アビドスの生徒たちと共に訪れたブラックマーケット。
我々悪い大人にとって、非常に都合のいい場所であり、以前の時間軸で取引を行う場合には利用していた。
最も私自身の求めるものはブラックマーケットにもそうそうあるわけではなかったが。
今の私は外から来て間もない人物ということになっているので、知識をひけらかすわけにはいかないが。
突如、連続した銃声が、ブラックマーケットに入って間もない私たちの耳に届いた。
「ど、どいてくださーい!?」
その直後、そんな悲鳴のような声とともに白い制服に身を包んだ少女が走ってこちらに向かっ
てくる。
阿慈谷ヒフミ。以前の時間軸での調査によると、ブラックマーケットに最も多く足を運んでいるトリニティの生徒だ。
「ご、ごめんなさ……ひゃぁっ!!?」
私の姿をみて悲鳴をあげながらすっ転んだ失礼な少女は他の生徒たちに任せ、少女を追っていたガラの悪い二人組を見やる。
「これはどういう状況です? 万引き犯を追っているような様子には見えませんでしたが」
追いかけていたガラ悪少女たちに確認を行う。
「あん!? うるせえな。私らはそのトリニティの生徒に……ひっ!?」
「邪魔するってならお前らごと……なっ、何だお前!?」
2人組が私の顔を見て動揺したように顔を見合わせる。威勢が良かった2人はどういう訳かおどおどとし始めている。
「い、いやその……おい、絶対ヤバいぞこの人。明らかに『本物』だ。私らなんかが関わっていい人じゃねぇよ!?」
「その位分かるって!! ……あ、いえあのー、そのトリニティの女は譲るので、見逃してもらえないっすかね……」
やがて2人がよくわからないことを言いだしたが、面倒ごとが片付きそうなので頷いておく。
「ええ、ではそのようにしましょう。『お気をつけてお帰りを』」
2人組が悲鳴を上げて去っていく。
悲鳴は3つ聞こえたので、もう一つの悲鳴の出どころを確認するために振り向くと、阿慈谷ヒフミが砂狼シロコと十六夜ノノミに拘束されていた。
「あ、あなたたちもしかしてブラックマーケットにたびたび現れては気に入らない店を潰していくという『ブラックマーケットの支配者』ですか!? 私、そんな人たちに捕まっちゃったんですか!!?」
以前の時間軸でも全く聞いたことのない情報を口にして阿慈谷ヒフミが怯えている。
もしそういう噂があるとしたらその原因のひとつは恐らくこの少女だろう。柄にもなく、私は溜息をつきそうになった。
「そうなの、先生?」
砂狼シロコが真顔でこちらに確認する。
「わぁ、先生、ワルーい人だったんですねっ」
と十六夜ノノミが朗らかな笑顔でそれに乗る。
「そんな訳がないでしょう。私がブラックマーケットに来たのは今日が初めてです」
2人にそう返事をし、改めて阿慈谷ヒフミの方を見る。
「何やら追われている様子だったので事情を確認しようとしただけですよ」
今度こそ、私は小さくため息をついた。
「3人が3人とも先生の顔見て怖がってたねぇ」
「こ、こう見えて結構いい人なのよ」
小鳥遊ホシノと黒見セリカが茶々とフォローをしてくるが、そちらは無視する。
「せ、先生。……ということはもしかして、最近話題の外から来られた先生って」
「ええ、恐らく私のことでしょうね。よろしくお願いします」
阿慈谷ヒフミに再び驚きの声をあげられつつ、私は初対面で先生だとわかる方法について検討する必要があると思い始めるのだった。