黒服がシャーレの先生になった世界線   作:黒服先生

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幹部会議

 SRT特殊学園のシャーレ臨時支部が運用開始となってからしばらく。意図的かどうかは不明だが、連邦生徒会長はこの学校の運用マニュアルなどを残しておらず、連邦生徒会の中にも不知火カヤや七神リンの探せる範囲でまともな資料は存在しないらしかった。例外として生徒向けの校則については当然分かったが、それだけではどうしようもない。

 

 SRT校舎内にも、引き払う前に七度ユキノが調べられる範囲で調べたが、そういったものは出てこなかったということだ。連邦生徒会長はもしかしたら、SRT特殊学園を長期間持続させるつもりはもともとなかった、という可能性がある。

 ともあれ、無くならずに残すことになった以上、どうにかしなくてはならないわけであり、その運用方法については、ひとまず経験則を頼りに行っているというのが現状である。

 

 そこで、SRTシャーレ支部では定期的に幹部会議を行い、都度問題点を洗い出し、

 幹部会議、と言っても実際の参加者はSRTシャーレ支部長の不知火カヤと、唯一の3年生部隊であるFOX小隊のリーダーで、実質的にSRT生のトップである七度ユキノ、そしてシャーレの責任者である私の3名のみだった。必要に応じて追加を呼ぶことはあるだろうが、その第一回は、この3人で行うことになった。

 

「エデン条約は大変でしたね。あれで結局調印に至ってない、というのですから苦労した甲斐が感じられませんが」

 会議室に現れ、席に着いた不知火カヤは開口一番愚痴から始まった。しかし、それ自体は無理もないことであった。SRTシャーレ支部が開始した直後に最大戦力であるFOX小隊をエデン条約の現場に投入、そしてその現場にミサイルが落下。FOX小隊はそれを引き起こした謎のテロリストグループと交戦する。

 

 これらに掛かった準備と連邦生徒会への報告は、支部の責任者である不知火カヤに任せていた。もちろん、そうしないと手が回らなかったからだ。

 そしてそういった根回しや事後報告でのもっともらしい言い訳を立てる、というような手続きにおいて、不知火カヤは逸材としか言いようが無かった。決して嘘にならない範囲で誤魔化された言葉と数字を用いて、今回のFOX小隊の派遣を正当化したその報告書は、もはや芸術、あるいは神秘と言ってもいいレベルの出来栄えであった。

 

「今回は本当に助かりました。ありがとうございます。今後とも、頼りにさせてください」

「まったく嬉しくない信頼をいただき、光栄ですよ、まったく……」

 

 不知火カヤが溜息をついた。このような内容でも、礼を言えばそれ以上の嫌味を言うつもりはないようだ。

 

「それで、ユキノさんはまだなんですか?」

「カリキュラムの関係で、予定時刻ギリギリか、あるいは少し遅れると連絡がありましたよ」

「そうですか……」

 

 不知火カヤが時計を見る。開始予定時刻まではまだ少し時間があった。

「では、私は給湯室でコーヒーを淹れてきます。先生もいかがですか?」

「ありがたくいただきましょう」

「では、3人分用意しましょう。感謝してくださいね、まったく……」

 彼女はそう言って、外へと出て行った。文句を言った直後でも、コーヒーを人数分用意するつもりはあるらしい。

 

 それから数分後、会議室へと不知火カヤが戻ってくるのとほぼ同時に、七度ユキノも会議室へと現れた。

 

「お疲れ様です。お待たせして申し訳ありません」

「時間通りなので、大丈夫ですよ」

「同じくです。コーヒーを淹れたのですが、ユキノさんも飲まれますか?」

 七度ユキノは、少し考えて、

「ありがとうございます。いただきましょう」

 と答えた。

 

 

「さて、では会議を始めます。とはいっても三人しかいませんし、そこまで形式にこだわる必要はないでしょう。ユキノさん、活動が始まってから、様子はどうでしょう」

 まずは近況報告から、ということで、七度ユキノに話を振る。

「そうですね……今のところそこまで大きな問題は起きていません。BDによる基礎教育や訓練場での教練などに関しては、概ね今まで通り行うことが出来ています。ただ……」

「ただ?」

「弾薬や爆弾などの消耗品に無駄が多いような気がしますね。いえ、浪費が激しくなっているという訳ではないのですが、以前と同じ感覚で使える訳ではないと、頭では理解していても実感がまだできていないようです」

 七度ユキノがそう言って話を終える。

「そうですね。シャーレにも少なくない予算が存在しますが、先生が割と大胆に使用するタイプなので、節約できる部分は節約するべきでしょう。それが弾薬の一発であったとしてもですね」

 私が返事をする前に、不知火カヤがコメントを残す。やや嫌味混じりである気もするが、言っていることは正論と言えるだろう。

「そうですね、通常の弾薬費はキヴォトスにおいては必需品のようなものですので、そこまで気にする必要はありませんが、SRT本校とは違い、所持や購入がここでは制限されているものもありますので、その辺りには注意した方がいいかもしれませんね」

 やや、不知火カヤの意見とは違うが、いずれにせよ節約意識というのは時と場合によっては重要だ、というのは覚えておくに越したことは無いだろう。

「そうですね……とくに一部の生徒に弾薬や爆薬の浪費自体を楽しんでいる者がいますので、少し注意しておこうと思います」

「何でそんな人をSRTに入れてしまったんですか?」

 七度ユキノの発言を聞き、不知火カヤが呆れた顔で質問する。

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 七度ユキノは溜息をついた。

 

「ユキノさん、ありがとうございます。訓練も必要ですし、あまり不自由感を感じさせたくはありませんが、節約意識を持っていただけると助かります。他に何かありませんか?」

「はい、いえ。今のところはそれくらいですね」

「そうですか。カヤさんはどうですか? 支部長として何か気になったことはありますか? 勿論、先ほどの件とは無関係でも構いません」

 次に不知火カヤへと話を振る。

 

「正直な話、書類仕事と連邦生徒会への説明に追われていたので、忙しかった以外の感想は……あ、一つありますね」

 不知火カヤが何かを思い出したようなしぐさをした。

「何ですか?」

「ミヤコさんがやたらと絡んでくるの、何とかなりません?」

「それは本人に言ってください」

 不知火カヤの不満点を、七度ユキノは一言で切り捨てた。

 

「特に私が食事をしているときに目の前の席に着いて勝負を仕掛けてくるか、あるいはユキノさんについての自慢話を話し始めるのだけはやめてほしいのですが!?」

「それは本人に言ってください」

 取り付く島もない。不知火カヤは大きなため息をついた。

「……まあ、その位です。実害があるわけではないので大した問題ではありません」

 渋々と言った様子で、不知火カヤが引き下がる。

 

「そうですか。ミヤコさんについては、次に話す機会があれば少し聞いてみましょう。丁度、近いうちに皆さんと直接会話する機会を作ろうと思っています」

「そうなのですか?」

 

 不知火カヤではなく、七度ユキノがそれに反応する。

「ええ、一応彼女たちもシャーレに所属していただいているので、個別で話しておいたほうが良いかと思いまして」

「そうですね、それは良いことだと思います。後輩たちの中で、先生に関する話題が上がっているのも耳にしますし」

 七度ユキノは、少し気になる発言をしつつ、私の案に同意した。

 

 その後、今週のスケジュール確認など業務上の連絡事項共有を行い、短いながらも、一回目の幹部会議は終了した。

 今のところは大きな問題は出ていないが、今後も定期的にこの会議は行われるという点に関しては、3人の中で共通認識となったので、とりあえずはそれで十分だろう。

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