「部長、いきなり人のドローン、ハッキングしないでよ」
「サブ機なのだから問題は無いでしょう? それにこれはエナドリを飲みすぎたお仕置きです。チーちゃんから聞きましたよ。一日一本までの約束を破ってるって」
「ぐぬぬ……」
登場して早々、姉妹のような、親子のようなやり取りを始めるヴェリタスの二人。その姿は調印式当日の配信乗っ取り事件で世間を賑わせている伝説的ハッカー集団にはとても見えない。いや、やっていることを考えれば納得ではあるか。いずれにしても小鈎ハレが怒っているように見えたのはこれが理由だったようだ。
「えっと……ヒマリさん、で良いのかな。よろしくね?」
流石の聖園ミカも
「はい、ヒマリで良いですよ。聖園ミカさん。映像越しではありますが、トリニティの生徒会長にお会い出来て光栄です」
「私のこと、知ってるんだ?」
「ミカは自分の知名度についてそろそろ自覚しなさいよ……」
「あなたは河駒風ラブさんですね? 確か、ジャブジャブヘルメット団のリーダーで、一度ミレニアムへ工事スタッフとして来られたことがありますね。ヘルメット団=不良のイメージを覆す活躍をされていると噂を耳にしたことがあります」
「うげっ、そんなことまで? っていうかそんな噂流れてるの? 何かイヤなんだけど……」
河駒風ラブが辟易とした表情を浮かべる。しかし実際に、その話は私ですら耳にしたことがある。
「ふふっ、伊達に『全知』の学位を持っているわけではありませんよ」
「いや、それは知らないけど……」
このように律儀に返事をするからこういった手合いに気に入られるのだろう。そう思っていると残りの一人、白洲アズサが手を挙げた。
「私は? 私のことは知ってる?」
彼女の様子は、誰が見ても分かるほど、期待に満ちていた。彼女の情報は他のトリニティの生徒と比べても情報を持っている可能性は遥かに低い。彼女の能力を十全に使えばプロフィールを入手することは出来るかもしれないが、そこまでするのだろうか、それとも素直に知らない、と言うのだろうか。
「ええ、勿論知っていますよ。『アズサさん』」
「おお!!」
明星ヒマリが期待に応えるかのように、そう返事をした。白洲アズサが目を輝かせる。
「可憐なその見た目からは想像できない程実戦能力に長けていて、射撃訓練にも精通している……」
「う、うん」
「そして……勿論そういう側面だけではなく、可愛い物も好き、特にモモフレンズの……スカルマンのことが大好きという可愛らしい側面もある、二面性が素敵な女の子ですね?」
彼女は殆ど淀みなく、そう言い切った。
「す……すごい! ヒマリは本当に何でも知ってるの?」
白洲アズサが感激した様子で質問する。
「ふふっ、何せ『全知』ですから。もっと褒めてくれて良いんですよ?」
河駒風ラブと聖園ミカも白洲アズサの情報を言い当てた彼女に開いた口が塞がらないようだ。小鈎ハレは自分が褒められているかのようにうんうんと頷いていた。先ほどまで文句を言っていた気がするが身内が褒められるのは嬉しいらしい。明星ヒマリがおこなったことは知識と言うよりは優れた観察眼によるものだろう。白洲アズサの持ってきた鞄にはスカルマンの人形が付けられているし、ドローン越しに挨拶をする前から我々の会話を聞いていたとすれば、それぞれの人となりを推測することも、彼女にとって不可能ではないだろう。もっとも、ここで口を挟むつもりはないが。そろそろ今回の目的について改めて触れるべきだろう。
「さて、そろそろ本題に入ってもよろしいでしょうか」
暫くの間、妙な盛り上がりを見せていた生徒たちに話しかける。
「はーい」
生徒たちは素直に話すのをやめ、こちらに注目した。
「先ほどラブさんが言っていましたが、先日、地下道にてヒエロニムスと戦闘を行った際、ミカさんが最後に放った一撃についてです。あの時、私には通常とは全く威力の異なる銃弾が放たれたように見えたのですが、ミカさん自身はどうとらえましたか?」
まずは当事者に話を聞いてみるべきだと思い、聖園ミカに話を振る。
「うーん……結構夢中だったっていうか、あんまり覚えてないんだけど、先生とラブちゃんが爆発に巻き込まれたと思って、何とかしなきゃって思う気持ちと、あの変なのがすっごくむかついたので、絶対倒してやる! って思ったの」
彼女はあの時のことを詳しく思い出すように額に手を当てながら話し始めた
「そしたら急に周りがチカチカって輝きだした気がしてきて、何だろ、銃と一体化した感覚っていうのかな、そんな感じになって、うーん……引き金を引いたら、いつもの10倍以上くらいの威力の弾が出たんだよね」
おおよそ、私が目撃したのと同じような現象を彼女自身も知覚していたらしい。
「私はあのときミカを見てたけど、輝いた気がした、じゃなくて本当に光ってたぞ。地下なのに流れ星が降り注いでいるように見えた」
白洲アズサが補足を入れた。彼女にも同様に見えていたらしい。
「私も同様の認識です。ミカさんが射撃を行う直前に光をまとっているように見えました」
「あれ本当に光ってたんだ!?」
「ええ……ちなみに、ミカさんはあの射撃を、通常の状態で再現可能ですか?」
「うーん、どうだろ、ちょっとやってみるね?」
聖園ミカがそう言って、場内の射撃ポイントに向かう。
「あ、ちょっと待って……一応、弾速とか推定威力とかのデータも取った方がいいよね?」
小鈎ハレはそう言って、明星ヒマリに利用されていないドローンのメイン機、アテナ3号に何らかの指示を出す。
「おお、何かカッコいいね!」
聖園ミカは改めてそう言って、今度こそ射撃ポイントに立つ。そして小鈎ハレの準備が整ったことを確認したのち備え付けの的に向けて銃を構え、何か考え事をするような仕草を取った後、引き金を引いた。5発の弾丸が的を撃ちぬく。所作が美しく、反動すら感じさせない見事な打ち方ではあったが、特に変わった挙動は起きていないように思えた。
「やっぱり駄目だった!」
聖園ミカが戻ってきて特に残念そうでもなくそう言った。恐らく予想でしていたのだろう
「まあ、あの時の現象にはこの『シッテムの箱』の戦闘サポートが影響していると考えているので、私も予想通りでしたが」
私がそういうと、共に戦闘を経験したものと、そうでない者とで反応が分かれた。
「それって、戦闘の時先生がタブレットいじりながらなんかやってる奴の事だよね?」
「戦っている最中でもみんなの様子が分かりやすいだけでも。すごくありがたい」
「あれ、うちはこの間が初めてだったんだけど、何か不思議な感覚よね」
影響範囲内で戦ったことのある生徒たちは、私が言ったことの意味を直に理解し、その効力について話した。戦闘サポート機能の内、私がよく使用しているのは戦場を俯瞰で見る機能とそのイメージを生徒に伝える機能、そして無線通話機能だ。そのほかにも様々な機能があるだろうことはわかっていたが、それらについてはまだ検証段階である。
一方、ヴェリタスの二人は経験が無いため、どういうものなのか気になっているようだ。
「それって、どういうものなの、先生?」
小鈎ハレはストレートに尋ねてくる。
『……皆さんの反応をみるだけで、その端末が既存技術を超えた代物であることには疑いの余地が無いのですが……確かにどういったものなのか気になりますね』
明星ヒマリの方は、どういった効果があるのか目星をつけたうえで、その技術を警戒しているようだった。
『では、折角なので今、やってみましょうか。ヒマリさんのように遠方にいるかたにはどう見えるのかも気になりますし』
わたしはそう言って、シッテムの箱と戦闘サポート機能を起動する。どういった技術を用いているかは不明だが、直後に射撃訓練上内部を俯瞰した表示に変わる。今この状態では私が戦場の状況を把握できるというメリットしかないが、私が検証した範囲では、この状況を指揮下にある生徒たちに認識させることが出来る機能と、指揮下にある生徒を任意に選んで、話しかける機能が使用可能となっている。
「ええ!? なにこれ……すごいね」
小鈎ハレが驚きの声をあげる。射撃訓練場を俯瞰で映し、それぞれの生徒や的がどこにあるかが分かるというのは、初見では戸惑いを感じるだろう。花岡ユズはかつてミレニアムでそれをゲームのようだと表現していたが、これは実際にそれに近いのかもしれない。
「……本当にすごいですね。ハレのドローン越しでしかそちらにいない私にもイメージが伝わってきます」
そして明星ヒマリがそう言った。私も遠方にいる相手には効力を発揮しない、と思っていたが、そうではなかったらしい。そのような遠方に存在する相手でも、ドローンなどを介せば「指揮下にある」と認識されるという事だろうか。これは新たな発見だ。
しかし、今日の本題はそちらではない。
「では、この状態でもう一度やってみましょうか」
私は生徒たちに、そう話した。