黒服がシャーレの先生になった世界線   作:黒服先生

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秤アツコとマスクの代わり

 アリウススクワッドの生徒たちは、それぞれの面談終了後、一旦シャーレの中であれば自由行動を許可することになった。彼女たちに行動制限を掛ける必要がある、というよりはベアトリーチェが何かしらの手を打ってくる可能性への対策と言う側面が強かった。

 キヴォトスの学校では標準装備の体育館やスポーツジム、射撃場も備わっているので、運動不足や戦闘訓練に困る、と言うことも無いだろう。

 始めの内は4人固まって動くことが多かった彼女たちも、3日もすれば一緒にいたり、それぞれで活動したりと変化が見られるようになった。

 一人で自室で過ごす。カフェに持ち込まれた雑誌を眺める。他の学校の生徒と交流する。料理などの新たな物事に挑戦する。

 いずれも常に抑圧されて自由の存在しなかった彼女たちには必要な経験と言えるだろう。

 

 そのなかでも特に、他校生との交流に関しては同じく最近SRTの寮からシャーレの居住区に転居してきたSRTシャーレ支部の生徒たちが住んでいるため、一日の行動スケジュールは異なるものの、様々な場面で何かしらの行動を共にしている様子が見られた。

 

 そしてその筆頭ともいえるのが、FOX小隊の隊長である七度ユキノと、アリウスの「姫」である秤アツコの2人だろう。秤アツコの方が七度ユキノの方を気に入ったらしく、一方で七度ユキノの方も特に邪険にすることも無く、カフェで話していたり一緒に料理する光景がよく見られた。月雪ミヤコがそれに混じっているケースも多いが、彼女も不知火カヤや私にするような敵愾心を見せることは無く、普通に過ごしているのが特徴だろう。

 というより、月雪ミヤコは不知火カヤがいる場合はそちらに絡んでいるケースが多く、その姿は他のSRT生からは一種の姉妹のように見られているという話を聞く。いずれにせよ、不知火カヤもまた、ここでの生活に馴染んできてはいるようだ。

 

 さて、その秤アツコであるが、彼女に話があり、カフェを覗いたところ、案の定七度ユキノと何かを話していた。

 カフェには他に天童アリスに絡まれて狼狽えている槌永ヒヨリなど、何人かが過ごしていたが、まずは用件を終わらせるべく彼女の元に近づく。

 

「こんにちは、アツコさん、ユキノさん」

 会話をしていた二人に話しかける。

「あ、先生来た。待ってたよ」

「こんにちは、先生。アツコと待ち合わせをされていたのですか?」

「そういうわけでは。先ほど連絡したところ、ここにいると返信があったので来たんです。何を話していたんですか?」

 フックとしてそのように話を振ったが、二人は顔を見合わせる。そして七度ユキノが肩をすくめた。

「可愛い話じゃないから駄目だって」

 秤アツコが返事をする。七度ユキノが今度は顔を顰めた。

 

「別にそういう話を求めているわけではありませんが」

「そう? まあ、その話は置いておいて。私に用事があるんだよね?」

「ええ、そうですね。アツコさん、今マスクは持っていますか?」

 本題に進め、と暗に言われたのでその通りにする。

 

「マスクって、あのガスマスク? あるけど、多分盗聴機能とかあるから結構念入りに壊しちゃったよ?」

「捨てなかったの?」

「うーん。まあ、何かに使えるかもって思ったから」

 要するに勘、と言う事だろうが、彼女の判断は正直な話、助かった。

 

「申し訳ありませんが、持ってきてもらえますか? 見せていただければ、お礼の品をお渡しします」

「え? うん、いいけど……()()()()()()()()()()()

 私の要求に、怪訝そうな表情を浮かべる。七度ユキノからも睨まれている。何を想像されているのだろうか。

「装着してみたいという訳ではありません」

「そう? 分かった。持ってくるね」

 そう言って、秤アツコは比較的素直にカフェを出て行った。

 

「……また随分と仲良くなられましたね。アツコさんと」

「アツコは割と最初からああいった感じでしたよ」

 七度ユキノが呆れたような表情を浮かべる。

「いえ、アツコさんはそうかもしれませんが、ユキノさんの方も随分と対応に慣れているようですが」

「それは……まあ、あれだけ話しかけて来られたら慣れます。それに多分、それは先生が交流を推奨していたのをこなしているだけでしょう。スクワッドの方たちとのほうが余程親密です」

「それは仕方ない気がしますが……」

 スクワッドの4人は共に余りにも過酷な状況を乗り越えてきた仲間であり、殆ど家族と言って差し支えない関係だろう。傍から見るとそれと比較対象になること自体が、彼女たちが親密になった証拠とすら思えた。

 

「そういえば、結局お二人で何の話をしていたのですか? アツコさんにははぐらかされましたが……」

「え? ……ああ、別に大した話ではないです。アツコから近接戦闘のコツを聞かれてさっきまで少し特訓していたので、その続きのアドバイスとかを話していただけです」

 七度ユキノが真顔で返事をする。秤アツコが「可愛い話ではない」と言ったのも分かる内容だった。

「アツコさんはユキノさんに口止めされているように言っていましたが」

「そんなことしません。アツコには何か変な誤解をされてるようなんです。詳細は控えますが」

 そう言って、七度ユキノはまた溜息をついた。

 

 ―

 

 そこまで時間をかけることもなく、秤アツコは戻ってきた。

「お待たせ。これで良いんだよね?」

 そう言って渡されたガスマスクを受け取る。彼女が持ってきたガスマスクは、いくつかの破片になるように割られており、彼女の言う通り発信機などになって良そうな部分に関しては念入りに破壊されていた。

 以前の時間軸において、彼女のガスマスクには私がベアトリーチェに与えた超科学的異常技術、つまりオーパーツ的な技術による装飾が内側に施されており、装着している者を保護する機能がつけられていたが、やはりそういった機能はこのガスマスクにはつけられていないようだった。ガスマスクに発信機と盗聴器を付けただけの代物だ。

 カイザーやマエストロの反応からも殆ど確信していたが、現在の時間軸において私がゲマトリアと関わっていなかった事の証拠がまた一つ積みあがったこととなる。

 

「ありがとうございます。アツコさん。私の予測は間違っていなかったようです」

 秤アツコにガスマスクを返却する。

「予測……? よくわからないけど、役に立ったなら良かった」

 彼女は不思議そうな顔をしたものの、素直に返されたマスクを受け取った。

「それで、先生。お礼って何をしてくれるの?」

 そしてマスクをしまった彼女が、そう言って私に期待の眼差しを向ける。私は用意していたものを取り出した。

 

「そうでしたね。マスクの代わりとして、こういったものを用意しました」

 秤アツコのために制作した、()()()()()()()()()()。これらには例の装飾が施されている。当初は以前の時間軸と同様にガスマスクに装飾を施すつもりだったのだが、作るにあたってマスクでなければならない理由が無いことに気付いたのだ。元々ガスマスクだったのは、ベアトリーチェにとってその形状が都合が良かったというだけだ。顔を覆い隠すガスマスクは、仮に用意しておいたとしても普段使いにはそこまで向いていない。

 そこでこの2種類を試作したのだ。一応頭部を保護する目的があるので、首から上に着けるアクセサリーが丁度良く、髪留めとチョーカーの2種類を用意したのだ。

「どちらかお好きな方を差し上げます」

 私はそう言って、制作した二つのアクセサリーを差し出した。

「え……」

 素直に受け取るかと思ったが、秤アツコは差し出されたものを見て固まっていた。

 隣で見ていた七度ユキノも目を見開いて、驚いている様子だった。

「気に入りませんでしたか?」

「え? えーっと、ううん、そうじゃなくて。その。こういうプレゼントだって全然思ってなかったから……えーと、これ、本当に私に?」

 私の質問に、妙に焦ったように秤アツコが反応を示す。彼女が動揺しているところを始めてみたかもしれない。顔が赤くなっているような気もする。怒っているのだろうか。

「ええ、勿論アツコさん向けに作ったものですが……」

 私の言葉に、再び沈黙が訪れる。

 

「……じ、自作なの? えっと、どうして私に?」

 秤アツコは顔を何故か更に赤くして私に理由を尋ねた。お礼だと伝えたはずだが……と考えたところで、このアクセサリーの機能を説明していなかったことを思い出す。気に入ってなかったとしても、それで諦めてつけてくれるだろう。

「ああ、すみません。説明不足でしたね。これはちょっとした機能が備わっていまして、まだ試作品ですが身に着けていると強い衝撃などからある程度身を護れるようになっているのです。アツコさんは今後身の危険があるかもしれませんから、保険として身に着けておいてほしいのです。私の衣服にも実は同様の機能があるのですよ」

 

 私の説明にまたも秤アツコが固まる。そして、彼女は珍しく大きなため息をついた。何らかの誤解をしていたのだろうか。

 

「そっか……そういうこと。私はてっきり……まあ、いいや。うん、ありがとう先生。そういうことなら……髪留めの方もらうね。つけておけば良いのかな?」

 まだ完全には動揺が抜けきっていないようだが、とりあえず受け取ってくれたので安心だ。

「ええ、そうしていただけると」

「分かった。もう一つはどうするの?」

 秤アツコが残りのチョーカーの処遇について聞いてくる。

「そうですね、誰かにお渡しするつもりですが……」

「そう……なら、ユキノちゃんにあげたら? ……まだ仲良くしていたいし」

「アツコ? 私は別に……」

 

 急に話を振られて七度ユキノが動揺しているが、確かにFOX小隊のリーダーであり、先日のように危険な任務に率先して進んでいく性格でもある。彼女は、渡す相手としてかなり適切ではあるだろう。

「そうですね……では、折角なのでユキノさんにお渡しします」

「なっ…………良いんですか? 返せと言われても返しませんよ」

「もちろんです」

 私の返事に、七度ユキノは渋々とチョーカーを受け取った。

 

「先生、ありがとう。ちょっとびっくりしたけど、プレゼントは素直に嬉しい」

「……私も、もらったからには大切にします」

 

 改めて、二人から礼を言われる。

 試作品であり、性能の程は定かではないが、渡した二人は喜んでいるようなので、とりあえずは問題ないだろう。彼女たちのあまり要領を得ない反応は多少気になるが、私はそう思うことにした。

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