だ。実は降下作戦は練度が低いメック戦士には回ってこない。
降下に失敗したら、それはメックを喪う事と同義だからだ。
基地指令も我々の練度を見込んでの依頼だろう。
「なら、期待に応えて報酬をかっぱがないとな!」
私は意気揚々とハンガーへ向かった。
(後編に続く)