「先生! ユウカと喧嘩したでしょ!?」
シャーレに遊びに来ていた才羽モモイからクレームが飛び込んできた。
今日はゲーム開発部の部員たちの内、彼女と天童アリス、そして珍しく黒崎コユキが訪問して来ていた。
昨日新しいゲームをリリースしたらしく、プログラマーとグラフィック担当として修羅場を越えた才羽ミドリと花岡ユズは部室で死んだように寝ていた、とのことで、そっとしておこうと思い、3人で遊びに来たらしい。
何でもいいが、いきなりの糾弾に思い当たる節が無いわけではなかった。
「……ユウカさんが何か仰っていましたか?」
そのため、無視することはできず、才羽モモイに聞き返す。
「ううん、何も言われてないけど、ねえ?」
「にっはっはー。状況証拠は揃ってますよ?」
「アリスも……ユウカに最近元気が無いのが心配です……」
3人に口々に言われ、先日のことが思ったよりも早瀬ユウカに影響を与えていることを知った。彼女は以前三日と開けずにシャーレに来ていたが、あれ以来見かけていない。嫌われたというのであれば仕方ないと思ってはいたが、引きずっているという事であれば、ミレニアム運営と言う意味でも責任を感じざるを得ない。
「そこまでですか……」
「うん、まず最近全然シャーレに行ってないから、学校にずっといるでしょ? それも変だねって言ってたんだけど……」
「ユウカ先輩、最近全然怒らないんですよ? 逆に怖いというか……」
ゲーム開発部の筆頭問題児二人がそう言って頷きあう。
「何か怒られるようなことをしたんですか?」
「え゛っ!!? いや、ちょっと新作の告知で放送機材を無断で拝借しようとしたの見つかっちゃってぇ……」
「……また妙なことを」
詳細には触れなかったが、自分で言ったより大がかりな悪事をしようとしていたのは想像に難くない。
「あははは……でもユウカ、その時とっても疲れてたみたいで『ちゃんと放送部に許可とりなさい』としか言わずにどこか行っちゃったんだよね……」
「にはは……私は後からノア先輩にすっっごく怒られましたけど……」
黒崎コユキが虚ろな目でそう言った。彼女は元々生塩ノアの方が苦手なきらいがあったが、この様子だとかなり絞られたのだろう。
「アリスも……ユウカがこの前部室に来た時、2時間くらいずっとゲームの画面見ていたのは変だと思いました……ユウカ、いつもは色々おしゃべりしてくれます……」
それは確かになかなか妙な様子と言える。
総じて、彼女たちの感じている違和感は、私に責任がある可能性を否定できなかった。
「それで、先生なら何か知ってるんじゃないかって思ったの。どうなの? 先生!?」
才羽モモイに指をさされる。
「……まあ、思い当たる節はありますね。しかし、どこまで説明して良いものやら」
いずれは解決しなければならない問題であることを認識した以上、隠す必要もない。しかしあまり深いところまでを話すわけにも行かないので、最近大きな仕事をしており、その中で大けがをする可能性があったことと、それを早瀬ユウカに知られてしまったことを話した。河駒風ラブに指摘された点として、事前に何も伝えていなかったことも話をした。
「なるほど……うん、それは先生が悪いね! 私的にはゲームの題材になりそうな大冒険してそうなところに興味あるけど!」
話が終わると、才羽モモイが明るく結論付けた。
「ええ、それはそうですし、仲直りしろ、とも言われているのですが、正直言ってその辺りの事には疎く、ですね」
「うーん。先生も一度謝ってるってことですよね?」
黒崎コユキがどうした者かと考えている。私と早瀬ユウカの仲を取り持とうという話にいつの間にかなっているが、それでいいのだろうか?
「そうですね……一応。ただ、彼女の要求には全面的に答えることはできませんでしたが……」
「そ、それは仕方ないと思うけど。私だってユウカの言う事聞かないこともあるわけじゃん? でも仲直りできたから、ほら、あの時もそうだったし」
才羽モモイが以前早瀬ユウカと仲たがいしそうになっていた時の話を思い出し、そう言った。あれはただ、ゲーム開発部のことを心配していたという前提に基づいて良い結果を生んだという話だったが……心配をかけたという意味では同じことか。
「分かりました! 先生。
唐突に、天童アリスが妙な言葉を叫んだ。ハラキリ・ヨウカン? 才羽モモイと黒崎コユキも何事かと彼女の方を見る。
「すみません、アリスさん。何ですか?」
「ハラキリ・ヨウカンです。この前ヒヨリの読んでいた雑誌に書いてました!」
再度天童アリスが断言する。カフェの隅で今日も雑誌を呼んでいた槌永ヒヨリが突然名前を呼ばれて何事かと周囲を見渡している。そういえばつい先日、この二人が雑誌を一緒に読んでいたことを思い出す。
「ヒヨリさん。アリスさんが言っていることの意味が解りますか? ハラキリ・ヨウカンというものについてですが」
折角なので、彼女自身に聞いてみる。
「え、ハラキリ・ヨウカン……? ……あ」
「思い当たりましたか?」
「多分、百鬼夜行で最近発売された羊羹ですね……えっと、確かこの辺の……」
槌永ヒヨリが腰かけていた本棚を探り、ある雑誌を取り出す。
「こ、これです。百鬼夜行の、ひゃ、百夜堂? の特集記事があって。えへへ……羊羹って美味しそうですよね……どういう味がするんでしょう……」
よだれをたらしそうな表情になり空想の世界に入っていった槌永ヒヨリを放置して、差し出された雑誌を見る。その中に、確かに腹切り羊羹なる商品の事が小さく書かれていた。謝罪の際に持ち込むと良いとされる和菓子のようだ。ジョークグッズのようなものだろうか。
そして百夜堂と言う名前にも聞き覚えがあった。確か以前、シャーレに相談が来ていたことがあったが、そのすぐ後に依頼の取り消しの連絡が来ており、丁度こちらも忙しいタイミングだったため、そのままにしていた案件があったのだ。それが確か、「百夜堂(ももよどう)」という喫茶店のオーナーからだったはずだ。
この羊羹は、期間限定でその百夜堂からも販売されるというのが記事の内容だった。
「これでユウカが許してくれるかなあ?」
記事を覗き込んでいた才羽モモイが疑問符を浮かべる。
「大丈夫です。ユウカもきっと、先生と仲良くしたいと思ってます!」
「ふむ……では、今から行ってみることにしましょうか」
丁度今日は予定が空白になっており、だからこそ訪問してきたゲーム開発部の相手をしていたのだが、今から行けばそう遅くならないうちに帰ってこれるだろう。
「ええっ!? 今からですか!? じゃあ私達もついていって良いですか?」
黒崎コユキが目を輝かせる。なぜそうなるかは不明だが……
「それ良いね? コユキ、アリス! ついでに公式SNSで百夜堂のスイーツを載せようよ!」
「はい! アリスも行きたいです! ヒヨリも行きませんか?」
才羽モモイが賛同し、天童アリスは槌永ヒヨリまでも誘い始める。
「ひぇっ!? えへへ……私はちょっと……行きたいですけど……行けないんですよね。ああ、苦しいです……」
しかし、スクワッドにはまだ外出許可は出来ていない状況だ。槌永ヒヨリもそれは理解しており、世を儚みはじめた。
「そうですか? 残念です」
天童アリスはそう言って、私と槌永ヒヨリの顔を見比べた。
「……そうですね、では、ヒヨリさん達の分のお土産も買うことにしましょう。皆さんに他の用が無ければ、一緒に行きましょうか」
私はなし崩し的に、そう結論を出し、4名で百鬼夜行へと向かうことにしたのだった。
本スレと掲載順が異なりますが、間違いではありません。