SRT特殊学園のシャーレ支部は、シャーレオフィス及び居住区の一部を間借りさせる形で作られており、SRTの名前は付けられているが、連邦生徒会長の直属の学校、という立場から移管され、連邦捜査部S.C.H.A.L.Eの実質的な下部組織となった。
これが連邦生徒会との妥協点として成立したのは既に生徒たちに説明した通り、『先生』の権限を強化するための施策ではなく、SRTを存続させたいというこちらの要望と、潤沢すぎる設備を持つSRTの影響力を下げつつ、『先生』と相互に監視させようという狙いがあると考えている。
この支部は運用開始した直後、というよりそれ以前からエデン条約という高度に政治的な空間にFOX小隊を現場派遣するという強引な手法を取っていた。当然、そのために彼女たちとは事前から良く関わっていたが、他の生徒たちはそうではない。勿論同じ空間に存在しているのですれ違ったり、あるいは以前月雪ミヤコと霞沢ミユとカフェで会ったように、会話が全くないわけではないが、今回改めて、小隊ごとに率直な意見や要望を聞くべく、グループミーティングを行うことになった。
最初の相手は、1年生のみで構成されているRABBIT小隊となっている。
先日幹部会議を行った会議室へとつくと、そこには3人の生徒が席に着いていた。
会話をしていた様子はなく、リーダーの月雪ミヤコはスマートフォンをいじっており、鉄帽をかぶった生徒、空井サキは何かの本を読んでいた。そして問題児として何度か名を聞いていた風倉モエは笑みを浮かべながらPCの操作をしていたようだ。
私の入室に気付いた3人が顔を上げ、荷物類をしまう。
「こんにちは、皆さん。お待たせしました。それで……ミユさんはまだいらっしゃっていないようですが、何か聞いている方はいますか?」
私が尋ねると、生徒たちの視線が、部屋の奥にある、
「まさかゴミ箱にいるのですか?」
そう言ったが、反応は一切返ってこない。花岡ユズは話しかけると多少反応があったので、少し異なっていた。あるいは、私が生徒たちに担がれているか。
仕方ないので、自ら近づいてゴミ箱の箱を開く。
「……」
中に存在していた生徒と目が合った。霞沢ミユだ。
「……何故このようなところに?」
「……ごみくずなので……でしょうか……」
「成程……ミユさんのポリシーを否定するつもりはありませんが、とりあえず会議をしたいので席に着いていただけますか」
「はい……ごめんなさい……」
全てをあきらめたような表情で、霞沢ミユが席に着いた。
「さて、皆さん揃っていたようですので、始めましょう。改めまして、私が現在シャーレの責任者である、シャーレの先生をやっている者です。改めてよろしくお願いします」
霞沢ミユが大人しく月雪ミヤコが引いた席に着いたところで、ミーティングを開始する。
「さて、ミーティングとはいっても、今日は任務の話があるなどという訳ではありません。オリエンテーションともいえない程の簡単な自己紹介の場だと思っていただければ」
SRT生らしく、と言ったところだろうか。私が話している間は、4人ともに一切口を挟むような様子はなく、こちらの話を聞いていた。いくつかの学校と関わってきたが、こちらが一方的に話しているだけでも、特色が出ているのが分かる。
「では、まずはそれこそ、自己紹介をお願いしましょうか。話す内容は、名前と、シャーレ支部へ移籍を選んだ理由を含めていただければ、何を話していただいても構いません。では、席順ということで貴女からお願いします」
向かって右側に座っていた生徒に話を振る。
「私から? まあ、いいが……空井サキ。チームではポイントマンを担当している。こっちに来た理由は……SRTの規範が他と比べて厳しいから、他に行く選択肢が無かっただけだ」
空井サキ。入学時の資料が見つからなかったため、FOX小隊(主に七度ユキノ)や不知火カヤに聞き取った調査書によると、規範に厳しく、基礎教育科目及び専門科目それぞれにおいて、机上での成績は非常に優秀。実戦能力も低くないが、戦闘時熱くなりやすく、その際は基本から外れた行動を取ってしまいがち、とのことだ。
「ありがとうございます。次は、隣の、モエさんでしたね。お願いします」
「はいはーい。風倉モエ。小隊のオペレーターと後方支援担当。好きなものは~、甘い物で、こっちに来た理由は……まあ、今まで通りの兵器運用ができないってのはちょっと不満だけど、他に行くよりマシかなって……くひひ、それにこっちの方がトラブルとか多そうで面白そうだし」
風倉モエ。不穏な笑みを浮かべる彼女の先輩からの評価は、浪費家の危険人物という、後輩への評価としてはあまりの者だったが、最初の説明会の時、彼女が火器類に制限がかかることに不満を表明していたことを思い出す。しかし、オペレーティング能力や妨害工作などのスキルは他の同期や先輩と比べても突出した才能を持っているという側面が、彼女の評価を難しくしている。何故そのような人物が火器類の消費に関してのみ非効率的なのかは、調べることが出来なかった。
「成程、こちらとしては少し複雑な理由ですが、分かりました。次はミユさん、お願いします」
順番的に次になるのは分かっていたはずだが、霞沢ミユは指名された瞬間異常なほど狼狽して慌てて立ち上がった。
「ひ!? ……は、はいぃ……霞沢、ミユです……あ、あの…………うぅぅ、以上です……」
そして、それだけ言って再度席に着いた。
「ミユ、ここを選んだ理由は言わなければなりませんよ」
隣に座っていた月雪ミヤコに指摘され、霞沢ミユは衝撃と絶望の表情を浮かべ、再度立ち上がった
「ご……ごめんなさい……理由、理由……ミヤコちゃんが行くといっていたので……」
そう言ってどこかへと、というより先ほど入っていたゴミ箱に戻ろうとしているように見えたが、そうしたところをまたも月雪ミヤコに止められ、仕方なく彼女は元の席についた。空井サキが溜息をつくのが、私の耳に届いた。
霞沢ミユ、奇行に走るほど異常なまでのネガティブな性格をしているのは気になるが、狙撃手としてSRTの中でも、いや、話を聞く限りはキヴォトスにおいても稀有なレベルで狙撃手としての能力が高い。訓練ではあるが約2km離れた場所への狙撃に成功した、といった狙撃距離の異常さに加え、自身の隠蔽能力も高いと評価されており、先輩の部隊からも引き抜きを狙われていたこともある、と七度ユキノは言っていた。ただその際に七度ユキノは、「どちらか選べるのであれば、やはり私はオトギを選びます」とも言っていた。
「ありがとうございます。狙撃手として類稀な実力を持っていると聞いています。……では、最後に、ミヤコさんお願いします」
「はい。SRT特殊学園、RABBIT小隊のリーダー、月雪ミヤコです。こちらに来た理由ですが……私は……SRTの正義を信じているので、ここに来ました」
立ち上がるまでは普通だったが、理由については妙に歯切れ悪く、月雪ミヤコは答えた。他の理由があるのかもしれない。そして、私は空井サキがそのような彼女の様子を、厳しい目で見ていることに気付いた。
月雪ミヤコ。聞き取り調査によると、今の1年生が入学時、最初の試験で総合一位だったのが彼女だったそうだ。FOX小隊、特に隊長の七度ユキノを尊敬しており、それが少々行き過ぎているという苦言を、私はかつて七度ユキノ自身から直接聞いたことがある。ただ同時に、FOX小隊のメンバーも彼女のことは総じて高く評価しており、彼女によく絡まれている不知火カヤも、その実力自体は評価していた。しかし、その不知火カヤは、「意外と明確な弱点があるので、付け入る隙は結構あるものです」とも言っていた。よく勝負を挑まれている彼女ならではの感想だろうか。いずれその弱点についても聞く必要があるかもしれない。
これで4人の自己紹介が終わった。当然これだけで終わりではない。今回の目的は生徒達からの意見を求めることだ。