黒服がシャーレの先生になった世界線   作:黒服先生

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ゲーム開発部と日帰り旅④

 河和シズコから聞いた内容については、今すぐ何かできるわけではなく、彼女の中では終わった話に分類されているようでもあるので、とりあえず今はもういいだろう。そろそろゲーム開発部の生徒たちのところに戻っても良いが、もう一つ気になっていたことがあった。

「ところで、話は変わりますが」

「はい?」

「シズコさんはこの百夜堂のオーナーだそうですが、自ら店に出られているんですね」

「はい、そうですね。こほん……」

 河和シズコは私の質問に頷いた後、咳払いをして、胸に手を当てた。

 

「おかえりなさいませ~! ご主人様!」

 そして、唐突に声色を大きく変化させて営業スマイルを浮かべた。意図が分からない。

「……」

「……ってやってたやつですよね?」

 私が黙っていると、元の声色に戻って、真顔で私に確認を求めた。

「いえ、そこまで見てはいませんが……」

 イートインスペースの方で一瞬だけ見えただけで、私はそのままテイクアウトの方へと進んだので彼女の接客する姿はまだ見ていない。河和シズコの顔が瞬時に赤く染まった。

 

「そ、そうなんですね!? ごめんなさい!」

 何か恥ずかしかったのか、大声で誤魔化すように謝罪を始める。

「……」

「ま、まあまあ! えっとえっと……ゴホン……そうなんです。まあ、先生には最初に相談者、経営者としてお話をしてしまいましたし、今さら取り繕っても遅いので言っちゃいますけど……」

 自分の中でどうにか落ち着かせることが出来たのか、彼女は切り替えて説明を始める。

「私は日々、オーナーとして百夜堂を今以上に盛り上げるにはどうしたら良いか、というのを常に考えていまして、……私自身が看板娘になって、完璧でウケの良い接客を自ら行うというのも、その一環です」

「……成程。その考えは大変素晴らしいと思いますよ」

 大まかにいえば、彼女の経営理念に基づく行動ということだろう。信念が通っているということもできそうだ。

「そ、そうだ! 先生はこの後、喫茶の方には行かれますか?」

 何か思いついたように、河和シズコが私に尋ねる。ゲーム開発部の生徒たちを待たせているので、そのつもりだ。

「ええ。そこに同行している生徒……ミレニアムの生徒たちですが、待っていますので、合流するつもりです」

「え? ミレニアム? わ、分かりました。では、ちょっとそこで待っていてください。完璧な接客をお見せします!」

「……はあ、分かりました」

 私に完璧な接客を見せて何か意味があるのかと思いつつ、何やら意気込んでいるので否定する必要もないかと考え、了承した。そのまま事務所を出て、彼女を呼び出してくれた店員へ礼を伝え、席で待っている生徒たちの元へと向かった。

 

「あ、先生! 遅かったねー! こっちだよ!」

 お茶を啜っていた才羽モモイが、近づいてきた私に気付いて手を挙げた。

「にはは、待ちきれなくて食べちゃいました!」

「構いませんよ。少しここのオーナーと話をしていましたので」

「オーナーさんですか? アリスも会ってみたかったです」

 天童アリスが残念そうにするが、何せそのオーナーがこの後、自ら接客をしてくれるらしいのだ。

「それなら、今からこちらに来てくれるみたいですよ。私も注文しますので、追加があればどうぞ」

 三人が目を輝かせる。現金なものだ。

 

「おかえりなさいませ~! ご主人様!」

 そして雑談をする間もなく、河和シズコが現れた。今度は営業スマイルを感じさせるようなこともなく、自然な笑顔に見えた。同席していたゲーム開発部の生徒たちは

「おー!? ()()()()()()()()()()()()()メイドさんですね!?」

「あれ? ここそういうお店だったっけ!?」

「メイドさんが現れました! このお店には本物のメイドさんがいるんですね!?」

 と大盛り上がりであった。あえて私が反応するまでも無いだろう。

 

「どうかごゆっくり、おくつろぎください! 美味しいお菓子もご用意していますよ! ちなみに私のおススメは、百夜堂名物のあんみつで~す!」

「成程。では、それで。皆さんはどうされますか?」

「そういえば、あんみつって食べたことないや。さっきはお団子食べたけど」

「では皆さんあんみつで良いですか? それと私にも緑茶をいただければ」

 才羽モモイの発言に頷いた二人を見て、注文を決める。メニューを見ると、あんみつは他のお菓子より少し高めの基準になっているようだ。彼女たちもこれで少し遠慮していたのかもしれない。

 

「はーい! かしこまりました。愛情込めて作りますので、少々お待ちください!」

 河和シズコはそう言って優雅にお辞儀をし、軽やかに去っていった。

「おー……ミレニアムのメイドさん達と違って、完璧な()()()()()()()()()()()って感じだ」

 ミレニアムでメイドといえば、C&Cのことだろう。彼女たちと深くかかわったことはあまりないが、少し印象が異なるようだ。

 

「にはは、でも最初の店員さんはあんな感じじゃなかったですよ?」

「そうでしょうね。因みに今のは、先ほど言った通りこの店のオーナーですよ」

 先ほど天童アリスに伝えたことを踏まえ、説明する。

「え!? そうなの!? じゃあ、もしかして大人の人だったとか!? 私たちとあんまり変わらないように見えたけどっ」

「ああ、いえ。年齢的にはモモイさんの一つ上だったと思います。百鬼夜行の生徒ですよ。それでこの店のオーナーと看板娘を兼任しているそうです」

「へー……そうなんだ。凄い人なんだね」

「でも。このお店の雰囲気で一人だけメイド喫茶っぽくなってるのは、ちょっと変わってませんか?」

「それも彼女なりの経営戦略なのでしょう。恐らくですが」

 実際のところ、彼女が何故ああいった接客方法に行きついたかはよくわからないが、彼女なりに色々試してみてしっくりきた結果なのだろう。深くは追究しないでおくとしよう。

 

 ―

 

「行ってらっしゃいませ~! ご主人様、お嬢様!」

「ありがとうございます、シズコさん。また何かあれば、ご連絡ください」

「はい! ありがとうございます」

 

 あの後、餡蜜を持ってきた河和シズコが、彼女流の完璧な接客を行っていた。才羽モモイがメイド喫茶について妙に詳しく、最終的にどちらかというと彼女と最も意気投合していた気がするが、それも悪いことではないだろう。

 帰り際、河和シズコは律儀にも我々を店外まで見送り、

「楽しかったね~! あ、ミドリとユズにお土産買っていかないと。私たちだけ奢ってもらったってしったら怒られちゃうよ」

「あ、じゃあ私も行きます! ユウカ先輩やノア先輩にも買いましょう!」

 才羽モモイと黒崎コユキの二人が、テイクアウトの方へと戻っていき、店の外には私と天童アリスだけが残った。

 

「先生、ハラキリ・ヨウカンは買えましたか?」

「はい。お陰様で。アリスさん、これのことを教えていただきありがとうございます」

「では、きっと大丈夫ですね。アリスは……ユウカのお話を聞くのが好きです。先生。勿論ゲームをするのも、作るのも好きですが、それと同じくらいに大好きです」

「……そうなんですね」

「はい。……ユウカは、先生のこともよくお話してくれます。ユウカは、きっと、先生のことが大好きです。だから、先生。きっと、大丈夫です」

 天童アリスは、そう言って微笑んだ。彼女は、励ましてくれているのだろう。

「ありがとうございます。近々、これをもって、ユウカさんと、話をしにミレニアムへと行きますよ」

「はい。その時はぜひ、ゲーム開発部へも来てください」

 私は、天童アリスとその約束を交わした。

 その後、店外へと戻ってきた二人と合流し、再び鉄道でシャーレへと戻り、ゲーム開発部の生徒たちはミレニアムへと帰っていった。

 

 短い訪問ではあったが、様々な収穫が得られた。百鬼夜行にはまた訪問することになるはずだ。その際、河和シズコの言っていたことについて報告できるように、シャーレに戻った私はすぐに調査を開始した。

 

 

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