「あ、来た来た。おはようミヤコちゃん、サキちゃん」
午前中に普段の予定を変更する形でシャーレの先生から2日連続で呼び出され、3年生との合同企画による、チームをシャッフルした形での模擬戦を行うことを説明された月雪ミヤコと空井サキの二人は、同チームとなった二人の先輩呼ばれた休憩室に向かい、その先輩の一人である吉野ニコの朗らかな笑みに迎えられた。
「「おはようございます、ニコ先輩、オトギ先輩」」
ミヤコとサキの二人は少々緊張した面持ちで挨拶を返す。二人にとって、先輩たちと同じチームで戦うのは初めてのことだった。
「おー、よろしくね、二人とも。一緒にユキノチームをボコろうな!」
もう一人の先輩であるオトギからもやや暴言じみた挨拶をされる。ミヤコやサキにとって、いや、後輩たちにとって、この二人の先輩は3年生の先輩たちの中でも人当たりが良く、話しやすい部類の人物であった。
「まあ、ユキノちゃんをボコるとしたらオトギちゃん以外になると思うけどね……」
ニコがオトギの発言を受け、苦笑しながら指摘する。オトギはチームの中で狙撃手を担っており、近距離で直接相手と対峙することの少ないポジションだ。
一方ミヤコはそのニコの発言で、いつものポジションのままの場合、自分やサキの二人がユキノやクルミといった先輩を相手取る必要があることに改めて思い至った。
2人の実力は後輩である自分やサキも良く知っているので、ミヤコは少し気分が重くなるのを自覚した。
「二人とも、何だか緊張してる? じゃあ、とりあえず親睦を深めるためにお昼ごはんにしよっか。二人とも、まだお昼は食べてないでしょ?」
「賛成。っていうか作ってるの横で見てたから正直お腹減ってたんだよね」
本来のスケジュールだと今は昼休み。ニコの提案とそれに乗ったオトギに対し、後輩二人は黙ってうなずくしかなかった。それに殆ど口にしたことは無かったが、ニコが料理得意であることは二人ともが知っていたのだ。
「とりあえず、いくつか決めた方がいいことがあると思うんだけど、最初に一つ。これはオトギちゃんと話して決めたんだけど、基本的にこのチームのリーダーはミヤコちゃん、あるいはサキちゃんにお願いしたいの。こういう会議進行もね」
ニコが用意していたいなり寿司を食べながら、暫定Aチームの会議が始まった。
「え? お二人ともそれはいいんですか?」
ミヤコは少し驚き、二人に確認した。
「そりゃね。二人とも聞いてるでしょ。今回の企画はキミ達の適性を図るものなんだから、私たちはそれをサポートするのが目的でもある。本気でやるのは変わらないけどね」
オトギが同意するのを見て、二人は顔を見合わせる。
「……私が進行しても良いですか? サキ」
おずおずと、ミヤコがサキに質問する。サキは小さくため息をついてそれに応じた。
「……別にどっちでも良い。ミヤコがやりたくないなら私がやるけど」
少々ぎこちない様子の二人のやり取りを、先輩たちは笑顔で見ていた。いずれにせよ、進行役はミヤコが担うことになった。
「では、改めて進行はニコ先輩から引き継いで、私が担当させてもらいます。まずは……ポジションの決定でしょうか。一応いつものポジションのままで問題ないようにチーム編成していただいたみたいですが……」
「うん、そうだね。でも確定ではないよ。私がポイントマンやっても良いし」
幅広い経験のあるニコはそう言ったが、ミヤコは首を振った。
「……いえ、とりあえずそのままでお願いします。あまり時間もありませんし。ユキノ先輩やクルミ先輩と相対するのは正直不安ですけど、その場合でもあの二人のことを理解されている先輩方がバックアップにいる方が対応しやすいと思います」
「おー、流石優等生。堅実な采配だね」
オトギが茶化すように言う。ミヤコは少し顔を赤らめた。
「サキも、それで構わない?」
「別にポイントマンに不満があるわけじゃない。とりあえず指示には従うぞ」
サキは面白くなさそうな顔はしていたものの、特に不満を言うことも無く了承した。
「それで、他にすぐに決めておかないといけないことって、何かありますか? 詳細なルールは三日前まで分からないそうなので、それまでは基礎訓練や、SRTで以前やったような基本的な連携強化の訓練を行うと思っていたんですが」
ポジション決めが無事に終わり、少し気が楽になったミヤコの質問には、また吉野ニコが応じる。
「うん、それといくつかのパターンを想定したシミュレーションとかかな。でもミヤコちゃん、もう一つ、決めなきゃいけない大事なことがあるよ」
彼女は人差し指を一本立て、強調するようにそう言った。
「大事なこと、ですか?」
ミヤコはすぐにはそれが何か思いつかなかったようで、暫く考えこんだが、やはり思いつかない。
「ミヤコ、作戦中私のことを何と呼ぶつもり?」
「あ、小隊名……」
そこで、既に気づいていたオトギが助け船を出し、ミヤコは答えに思い至る。
「はい、正解! 即席のチームだからチームアルファーとかでも良いかもしれないけど、折角だからみんなで考えてみない?」
ニコが笑顔でそう言った。
当然チーム名を考える経験など、ミヤコにはあまりなかったが、確かにアルファー1、アルファー2では味気ないというのは理解できた。
「やっぱり、動物が定番なんでしょうか。既存のチームと被るとややこしくなりそうですよね」
コードネームで連絡を取り合うことを想定するため、基本的には短い一単語であることが望ましい。そのためSRTでは元々、動物の名前で隊の名前が付けられることが多かった。
「別に動物に拘る必要はないんじゃない? 例えば、うーん……ミヤコだからキャピタルとか」
「……あんまり可愛くないですね、せめてムーンとかスノウとかじゃだめですか?」
オトギの提案はミヤコには受け入れがたい物だった。彼女はRABBIT小隊という名前を、内心可愛くて気に入っていた。
「兎の言い方を変えてLAPIN(ラパン)とかはどうかな?」
「それ、結構良いと思います。でも、兎のままっていうのはちょっと違う気もしますね。折角新しいチームになったのだから、全く別の名前にしても良いと思います」
徐々に4人とも乗り気になり、議論が白熱し始める。余り意見を出していなかったサキも、口を動かし始めた。
「じゃあ、RABBITの代わりにRから始まる単語から探す、っていうのはどうだ? レッドとか」
「レッドチームというのは余りにも……ですが、その考えはありですね。……ルビー、というのはどうでしょう」
「ルビー、いいんじゃない? ちょうど赤いのがウサギの目みたいだし、ミヤコちゃんリーダーのチームって感じがして」
「異議なーし」
「……私も、良いと思う。」
そして、サキの発言からミヤコが思いついた形で、ついに議論は決着した。
RUBY小隊。臨時チームとなる、ミヤコ、サキ、ニコ、オトギの4名からなる新たな小隊のチーム名は、こうして誕生した。