黒服がシャーレの先生になった世界線   作:黒服先生

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番外編②のラストです。


守月スズミとの再会

 アリウスに関することでトリニティを訪問していた日、用件を済ませて街を歩いていると、近くで複数の銃声が響いた。キヴォトスにおいて、どこで聞こえたとしてもさして珍しいものではないが、そこそこの規模の銃撃戦が起きているようなので、そちらの方から避難してきたらしい生徒に、話を聞くことにした。

「すみません。何が起きているかわかりますか?」

「あ……先生!? えーと、たぶんスケバンとヘルメット団が抗争を始めたみたいです。先生も避難した方が良いですよ!」

 そう言って離れていく生徒が来た方向へと足を進める。ヘルメット団と聞いて、それが懇意にしている生徒達でないことを、念のため確認しようと思ったのだ。

 

 丁度視認できる地点まで近づいて、河駒風ラブに連絡をしてみたとき、抗争に動きがあった。

 何度か閃光弾が使用されたような音と光が見えた後、再び銃声が暫く響き、そして、間もなく完全に停止した。抗争は終わったようだ。

 ゆっくりと近づいてみると、ヘルメット団もスケバンも、殆どの者は倒れており、そのヘルメット団の中に、見知ったものはいなかった。ジャブジャブヘルメット団ではないようだ。

 

 そして、抗争の中心部分だったと思われる場所まで到達すると、あることに気付いた。

 微かに話声が聞こえたのだ。声のあった方を確認すると、そこは一軒のレストランのようだ。中の様子を覗き見ると、店主らしき人物が、一人の生徒にお礼を言っているところだった。その生徒に見覚えがあったので、店外で少し待つことにした。

 

 数分後、礼を言われていた生徒が外に出てきたので、話しかける。

「こんにちは、スズミさん。お久しぶりですね」

「あ……先生。こんにちは。こんなところで、どうされました? まさか先生も巻き込まれていたのですか?」

 話しかけた相手は守月スズミ。丁度私が『先生』をやることになった日に出会って以来となる。トリニティで自警団活動をしている生徒のはずだ。

 

「いえ、こちらで騒動になっていたようなので、少し様子見を。まあ、野次馬のようなものです」

「そうですか……危険なので、あまりそういうことはなさらない方がよろしいかと……」

 私の言葉を額面通りに受け取ったのか、苦言を呈されてしまう。

「ここまで来たのは収まってからですので。倒れている方たちは、スズミさんおひとりで?」

「そうですね。このお店の方が運悪く巻き込まれているようでしたので、問答無用で制圧させていただきました」

「成程……この後はどうするのですか?」

「店主さんが正義実現委員会に通報していたようなので、後はお任せしようかと。事情は説明してくれるそうなので。……すみません、私も先生にお聞きしたかったことがあるのですが、この場所では少し……移動してもよろしいですか?」

「もちろん、構いませんよ」

 正義実現委員会と鉢合わせになるのが余り思わしくないのか、守月スズミはそう言った。初対面の時は、副委員長の羽川ハスミもいたはずだったが。

 

「丁度、見回りをしていたところだったんです」

 移動しながら、守月スズミは話し始めた。先ほどの経緯を説明してくれているようだ。

「自警団として、ということですか?」

「はい。……覚えていてくださったんですね」

「ええ、もちろんです。あの日の出来事は私にとってなかなか強烈なものでしたから」

 あの日のことは流石に忘れようがない。当初は単純な時間遡行であると勘違いし、先生であることを否定しようと思ったものだ。それが出来なかった、ということが私に行動制限がかかっていることに気付く最初の出来事だったことも、よく覚えていた。 

 

「……そうですね。少し懐かしいです。最近は先生の話題を耳にしない日はないほどです。そんな人と本当にあの日会っていたのかと、信じられなくなる時もありましたが……」

「噂は所詮噂ですよ。先生と言っても実際のところ、私の場合は日々仕事と雑用に追われている一人の大人に過ぎません」

 ここのところ、自分自身への調査研究すらまともに行えていない。アビドスに行ったあたりまでは、まだそう言った余裕も多少はあったのだが、関わる人物が増えるにつれ、そこに費やす時間も減っていった。かつては如何に閉じた世界にこもっていたのかもよくわかる話だ。

 

 その時、端末に通知が入った。

「失礼」

 そう言って、確認すると、河駒風ラブからで、先ほど確認した内容の返信だ。

『確認したけど、うちらとはほぼ関わりが無い連中みたいよ。ま、最近は喧嘩も控えるように言ってるから大丈夫だとは思ってたけど』

 とあり、やはりジャブジャブヘルメット団とは間接的にも関わりの薄い集団だったようだ。

「大丈夫ですか?」

 確認していた私を気にかけたのか、守月スズミに尋ねられる。

 

「ああ、すみません。別段問題ありませんでした。先ほどの集団にジャブジャブヘルメット団の関係者がいないか、確認していたのです。御存じですか?」

「ヘルメット団……そうですね、提携という形で先生の下で働いている方がいるという記事は見ました」

「そうです。その方たちですね。無関係であると確認が取れました。もっとも、あまり心配はしていませんでしたが……」

 

 私がそう言ったところで、守月スズミは、立ち止まり、こちらを見つめた。気付けば、私は人通りの少ない路地に来ていた。

「先生。一つ、お聞きしても良いですか? その、ヘルメット団の方たちのことで」

 彼女が私にそう尋ねる。そう言えば先ほど、私に何か尋ねたいと言っていた。そのことだろう。

「ええ、答えられる範囲でよろしければ」

「ありがとうございます。……私は、自警団の活動をしていく中で、何度も先ほどのような戦いを行ったことがあります。極力怪我をさせないように、と心がけてはいますが、戦いは戦いです。勿論、そのことを後悔しているわけではありません」

 私が首肯すると、守月スズミが彼女人のことについて話し始めた。先ほどの話と、どうかかわってくるのだろうか。

「その中で、偶然、複数回同じ方と遭遇することもありました。ヘルメット団や、スケバンの方。中にはこちらを恨んでいる様子の方もいました。共通するのは、また同じようなトラブルを起こしていたり、危険な行動を続けていたり、ということです。それは仕方のないことだと思っていました」

「……思っていた、ということは今は違う、ということですか?」

 ヘルメット団の話が出てきたので、聞き返す。この辺りが焦点だろうか。

 

「はい……シャーレが、ヘルメット団と提携して、ヘルメット団の方たちが更生して真面目に仕事をしている、という話を聞いたんです。最近にはエデン条約の警備という重要な仕事も任されるようになった、というのもニュースで見ました」

「ああ、そこに関わってくるわけですか」

「そして、そのニュースに映っていた方の中に、私と以前、交戦した方もいたのです。それで、私は……少しですが、思ってしまったんです。私のやっていることに、意味があるのか、と。先生は、ヘルメット団の方をも更生させてみせたのに、私は、同じことを繰り返している。先ほども言いましたが、勿論だからやりたくない、という訳では全くありません。ただ、先生はどうやったんだろう、と思いまして。参考にならないか、と」

 守月スズミはそう締めくくり真っすぐに私をみた。しかし、これについて、私は大した回答を持っていない。しかし、それでも言えることはいくつかあった。

 

「そうですね……。まず2点、誤解というか、訂正があります。まず一つは、私は彼女たちを更生などさせていない、という点ですね。これは私にも、彼女たちにもそう言った意図がなかったことははっきりしていますので、間違いありません。あれはビジネスの話であって、衣食住に困っていた彼女たちに、人手が欲しかった私の条件が合致した、というだけです。条件は良い方であるという自信はあるので、彼女たちも契約解除されないよう努めるでしょう。そのうえで真面目に仕事をしているのは、偏に彼女たちの元々の性分でしょうね」

「え……そうなんですか?」

「ええ、間違いないと思いますよ」

 そもそもあの話はリーダーである河駒風ラブが職を探しに偶々シャーレを訪れた、ということが始まりであり、行ってしまえば偶然の産物だ。今はもちろん、ただの雇用関係と呼ぶような淡白な付き合いでもないのは事実だが、それにしても彼女たちに「更生」などという言葉は似合わないだろう。

 

「それともう一つは、スズミさんが同じことをただ繰り返しているだけで、更生に繋がっていない、という話ですが、そもそもそれは正しいのでしょうか?」

「……どういうことでしょうか」

「スズミさんは、一度自警団として関わった相手全員と、再度関わった訳ではありませんよね?」

「それは……そうですが」

「であれば、出会わなかった人の中に、スズミさんとの出会いで何かを感じ、それこそ「更生」された人がいないと、どうしてわかるのですか?」

「それは……そうですが……」

 私がそれを指摘しても、守月スズミはあまり納得していないようだ。その原因は……

 

「誰かに、何かを言われたのですか? 無意味だ、とかそう言った言葉を」

「!! ……確かに、そう言われたことが何度かあります。気にしているつもりは……無かったのですが」

 実際、気にしていなかったのだろう。ジャブジャブヘルメット団の話を聞くまでは。そちらについての誤解を解いても、一度湧いた感情はそう簡単に消えることは無い。

 

「そうですね、気にする必要は無いと思います。私から言えることはこのくらいですが……そうですね、もし、納得できないようでしたら、私以外の意見も聞いてみてはどうでしょう?」

「え? どなたの意見ですか?」

 守月スズミが首を傾げる。何となくそう感じていたが、この生徒はあまり普段から付き合いのある相手がいないのかもしれない。

 

「それは、誰でもいいとは思いますが……では、今度息抜きにでも、シャーレに来てみてはどうでしょうか。普段関わることのない方と話す機会になりますし、第三者の忌憚なき意見を聞くことができるかもしれませんよ。事前に言っていただければ照会も可能ですよ。それこそジャブジャブヘルメット団の方たちもよく来ています」

 

 私がそういうと、守月スズミは暫く検討する様子を見せ

「……そうですね。では、今度お伺いします」

 

 と頷いた。

 そろそろシャーレに戻らないと次の予定に間に合わなくなる時間になっており、守月スズミとは、そこで別れた。彼女はまた、見回りを続けるとのことだった。

 

 守月スズミとの再会で、私が『先生』となった初日の事を思い出したが、その翌日、私は再び、初日の事を思い出すことになるのだった。

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