「私は前から月雪ミヤコさんには何故か目の敵にされて……うーん、今思えば最近は特に目の敵にはされてはいないかもしれませんね。となるとより意味が分からないのですが、とにかくよく様々な勝負を挑まれているのです。それは御存じでしょう?」
説明を始めた不知火カヤがそう言って聞いている我々の方を見た。
彼女がこのように自信を湛えながら話す姿は久しぶりに見る。FOX小隊も彼女の話に既に聞き入っているようで、素直にうなずいていた。
「勝負とはいっても、残念ながら私には戦いの才能が全くと言っていいほどありませんから、それ以外のこと、簡単なゲームや推理勝負といったものですが、それで競う訳です。そして、それが繰り返されるうちに、私はミヤコさんの弱点……まあ悪癖のようなものですが、それを見つけたのです」
「以前言っていた、ミヤコさんの弱点ですね?」
実際、彼女は印象とは裏腹に、ミヤコさんとの勝負ではかなりの確率で勝利しているというのは事実のようだ。
「はい。それです。まあ、勿体をつけても仕方ないので言いますが、その弱点とは、つまりミヤコさんには2択を悩む傾向がある、というところです」
不知火カヤはそう言い切った。
「それっていけないことなの?」
高倉クルミが尋ねる。しかし私には、不知火カヤが言っていることの意味が理解できていた。
「もちろん悪いわけではありませんが、悩んでも仕方のない選択肢もあります。それにミヤコさんの場合、それがミヤコさん自身のパフォーマンスにまで影響していると思います、特に、悩んで出した答えが間違いであった場合には」
悩んでも仕方のない2択。たとえばコインを一回投げてそれが表になるのか裏になるか、という2択は、悩んでも意味がない。それでもその裏表が選べないのであれば、それは悩んでいるのではなく、その先に起こる結果に対し、ただ迷っているだけ、と言えなくもない。
月雪ミヤコにはそういう傾向があり、そして迷った結果選んだその選択が間違っていた場合、その後の選択をより悩んでしまう悪循環になるというのが不知火カヤの言う、月雪ミヤコの弱点なのだろう。
そしてその弱点があるということで、もう一つ分かることがあった。
「だとしたら、サキがミヤコのリーダーとしての資質を疑問視する気持ち、分かるわ。リーダーが無意味に迷った結果選択を間違うと、しかもそれを引きずる、というのはポイントマンとしちゃたまったもんじゃないもの。まあサキはその辺考えなさすぎなところあるからどっちもどっちだと思うけど」
説明を理解した高倉クルミがそう言った。その通り、空井サキは恐らくそういった場面で悩んだり迷ったりすることは無いのだろう。全く悩まないというのも考え物だが、そういう場面はもちろん、日常においても月雪ミヤコの優柔不断さをリーダーとしての素質の欠如、と捉えているのかもしれない。
「それで、どうです? ユキノさん」
不知火カヤが、黙って聞いていた七度ユキノに問いかける。
「え?」
「私の推理についてですよ。ニコさんと貴女は、普段から最も後輩のことを気にかけている2人でしょう。付き合いの短い私でさえ把握できたミヤコさんの癖に、貴女達が気付いていない訳はありません。だから、答え合わせをお願いしようかと」
先ほどとは逆に、不知火カヤからの言葉に七度ユキノがたじろいだ。吉野ニコも、唐突に名前を挙げられたことに目を丸くしていた。
「……そうですね。ミヤコとサキがそういう問題を抱えていることは知っていましたし、その原因も、カヤの推理と大体同じような内容だと、私も思っています」
「それは良かったです」
元々笑みを浮かべていた不知火カヤだが、表情がより自然な物に変わる。どうやら少し緊張していたようだ。
「それにしても、よく観察してるのね、カヤちゃん。後輩だけでなく、私たちの事も……」
吉野ニコも感心したようにそう言った。
「……このくらい当然です。このキヴォトスで腕っぷしが全くに役に立たない私がこうしてそれなりの立場になるには、結構苦労があったのですよ?」
その結果が大人に利用されつつあったあの状態になってしまっていたのだから、油断というものの恐ろしさがよくわかる。あえてこちらから眼を逸らしている不知火カヤ本人も、今はあの時の状況が平常ではなかったことを理解しているのだろう。
「それでさー、知性派組で盛り上がってるのは良いけど、どうするの、結局?」
「ちょっとオトギ、あっちを知性派扱いしたら私までバカみたいじゃない」
「バカとは言ってないけど。私とクルミは野生派かなって」
「一緒にしないで! 」
高倉クルミが持っていた何かを投げつけ、天神山オトギが軽々と回避する。天神山オトギはスナイパーだったはずだが、身軽なものだ。
「そうですね、オトギさんの言う通り、結局どうするのか、という話に戻りましょうか。カヤさん達のおかげで、ミヤコさんとサキさんの間の問題も見えてきました。ついでなので、どういう着地点にするか、話してみましょうか」
再び脱線しかけていた話を戻す。3年生たちも気を取り直して、元の体勢に戻った。
「やっぱり、直接戦って決めるのがいいんじゃない?」
高倉クルミが提案する。「やっぱり野生派じゃん」と茶々を入れる天神山オトギには無表情で再び何かを投げつけていた。
「それも考えたのですが、あの二人は既に何度もそういう機会があったのではないか、と思いまして」
それで明らかに勝率に差があるのであれば、単純な戦闘では決めるのもどうかと思ったのである。
「あー、確かにそうね。ユキノ、どうなの?」
「もちろん1対1での模擬戦は経験があるはずだ。ニコ、記録を」
高倉クルミが七度ユキノに聞き、そのまま吉野ニコが調べ始める。FOX小隊の普段の雰囲気が伝わってくるようだ。
「うん。えーと……1対1の場合、大体ミヤコちゃんが勝ってますね」
「成程、つまり直接的な勝敗ではサキさんも納得する可能性は低いという訳ですね?」
普段から何度も戦っていて、それでもなお空井サキは月雪ミヤコをリーダーとして認めていない、ということになる。
「まあ、そうなるか……じゃあ、どうすんのよ?」
高倉クルミが唇をとがらせる。それが分かっていれば相談していない。
「それを相談してるんだよね? ……あ、じゃあこういうのは? あの子たちに……」
天神山オトギが、恐らく何の気なしにある企画を提案した。その内容は少し変わっていたが、興味深いものだった。
うまく行くかは分からないが、1年生と3年生、それぞれの戦闘チームの連携強化、という意味だけでも十分やる価値のあるその計画を進めていこう、という方向で話が進んでいく。
「では、私はまた近いうちにこの話をRABBIT小隊に持っていくことにしましょう」
打ち合わせが一区切りとなった。生徒たちが頷くのを見て、私は話を続ける。
「最後に一応、グループミーティングらしいことをしますか。FOX小隊の皆さんの方から聞きたいことや、最近気になることはありますか?」
やや時間を使いすぎたので、ミーティングを終わらせるために最低限のことを尋ねる。
七度ユキノは首を振ったが、残る3人は視線をそんな彼女の一点に集中させたあと、アイコンタクトらしきものを取り合う。そして代表して吉野ニコが手を挙げた。
「どうぞ、ニコさん」
「ありがとうございます。では……」
指名された吉野ニコは、そこで少し溜めをつくり、
「ユキノちゃんが最近いつもつけてるチョーカー、先生からのプレゼントだって本当ですか?」
そして自らの首を指しながら、そう続けた。
「ええ、まあ間違いではありませんね」
二個の内の一つ、余った方を進呈しただけだが、プレゼントと言えなくもない。そう思いながら私は返事をした。
「やっぱりそうなんですね!? じゃ、じゃあ痛ぁっ!!?」
私の回答に、何故か勢い込んで追加の質問をしようとした吉野ニコが頭を押さえて仰け反った。
「どうした。ニコ? 頭が痛いのか? 仕方ない。医務室に行くぞ。申し訳ありません先生、私たちはこれで失礼します」
七度ユキノがそう言って吉野ニコの身体を引きずりながら退室していく。何が起こったのか、あまり理解できないが、一つ言えるのはFOX小隊は日常的に投擲用の何かを投げ合っている可能性があるということだ。
「……では、2人抜けてしまったので解散にしましょうか」
展開についていけなかった私は仕方なくそう言って、ミーティングを終了した。
最後に不知火カヤが呆れた表情を浮かべていたのが、少しだけ気になった。