石冠ノ王   作:雨(あめ)

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不可解

まず初めに問いたい。

 

これは一体どういう状況か。

 

私は微塵の光も存在しない洞窟の中で目を覚ました。

全くもって不可解である。

微塵の光もないのだからもちろん何も見えようはずはない。しかし自分が洞窟にいるということがわかる。

これこそが私を取り巻く不可解の一端に他ならない。

 

どれだけ目を凝らそうと見えるのはやはり檳榔子で染め上げたようなこの冷たい闇だけ。

ではなぜ自分が洞窟にいるとわかるのか。

 

それは"感じる"から。

酷く感覚的で曖昧なその根拠に自分自身苦笑いが出るが、しかしそれ以外に言い表せようもなかった。

 

肌に触れる岩のごつごつとした感触。

いや、肌というのは正確ではない。

私の体にはもはや、肌と呼べるようなものなどただの一欠片ほども残されてはいないのだから。

 

肌だけではない。本来であれば薄橙色の肌の下にあったはずの筋肉も、骨や内臓や血液さえ…何一つとして残ってはいなかった。

 

目を覚ますと、自らの体がすっかりこの黒い靄のようなものに置き換わってしまっていたのだ。

地に足をつけることすらせず宙に浮く私の体は、境界が酷く曖昧で周囲の闇に溶けてはまた集まりを意味もなく繰り返している。

自らの意思とは関係なくゆらゆらと流動する黒い靄。それが今の私というわけだった。

 

この不可解を誰に問いただしたものか。

私は胸中に渾々と湧き出る疑問疑念の一切をぶつける先を求め、辺りを見回した。

たとえ自分の周りに生物がいたとして、それが人であろうがなかろうが、或いはそれが私の生来苦手とするところの虫の類であったとしても、そんなことはお構いなしで『こんな状況になっているのは貴様が原因か』などと問い詰めてしまいかねないほどの勢いがあったが、幸か不幸か私の周りに生物の影はなかった。

 

そんなわけで虫に話しかける変質者に成り下がるということはなかったわけだが、しかし私の元には依然として吐き出すことのできない悶々とした疑問だけが残った。

 

何も見えないし、見えたとしてこんな洞窟に鏡などはない。しかし私は自分の姿がわかる。

鏡に写し見るよりもはっきりと。

これも"感じる"からである。

感じる感じるとまるで胡散臭い霊能力者のように繰り返してはいるが、本当に感じるのだから仕方がない。

 

それは今までとはまるで違う感覚を有していた。

本意か不本意かなど考えるだけ虚しく、すでに私の体はすっかりと新しいものに置きかわっている。故にこれは至極当然のことではあるが、それはいささか気持ちの悪いものだった。

この感覚を例えるならば、自らの周囲にあるものを夥しい数の手で見境もなくペタペタと触れているかのような。

そしてその手一つ一つが鼻、耳、目、舌の機能も併せ持っているかのような、、、。

 

とんだモンスターではないか。

 

とにかく靄のようなこの体は、触れているものの形や色、そして味や匂いに至るまでの詳細な情報を感じ取れるのだ。

 

冷静を装いここまで分析してきたが、私の心中の戸惑いようは想像に難くないだろう。

こちらとしてはいつだって発狂してやれる構えはあるのだ。しかし私も一介の社会人。現代社会における数々の荒波に揉まれ鍛えられた精神力がある。

そんな一抹の自負でもってかろうじて冷静さを保っていた。

だがそれも時間の問題だ。

 

行動を起こすべきだということはわかっている。しかし私は今すぐにでも行動を起こし情報を得たいという思いをぐっと我慢していた。

いやそれは我慢と呼ぶにはいささか受動的すぎるかもしれない。

 

(ふん!…ん……ん………っはぁ!ぜぇ、ひぃ、ふぅ、やっぱり無理だ。)

 

実は私は目を覚ましてから今に至るまでの間に、幾度となく"挑戦"をしていた。

そして知っていた。

この漆黒の体はどれだけ力もうとも蝸牛の全力ダッシュほどの速度でしか動かないという事実を。

その上10秒も動けば酷い倦怠感に襲われるという軟弱ぶり。これには私も無い頭を抱えざるを得なかった。

 

進めば終わりはあるのだろう。

しかし今の私の工合からして、どうにもこの闇が永遠のものに感じられてならなかった。

 

(……はぁ。)

 

どうしてこんなことになったのか。

暗闇を見つめながら私は一つ大きなため息を吐いて、いや実際のところこの体は呼吸すらしていないのでそれすらも心の中での所作にすぎないのだが、とにかく一度精神を落ち着かせてゆっくりと自らの記憶を辿り始めた。

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